ひとりぐらし

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ど真ん中ストレート

2012年08月02日 12時52分57秒 | 綾辻行人
『時計館の殺人(綾辻行人)』再読了。
(以下ネタバレ)














時計館・旧館の時間の流れが「長期的に狂わされていた」というトリック。
脱出不能となった旧館の中で次々にヒトが殺されていくため、真犯人はかなり絞られていくが、それすらも作者の罠なのではないか。作者による由季弥に疑いを向けさせる描写は明らかで、しかも他の容疑者にはアリバイがある。その上、彼は時計台から飛び降りてしまうのだ。
しかし、時計館の前当主・古峨倫典の妄想の産物である時計館は、時の流れが1.2倍の異世界だった。館内の全ての時計は速く進み、温度は外気温に左右されないよう調節され、閉じ込められた者は自由に出入りすることもかなわない。これは「16歳の誕生日以前に死ぬ」と予言された娘・永遠のために彼が16歳の花嫁という彼女の夢を叶えようと作り上げた仕掛けで、館内では外界と違う速度で時間が進んでいるということを永遠に悟らせないためのものだった。ある日、たまたま館の外に出た彼女は4人の子どもたちと出会い、自身の体感時間と現実の時間の誤差を知り、自殺してしまった。
この仕掛けを利用したのが真犯人である伊波紗世子で、(時間が速く進む)館内の人間に犯行時刻を確認させることで自分のアリバイを作り上げた。
トリックの完成度はもちろん、館シリーズらしい「異世界」としての時計館、過去の因果、崩壊する「異世界」…。作者が「館シリーズ第一期終了(ノベルス版より)」と言うのにも頷ける、館シリーズの一つの集成としての傑作。

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