ひとりぐらし

ミステリとか、SFとか

けっきょくこれはなんなんだ?

2012年07月16日 01時45分49秒 | ミステリ
『猫間地獄のわらべ歌(幡大介)』読了。
閉ざされた書物蔵で御広敷番が絶命した。その「密室破り」を命じられる御使番、内侍之佑。一方、利権を握る銀山奉行の横暴に手を焼く国許では、不気味なわらべ歌に沿って連続殺人事件が発生する。

(以下ネタバレ)














まず奥村達による陰謀について。わらべ歌どおりに殺しがおこっている、という噂を利用し「銀山奉行を呪いで死んだということにするため」連続殺人を演出した。
忠吉も伝左衛門も珍念和尚も実は死んでおらず、罪人の死体を彼等のそれと偽装し隠れていた。忠吉は一度死んだ身となり流民に化けると牢屋敷に潜り込む。それとは知らず銀山奉行は人足の補充と称して自ら忠吉を銀山に連れ込んだ。そこで忠吉は銀山奉行の不正の証拠を手にする。
驚きなのはP259の3行目から始まるメタレベルの屁理屈。これ以前にもP35の6行目からとP66の5行目からメタレベルでの会話がなされているが、どうもこれが作品を台無しにしている感じがいなめない。唐突にこんな会話が始まるわけだから読者は呆然とし、苦笑いするしかなくなる。せっかく「時代ミステリ」として良い雰囲気を持っていたのだから、正攻法を避ける必要もなかったのではないか。
「主な登場人物のほとんどが共犯だった」という真相に対して「探偵するという言葉にしたがうと、探偵役は忠吉であって奥村でない」だとか「この作品は主役の視点で描写されていないから奥村の悪巧みを描写しなくてもいい」だとかの詭弁をろうしてフェアであることを主張しているが、どうにも納得がいかない。「この話を勝手に推理小説だと思い込み、探偵役のこの奥村だけは下手人ではあるまいと勝手に決めつけ、下手人は主要登場人物の中の一人だけだろう、などと無意識に思い込んでおったのだとしたら貴様の負けよ!推理小説と思わせといて時代小説。人の虚を突くこのトリック!名付けて『ジャンル跨りトリック』とはこのことだ!」という奥村の台詞は作者から読者へのメッセージでもあるのだろうが(作者のドヤ顔が見える)、呆れて声も出なくなった。著者紹介に「本格ミステリに挑んだ」とはっきり書いてあるのに、何が「これは推理小説ではなく時代小説」だ。どう言い訳をしようが、これに関してはアンフェアだと言わざるを得ない。

次に「月照館の殺人」について。メタレベルの会話によれば、「館もの」ならぬ「屋形船もの」とのこと(苦笑)。屋形船をつなぐ綱をほどき(もやい綱は簡単にほどけるので問題にならない)、大潮で逆流する川に流され「月照館」に近づいてきたところを桟橋に引き寄せ、乗り込んで相手を殺す、というトリック。『あの作品』にも逆流する川の流れを利用したトリックがあったが、あまり一般的な知識ではない気もする。メタレベルの会話を免罪符にしているフシがあるが、ギリギリでフェアといったところだろうか。

最後に書物蔵での事件について。御使番の内侍之佑がでっち上げた密室破りの方法は、火の見櫓に綱の一方を、もう一方を舟の帆柱に結び、曲者に綱を渡らせるのではなく、綱を結んだ柱のほうを動かすという奇策だった。その犯人として和泉ノ方を追い落とすことに成功し大団円となる。

事件が終結した後、「内侍之佑は女であった」という叙述トリックがあかされるのだが、これについては特に言及するほどのことでもないだろう。

途中で「これは推理小説じゃない」などと言ったり、結末は「社会派ミステリだ」などと言ったり、正直なところ作者が何を考えているのか(あるいは考えていないのか)わからないバカミス。それぞれの事件にまとまりが無かったのも残念。色々と思うところはあるが、これだけ(良くも悪くも)突き抜けた作品には、なかなかお目にかかることはできないのではないか。

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