


一般社団法人 地域活性化センターが発行している「地域づくり」という冊子への投稿文です。
【 電子カルテで医療情報を共有・交換 】
・Net4Uとは
Net4U(New e-Teamwork for 4 Units)は、山形県鶴岡地区医師会で運用している地域電子カルテの名称です。地域電子カルテとは、病院などで運用されている電子カルテを地域に広げたとイメージすると分かりやすいかもしれません。地域をひとつの病院とみなし、病院、診療所、訪問看護ステーション、薬局、介護サービス事業者などが患者さんの情報(所見、処方、検査値、病名など)をリアルタイムに共有したり、情報提供書などを電子的に交換したり、相互のコミュニケーションを可能とする仕組みです。
・Net4U導入の経緯
Net4Uは、2000年度の経産省の「先進的情報技術活用型医療機関等ネットワーク化推進事業」を受託し開発したシステムです。当時は、インターネットの黎明期であり、まだ電子カルテも普及していない時代でしたが、インターネットを利用した医療情報ネットワークを地域に構築することで、医療連携が進むことが期待されていました。当地区では、この事業を受託する数年前から、今後の地域医療にはインターネットを利用した医療者間での医療情報の共有は不可欠との認識でさまざまなシステムを開発していましたので、国の事業の受託はわれわれの活動に大きな追い風となりました。なお、Net4Uは2007年に「医療と介護繋ぐヘルスケア・ソーシャルネットワーク」として全面改訂し、現在も進化を続けています。
・運用状況
2016年3月3日現在、Net4Uには、病院(5)、診療所(35)、歯科診療所(10)、調剤薬局(23)、訪問看護ステーション(4)、訪問入浴(2)、居宅介護支援事業所(20)、介護予防支援事業所(4)、介護老人保健施設(1)、特別養護老人施設(2)、荘内地区健康管理センターおよび民間検査会社(3)が参加しています。2001年1月の運用開始以来、15年間の運用で、延べ登録患者数は45,616名、そのうち約20%に当たる8,899名の患者情報が複数の医療機関で共有されています。
・地域包括ケアシステムとNet4U
超高齢社会が進展するなか、地域包括ケアシステムの構築が求められています。地域包括ケアシステムとは、住民が住み慣れた地域で暮らし続けるために必要なサービス(保健、医療、福祉や介護、くらし支援)を地域でまとめて(包括的に)提供していきましょうというシステムです。在宅医療は、地域包括ケアシステムのなかで、医療を中心とした重要なサービスのひとつです。
在宅医療においては、ひとりの患者さんに医師、訪問看護師、薬剤師、歯科医師、ケアマネジャー、ヘルパーなど多くの職種が関わります。それら職種がチームとして機能するには、患者さんの必要な情報を職種間で共有するとともに、相互のコミュニケーションツールが必要です。このような状況において、Net4Uは多職種協働を支えるツールとして活用されています。究極の在宅医療とも言われるがん末期における在宅緩和ケアにおいては、多職種チームが頻繁に患者宅を訪れ治療やケアを行うことになります。刻々と変化する患者の状態に対応するには、Net4Uのような情報共有~コミュニケーションツールは不可欠です。とくに、病院に勤務する緩和ケアの専門チームがNet4Uに参加することで、病院に居ながらにして、地域の在宅チームへ適切な治療法などをアドバイスすることが可能となり、在宅チームの大きな安心感に繋がっています。
・医療・介護連携とNet4U
在宅医療においては、生活を支えるという視点がとても大切であり、介護職の役割は医療職に増して重要になります。医療と介護との連携が強く求められている所以ですが、全国的にみてもお互いの連携がなかなか進まないという現状があります。そのような背景もあり、近年、われわれは、Ne4Uへの介護系職種、とくにケアマネジャーの参加を積極的に促しました。その結果、現在では、ほとんどのケアマネジャーがNet4Uに登録されています。「Net4Uを利用して変わったことは何ですか?」というケアマネジャーへの質問では、「医療情報が正確かつ迅速に知ることができるようになった」、「在宅かかりつけ医との身近なやり取りができるようになり、連携が取りやすくなった」などの肯定的な意見が多く聞かれています。一方で、在宅かかりつけ医からは、「ケアマネジャーからは今まで知ることができなかった、例えば、介護する家族の情報なども知ることができるようになり、まさに在宅医療の新しいパートナーを得た思いです」との声も聞かれています。
・Net4Uを支えるさまざまな活動
Net4Uはあくまでツールであり、それが機能するには、理念を共有した顔の見える関係を構築することが前提です。当地区では、2006年に地域連携パス研究会(後に庄内南部地域連携パス推進協会)を立ち上げ、現在、大腿骨近位部骨折、脳卒中、糖尿病、5大がん、心筋梗塞の連携パスを開発・運用しています。地域連携パスは、疾病管理を目指した活動で、例えば、脳卒中では、パスを導入することで、脳卒中の再発が減ったとのデータも示されています。また、2007年には厚生労働省の「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」を受託し、がん患者が在宅でも十分な緩和ケアを受けながら看取ることができる体制づくりを目指した活動を行ってきました。活動は、医療者教育、地域連携、市民啓発など多岐に渡り、多くの研修会、症例検討会が職種毎あるいは職種横断的に行われています。さらに、2011年には、在宅医療連携拠点事業を受託し、鶴岡地区医師会内に地域医療連携室「ほたる」を設置し、多職種連携を支援する数多くの活動も行っています。これらの活動があってこそのNet4Uであり、一方でNet4Uがあったからこその地域連携でもあるのです。
・今後の展望
Net4Uは、鶴岡地区以外にも、新潟県、宮崎県、長野県など全国各地での導入が進んでいます。Net4Uのようなシステムは、地域包括ケアシステムを支える有効なツールです。今後とも、全国に普及することを期待したいと思います。