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火の鳥/手塚治虫(漫画)

2012-07-01 23:20:00 | 読書
今回の記事は『火の鳥』(手塚治虫、角川文庫)です。
手塚治虫が描いた壮大なる生命の物語。
歴史に名を残す名作として数多くのファンに推される手塚治虫の代表作。

■内容紹介
手塚治虫が漫画家として活動を始めた初期の頃から晩年まで手がけ続けた作品で、手塚治虫のライフワークと言われる代表作。
描かれる時代は古代からはるか未来まで。舞台も日本から世界、地球、宇宙までと広がり壮大なスケールを誇る。
生命の本質・人間の業がテーマの物語は深く、そして重い。
物語の主人公たちは悩み、苦しみ、闘い、残酷な運命に翻弄され続ける。

火の鳥の物語は

・黎明編
・未来編
・ヤマト編
・宇宙編
・鳳凰編
・復活編
・羽衣編
・望郷篇
・生命編
・異形編
・太陽編

が執筆されており、以降に

・大地編
・アトム編
・現代編

と続いて完結する構想だった。なお最後の3作品は作者の逝去により未完。

■感想
トップの画像は今年の大河『平清盛』に敬意を表して、乱世編(平安末代、平清盛が登場する)にしてみました。

『火の鳥』と言うと、手塚治虫の漫画を知る人達がまず最初に薦めるであろう名作です。
数多くの著名人たちも口をそろえて薦める漫画として特别な畏怖のある作品だった。
僕が読み始めたのはかなり最近(といっても2009年という昔)なのですが、確かにこれほど深いテーマを扱った漫画はほかに存在しない。
一生涯のうちで必ず読んでおくべき漫画として推すことができる。それほどの作品だと思う。

火の鳥は内容紹介に書いた「黎明編」などの各編で物語自体の完結はしていますが、それぞれが火の鳥全体の物語として壮大に繋がっています。
しかも物語は「1:黎明編(最も過去の物語)」「2:未来編(最も未来の物語)」「3:ヤマト編(黎明編の次の時代の物語)」「4:宇宙編(未来編の一つ前の時代の物語)」……のように、過去から未来へ、未来から過去へというように物語の時系列が繋がります。そして最終的に手塚治虫はこの2つの時系列の物語を現代で交差させる構想を持っていたらしい。
この構想を知った時は、物語の展開のさせ方の見事さに感嘆しました。それだけに『火の鳥』が未完で終わってしまったことは、本当に残念でなりません。

以降は各編の感想です。MMに上げていた感想から抜粋してるだけというけっこうな手抜きっぷりですので悪しからず。
結果的に超長くなってしまってますので全部読もうとすると疲れます。気が向いたらちょっとずつ読んで下さい。

・黎明編(角川文庫・火の鳥1)
日本神話時代の物語をベースに重厚な人間ドラマが展開されていて読み応えは凄かった。
所々に手塚さんらしい遊び心に富んだ演出が盛り込まれているのも味でしょう。
物語には決定的な善人も悪人もなく、善悪あわせ持つ人間というものをリアルに感じてしまう。
この編の主人公ナギ、猿田彦、弓彦の最期はかくもあっさり描かれている。けれど胸に迫る感傷も無情感も凄かった。

・未来編(角川文庫・火の鳥2)
破滅へ向かう未来を描いた話だと思っていたけれど、そんなものでは終わらずにもの凄く壮大な展開へと広がっていった。
まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。凄い。
生命や宇宙の神秘を感じられるこの壮大な物語は尋常じゃない。大河とかそんなレベルをはるかに超える。
もうここまで来ると神がかり的な凄さです!
手塚漫画ではお馴染みのキャラ、ロックの身勝手だけど、どこまでも切ない生き方は心に響くものがあった。
その後のあまりに壮大な展開がそれらすべてかっ消すけども…。

・ヤマト編(角川文庫・火の鳥3前半)
登場人物の魅力はすごく高く、川上タケル、ヤマト・オグナ、カジカの3人はそれぞれにとても惹かれる。
オグナの繊細かつ柔和、厳しく合理的でもある性格は魅力的だった。それ故の悩める若者っぷりも良かった。
カジカとオグナの恋愛ドラマもドキドキ。

・異形編(角川文庫・火の鳥3後半)
今までとはまた違った雰囲気の物語に感じた。
物語は短いながらも、時間の壮大さを感じさせる奥深さがあり見事。
罪深き人間の哀しさが切なくもしんみりと伝わってきます。

・鳳凰編(角川文庫・火の鳥4)
物語の主人公、二人の対照的な彫り師のドラマは大変に読ませ巧い。
特に我王サイドの物語の壮絶なこと。
最初こそ、とんでもない奴だと感じたけれど、次第にあまりにも憐れで同情してしまうようになってくる。
我王と共に世の無常さを感じ、憎しみ、苦しみ、悩みながら、生命というものの意味を少しずつ感じ取れたような気がします。
我王が悟るシーンの描写の巧さといったらもう言葉で言い表すことはできない。
物語は大変に重いのだけど、今まで読んだ中では(4巻まで)最も手塚治虫が描く生命のテーマを肌で感じることのできる巻だったんじゃないかと思います。

・復活編(角川文庫・火の鳥5前半)
手塚治虫の物語構成の巧さには恐れ入ってしまう。本当に巧い。
単純に過去から未来へと物語を進めるのではなく、時間軸を交差させ巧みに物語が進んでいく。
しかもあっちこっちへ飛ばして読者を混乱させることなく、読者に想像(予想)の余地をしっかり残している。
読み進めるにつれしっかり物語が一本に繋がり、読み終わった際に感嘆してしまう。
この展開の演出は面白い。
火の鳥全体で見てもこの面白さはあるのですが、復活編単体でもこの面白さが如何なく発揮されています。すごい。
生命とは? そこにロボットをも内包する手塚治虫の描く物語には考えさせられてしまう。

・羽衣編(角川文庫・火の鳥5後半)
羽衣編は手塚治虫の遊び心が溢れた漫画だった。まるで舞台劇を見ているかのように描かれています。
ただ、コマ割り・視点がずっと同じなので、ダイナミックなコマ割り・視点で壮大に描かれる他の編と比べると物足りなさを感じてしまうのは致し方ないのかも…。

・望郷篇(角川文庫・火の鳥6)
創世から最後の審判までを描いた物語は、聖書を彷彿とさせる壮大な物語で読み応えがあった。
たった一人で孤独な星へ残され、そこから人類を繁栄させていこうと決意をする主人公・ロミの想いには壮絶なものを感じてしまう。
「望郷」という人類普遍の想いがひしひしと感じられ切なくなってしまう。
肉体の概念を超えた締めくくり方はこれまでの火の鳥の物語にも何度か描かれている。
これがひとつの『火の鳥』のテーマなのかもしれないと思った。
なお描かれる物語は近親相姦が含まれ、実は禁断の物語とも言える。
現代だったら規制対象に成りかねない内容に、やたらめったら漫画表現規制を推し進める偉い政治家さんが「名作は例外とする」とか言っていたのを何故か今でも覚えてる。
作中にブラック・ジャックがまさかの役でカメオ出演しています(笑)。

・乱世編・上(角川文庫・火の鳥7)
描かれる物語の時代は平安末代。
平清盛、源義経(牛若丸)などが出てきます。
まるで大河ドラマを見ているような壮大な読み応えを感じます。
2012年のNHK大河ドラマは平清盛なので案外今読むと旬な内容かもしれません。
『火の鳥』の平清盛。業は深くとも、平家一門を築き上げた大物には魅力が備わると共に、やけに人間臭さも感じられました。
孤独な老人の持つ寂しさと、人の一生の儚さを感じずにはいられません。

・乱世編・下(角川文庫・火の鳥8)
前巻に引き続き、平安末代、平家崩壊の大河ドラマが描かれる。
物語はオリジナルキャラクターの弁太(名前からして弁慶がモデル?)を主人公に据え、彼の視点で語られています。
けれど、やはり目を引くのはそこへ交差されるように描かれる源義経の生涯。
義経と言えば悲劇のヒーロー譚として描かれることが多いけど、『火の鳥』の義経はかなりのダークヒーローとして描かれています。
麗しの美青年にして野心家で計算高く冷淡。そんな義経とは対照的な純粋な性格の弁太の視点で物語は進むのでバランスは絶妙に締まっている印象。
義経のあまりにあっけない最期といい、読み終わりは何とも言えない悲痛な感情が残ります。
スペシャルゲストとしてDr.キリコが出てますね(笑)。
火の鳥(本物)が出て来なかったのも『火の鳥』サーガとしては珍しい。
歴史漫画として真面目に秀逸な作品なんじゃないかと思う。

・宇宙編(角川文庫・火の鳥9)
『火の鳥』全編を通して出てくる陰の主人公・猿田の永久に続く罰のはじまりの物語が描かれています。
最初、4人同時進行で描かれるページはどう読んでいいのか戸惑った。
オススメとしては最初は横に読んで次に縦に読むかな。ちょっと回りくどいけども…。
「望郷編」の牧村が出てきた時はハッとした。
別人か?とも思ったけど、やっぱりあの牧村自身なのでしょうね。
人生の一生涯だけでなく、永久に続く罰。これほどの苦しみがあるのだろうか。重い…。

・生命編(角川文庫・火の鳥10)
生命倫理のあり様を深く問うた衝撃作。
命を軽んじることは決して行ってはいけないのだ。
今まで読んだ『火の鳥』のエピソードの中で最もダークで重い内容の作品だったように思います。
描写もとにかくハードだ。
最終的に青居は人の心を取り戻せたのだと思いたい。彼の罪はきっと許されたのだ。
ラストは張り裂けるような悲しみがあって胸が痛い。

・太陽編・上(角川文庫・火の鳥11)
オープニングは想像以上の残虐性にクラクラする。
日本が舞台のシリーズと同系統の物語で飛鳥時代が背景となっている。
けど『火の鳥』としてはかなり異色の感じが強い作品に感じた。この巻では火の鳥の存在はほぼ感じられません。
大海人皇子が横山光輝三国志の曹操に見えます。

・太陽編・中(角川文庫・火の鳥12)
メインとなる物語は主人公の犬上のいる飛鳥時代の物語だけど、犬上の見る夢、スグル(時代不明)の物語が前巻よりページが多く割かれ描かれていました。
お互いにお互いの夢を見ているこの犬上とスグル、一体どのように繋がるのか楽しみです。
仏教を侵略者として描く物語はやはりこれまでの『火の鳥』とはかなりの異色なように感じます。
この物語の果てはいったいどんな結末になるのか想像もつかない。
狼のマリモが可愛く思えて仕方ありません。
意外なところで意外なところへ繋がっているのはさすが。
まさか「異形編」への伏線があるとは思いもしなかったです。

・太陽編・下(角川文庫・火の鳥13)
3巻にわたった太陽編もついに完結。
太陽編はSFと歴史伝奇をうまく混合させた壮大な物語だった。
太陽編のテーマは、宗教戦争の愚かさなのだと思う。
仏教を侵略者のように描いた漫画と勘違いしてしまいそうだけれど、宗教自体は悪くなくて、それを権力争いや自分の欲のために用いる人の思考こそが悪なのだと、この漫画は教えているのだと思います。
とにかく考えさせられる内容だった。
未来と過去を上手く繋げる1000年を越える物語はドラマチックで感嘆させられる。
手塚治虫の漫画を読むと、時間や生死の概念を超越した壮大なスケールをひしひしと感じる。
「太陽編」の読後感もまさにそんな壮大さを感じました。

・エジプト編/ギリシャ編/ローマ編+初期の黎明編(角川文庫・火の鳥14)
執筆されたのは「火の鳥1」の黎明編より前、手塚治虫の漫画家としての初期の頃の作品なので少々読みにくいという印象はやっぱりあります。
火の鳥が親子としてその生命を代々受け継いでいくという描写があるのはこの巻だけ。
他の巻では火の鳥は不滅の生命として扱われているので何だか新鮮だった。
初期黎明編は1巻の「黎明編」を知った状態で読むと意外な驚きがある。
あらすじはだいぶ違うんだけれど、ところどころの設定で共通する点がちらほら。
登場人物の役どころの違いは面白かった。

14巻分の感想の長さはやはり凄まじい。記事分けるべきだったかな…。


書名:火の鳥
著者手塚治虫
ジャンル:漫画(SF/歴史)
メモ火の鳥シリーズ
おすすめ度★★★★★


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