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破線のマリス/野沢尚(小説)

2009-02-11 23:19:30 | 読書
今回の記事は『破線のマリス』(野沢尚、講談社文庫)です。
第43回江戸川乱歩賞受賞の社会派ミステリ。
登場人物が何だかとてもリアリティがあります。

■内容紹介
首都テレビ報道局のニュース番組で映像編集を担う遠藤瑤子は、虚実の狭間を縫うモンタージュを駆使し、刺激的な画面を造りだす。
彼女を待ち受けていたのは、自ら仕掛けた視覚の罠だった!?
事故か? 他殺か? 一本のビデオから始まる、超一級の「フー&ホワイダニット」。
第43回江戸川乱歩賞受賞の傑作ミステリ。

■感想
主人公の遠藤瑤子は仕事に生きる女性です。
彼女は、自分の作り出す報道映像に誇りと自信を持っています。
またそれと同時に映像の持つ影響力に酔いしれている危うさも読んでいて感じる。
その気持ちは後半に進むにつれ、段々と増していきます。

彼女はある人物に疑惑を抱き、報道映像に意図的な悪意(マリス)を潜ませていきます。
これは最終的にひとりの人物の人生を大きく変えてしまっている。
テレビの持つ影響力は強く、メディアの持つ問題点について考えさせられてしまう。

「テレビで伝えられたことを何も考えずに自分の意見として取り入れてしまうのは問題がある」
テレビで非難された人を自分も非難し、賞賛された人を自分も賞賛する。
これは別段悪いことではないと思う。
非難や賞賛をする前に自分は何か考えたか? その点が大事なのだと思う。

…何だか感想というより、メディア論になってきちゃってますね。
この題材については僕も社会学という授業で論議したものでした。
小説でも、最後に主人公の瑤子がテレビ報道に付いての意見を伝えています。
読んでいて少し懐かしい気持ちが甦りました。
展開としては悲しい状況へと進むので、瑤子の言葉は、痛みと共に、ズッシリとした想いとして胸を占めました。

物語に出てくる登場人物は、瑤子を含め、全員、どこかリアリティーがあります。
現実離れした人物はひとりもいません。
そんな登場人物の中でも、特に印象的だったのが麻生。
麻生の二転三転する印象には興味を引かれ、気になって読み止らなくなりました。

またこんな言葉も出てきます。
報道には5つのWと1つのHのほかに、2つのFが必要である。
5W1Hについては、ご存知、いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、どうして(Why)、どのように(How)です。
これは物事を的確に伝える為に必要な客観的な事実。
残りの2つのFは、誰のために(For Whom)、何のために(For What)です。
こちらは主観的な想い。
小説の中では、この2つのFはさらに2つの言葉へと置き換えられています。
人の心を動かすものにはこの2つは絶対に必要な要素だと思います。
ニュースは事実だけを伝えるものと思っていた僕には、この言葉は深い印象として残りました。


書名:破線のマリス
著者:野沢尚
ジャンル:小説(ミステリ/社会派)
メモ:第43回江戸川乱歩賞受賞
おすすめ度★★★★


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
思い出 (萩 ますび)
2009-02-13 01:22:11
野沢さんの作品は
今だに思い出すものが多いです
「マリス」という言葉を知ったのも
この小説でした
同じメディアもので好きなのは
「砦なき者」です
ドラマの「青い鳥」や「眠れる森」も
衝撃的でした
もっと作品見たかったな・・・
返信する
ますびさんへ (ichi-ka)
2009-02-16 00:16:15
コメントありがとうございます。
野沢さんは脚本家としても有名ですよね。
ただ僕は今回の『破線のマリス』が野沢さんの小説の初読みで、ドラマも見たことありません。
何かいろいろ浅いです、自分。
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