ひできの八ヶ岳ブログ

未来に残したいリジェネラティブな社会づくりを考える

Work-Love Balance

2013年02月26日 20時17分37秒 | 幸福なくらし

以前にスイスのシュタイナー学校の先生をされている方と、
お話しする機会がありました。
スイスでも、小さな子供を持つ世帯で、
経済的な理由から、
共働き夫婦が増えているとのこと。
子供がまだ小さいうちは、
十分な親の愛情が必要なのですが、
年々、それがなかなかできない家庭が増えており、
子供の成長に影響を及ぼしているのだそうです。

私は教育者や心理学者ではありませんが、
自分の経験や今まで出会ってきた人たちを見てきた中で、
子供時代にどのように愛が与えられてきたかということと、
その人が大きくなってからの性格とは、
とても深く関連しているように思えてなりません。

本当の愛に十分に包まれて育てられた子供は、
大人になると、
やさしさに満ちた人であるのみならず、
不安や恐れや、思い込みにあまり影響されない、
素直で、冷静な判断のできる、
全体的にバランスが取れた性格を持つ傾向が強いのではないかと思います。
形でいうなれば、きれいな丸い形の心が育まれているような気がします。

しかし、子供時代に受けるべき愛が不足していたり、
親がよかれと思って子供に接していても、
実は子供にとってマイナスな影響を及ぼしていた場合などには、
本来、丸いはずの心に窪みができ、
その形質はその人の性格の一部となって、
ほぼ一生にわたって影響しているのではないかと思います。

その心の形質は、遺伝とは関係なく、
親から子へと継承されていく傾向があるように思います。
なぜかと言うと、
その心の窪みは、必ずその代償を求めるからです。
足りなかった愛の埋め合わせを求める言動が、
ネガとポジの関係のように、
子供の心にその形質を転写してしまうのです。

その代償は人それぞれに意外な形で出てくるようです。
食欲に向かう場合もあれば、過剰なコレクションに向かう場合もあります。
わがままな自己中心的な性格として現れる場合もあるでしょう。
いずれにしても、埋め合わせを満たすための執着的な要求が特徴です。
また、その窪んだ傷痕に触れられるようなことがあると敏感に反応し、
場合によっては周囲の人を驚かすほどの過剰な反応を示すこともあります。

例えば、親にしつこく叱られて育った子供は、
これ以上、叱られないようにと完璧な子供を演じようとします。
それは本来の調和のとれた丸い心に、
悲しいかな、意図せずに窪みを作ってしまいます。
その子供が大人になったとき、
その人は自分に対する批判や非難に敏感となります。
子供ができ、親になれば、
自分の子供が言うことを聞かないと、
子供に自分を否定されているような感覚に陥り、
子供をしつこく叱ってしまいます。

子供は最初のうちは抵抗しますが、
抵抗すればするほど、親も過剰に反応します。
従順な子供は次第に抵抗することを止め、
叱られないために自分自身を殻に閉じ込めます。
そして、その親の影響を抜け出せない限りは、
その親が育った経緯を繰り返し、
その形質をさらに次の世代に伝えていくこととなります。

この心の窪みの影響は、
ストレスが重なるとさらに前面に出やすくなります。

例えば、若い世代の子育て夫婦が、
子供を保育園に預け、働きに出ることは、
身体的にも、精神的にもストレスを増やします。
そうなると、これまで大丈夫だった心の窪みでさえ、
表に出てくるようになり、それが子供に転写されてしまいます。
そして、その転写は、その次の世代へと繰り返されていきます。

どこで最初に目にしたのか忘れましたが、
“Work-Love Balance”と言う言葉。
多くの人が仕事に追われて生活している現代社会の、
本質的な課題の一端を如実に表しているように思います。

残念ながら経済なくしては暮らしていけない現代において、
経済を優先する陰で、愛を犠牲にしていることが多々あります。
必要な愛が欠如したとき、そこには必ず影ができ、
マイナスの影響が出てきます。
それは個人のみならず、会社や組織、地域にも同じことが言えます。

この問題は社会全体に関連することから、
皆がこの重要さを再認識して、
社会全体で取り組まなければ、
解決しないでしょう。

ホリスティックな世界観とは ~ サティシュの想い

2013年02月12日 23時09分47秒 | 大自然のしくみから学ぶ社会

この連休の八ヶ岳はちょっと冷えた日々でした。

その寒い冷え冷えとした夜のこと、
何だか肩のあたりが寒いなと感じる寝床の中で、
ふと、
この冷え切った八ヶ岳で突然に外に放り出され、
もし自分が何の道具も持たないまま、
たった一人で生きていかなくてはならなくなったとしたら、
一体どのように生き延びたらよいのだろうかと気になってしまいました。

暖をとるのには薪がいります。
薪を切るには斧かのこぎりがいります。
のこぎりを作るには鉄がいります。
どこにその鉄を含んだ山があるのでしょうか?
どうやってその山から鉄を掘り出したらよいのでしょうか?
仮に鉄を含んだ岩があったとしても、
どうやってそれを溶かすことのできる高温を作り出したらよいのでしょうか?

私はそれなりの文明をもった時代に生まれてきましたが、
私自身は、小さな鉄や銅の破片さえ作ることができません。
できるとしたら、石の矢じりや斧くらいしか作れません。
仮に鉄鉱石の在りかや、鉄の作り方を知っていたとしても、
私一人では作ることは難しいのは目に見えています。
結局、どう考えても、
私は縄文人以下の暮らししかできません。

それを考えると私たちの文明は、
仕事の分業と集約によって豊かになってきた、
と言っても過言ではありません。
誰かが鉄鉱石を山から掘り、多くの人の手を経て、
鉄鉱石が鉄の塊となり、鉄の塊から様々な道具や部品が作られていきます。
私たちの豊かな暮らしは、
究極的には世界中の全ての人や会社、団体のおかげで成り立っています。

考えると当たり前の話なのですが、
こう世の中が複雑になってくると、
こういった世界の繋がりといったものがよく分からなくなってきてしまいます。
そのために、”何か”に不都合を感じると、
全体の関連性までは考えずに、
安直に因果関係を決めつけてしまいがちになってしまいます。
そして、一旦原因を決めつけると、
すぐにその”何か”を排除してしまおうという思考に走りがちになります。

「こんなに住みにくい世の中になったのは経済優先の社会が悪いからだ」
「資本主義は悪だ、変えるべきだ」
「反××・・・」
といった論調が後を絶ちませんが、それらも似たようなものです。

その思考の根底には、
私と相手(対象)は別であり、切り離されたものであるという、
一種の分離意識があります。
今や世界の殆どの人が、生まれてから無意識のうちに植えつけられてきた世界観です。
機械論的世界観や二元論とも言われます。

私たちの社会やこの地球の生命系の実際は、
まったくその逆で、
お互いがお互いに強く影響を与え合い、
お互いがあるからこそ「個」が存在できる、
全てを含む一つの全体システムです。
そこにある「個」は、決して全体から切り離すことも、
独立して存在することもできません。

その全体システムでは、
”何か”の問題が起こった場合、
それは特定の”何か”を原因として起っているのではなく、
それを取り巻く全体の相互の影響から問題が浮かび上がってきます。
例えば癌の場合では、
その臓器がおかしくなったから癌が発生したわけではなく、
その人を取り巻く環境、食、仕事、人間関係、その人自身の想念など、
様々な複合的な要因が重なって、
癌細胞が増殖できる素地が出来上がり、癌細胞が自然に増えていくと言われています。

こういった全体の相互関係に気付くことによって、
問題を解決するアプローチも変わってきます。
そのホリスティックなアプローチは、
これまでの、単に部品を修理したり交換したりするような解決法というよりは、
いわば、「場」を調整すると表現した方が適切かもしれません。
それは、より質に重点がおかれた本質的な対策となる可能性をもっています。

3月の末から4月のはじめにかけて、
再びサティシュ・クマールさんが来日され全国講演ツアーが行われます。
サティシュが世界を駆け巡って人々に語りかけている、
最も重要なポイントこそ、
このホリスティックな世界観についてです。

私たちが従来の分離意識による世界観のままでいるのか、
それともホリスティックな世界観を併せ持つのかによって、
私たちの未来は大きく変わってきます。
サティシュがダーティントン財団とともに、
イギリスにシューマッハカレッジを作り、
ホリスティックな世界観をもって活動や研究をしている数少ない先駆者達を、
世界中から招聘していることも、
原点はここにあります。

サティシュの今回の来日では、
嬉しいことに、初めて中京圏でも講演が行われる計画もあるようです。

近くツアーの予定が公表されることと思います。
(詳しくはこちらで・・・ ナマケモノ倶楽部HP

いつも招聘にご尽力くださっている辻先生やそのスタッフの方々、
それに各地での実行委員会の方々に本当に感謝です。

Seven Life Lessons of Chaos

2013年02月02日 11時12分21秒 | 大自然のしくみから学ぶ社会

シューマッハカレッジの後輩のエッセイ(レポート)を読んでいたら、
ある書籍を頻繁に引用しているので、
ちょっと気になってリファレンスを見たら次のような本でした。

Seven Life Lessons of Chaos: Spiritual Wisdom from the Science of Change
HarperCollins e-books


byJohn Briggs, F David Peat

左のおすすめ本にもある、
“Science, Order and Creativity“を、
David Bormと一緒に書かれたDavid Peatの著作でした。

日本語訳も出ていました。
実に10年以上も前に出版されていて、
これまで気付かなかったのが情けなくなります。

バタフライパワー―カオスは創造性の源だ
ダイヤモンド社


この本の内容としては、
かなり前に、このブログでも複雑系と自己組織化について書いたことがありますが
概略においてそれとほぼ同じです。
この本はその内容がもっと分かりやすく、
しっかりと書かれています。

複雑系の大きな特徴の一つが自己組織化です。
私たちの世界では、
原子のレベルから、宇宙の星々の動きまで、
無生物の世界から、地球生態系といったあらゆる側面で、
「個」がお互いに影響し合い、
そこから一定の秩序が創出する自己組織化が起こっています。
つまり、私たちの宇宙は複雑系のしくみによって、
その多くができていると言っても過言ではありません。

自己組織化は、
様々な相互の力の働き方が、
極めて特定の条件を満たしたときに起こります。
これが自然界でごく当たり前に起こっていることは驚愕に値することです。

宇宙がビックバンに始まり、初期の混沌とした状態から、
自己組織化によって今日の世界へと形づくられてきたことを考えると、
この宇宙の諸物の全てには、
宇宙の始まりから永遠の未来のことまでを全て見通したかのように、
人間の知恵を遥かに超えた調和律が埋め込まれているとしか考えられません。

そのような自然界がもつ、
複雑系や自己組織化の特徴を考察することで、
私たちの人生や社会のよりよい在り方のために、
何か学べることがあるのではないかというのが、
この本の目的です。

この本、とてもお奨めなのですが、
既に絶版となっており残念ながら中古でしか買えません。
この手の本は日本では本当に売れません。

さて、この本の日本語訳は複雑系の専門の方が監修しているだけあって、
大方において問題ないと思います。
しかし、P111~P118でDavid Bormの”dialogue”が紹介されているところで、これを日本語で「問答」と訳しています。
もちろん、これは「対話」のほうが適切でしょう。
「問答」だと本来の意味の反対になりかねません。
この部分は読み替えて頂くほうが良いと思います。