ひとりぐらし

ミステリとか、SFとか

離れられない

2012年07月30日 01時49分45秒 | 映画
『羊のうた』観了。原作『羊のうた(冬目景)』がとても好き。

高城一砂は友人の八重樫葉に心を寄せる、普通の高校生だった。しかし彼は、古い屋敷に血のイメージがだぶった不思議な夢を頻繁に見るようになる。夢に招き寄せられるように、土塀に囲まれた古い屋敷を訪れる一砂。そこで彼は、幼い頃に別れたきりの姉・千砂に出会う。
懐かしさに浸る間もなく、一砂は千砂から一族に代々伝わる忌まわしい病の秘密について知らされる。彼らは人の血が欲しくてたまらなくなる、悲しい血の系図なのだと。
事実を知った一砂は、大切な人達を傷つけることを恐れ、義理の両親を、友人を、学校を捨てて千砂と二人の世界に生きようとする。それは静謐で美しく、しかし歪んだ世界だった。
八重樫の思いや、義母、義父の言葉、そして亡き父の願いが、一砂を彼の世界へと連れ戻す。千砂は高城家の病について知る唯一の医師・水無瀬とともに、彼の前から姿を消した。そして一砂は、生きることを始める。

原作とは違い、一砂は千砂を選ばず、千砂は水無瀬を選ぶ。一砂と千砂の美しいラストシーンが好きだったぼくとしては、少し釈然としない部分がある。映画ではけっきょく病について何も解決していないだけではなく(原作では一砂の記憶が無くなるとともに、病もおさまった)、一砂の(彼の世界への)未練、千砂の(父への)未練が二人の世界の崩壊の理由なのだ。ちょっと綺麗ではないのではないか。
そして八重樫役が…。演技の拙さは仕方ないとしても、雰囲気がまったく出ていないため、作品から浮いている。原作では八重樫が一番好きなので、これも残念。

しかし、全体を通して静かで透明な作品の雰囲気は出ているし、何より千砂役の演技が素晴らしい。水無瀬を遠ざけようとするシーンや、父の記憶に縋るシーンは秀逸。

一砂と千砂の選択、ラストがあまりにあっけなかった気もするが、この場合はこれで良かったのかもしれない。手放しで絶賛はできないが、とても印象には残った。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿