news clipping;

ニュースをきりぬいていこう

■ ≪解答乱麻≫男児は「〇〇君」と呼べ日本教育技術学会名誉会長・野口芳宏 

2006-07-25 08:45:18 | Weblog
2006.07.24
■ ≪解答乱麻≫男児は「〇〇君」と呼べ日本教育技術学会名誉会長・野口芳宏 
 

 1日付産経新聞で、男女ともに児童を「さん」付けで呼ぶ小学校が32%あるという文部科学省の調査結果が報じられた。私の経験を述べたい。

 ある小学校の授業を見学したときだ。授業の終わりに次の時間での発表を割り当てた。「山田さん、大川さん、大野さん…」。ありゃ? 男の子なのか、女の子なのか見当がつかない。

 「なぜ『君』『さん』と呼び分けないのか」と質問した。答えは「男、女という区別の意識を消し、男女共同参画社会を具現すべく、職員会議で決定した」というものだった。えっ!? 何とばかげたことを、と思った。

 日本で長く呼び分けられてきた「君」「さん」という敬称は伝統的な言語文化であり、言語遺産ではないか。それをかくも簡単に変えてしまう傲慢(ごうまん)と軽率さがやりきれない。が、私は部外者だ。その学校の決定は変えられない。そこで「私の見解」と断った上で、その方針に反対を強く表明して別れたのだった。

 他の学校でも男子への「君」呼びは耳にできなくなっている。学校現場で明らかに言語文化の異変が起こっている。その論拠は、例の男女共同参画社会基本法の成立を受けた推進活動の一端にあるらしい。男女混合名簿もこの動きの一つに位置づけられるようだ。

 別の小学校の入学式に出た。新1年生の呼称はすべて「さん」で統一され、「君」と呼ばれるつもりで練習して行った男の子は返事ができなかった一幕もあった。呼ぶ順番も男女混合である。

 これが今の小学校の「新しい教育」として広まっている。私にはとうてい納得し難い。牽強付会、こじつけを超して滑稽(こっけい)、悲惨とさえ感じられる。

 さらに私を驚かせたことがある。私は二、三の出版社の小学校国語教科書を調べたが、どの教科書にも「君」がない。(1)「では、山下さん」(2)山田さんの学級では(3)鈴木さんは(4)渡辺さんは-という具合だ。耳で聞く限り、また文章を読む限りでは判別は誰にもできまい。唯一、挿絵に頼るほかはない。これが文部科学省の検定に合格した「国語」の教科書なのだ。

 「豪憲君殺害の動機が再び捜査の焦点として浮上。さらに彩香ちゃんの死を…」。これは新聞記事の一節である。新聞社も出版社もNHKも民放も、男女を敬称で呼び分けているのが常識、通例である。

 一般社会の常識が学校には通用しない。「学校の常識は社会の非常識」などと揶揄(やゆ)されるのは悲しいがうなずけもする。先の愚行も好例だ。

 さて、かかる珍現象は、このような愚行を熱心かつ強力に推進している司令軍団によって惹起(じゃっき)されている。その司令軍団はかなり賢い。同様の司令をマスコミ界に発したらマスコミはこぞって牙をむくだろう。だからマスコミに司令はしない。

 そこで「牙を持たない」温順愚直な文科省や教育委員会に司令を発しているのだ。巧妙な手口で日本の伝統文化を汚染と混乱に陥れようとしている軍団に、心ある国民の監視と防衛が必要である。




【プロフィル】野口芳宏
 のぐち・よしひろ 千葉大付属小教諭、千葉県木更津市立小校長、北海道教育大教授などを歴任。「国語授業の名人」として有名。著書に『鍛える国語教室シリーズ』など多数。