Il Volo Infinito

映画ブログ『黄金色の日々』別館 イタリアのテノールトリオ IL VOLOの部屋 他にミュージカル部多少

過ぎた日に乾杯

2017年12月01日 | ステージ


オペラ座とレ・ミゼのCD聞いてたら、今は昔の舞台通いの日々が走馬灯。
色々見たなー。イイのもしょもないのも。

そこで昔の話をしようと思います。劇団四○やミュージカルを知らない人には何のことやらな内容ですのであしからず。
それから今は大御所的にスターな方の若かりし頃の舞台、色々言ってます。今その方は見てませんから、あくまで若い頃の印象です。
きっと今は全然違うでしょう。


『オペラ座の怪人』は劇団の初演から何年か見てました。市村ファントムは歌唱力が心配と言われたものの、ふたを開けたら芝居でそれを補って見せてくれました。この話は音楽が特に重要だから、歌えないと確かに不味い。市ちゃん、上手いとはいえずも充分にこなしてた歌。
その時のラウルは山口祐一郎さん。当時『三国一のラウル』と呼ばれていたお人。
だけど私は、ラウルというキャラに全然魅かれなかったので、相変わらず頭使わないカッコ良さだなーとしか。
彼のラウル、ほんと何も考えてない王子様でした(笑) そしていつもそうだったが、ところ構わぬパワーの出しっぷり。
ラウルはクリスティーヌと子供の頃に会っており、風に飛ばされて海に落ちたスカーフを取ってきてあげたのが馴れ初め。
「私のスカーフを海に入って取ってきて下さった…あなたラウルなのね!?」というクリスティーヌのセリフを聞いたとき、脳内で山口子ラウルが海にザンブと飛び込んで豪快にクロールし、スカーフを掴んでアハハと笑いながら駆け寄る図が浮かんだ。
やー、山口氏はですね、ルックスは高身長の男前ですが天然です。劇団の会報に載った彼のエピソード。ある日思い立ち初めてサーフィンをしようとボードを手に入れ海に行った時のこと。男前現るで色めき立つビーチの女子たちを尻目に、颯爽と乗っては…落ち。乗っては、落ち。乗っては落ち。
延々と繰り返すうちに日が落ちていたとか。そして浜辺には彼ひとり。女子たちは一瞬のドリームが失せた後は速やかに退場したらしい。
それに気づきもしていないってのが、そもそも彼の地。そーゆー人だったんですよ(笑)

最初に見たものがコガモの親的に刷り込まれる原理のもと、ラウルってのは苦労知らずの金も美もあるバカボンであるのだなという設定はそれからです。それはあながち間違いでもない。映画版もそんな感じだったし。
次に見たラウルは、今も東宝ミュージカル他で鈴木綜馬の名で活躍されてる芥川英司さん(当時名)。
なぜか一人でいても背後に執事の影が見えるラウル。

海にそろそろと入ってスカーフを取ったはいいが、浜辺に控えし執事に、「じい。濡れた服を処分して新しいのを持ってくるように」と命じているいけ好かない子供が見えた。
いやご本人はいたって気の優しい人ですよ。ただ当時では珍しかった帰国子女仕込みのアクセントで「クリスティン、イェンジェェル!」と叫ばれるとどうもその感じが。
他にも数人見ましたが、印象はこのお二人が当然強かった。
数年前にジェリーのファントム映画を見た友人が、映画のラウルぐっと言っておりました。彼女にするとラウルはバカボンであるべきで、そこが好きなんだそう。そうすっと、山口ラウルは好きだったろう。ハドリーラウルは駄目かな(笑)
しかしだね。山口ラウルは先ほど書いた通り、常時力が余り過ぎ。
クリスティーヌの初舞台を見て、「ブラボー!」と叫ぶところも、「ブラボォーオ!!!」、桟敷席が決壊するような声でビクッとした(笑) 屋上で彼女をくるくる回すところも、遠心分離機状態でこちらにぶん投げそう。クリスティーヌは現浅○夫人の野村さんだったと思うが、思わず身を案じたよ。

こういうのが、うっとりする王子様像なのか…としたらおいらの王子像って。

いやさ、もとから王子様願望がないですよ私。ハッキリ言えよ(笑)

人により、何にうっとりするか違うものです。趣味が違うことは誰しもわかっているつもりで、価値観の違いを切実に感じるとうわ!となるもの(笑)


それでですね。ファントムについて。
ずっと忘れてて、しかし蘇ってしまったよあの日の悪夢が。
追憶の功罪。

市村さん、その後に演じた沢木順さん、それぞれ特徴のあるファントムでした。私は沢木さんが大好きだったんで、まあ色々物申せるファントムでしたが(笑)、嬉しかったよ見れて。
で、山口ファントム。
90年の再演の時、彼が初めてファントムにキャスティングされた。当時彼は34歳。今のラミンと変わらないね。
90年の秋に市村さんが退団するので、その前にファントム役を引き継ぐ形だったんですね。

しかし。この公演は。
私にとっては忘れたい。いや記憶の隅に押しやっていたトンデモ公演(笑)

初ファントムに気負ってたかって、いや彼は元から主演がメインの人。そんなことはない。
市村、沢木ファントムとは別の、彼自身のファントム像を目指したか。
そのおかげか、滅多にない明朗快活な怪人という珍品がお目見えしまして。
輝いてました。

スターのオーラとして輝くのは良いんですがね… 影がないんですよ。怪人のシャドウがよ!!
その時のクリスティーヌとラウルが誰であったかさえ思い出せません。誰でも同じや。ファントムしか目に入らない。
これはひじょうに不味いことでして、作品として成り立ってない。彼の一人ショーじゃないんだから。
そして彼よりも、何よりもまずかったことが。
劇場がよ。

新橋演舞場


これは最大級のミスでしたね。日生が使えないどういう事情があったにせよ。
だって、オペラ座じゃない、演舞場の怪人だもん。

花道がある。

また不幸なことに二階席でね。どうしたって花道が見えてしまう。ないものとしようとしても、そこにある。
もうほんと台無し

地方公演でもっと狭くて古い劇場で演じたっていいんですよ。洋の劇場なら。でも演舞場はダメ。途端に歌舞伎。
花道もだけど、劇場入ると売店に提灯ですよ? 再度言う、台無し。
その事情と相まって、元気にかつやくするファントム(…)を見ているうちに、隣の友人は比喩でなく頭を抱え、私の眼は瞳孔が開いていた。
一部が終わって休憩に。友人とぽつぽつ話すうちに、非常サイレンが鳴ると変な方向に飛躍する私のどたまは、「うん、そうだよ。どうせここでやるなら怪人弁当出すべきだね!」とわめき始める。
歌舞伎といえば幕間弁当。ファントム仮面型の弁当箱で、半分はデンプを乗せろ! レディス・ランチボックス・クリスティーヌも出せ! サンドイッチは赤いスカーフならぬナプキンで包め! ラウルは…もうこの公演じゃ劇場支配人より脇役だから、ラウル・おつまみセットでいい! そこは小じゃれて柿ピーはやめてワインとチーズ、オリーブ位詰めろ!

そういう屁のような御託を並べてる隣で、無言の行の友(普段は饒舌)。

2部に入って、仮面舞踏会ーマスカレードのシーンになっても、ここが和の空間であることはいかんともしがたい事実。むしろ鹿鳴館華やかなりし感。
歌舞伎だけでなく新劇も行われる演舞場でしたが、とにかくパリオペラ座にいるという設定だけは無理難題だった。

だんだん山口ファントムが暫に見えてくる罠 


もともと彼は、歌舞伎で言えば成田屋芝居だよなあと思ってた。成田屋は市川団十郎家の屋号。
そして市村さんは中村勘九郎。
荒事と呼ばれる豪快でおおらかな演技のイメージが、山口さんにはありました。今の壮年の彼は知らないよ。
劇団だか、他のところでか覚えてないが、俳優さんに演じて欲しい作品はありますかというアンケートに答えたことがある。
そこに、歌舞伎だから無理だけど山口・市村で『鳴神』って書いたんですよね(笑) 若いって怖いもの知らず。歌舞伎 鳴神
雲の絶え間姫を市村さんにやらせたいというのは、当時の彼はまだ若かったのもある。

山ちゃんは、『ハムレット』をやった時も苦悩を一本背負いしていたっけ…。
とにかく繊細な演技より、真っ向勝負の役をやらせればいいじゃないか! とわめく(脳内) 怪人は繊細だからね。

もうYOU花道走っちゃいなYO!!
ラスト近辺には声なき声でファントムに向かい叫ぶ山吹(花のン才)。

普通、芝居にせよミュージカルにせよ、映画にせよ。終演後は称賛感動文句含め語り合うのが常。
しかしこの日、私たちはほぼ無言でした(~_~;)
当時はキャストが事前発表されない時代で、ネットもないし、行って吃驚とか卒倒とかよくありましたけど。
「浅○! 木戸銭返せ!」と何度雄叫んだかわからんが、それももうしょうがないと半ば認めてたんですね。
しかしこの時は、それ以前の問題で、初めて無言の行でした。思えばあのころから体制的に受け付けなくなっていた。

大昔の一度の公演に、ああだこうだ言うのも大人げない。まあこれは本日の山吹@グランテールの酔った戯言と思ってください。
ちなみに私、山口ジーザスは永遠に大好きですから。沢木ユダとともに心の金字塔。
退団して東宝に出演し、『エリザベート』の初演でトートを演じたときはまた太陽神アポロだったがな!(トートは死神)

今や閣下(トート)と呼ばれるらしい彼の若かりし頃と、演舞場の怪人を思い出し感無量。
そしてほんとに久しぶりに見た『オペラ座の怪人』が、主演3人の力量だけでなく、真の総合芸術だったことも。
会社でバリバリ働いていた時と違い、今は地道な自家産業(^^ゞ お高い舞台にはこれからも縁遠いでしょうが、たまには行ってみたいなと思いました。


ああ、今流れてる『Point of No Retern』いいなあ。ラミンもシエラも。この歌で良いと思えた人は実は今までいなかったんだが。

DVD感想の追加ですが、クライマックスのシーンは今まで見たどの公演、映画にもないソウルを感じましたね。
ラミンの怪人、ここに至っていじらしい(笑) 無理やり花嫁のベールをかぶせたクリスティーヌに、「穢れは顔ではなく心にあるわ」と唄われて、ベールを直しつつ気にしないふりをするところ(動揺見え見え)。
ラストでサルのおもちゃの動きに合わせ、シンバル叩く真似をするファントム、かわいい。
これは脚本なんですか。ラミンのアドリブなんですか。あのお猿はなんか意味あったっけ原作で。なんかファントムが唯一、ずっと身近に持ってたものの気がする。母親がくれたとか、そういう。
追ってきたラウルと対峙して、熱が入るあまりにクリスティーヌの首を片手で絞めてた力が入り過ぎ、崩れた彼女から離れて思わず自分の手を見てる。ファントム先生。
繊細過ぎ! ばか! 好き!(またか)

指輪を返しに来たクリスティーヌに、「アイ・ラブ・ユー」という時のファントム、かすかに笑ってるんだ。見直して気付いた。これにはやられた。泣き笑いというより、はにかむように。あの酷い顔をさらけ出したまま真っ直ぐに心から歌う。もう何も隠してない。それまでは、仮面と共にカッコつけてた部分のあるファントムの、素の心。
う…。これもラミン・オリジナル? 泣き落としよりよっぽど胸に迫る。クリスティーヌが本当に辛そうで、ここのシエラの表情は思いやって余りある。
ラウルと二人、逃げ出しながら歌う「Say you'll share with me,one love,one lifetime... say the word and I will follow you...」のフレーズが、半分はファントムに向かい歌ってるクリスティーヌ。これ初めてだよ。それをラウルが迎えに来るところもいい。
ラウルはロープを解き放たれたあと、クリスティーヌの静止を受けつつもファントムに、「あんたに一言言いたいんだ!」みたいな意地を見せているのがなんとも。歯むき出してるしハドリー(笑)
あれはですね。自分やクリスティーヌを苦しめたことや人を殺したことより、目の前で明らかにファントムにも心惹かれてるフィアンセを見せつけられて、「あんたになんか負けないんだからな! 金や地位だけじゃなく、彼女を幸せにできるんだからな!」と吠えてるように見えました。画期的だよ、ハドリー(笑) 実年齢が2歳ずつ違うだけの三人だから、なにか若い養父から娘を嫁にもらう際に嫉妬が絡んでる婿みたいな構図に(笑)

でも胸打たれましたよ。いや実際、ここでファントム役者の熱演に拍手したことはあっても、三人全員が絶妙というのは初めてでした。
いやはや、いい三コンビだ。

おまけで、この公演のパンフにハドリーは、「親友のラミンと共演できて嬉しい」とか出てるそうだ。
おまい…。全国区に広めるかアツアツぶりを。
アンコールで手をつなぐとき、笑顔全開だったよなぁ…(見てるこっちがハズいほど)

タイトルはグランテールの歌の一節v


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