ひとりぐらし

ミステリとか、SFとか

真実を知り、虚構を吐く

2012年07月20日 11時07分36秒 | ミステリ
『虚構推理-鋼人七瀬-(城平京)』読了。

幼い頃に神隠しにあい、妖怪変化たちの巫女、一眼一足の知恵者となった岩永琴子は、件と人魚の肉を食し、未来の選択権を得た不老不死者、異形に畏れられる異形、桜川九郎と共に、「夜の街に現れ、片手で鉄骨を振り回すミニスカ巨乳アイドル」というぶっ飛んだ都市伝説「鋼人七瀬」に立ち向かう。

「想像力の怪物」である都市伝説「鋼人七瀬」は、多くの人々が存在して欲しいと願うからこそ生まれ、形となり、存在している。だからこそ岩永は、それを消滅させるために、「鋼人七瀬」の存在を望んでいる人々が「鋼人七瀬」の実在よりも「そうあってほしい」と思うような「虚構」を組み立て普及させることを計画した。

九郎の元カノで警察官である弓原紗季の助力を得て、岩永達が打倒鋼人を計画する中、紗季に想いを寄せていたベテラン刑事が「鋼人七瀬」に殺害されてしまう(幽霊が一部始終を目撃していたそうな)。今までは鉄骨を振り回すだけの存在だった「鋼人七瀬」は、人間を殺す都市伝説になってしまった。

「鋼人七瀬」の存在は「まとめサイト」が核となっている。これは「想像力の怪物」を生み出そうとした九郎の親族、六花が人々の「鋼人七瀬」に対するイメージを統一し、その存在を強固なものにしようと設営したものだった。つまり、このサイトを見ている人々に「虚構」を信じ込ませることができれば、都市伝説としての存在を願われなくなった「鋼人七瀬」は消滅するのだ。

岩永と六花の「虚構推理合戦」が幕を開ける。

件と人魚の肉を食した九郎と六花は、死ぬたびに「実現可能な未来」を選択し蘇る。逆に言えば「手の届く状態になければ、その未来は選択できない」ということ。岩永は「都市伝説としての鋼人七瀬が存在しない未来」を選択するために、4つの虚構を利用し、「七瀬かりんは死んでいない、都市伝説としての鋼人七瀬は彼女の自演である」という物語を「まとめサイト」の閲覧者に信じ込ませることに成功し、「鋼人七瀬」は消滅する。

一般的なミステリは「事件→謎→推理(探偵役による)→真相解明→解決」という形式であるが、この作品では「事件→偽の真実の構築→虚構推理(ある意味では犯人である人々による)→虚構の解明と増長→解決」という異様な形式となっている。妖怪変化の類が実在するため、事件の真相は始めから明確になっているが、これもまた妖怪変化の類が実在するため、真実は秩序をもたらさないのだ。

秩序をもたらすために嘘を真実にする。ひねくれているように感じるが、この歪みは「現実」の歪みそのままなのではないか。

ヒトは自分の信じたい「真実」だけを信じる。「真実はいつも1つ」ではない。

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