These Foolish Things

何気ない日常の中に見つけたいろんな素敵なものの記録

第百話 「百物語の取材」

2011-08-15 | 怪談噺
京都に住むフリーライターの話しである・・・

夜遅く取材から帰ると、知り合いの編集長から電話があった

「おい君、たしか幽霊なんていうのは信じないって言ってたなぁ」
「はぁ・・・それが何か?」

「だったら、今から言うお寺に取材に行って欲しいんだ」
「あっ・・・わたし、今帰ってきたとこなんです。今夜はもう勘弁して下さいよ」
「まぁ、そう言うなよ」

強引な編集長の言葉に逆らえず
彼は言われた場所に一人で車を飛ばした・・・

そこは聞いた事もない、京都の外れにある古寺である
そこで今夜、百物語があるのだという・・・

昔から、百物語を達成した時
何かが起こると言われている・・・

「もしかしたら、そこに何かが起こるかもしれないからそれを取材するんだ」
っと編集長に言われ

変な取材もあるもんだと思ったが・・・

まぁ夏の時事ネタの一つかと自分を納得させ
田舎道をひた走る・・・

おりしもどんよりとした天気である
教えられた通りの道を行くと古寺が見えてきた

本堂にわずかな灯りが見える

細々とした蝋燭の灯火しかなく
辺りはよく見えないが十人ほどの人間が集まり
車座を作って正座している・・・

彼は同じく本堂の隅に正座した

「集まられたようですね・・・・それでは始めます」
最初の一人がこう口火を切って百物語が始まった・・・

「わたしはこうして死にました・・・」

話しの内容は憶えていないが
その始まりの言葉だけは憶えているという

そのうち彼は昼間の取材の疲れもあって
うとうと・・・っとし・・・・ハッと気がつくと

月明かりが格子から差込み
十人がシルエットとなって浮かび上がった

誰も何も言わずに
辺りはしーんと静まり返っている

百物語は終わったのだろうか?

「あの~終わったんですよね?何も出ませんでしたよね?」
やはり誰も何も言わない・・・

写真を撮ろうと立ち上がりかけると
その住人のシルエットがにやっと笑った

まるで暗闇に、にたぁ~っと開いた口の白い歯だけが
浮かび上がったようであったという

何かおかしい・・・
その時、フリーライターは初めてそう思った

来る時には今にも降り出しそうな天気だったのに
どうして月明が格子から差し込んでいるのか?

ここにいる十人はいったい何なのか?

疑問が湧き出た瞬間・・・

雨に打たれ、真っ暗な墓地の真ん中に座っている自分に気付いたのであった

これはっ??!!

急いで自宅に戻りさっそく編集長に連絡を取る
編集室には誰もいなかった・・・

自宅で編集長を捕まえる
「編集長!やっぱりありました・・・ありましたよ!!」

興奮して先ほどの出来事を報告した
「あほっ」
っと編集長・・・・

「今何時だと思ってる!取材?わしはそんな電話しとらんぞ!」
電話は一方的に切られた・・・

それから彼は信じるようになった

狐にだまされたと言うような次元の体験かもしれないが
狐が人をだます事ができるなら・・・

死んだ人間にはもっといろいろな事ができるはずだ
その事を試されたような経験だった

だから・・・
わたしは奇怪なものを信じることにする

そのように彼は言いきった・・・・




新耳袋より
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