以前にスイスのシュタイナー学校の先生をされている方と、
お話しする機会がありました。
スイスでも、小さな子供を持つ世帯で、
経済的な理由から、
共働き夫婦が増えているとのこと。
子供がまだ小さいうちは、
十分な親の愛情が必要なのですが、
年々、それがなかなかできない家庭が増えており、
子供の成長に影響を及ぼしているのだそうです。
私は教育者や心理学者ではありませんが、
自分の経験や今まで出会ってきた人たちを見てきた中で、
子供時代にどのように愛が与えられてきたかということと、
その人が大きくなってからの性格とは、
とても深く関連しているように思えてなりません。
本当の愛に十分に包まれて育てられた子供は、
大人になると、
やさしさに満ちた人であるのみならず、
不安や恐れや、思い込みにあまり影響されない、
素直で、冷静な判断のできる、
全体的にバランスが取れた性格を持つ傾向が強いのではないかと思います。
形でいうなれば、きれいな丸い形の心が育まれているような気がします。
しかし、子供時代に受けるべき愛が不足していたり、
親がよかれと思って子供に接していても、
実は子供にとってマイナスな影響を及ぼしていた場合などには、
本来、丸いはずの心に窪みができ、
その形質はその人の性格の一部となって、
ほぼ一生にわたって影響しているのではないかと思います。
その心の形質は、遺伝とは関係なく、
親から子へと継承されていく傾向があるように思います。
なぜかと言うと、
その心の窪みは、必ずその代償を求めるからです。
足りなかった愛の埋め合わせを求める言動が、
ネガとポジの関係のように、
子供の心にその形質を転写してしまうのです。
その代償は人それぞれに意外な形で出てくるようです。
食欲に向かう場合もあれば、過剰なコレクションに向かう場合もあります。
わがままな自己中心的な性格として現れる場合もあるでしょう。
いずれにしても、埋め合わせを満たすための執着的な要求が特徴です。
また、その窪んだ傷痕に触れられるようなことがあると敏感に反応し、
場合によっては周囲の人を驚かすほどの過剰な反応を示すこともあります。
例えば、親にしつこく叱られて育った子供は、
これ以上、叱られないようにと完璧な子供を演じようとします。
それは本来の調和のとれた丸い心に、
悲しいかな、意図せずに窪みを作ってしまいます。
その子供が大人になったとき、
その人は自分に対する批判や非難に敏感となります。
子供ができ、親になれば、
自分の子供が言うことを聞かないと、
子供に自分を否定されているような感覚に陥り、
子供をしつこく叱ってしまいます。
子供は最初のうちは抵抗しますが、
抵抗すればするほど、親も過剰に反応します。
従順な子供は次第に抵抗することを止め、
叱られないために自分自身を殻に閉じ込めます。
そして、その親の影響を抜け出せない限りは、
その親が育った経緯を繰り返し、
その形質をさらに次の世代に伝えていくこととなります。
この心の窪みの影響は、
ストレスが重なるとさらに前面に出やすくなります。
例えば、若い世代の子育て夫婦が、
子供を保育園に預け、働きに出ることは、
身体的にも、精神的にもストレスを増やします。
そうなると、これまで大丈夫だった心の窪みでさえ、
表に出てくるようになり、それが子供に転写されてしまいます。
そして、その転写は、その次の世代へと繰り返されていきます。
どこで最初に目にしたのか忘れましたが、
“Work-Love Balance”と言う言葉。
多くの人が仕事に追われて生活している現代社会の、
本質的な課題の一端を如実に表しているように思います。
残念ながら経済なくしては暮らしていけない現代において、
経済を優先する陰で、愛を犠牲にしていることが多々あります。
必要な愛が欠如したとき、そこには必ず影ができ、
マイナスの影響が出てきます。
それは個人のみならず、会社や組織、地域にも同じことが言えます。
この問題は社会全体に関連することから、
皆がこの重要さを再認識して、
社会全体で取り組まなければ、
解決しないでしょう。