国境の南/south of the border

ysaÿe design officeの いえ 音楽 旅

ヤコブセンの椅子、The Kings of Convenience、三びきのやぎのがらがらどん

2005-10-26 15:53:10 | ヨーロッパ関連

北欧ものが身の回りに多いことに気がついた。
ブロックで有名なのは“レゴ”、デンマーク製である。
ヤコブセンの椅子。持ってないけど、これもデンマーク。
デザインがいいなあと思うと、ファニチャーにしろテクスチャーにしろ、決まって北欧製。もしくは北欧デザインの影響を受けたものである。
音楽もいい。
ヨーロッパのジャズなんて、知的でセンスが良くてかっこいい。
時に難解ではあるけれど、声高に主張しているわけではないので聴いてて気持ちがいい。

それに神話や物語の宝庫である。
ゲルマンやケルトなどの北欧系神話。
ムーミンのトーベ・ヤンソンはフィンランドだし、アンデルセンはデンマーク。

これはぜったい、何かある。と思うのは僕だけでしょうか。
キリスト教以前のヨーロッパの深い深い森の中には、人間の想像力の源泉みたいなものがあるような・・・。

アラスカ、アフリカときたので、今回は北欧を旅してみましょう。

■Esquire (エスクァイア) 日本版 8月号 増刊
touch of ACTUS
出版社: エスクアイア マガジン ジャパン

仕事の資料で買ったもの。とっても目の保養になります。
デンマークからスェーデンへ、デザインをめぐる旅が心地いい。
日常生活がすばらしいデザインに囲まれている北欧の人たちは、なんてうらやましいのでしょう。


■Quiet Is the New Loud / The Kings of Convenience
東芝EMI - ASIN: B00005LA2L

キングス・オブ・コンビニエンスである。
サイモンとガーファンクルが北欧でネオアコすると、こうなります(ちょっと強引)。
さりげない、きれいなハーモニー。余計なものがなく媚びていないサウンド。
エブリシング・バッド・ザ・ガールが好きな人なら、気に入ると思います。
アメリカのフォークより、北欧のネオアコが断然イイ。
最近は車の中で、ずっとかけっぱなし。

■トウェルヴ・ムーン / ヤン・ガルバレク・グループ
ユニバーサルクラシック - ASIN: B000197I78

キース・ジャレットがヨーロピアン・カルテットを組んだときにSAXで参加したのがこの人「ヤン・ガルバレク」
キースとのカルテットではどちらかといえばポピュラー音楽よりのアプローチでしたが、自身のグループやソロワークではノンジャンルな作品を多く残しています。
透き通ったSAXの調べは、まるで氷の上を走る微細な風のよう。

ワールド・ミュージックという言葉が流行る前からワールド・ミュージックであり
ヒーリングという言葉が流行る前からヒーリングであり
ボーダレスという言葉が流行る前からボーダレスであった。

■三びきのやぎのがらがらどん―アスビョルンセンとモーの北欧民話
世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本
出版社: 福音館書店 ; ISBN: 4834000435

理屈じゃないのですよ、がらがらどんは。
橋の下で待ち受けているトロルはこわーい。
でも、ヤギのがらがらどんはもっとすげー。
説明になっていなのは説明のしようがないのです。でも、おもしろい。

トロルとは北欧神話で言うところの妖精。
ロード・オブ・ザ・リングにでてくる、エルフだとかドワーフの系譜で悪者的イメージが強い。
でも、ムーミンもトロールなんですよね。
それに「となりのトトロ」も、サツキの「トロルのこと?」なんて台詞があるくらいですから同系統でしょう。

神話が多いということはその国の精神文化が非常に高いのだと思います。
その上福祉国家で、しかも自然が多く残っている。
日本のようにモノがあふれた豊かさではなく、精神的な豊かさであって、それがデザインや創作に生かされている。
また、デザインがいいのは自然が多く残っているせいではないでしょうか。

なんだかヨーロッパに興味が出てきたので、次回はドイツロマン主義のフーケー(水妖記―ウンディーネ)や、仏のマンディアルグ(大理石)、英のラファエル前派であるジョン・エヴァレット・ミレイ(オフィーリア)なんていかがでしょう。
・・・節操のないブログになりつつあります。


サルからヒトへ~アフリカから世界へ 後編

2005-10-25 14:25:43 | アフリカ関連


■アフリカの日々・ディネーセン・コレクション 1
アイザック・ディネーセン
出版社: 晶文社 ; ISBN: 4794913362

アフリカといえば、ディネーセンの「アフリカの日々」
淡々とした物語ではあるが、詩のような情景描写が美しい。
アフリカという場所にいることの喜び、至福感が全編にわたり詰まっている。
文学としても最高の書物。
サバンナにキャンプを張った朝、朝露と朝日を浴びながら大地の息吹を感じるのだろうな。
アフリカ、行きたいよう。


■アフリカの白い呪術師 / ライアル・ワトソン
出版社: 河出書房新社 ; ISBN: 4309461654

前回が科学的な人類史なら、こちらは精神史というべきもの。
人間の精神というものは、どうやって発生したのか。呪術や宗教の成り立ちは・・・。と、いった問いに答えてくれる。
エイドリアン・ボーシャというイギリス人は白人ながら霊媒・占い師の修行を受け、アフリカの内なる伝統に迎え入れられた。
土器や石器を発見しては、それがどういった意味を持つのか、何の役割だったのかを幻視するかのように、わかることが出来たボーシャ。
いまでは、想像することさえ困難になった「儀式」や「トーテム」のもつ意味。
それらが解明されていくさまに、感動さえ覚える。
人類の300万年の進化を一人で再現することとなったドキュメント。



【コンゴ/ピグミーのうた】
密林のポリフォニー~イトゥリ森ピグミーの音楽
VICG-60334/2000.7.5発売/¥1,900(税抜)
 

雨音、虫の声、優雅なハーモニーとリズム。
これはHIP POPかと思ってしまった。商業音楽にまったく引けをとらないピグミーの音楽。
音楽のルーツ、リズムのルーツ。コーラスのルーツ。
アフリカにすべての原型があるのだ。
我々や西欧人が決して真似することの出来ない、プリミティブなアート。
彼らはここで何千年も同じ暮らしを続けている。
アフリカ大陸最深部、密林の中で呼吸するピグミー族の歌声。ふんだんに自然音をとりいれた現地録音がいい。
ザイール、イトゥリの森は地図でみると、ほんとうにアフリカ大陸のまん真ん中にある。


■一万年の旅路―ネイティヴ・アメリカンの口承史
ポーラ アンダーウッド
出版社: 翔泳社 ; ISBN: 4881356070

これはすごい本だと立花隆が言った。ほんとうにすごい本だ。

ヒトはアフリカの大地溝帯でサルから分岐した。
森林からサバンナへ、サバンナから海岸へ。歩いて移動し、あるものはヨーロッパへあるものはユーラシア大陸へむかった。アジアへむかったヒトはシベリアを経由してベーリング海峡を陸続きに渡りアメリカ大陸へ。
この旅の伝承が今のネイティブアメリカン、イロコイ族の口承詩として語り継がれている。
なにしろ人類の発生からの話なので、長い長い。そして、歩く歩く。
よくもまあポーラ・アンダーウッドさんはじめ、祖先の方々はこんな長い話を口承だけで伝えてきたものだと感嘆する。
ただ、歩いていたわけではない。
果てしない旅でのもろもろの困難や経験が英知となり、知恵がこの民族に蓄積されていく。その過程が面白い。
アメリカ合衆国憲法の基礎となったイロコイ族の掟はこうして生み出された。
この本をトンデモ本だという人は「神話」を読む訓練ができていない。
すぐに事実かそうでないかを問題にする。
この本は歴史書ではないし、もちろん科学書ではない。これは神話的「知」の書なのだ。
ただ、あまりにも民族移動に関する現代の知見と口承詩の内容が類似しているため驚いてしまう。もちろん、ほんとうのところは誰にもわからない。

我々はもっと、先人達の残してくれた遺産に敬意を払うべきだ。それは大河小説的な歴史的事実ではなく、我々が生きるための精神の糧としての知恵に。(以上、前ブログ日付変更線より)
それにしても、祖先が樹上生活をしている記述には驚いた。

いかがでした?
アフリカでの人類発祥からはじまって、モンゴロイドのベーリング海峡横断までやってきました。
星野道夫は「森と氷河と鯨」で、アラスカからシベリヤへのルートをたどりました

今回の記事は道夫とは逆方向の旅をしたのです。

今度は太平洋ルートの本でも読んでみたいですね。


サルからヒトへ~アフリカから世界へ 前編

2005-10-24 09:20:00 | アフリカ関連

今日はちょっと長いお話。
前回ジェーン・グドールからの続きで、アフリカの本やCDを紹介しましょうといいました。
すると自分でも気付かないうちに、アフリカに対する興味は、フィールドを越えて時間も越えて、ぐんぐん広がっていったのです。
サルからヒトへ、ヒトとはなんぞや・・・と。

●サル

まず、ヒトはサルから進化しました。
ヒトを知るにはサルを知らなければならない、ということです。
しかし、これは簡単ではない。なぜなら、サルとヒトとはあまり違いがない。
サルは道具を使うか?
チンパンジーは蟻釣りという、木の枝を「選定」して蟻塚のアリを「釣って」食べる。
サルは言語を使うか?
手話を覚えたチンパンジーがいて、立派に意思を伝えることができる。
サルは感動するか?
群れからひとりはなれて、沈んでいく夕日をじっと見つめているチンパンジーがいるのだそうです。
遺伝子レベルでも、ヒトとチンパンジーのDNAの違いはわずかに1パーセント程度。
こうなると、我々と彼らの違いは何なのでしょう。

●猿人

400万年前。東アフリカ大地溝帯タンザニアの「オルドヴァイ峡谷」で発掘されているのが「アウストラロピテクス」類。
猿人はアフリカ大陸からしか発見されていないので、アフリカ大陸は「人類のゆりかご」と呼ばれています。
大地溝帯の地殻変動と環境変化が、森に残ったサルと、サバンナへ出たヒトを分けた分水嶺になりました。
発見者はルイス・リーキー。ジェーン・グドールの師匠です。

●原人
ジャワ原人と北京原人。
ジャワ島のトリニールという所で発見されたのが、ジャワ原人。
北京周口店で発見されたのが、北京原人。火を使っていました。

●旧人
約20万年前。ネアンデルタール人です。
ネアンデルタール人は高度な精神文化を持っていた。
イラク北部シャニダール洞穴で発見された埋葬跡。折りたたまれた「彼」の周りには、今でも周辺で自生している花々の花粉が大量に見つかったそうです。
埋葬に花を手向けていたのですね。

●新人
クロマニヨン人、上洞人。約4万年前。
我々の直接の祖先。スペインのアルタミラ洞穴、フランスのラスコー洞穴の壁画は有名。1万5千年前です。
アボリジニーが4~5万年前といわれているので、現代人と新人は直系もしくは、共存していたのでしょうね。

世にもし、アフリカ学というものがあれば、それはきっと膨大な学問体系だ。
地理、歴史、生物、人類学、芸術、文学その他ありとあらゆるものがこの大陸の上に、のっかている。

■サル学の現在 / 立花 隆
出版社: 文芸春秋 ; ISBN: 4167330067 ; 上 巻
出版社: 文芸春秋 ; ISBN: 4167330075 ; 下 巻

今西錦司氏、河合雅雄氏、京大の霊長研など、日本のサル学は世界的に有名。じつは日本はサル学のメッカだったのだ。
ジャーナリストの立花隆が最新の研究成果を紹介する、知的興奮の書。面白すぎて一気に読める。
ヒヒの「子殺し」やチンパンジーの「死」に対する反応など、まるで人間の原罪を見ているかのよう。
立花氏のサイエンス物では一番の出来。

■ルーシーの子供たち―謎の初期人類、ホモ・ハビリスの発見
ドナルド ジョハンスン
出版社: 早川書房 ; ISBN: 4152078170

ドナルド ジョハンスンは先に紹介したリーキーのライバル的存在。
ルーシーは1973年発見のアウストラピテクス・アファレンシスの小柄な女性骨格であり、本書はそのルーシー後の初期人類、ホモ・ハビリスの発見を描いたもの。
外国のサイエンス物は一般人への「啓蒙書」というジャンルが確立されており、ありがたい。
本書もホモ・ハビリスの発見だけではなく、化石人類学の流れというものを描いているので、かなり勉強になりました。
それにしても科学者というものは、なんて素敵な商売なのでしょう。

・・・つづく


Noah's Ark

2005-10-21 17:26:27 | 絵本


■Noah's Ark / Lisbeth Zwerger
出版社: North South Books ; ISBN: 0735814198

リスベート・ツヴェルガーの「ノアの箱舟」です。
まるで画集のように美しい絵本。
幻想的で詩のような物語空間は、ツヴェルガーのあたらしい解釈によるものでしょう。
Alice in Wonderland (不思議の国のアリス)やThe Wizard of Oz (オズの魔法使い)でもツヴェルガー独自の世界を見せてくれます。
清楚でユーモアがあってとても現代的。絵のセンスがとてもいいのです。

こんなにも洗練された絵本なのに、日本語版がないのはなぜでしょう。
出版したら必ず売れますよ。


上海バンスキング / 吉田日出子

2005-10-20 16:15:52 | JAZZ


■上海バンスキング / 吉田日出子
 SHOWBOAT - ASIN: B00005JZJO

昨日なにげなくiTunes Music Store を見ていたら大発見があった。
ななな、なんと吉田日出子の「上海バンスキング」がリリースされていた。
これ、ほしい!とひとりで唸ってしまった。いい時代になったものだ。
知らない人のために説明しますと・・・。
もともとはオンシアター自由劇場という劇団の大ヒットミュージカル。
で、当時さきに映画化したのは「蒲田行進曲」をヒットさせた深作欣二、松坂慶子 風間杜夫路線。
平田満まで出てるのでノリはほとんど「蒲田行進曲」。
名作「蒲田・・」のあとだっただけに、評判が悪かったのか期待はずれだったのか、数年後に本家本元のオンシアター自由劇場による再映画化となった。

時は太平洋戦争突入前夜の上海租界。
ファシズム吹き荒れる本国をよそに、JAZZの世界にはまっていくシローとまどか。
昭和初期のデカダンと歴史に翻弄される音楽家たち、というストーリーです。

これは絶対に「オンシアター自由劇場」版のほうが面白い。
なんといたって吉田日出子の存在と歌。
唄に艶があって思わず聞き惚れてしまう。
そうか!吉田日出子のために上海バンスキングが用意されたのか。
っていうくらいのはまり役なのです。

世の中、どうもやーな感じなので、ドンパチするよりSWINGしましょう。
森川久美の「南京路に花吹雪(コミック)」や遊佐未森の「檸檬」もおすすめ。


かいじゅうたちのいるところ / モーリス・センダック

2005-10-19 16:28:53 | 絵本


■かいじゅうたちのいるところ / モーリス・センダック
出版社: 冨山房 ; ISBN: 4572002150

ある日マックスはオオカミの着ぐるみを着ておおあばれ。
罰として寝室に閉じ込められると、部屋は森になり異世界になる。
船に乗って何日も何日も航海すると、そこが「かいじゅうたちのいるところ」
ものすごいかいじゅうたちが乱舞する「かいじゅうおどり」

はじめて読んだ時、なんだこれはと思った。
これほど夢の世界を具現化している作品を見たことがなかったからだ。
昔々、我々の先祖が共有していたであろう神話世界。
ドラゴン、ユニコーン、エクスカリバー、ドルイド、鬼、妖怪
これら失われた神話の住人たちが何百年の時を越え、モーリス・センダックに乗り移った。
これは原始の神話体験だ。

・・・ってなことを考えずに読んでも滅法おもしろい。
元来、絵本というものはこういうものだ。
やんちゃで冒険で不思議があって、お母さんの温かさがある。

どこの本屋でも図書館でも絶対置いてあるので、ぜひ、どうぞ。


こんなときこそ星野道夫

2005-10-19 10:26:54 | アラスカ関連

星野道夫は1996年、取材先カムチャッカ半島クリル湖畔でヒグマに襲われ急逝した。
僕は彼の著作が好きで、一時期むさぼるように読んだ。

最近、国際情勢では嫌なニュースが多い。バリ島テロとか靖国とか。
陰鬱な気分になる。なんとこの世界はいい加減にできているのだ。

そんな時、星野道夫の本を読む。
すると世界はまだ捨てたものじゃないと、思えてくる。
なんというか、救われるのだ。
道夫が見た世界は、こんなにも素敵だった。
いや、道夫の世界の見方が素敵だったのかもしれない。

写真家星野道夫の場合、先に写真があった訳ではない。
まずアラスカありき、だった。
22歳でアラスカに住むことを決心し、それから写真の修行に入る。
そして26歳でほんとうに移住してしまい18年間くらした。

道夫はいつも風景を語る。写真家だから風景を撮るのだが、それは切り取った風景ではない。
オオカミの足跡があれば、そのオオカミが歩んだ氷河を想い、歩んだ夜を想う。
朽ち果てたトーテムポールに1000年の年月と神話の時代に生きたハイダインディアンを想う。
「アラスカをこよなく愛し・・・」なんて簡単な言葉ではすまされないくらい、深くアラスカという場所にかかわって生きてきた。

天はニ物を与えずというが、道夫は写真もいいが文章もいい。
できるなら星野道夫の著作は何冊も何冊も読むことをお勧めする。
登場人物やエピソードが重なる部分が多く、ひとつの出来事を立体的に思い描くことができるからだ。

■旅をする木 / 文春文庫
出版社: 文芸春秋 ; ISBN: 4167515024

表題の「旅をする木」がいい。ある日イスカがトウヒの木にとまり種子を落してしまう。
トウヒの種子はいつしか大木に成長するが、長い年月で河が森を浸食していく。
トウヒの木は洪水でユーコン川に流され旅をする。ついにベーリング海に出たトウヒの木は極北のツンドラ地帯の海岸まで運ばれていくのである。長い長いスパンのお話。
「もうひとつの時間」もいい。
クジラの息が顔にかかってくるような近さでザトウクジラの群れに出会った東京の友人。
「・・・私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない・・・」
これです。この「時間の共有」の感覚。

■ノーザンライツ / 新潮文庫
出版社: 新潮社 ; ISBN: 4101295220

ジニーとシリア、セス、ボブ・サム、ウィリー・・・。
星野道夫の著作に必ずといっていいほど登場するアラスカの友人たち。
ナチュラリスト、ネイティブ・アメリカン、ブッシュ・パイロットたちの生きたアラスカ人間史。
読み応え十分。

■長い旅の途上 / 文春文庫
出版社: 文芸春秋 ; ISBN: 4167515032

星野道夫の遺稿集についたタイトルは「長い旅の途上」
シロフクロウ、ブラック・ウルフ、フェアバンクスのオーロラ、クマ、クジラ、ムース、カリブー、ブルーベリーの実、ワタリガラスの神話・・・。
なんと豊穣なアラスカ。人も自然も動物も神話も生命力に満ち溢れている。
星野道夫はこの豊穣なアラスカに生きた。
きっと道夫もわれわれも、長い長い旅の途上にあるのだ。

■森と氷河と鯨―ワタリガラスの伝説を求めて
出版社: 世界文化社 ; ISBN: 4418965289

きっとこれが星野道夫のライフワークになる予定だったんじゃないか、と思えてくる。それほどの壮大な物語。
アラスカからシベリアへ、ワタリガラスの神話を追い人類の足跡をたどる旅。
遠い昔、シベリアのモンゴロイドはベーリング海を渡りアメリカ大陸へやってきた。
その足跡は各部族が共通に持っている「ワタリガラスの神話」にある。
もちろん書斎派ではない星野道夫が実際にカメラを持って神話の世界の旅をした、その記録。
これだけでもすごいけど、傲慢な読者(僕)は続きも見たかった。
そして完結してほしかった。

この後、シベリアを夢見た著者はロシア連邦チュコト半島へ行く。続いて7月下旬同カムチャッカへ旅立つ。
そして、8月クリル湖畔で就寝中にヒグマに襲われ急逝した。
遺品のフィルムからもすばらしい写真が転載されている。


■アフリカ旅日記―ゴンベの森へ
出版社: メディアファクトリー ; ISBN: 4889919155

タンザニアの奥地にあるゴンベ動物保護区。ここで40年近く、チンパンジーの観察研究に取り組んでいるジェーン・グドールを、星野道夫が訪ねた10日間の旅の記録。

読書中は、まるで夢のような時間でした。あの星野道夫と、あのジェーン・グドールが同じ場所にいて、同じ時間を共有しているのが、うれしいやら楽しいやら。
道夫の「アフリカだ!アフリカだ!」という気持ちはものすごくよくわかる。
はじめて沖縄に行ったとき「沖縄だ!沖縄だ!沖縄だ!」と心の中でずーっと叫んでいたから。

・・・誰かと出会い、その人間を好きになった時、風景は、はじめて広がりと深さをもってくる。・・・
説明は十分でしょう。ぜひ、ご一読を。

ではジェーン・グドールつながりで、次回はアフリカの本とCDを紹介しましょうか。


世界の音楽を聴きにゆく~Part2

2005-10-11 11:06:21 | ワールドミュージック


【ブルガリア/女声合唱】
ブルガリアン・ポリフォニー(1)/
フィリップ・クーテフ・ブルガリア国立合唱団
VICG-60301/2000.7.5発売/¥1,900(税抜) 

まさに異次元のハーモニー!
女声合唱のユニゾンで、この迫力。この美しさ。
正直、鳥肌たってビビリました。
ブルガリアン・ヴォイスはポップスでもクラシックでもない、西欧音楽にはないポリフォニー(合唱)です。
でも、よく聴いてみると日本の民謡に発声方法が似ているような気もします。
「ハァ~」っていうのが似ているなと思っていたら、姫神の「神々の詩」を思い出しました。
姫神ヴォイスは東北民謡を核とした地声合唱団ですが、もうぜったいに「ブルガリアン・ヴォイス」ですよね。
アイルランドのケルトと同様、ヨーロッパの古層と日本の縄文は繋がっている。
これだから民族音楽はやめられない。


【イラン/古典声楽】
ペルシャ絶唱~イスラム神秘主義の歌声
VICG-60314/2000.7.5発売/¥1,900(税抜)
 

イランの古典声楽です。
イスラム声楽は声の使い方が非常にビビットで個性的だ。
多重的で幻想的。イスラム紋様のようにめくるめく幻想世界へ誘ってくれる。
それにしてもパリーサーの「声」の表現のなんとすばらしいことか。
瞑想的歌唱。

近代は戦渦に巻き込まれることの多いイスラム社会ですが、実はこんなにもすばらしい文化を持っている。
メディアはもっとイスラム文化を紹介してもいいんじゃないか。


【アメリカ合衆国/ネイティブ・アメリカンのうた】
知恵と勇気の伝説~ナバホ族の歌
VICG-60347/2000.7.5発売/¥1,900(税抜) 

アメリカ先住民族ナバホ族の長老が唄う。
伴奏は太鼓のみ。
この上なくシンプルで、まるっきり「構築」というものをしていない。
まさに「祈り」そのもの。
だから「ライジング・ソング」なんて、朝聴くと気持ちいい。
きっとナバホ居留地には青空がバァーっと広がっているのだろうな、と思う。
ナバホ族は砂絵で有名。ジョゼフ・キャンベルの「時を超える神話」に登場する神話の砂絵もシンプルである。
シンプルであり、力強い。

星野道夫の「森と氷河と鯨―ワタリガラスの伝説を求めて」を読んで以来、ネイティブ・アメリカンのものに引き寄せられてしまう。細野晴臣の「メディスン・コンピレーション」にも共通するスピリッツ。

上記のイスラム文化然り。我々は知らなければならない。
まずは「知る」ことからはじめよう。


【チベットの音楽】
チベット仏教の音楽/炸裂の曼荼羅
税込¥2,000(税抜¥1,905)[KICW-1007]

さすがにここまで来ると鑑賞というより資料的価値という意味合いが強いのかもしれない。
しかし学生時代に中沢新一の「チベットのモーツアルト」で育った世代としては外せない一枚。
映画「リトル・ブッダ」や「セブンイヤーズ・イン・チベット」を観た後なら、なんとか聴けるようになるでしょう。

大地を揺るがすドゥンの重低音,空気を切り裂くギャリン,リズムを彩る太鼓のンガ,振鈴,ティルブ。
とにかく、グランジだろうがテクノだろうがメタルだろうがサイケだろうが、この音源に勝るものはなし!


島旅に連れて行く音楽と本~Part 3

2005-10-07 11:49:14 | 沖縄関連

島旅に連れて行く音楽と本の続きです。
さて、八重山諸島と呼ばれる石垣市や竹富町は同じ沖縄でありながら、雰囲気というか気風が本島とちょっと違う。
沖縄本島が華やかさなら、八重山は質実剛健。どこか凛とした強さがある。
もっとも僕が出会った人たちが、一筋縄ではいかない方ばかりだったかもしれないですけど。

自然はたしかに美しい。珊瑚なんかすぐそこにあるし、延々とつづく真っ白いパウダービーチがある。
しかし自然条件が厳しいことも確かだ。
本土のようにモノが簡単に手に入らない。天候しだいで船はすぐ欠航する。
良くも悪くも、自然に左右される生き方なのだ。
だからたくましくなる。たくましくなければ生きていけない世界。

八重山はまた、島唄の宝庫だ。BEGIN、夏川りみ、大島保克、やなわらばー、みんな八重山出身である。
唄者が多い。だから自然にレベルが高くなる。
だから、僕にとって八重山は、唄を聴きに行くところなのである。

海人~八重山情唄 / 安里勇
リスペクトレコード - ASIN: B00005L8Q2

島唄には月夜がよく似合う。
竹富島の民家で録音されたという本作は、濃密に島の匂がする。
月夜。耳をすませば、遠くのほうから波の音が聞こえてくる。都会的な雑音の一切ない世界。
こんな世界があったんだ、と気づく。
三線の音色は島の空気と溶け合って、聴く者を島に誘う。このCDをかけている間、僕の部屋は八重山の民家になる。
三線はごっつい指で弾いているのだろうな、という音。
声がいい。波の音がいい。なによりも、八重山民謡がいい。
池澤夏樹、藤原新也、星野道夫の解説付。これが遺作となった星野道夫氏のライナーノートは涙なくしては読まれない。
安里勇さんはすばらしいお友達を持っている。

波照間 / 後冨底 周二
Saidera Records SD-1006
(浜辺録音、9曲+珊瑚の波音入り)

あの「サイデラ・レコード(音楽プロデューサ オノ・セイゲンさん)」が波照間島のニシ浜でステレオマイク一本により収録したもの。
波照間でスイカやメロンを作っている(一見ごつい)周ちゃんとオノ・セイゲンさんが、いったいどこでどうやって繋がったのか興味のあるところですが、この作品、みごと音が風景と溶け合っている。
決して華やかでない沖縄。黙々と唄う後冨底さん。波の音。
・・・ああ、波照間にまた行きたい。
波照間で後冨底さんにお会いした時の顛末は、前ブログ「日付変更線」に掲載しております。
興味のある方はそちらをどうぞ。

沖縄島々旅日和 宮古・八重山編    とんぼの本
Coralway (編集)
出版社: 新潮社 ; ISBN: 4106021013 ; 宮古・八重山編 巻 (2003/04)

こういう本はとてもありがたいです。
「る○ぶ」とかの旅行雑誌はツアーなどの観光にはいいだろうけど、深く知ろうという方には物足りない。
そこで、新潮のとんぼの本です。
たかが とんぼの本と思うなかれ。椎名誠や池澤夏樹といった豪華執筆人が愛すべき八重山・宮古の離島について、熱く語っています。
旅の参考はもちろん、本土にいて沖縄の離島を想うときの最適な読み物でもあります。
出所はもちろんCoralway。

新南島風土記    朝日文庫
新川 明
出版社: 朝日新聞社 ; ISBN: 4022604743 ; (1987/11)

波照間島の然るお宅にお邪魔した。そこの主は昨今の沖縄ブームに対して
「そんなに好きなら住んでみれ!」と一喝した。
離島に住む苦しさをわかっているのか、という意味である。
そのとき、脳裏に浮かんだのが本書の記述である。
先島の歴史を語る上で必ず出てくるのが、離島苦、人頭税、戦争、マラリア。

歩んできた道はけっして生易しいものではなかった。
困難に耐えながら畑を耕し、ウタを歌い、生きてきた。
民謡の宝庫となった。
連綿と続く民族の営みの、なんとたくましいことか。
アカマタ・クロマタなど民俗学的な記述も多い。
忘れ去られようとしている八重山の貴重な記録がここにある。

本日の吉本ばなな。
新潮社 ISBN4-10-790086-X

実際、波照間島に行ったときに、いちばん参考になった本である。
もちろんこの本をガイド代わりにしたという意味ではなくて、波照間を深く知るために役立ちました。
この本に登場する「パナヌファ」のご夫婦や民謡歌手の後冨底周二さんと美人の奥さん・・・。
ばななさんが出会った方に会えた、というだけですこし誇らしい気がします。


世界の音を聴きにゆく~Part1

2005-10-03 18:01:48 | ワールドミュージック

なにを隠そう(隠すほどのことでもないけど)民族音楽が好きである。
レコーディングスタジオで最新の機材とテクノロジーを駆使して製作され、マーケットに投入される音楽も、嫌いではない。
音楽というフォーマットがあり、アーティストたちは自らの表現をそのフォーマットに載せて発信する。
僕らリスナーは彼らのリリースを文字通り首を長くして待ちわび、その表現に一喜一憂する。
そういう音楽も大好きである。
しかし世界にはそういうマーケットとは無縁なところではたらいている音楽がある。
それは「祈り」であったり「儀礼」であったり「祭り」であったりする。
資本主義が登場するはるか以前からある音楽。それどころか、人類の発祥からあったりする音の遺産。
いったい、太古の人たちはどんな「音」を聴いていたのだろうか。
むちゃくちゃ興味がある。
遺跡めぐりで目にするのは、朽ち果てた廃墟。すでに過去のものとなった風化した石や木の構築物。
しかし「音」ならば、現代の僕にもリアルに響いてくる。
できれば、現地録音がいい。虫の音や木々のざわめきも音風景として一緒についてくる。
演出された癒し系なんていやだ。もっと真剣に「地球」と向き合っている音楽がいい。
もともと人類はこんなにもプリミティブだったのだ、と感動してしまう。

ビクターJVCとキングレコードでは、かなり充実したラインナップがあり録音状態もよくお勧めできる。
というか「音」を採集する技術のなんとすごいことか。
ある意味、スタジオ録音よりも高度な技術力をもって、その「場」を再現している。驚きである。

このジャンルでは「ノンサッチ・レコード」というレーベルが有名なのですが、今回は割愛します。
どうぞ「地球の音」をご堪能あれ。

「バリ・ガムランの精華/スカワティのグンデル・ワヤン」
税込¥2,000(税抜¥1,905) [KICW-1069]

バリのガムランは大編成の「ゴン・グビヤール」が有名。しかしこのグンデル・ワヤンは少人数で演奏される影絵芝居の伴奏音楽である。
インド伝来のマハーバ・ラタ・ストーリーのバックで演奏されるグンデル・ワヤン。バリ・ヒンズーの荘厳さや神聖さがある。
いつかはバリの村落でこの影絵芝居を見てみたいものだ。

「天降る鉄のガムラン~ドゥンガナンのスロンディン」
キングレコード, KICC 5182

バリ島の先住民族といわれるバリ・アガの住むトゥンガナン村に伝わる鉄製のガムラン,スロンディン。
「スロンディン」の音楽は神の発する最も神聖な音で、本物は門外不出で録音禁止。聖なる力があるのだ。
というわけで、青銅製のレプリカで録音。とはいっても、ビンビン伝わってきます。

「ジャワ・チルボンのガムラン/田園の交響詩」
税込¥2,000(税抜¥1,905) [KICW-1041]

むしろ、バリよりもジャワのほうが聞きやすいのかもしれません。
ジャワ島のガムランはやさしくやわらかい響きで・・・なごみます。
迫力のバリか、なごみ系のジャワか。
結局、いちばん聴いているのはこれ。ジャワの古都に伝わる郷愁のガムラン。

「南インドのヴィーナ/法悦の響き」S.バーラチャンダ(ヴィーナ)
税込¥2,000(税抜¥1,905) [KICW-1035]

瞑想無限/バーラチャンダー
VICG-60324/2000.7.5発売/¥1,900(税抜)

奏楽がそのまま祈りとなる南インド、カルナータカのヴィーナ。その巨匠バーラチャンダ。
シタールよりも静か。そのまま流しっぱなしにすると家の中がインドになります。
しかしこの緊張感、静寂さ。やはり媚を売ってないのがいい。

「シタールの新時代/至高のラーガ」シャヒード・パルヴェーズ(シタール)
税込¥2,000(税抜¥1,905) [KICW-1081]

こちらは、これぞ「シタール」という演奏です。
インド古典音楽界の若き旗手、シャヒード・パルヴェーズ。卓越したテクニックは天才シタール奏者といわれています。
こちらのほうが我々の考える「インドらしさ」があるかな。

次回は、中近東、東欧をとおってアフリカ、アメリカ大陸の予定です。