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術式の標的

2007-02-26 00:33:57 | 









記憶の陽炎が
燃え盛る
熱の無い炎のように、俺の頬を打つ、おお
死に例えるほどの苦しみは
もう、無くなってしまった
蒼褪めた頬が削げ落ちたぶんだけ余計な言葉を覚える
君の心臓のひだに俺の致命的な欠陥を移植したくなる、お近づきの印しに
ブレイクビーツのようながらくたの鼓動を忘れられないと思って欲しい、君の心臓に致命的な俺を
昨日の雨音を数えていた、今になって
認識という感覚にそれほどまでのタイムラグがある
フィルムをセットして三日後ぐらいに
ようやくオーバーチュアを映し出す映写機のようなものだ
いったん針が飛び出すとデジタルは対処のしようがない、それが怖くて
新しいしきたりとやらを取り入れる気になれないのさ
記憶の陽炎が燃え盛る、熱の無い陰鬱な紅い炎のように
何を燃やしているのか俺には判り過ぎるくらい判るよ、あの中で縮こまる曖昧な肉塊は
まさしくこの俺が取り逃がしてきた大切なもの達さ
それは他の誰でも無いこの俺の落度なのに
被害者面をして蹲る荼毘の午前零時
指先の震えは交感神経の欠損だと皆が言うけれど
俺はそんなもの認知した覚えが無い
人ひとり老け込んでしまうほどの長い長い年月の果てに、ようやく見つけたものがそれしきのものだなんてどんな脚色を施しても嘲笑えない
墓穴を掘るには往生際が悪過ぎる、死後硬直の姿勢にはきっと
四肢をぶった切らなきゃ棺に収められないような手間の掛かる形を選ぶだろう
なにかがぶすぶすと焼けて灰を天井まで舞い上がらせている、ささやかな気流によってそれは渦を巻いて
まるで神に拒まれた天国への階段のようだ(どんな韻律を使用してもあの上まで辿りつくことは出来ないだろう)
鼻先をなぞるように外気は冷たく暗く
陰鬱な紅い炎が壁に投影する揺らぎに照らされながら温度を失っていく
劣化劣等ホモサピエンス、いったいどうしてこんなものにしがみついてきたのか
子供のころに集めた切手が全部くだらない紙切れに見えるみたいに、壁を抜けられない自分の影に中身の無い感慨を投げつけた
中身の無い感慨は卵のように脆く壁の上で砕けて
跳ね返った破片が右の眼の眼球に刺さる、俺は意地でも眼を閉じようとは思わなかった
それは具現化された熱の無い炎、涙のように俺の目尻から滴ってくるのは
傷を受けたことを幸せだと思った、俺の存在は
手早く施工された細工よりはなんとかなるものかもしれないということが判ったから
それがいったいどういう意味かなんて誰に説明するようなことでもない―そんなことがあったって説明だけでそれはひとつの証明になる類のものさ―ト書きのついた日記帳に書かれているものは日記ではなくて脚本のはずだ
説明の仕方を間違えることだけはしないんだ、それだけは確実に上手くなるものなのさ
取扱説明書なんて、書くにも読むにも蓄積が必要になるとしたものだろう
俺は説明の仕方を間違えることだけはしない、それは俺の存在を
のっぴきならない場所へ追い込んでしまうことにもなりかねないから
もっとも、それが出来たからってこんな場所に居るようなら―それはまったく無駄だったってことになるんだけどさ
熱の無い紅い炎はこちらの思惑を全て理解しているらしくて
噛みつかない程度に執拗に炙り続けている、その中で追い詰められる影のように縮こまる肉塊が
いったいどんなものを抱きしめていたのか俺はきっちりと理解している
炎が消えるころ降り積もる灰は遺書の代わりになるのかもしれない
俺は遺言を残すほどの規律を求めてはいないから
降り積もる灰の形状に様々な言葉を見るのかもしれない
死に続ける暁に見える灰の形状とはいったいどういうものだろう?炎はまだやむことを知らない、それがもしも俺という存在を媒体にして燃えているのであれば―俺はメスを左胸に突き立てて脈を打つ心臓を君に差し出すかもしれないね
移植したいんだ、君に
その無軌道な流れを記憶してもらいたい、存在などどんなことをしても永遠になどなれないから
オペは何時でも始められる、俺は




無造作に身体を床に投げ出せばいいだけさ












すべてリザーブされない(例えば雨の長いスパン)

2007-02-23 17:49:57 | 










くらがりで神懸かりな瞬間を待って
おざなりなからくりが転がるのを見てた
戯れるいきどおりほつれる袖先
うずくまる悶える淡くなる途絶える


百万回も刻まれた嘘
遠雷のこだまする窓
挽回が砕け散る音
ぞんざいな捨て台詞の末路


きみの思い通りに失速してあげよう、大きく眼を見開いて、失策の認識を演出してあげるよ、ハロゲン・ライトの照射域みたいに出来過ぎたピッチで果てしなく
嘲笑の標識は大きめの方がいい、きみが欲しているシナリオに沿って、そんな振りをして
ぼくは道化師になってどうかしたみたいな素振りを連続するんだ


きみに見せてあげよう
きみに見せてあげよう
きみに見せてあげよう
きみに見せてあげよう
きみに見せて
ちょっとやそっとじゃ出来ない満足を充満させてあげよう
それはぼくのパーソナリティとは少しも関係がないから
ぼくは際限無く、愚者で在ることが出来る


ところで旅行してるんだ
短い旅の一夜なんだけど
冷たい雨が降り続くせいで
醜悪な内観を余儀なくされているんだ
醜悪な内観が雨と同じだけ降り継いで
乗り継いだ列車の数が曖昧になって
まどろんだ瞬間に一番酷いひと隅を見つけた
そこにはぼくがいた
そこにはぼくがいて
一番熾烈な記憶に死に継いでいた
ここはぼくが知り尽くした領域ではないから
貪るだけの猥褻動画みたいな感じでずっと受け止めていた
あぁ、時に依っては甘美な感覚に違いないのに
自由にならないってことはとっても辛いことだよ


明るいものを見つけたいけど雨がやみそうもない
明るいものを見つけたいけど雨がやみそうもない
きっと喜ばしい震えなんて
逆行催眠にでもかからなきゃ引きずり出せはしない
窓に顔をあずけて濡れた路面をずっと見ていた
雨は明日にはやむらしい
濡れた路面はぼくに余計な予感を加算するだろう
アラームなんか仕掛けない、ぽっかりと空いた時間ほど



眠りは
素っ気なく終わるものだから













寝床はとうに凍結していた

2007-02-17 02:35:06 | 








寝床はとうに凍結していた、オレは百万回分を一回に濃縮還元したタメイキを吐いて


その日一番オレにイヤな思いをさせたとあるやつのハラワタを


想像上の作業台で麻酔も打たずに引きずり出したのさウヒャハハハ


なんて
みみっちい話したところで気分がハイになるわけでもなく


暖房器具は不器用な女のような局地的な優しさばかりならべてる


そんな夜に、雨戸まで閉じた暗闇のなかでじっと籠っていると


自分の人生が誤植まみれの週刊誌みたいに思えてきて、誰あろうこのオレサマこそが誰よりも憎らしい


別に自戒とか自虐とか自棄とかひけらかしたい気分でもなかった筈なのに


ワイルドローズの香りの効能に深層心理とか関係してたかね、それよりもいつからか凍結したままの寝床、オレを二月の間中眠らせないつもりなのか?


枕に左右のパンチを叩き込んだが、超みっともない感じがしただけだった


愚行がきらびやかなのは思春期だけの特権なのさ、そりゃあもちろん理解しているけど


誰もがそれを捨て去ることが出来るってわけでもねえじゃんか


ああ、冷たい寝床だ、震え上がるくらい冷たくて


心がどこかに逃げ出しそうになっちまう


暖房器具は不器用な女のような局地的な優しさばかりならべて


オレはまだどこかでそいつがなんとかしてくれるんじゃないかと考えてる


眠れなくても夢は終わるぜ
でも、そのあとには


執拗な長いエンドロールがある、だけど


本当はその画面に、なにが書いてあるのか



眼を凝らして、読んでみるべきなのかも、な










いたちごっこでフィジカルに許したりなんかしない

2007-02-16 01:42:16 | 












何を許そうとしている
何を忘れようとしている
答えを出せるくらい
頭を使ってもいないのに
ほんの気分の変化と
ちょっとした太陽の角度の変化で
いったい何を許して忘れようとしている
ちょっと羽ばたけば数マイル先まで飛んで行けるような
そんな都合のいい羽があるなんて本気で思っているのかい
そんな白昼夢を見ている馬鹿が
吐気を堪えながら飛んでいる旅鳥を打ち落とすのさ
何を許そうとしている
何を忘れようとしている
終らせていいものなんかこの世の中にはひとつだってないんだぜ
終らせちゃいけないものたちが執拗にへばりつくだけだ
夢なんて名前をつけるのはもうよして
君だけの実感を言葉にしてみるんだ
それは新しい言語のようなもので構わない
君にしか意味が分からないようなものでも
他人のエンジンになんて名前のオイルが入っているかなんて誰にもわかりゃしない
君は好きなようにそれを呼びつけてやっていいんだ
呼びつけてやった方がそいつは喜ぶから
無遠慮でも
無作法でも
シニカルでも
マジカルでも
時によってはラジカルであったって
それはフィジカルな変化として認識されなきゃいけないよ
グラビアを切って張ったような質感じゃいまひとつだよ
君はフィジカルでなければいけない
ただし切って張ったようなフィジカルである必要は無い
魂の数だけフィジカルの独立は許されている
国境の無いものが本当の国になれる
ボーダーラインの無い地平こそが本当の善悪を知る
君はフィジカルのためにその身を捧げなければいけない
たとえば、この僕だ、僕はこの詩をここまで書いたときには
フィジカルという言葉がだいたいどういう意味なのか考えもしなかった
そこでこの行でいったん書くのを中断して、オンライン辞書でフィジカルという言葉を調べた
(1)物理的なさま。物理学的。
(2)肉体的なさま。身体的。
goo辞書という大変便利なやつがこう教えてくれた
だけどそんなことはまったくどうだっていいことで
僕がここで言いたいことは僕がフィジカルという言葉の意味を調べたというそこの部分なのだ
フィジカルだろうがサブカルだろうがおうちかえるだろうがなんだっていい
何を許そうとしている
何を忘れようとしている
新しい印をつけられないものなんてこの世には無いんだ
そうだよ物理学的に抽象的であったって
本当は誰にもNOと言う権利なんて無い
僕はNOと言う権利が無いんだということのためにこの詩を読む
それには多元的な意図なんて微塵も無いけど
多元的な感触だったらもしかしたらあるかもしれない
これは思いついた言葉を即興的に並べているだけだ、推敲なんてしない
そんなたかだか千や二千の文字なんかのために推敲なんてしない
小さな河は整備する必要なんて無い
だから手を入れられるような事も無い
テクニックで詩なんか読まない
テクニックで即興なんかしない
放り出せる責任を持って無責任に読む
君よ、愛があるなら僕の詩を蹴っ飛ばせ
僕の生身の詩はもしかしたら君の洒落た靴の爪先に歯形を残すかもしれない
あー、文句あっか、詩のことをうたえばそれは詩人なんだよ
それが
誰かから指を差して笑われない限りはだけどね
君よ、愛があるなら僕の詩を指を差して笑ってくれ
そしたら僕はそれを流動的に無視して新しい言葉を探すから
君は新しい指を用意してまたそれを笑うんだ
僕と君との永遠のいたちごっこだ、でも誰もいたちになることなんか無い



少なくとも僕らは少しづつ進化してきたんだから















長い長い死のためにしてやれることなんてあまり無い

2007-02-13 23:52:22 | 









浅はかな空気にどっぷりと浸かって
騙されたようにその気になって
82階の硬質ガラスに阻まれた窓から
12階のテラス・カフェの屋根の透けないところで
汚れた生命を垂れ流す犬のことを双眼鏡でずっと見ていた


その犬は見たところシェトランドシープドッグで
生きていたころには少し肥満気味だったのじゃないかという風に見受けられた
これと言って確信は無いのだが
雨に濡れたビニール袋のように骨格に張り付いた上皮を見ているうちにそう思った
最初に肉眼で見つけたときは捨てられたモップだと思った
このビルの中腹を照らすライト・アップのシステムがひとつイカレていて
なにかに耐え切れず閉じた眼のようにそこだけぽっかりと暗闇だった


おかげで
昨夜には反射で見えなかった部分が見えたのだ


この建物は限られた人間しか入ることが出来ない
そこらをうろついている犬などもってのほかだ
そしてごく一部の例外を除いてペットの持込は禁止されている
そこを許していると大変なことになる―なにしろ、このビルの70階から90階まではホテルルームになっているからだ
犬の位置から察するに
この窓のあるラインから投げ落とされたのかもしれない
だとしたら30階より下―そこより上の窓は開かないようになっているから


俺は小さな書き物机の引き出しを開けて
このビルの総合案内を取り出した
30階から25階まではありとあらゆる種類のレストランが詰め込まれている―チャイニーズが犬を食うというのは本当だろうか?
あいつは中華屋のどこかから投げ捨てられたのか?
昨日の昼間、いくつかの中華屋の前を通ったが
犬を出している店はひとつもなかったような気がする
24階は様々なクリニックが
23、22、21はオフィスルームがひしめき合っていて
様々な言葉で会議がなされている
20階は整備室で、客の出入りは禁止されている
10階までまたオフィス
弁護士から商社まで、金になる仕事がわんさか詰め込まれている
その下はブランド物を大量に扱う店が入っている―おおむね招待制で、ビルの入口でチケットを提示しなければ入ることは出来ない


つまり、金持ちのためのビルと言うわけ


俺は海外からブランド物を沢山買い付けに来た客という割り当てで
このビルの警備システムを余さず調べ上げるために宿泊している
俺がしくじればこの計画はまったくオジャンになってしまう
逆に言えば
俺さえきちんとした仕事をすればほぼ間違いなく
経費の倍はゆうに超える稼ぎが見込める
俺はパンフレットを閉じた
日本製の携帯電話で仲間に電話を入れる、少し調整しなければいけないかもしれない
「判った、引き続きよろしく」とヤツは言った


あの犬は誰にも気づかれないでずっとあそこで死に続けているのだろうか―?
レストランの窓からあれを見つけたものは居ないのだろうか
それともそこからは見えないところなのか
俺はちょっとした細工で割り出した防犯カメラの位置を地図に記しながら
いったいあの犬を捨てたのはじゃあ誰なんだという考えに戻った
ごく一部の例外―このビルのオーナーならペットを持ち込む事が出来るだろう
彼は動物を動物とは思っていなくて―つまり四足に欲情するってことだ
結婚もせずに様々な犬や猫と種別を超えた愛を囁き合っている
と、いう噂だ


もっとも、ほぼそれは事実と言っていい
俺達も始め彼の性癖を利用して潜り込もうかというプランを立てたが
不確実要素が多過ぎたためその案は没にした
つまり
ヤツの好みのタイプを調べ上げることが出来なかった―相当な戒厳令が布かれていることは嫌と言うほど判った
俺はこのビルの死角を見つけ出すために眉を寄せながら
脳味噌の余分なスペースで妙な想像をしていた


ある日、オーナーがこのビルに顔を出すと―飼犬が本能に従って正しい交尾をしていた
盛りの季節ならありえないことじゃ無いだろう
もしも
ヤツがそれを浮気だと捕らえたなら―自分の一番贔屓にしている犬から雄犬を引っぺがし―果たして彼に雄犬を使う趣味はあるだろうか?―自分だけが持っている鍵で窓のロックを外し―


オーナーの部屋は最上階
99階のワンフロアーだ
もしも
この階の真上辺りに窓がひとつあったとしたら―?


俺は地図をたたみ、アタッシュケースにしまって鍵を掛けた
今夜は計画を練るには向いていないらしい
調べていない場所はまだ沢山ある、死角を見つけるにはまだまだ情報が足り無いだろう―時間はたっぷりある
内線でこの時間でも開いているバーをフロントに問い合わせた
30階にふたつあるということだった


「ねえ、このビルのテラスの屋根のところになにかゴミみたいなのが落ちてるぜ?」
人の良さそうな笑顔が顔面に張り付いたバーテンダーにそう切り出してみた
「あ…そうですか」彼の繭がほんの少しピクついたような気がしたのは思い過ごしだろうか?このカウンターの後ろの窓から―テラスを見ることは出来るだろうか
「鳥でも迷い込んだんでしょうかね…」
「この辺りまで鳥が飛んでくることがあるのかい」
「ええ、いえ、滅多には無いですがね…2、3度、あったかな…」
「鳥にしちゃ大きいんじゃないかな―俺の部屋からでもぼんやりと見えるもの―そう、犬くらいはあったぜ」
犬、という言葉に彼は間違いなく反応した、施設整備のものに言っておきましょう、とかもごもごと言った挙句、お代わりはどうですか?と話を逸らした


そうだな、貰おうか

俺は
グラスを差し出した


俺だけが
あいつのために祈ってやれる人間らしい