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鳥の名前

2006-04-29 23:05:38 | 





懐を抜け出した昔が、タンポポの綿毛のように舞う
少し常軌を逸した気候のことだったね
海を見下ろす、人気の無い展望台は
腹を空かせた獣のような太陽に脅されて
しんと息を詰めていた
遥か眼下の海は、いけないことでもしているみたいに少しだけ波の音を聞かせて
ある種の言葉にならない感情のように満ち引きを繰り返していた
遠くで旋回を繰り返す珍しい形の鳥の事を君は知りたがっていたが
あいにく僕にはそれを補えるような蓄積は無かった
おかげで絶え間なく風が吹いて
時折は身体さえぐらりと揺らぐくらいだった
あの時何か一言投げ捨てることが出来たらきっと季節は凪いだのだ
奇跡は嘘と同じようなものだってあの時僕らはまだ受け入れられずに居た
執拗な爪が裂いたような雲がたくさんたくさん太陽を飾って
空はどちらにも回る渦みたいに見えた
沖に浮かんでいた船、砂浜で遊んでいた猫、旋回していた不思議な鳥
みんなみんな気づかないうちに姿を消してしまう
長く伸びていた影が脳天に重なったとき
真実なんてどうとでもなってしまうものなんだと僕らは悟った
それで余計にどうしようもなくなって、隣に誰も居ないみたいに
爪先で短い草を探ってばかり居たんだ
取るに足らない出来事みたいに鼻歌が零れて
坂道に隠れていた雀達が着弾の瞬間のようにぱあっと飛び散った
飛行機役も兼ねるみたいにそいつらが不恰好な編隊を組んでどこかに飛び去ったので
笑おうと思って口を開いたのだけどそれがどういうことだったのか忘れてしまっていた
どうしてあんなに意地を張り続けなければいけなかったのだろう
風にはほんの少しだけ海の哀しみが混じっていた
何かを強引にひっくり返そうとして、おそらくは御伽噺の大団円のように
手に取るべき君を捜したのだけれど
そんな思惑を抱いたときには君はもう数歩向こうへ行ってしまっていたんだ
懐を抜け出した昔が、タンポポの綿毛のように舞う
少し常軌を逸した気候のことだった
あのとき、手に取り損ねたものが
今もあの風の中で鳥の名を尋ねている










凍結のLIFE

2006-04-25 00:00:07 | 歌詞





生温い雨が 夜の街路を まどろみの様に濡らす
酔いつぶれ 彷徨う 死霊のような僕
何処からか跳ねた 鈍い光りが くたびれた目を突っつく
目を覚ませ 無意味な 夜明かしは止めろと

古い映画のような だんまりの街 せめてもの雨も 細々と弱く
沈み絡まる記憶 散らばる日付 拾い上げるほど 昔にもならず

美しい歌になだめられて眠りたいわけじゃない
新しい日々が欲しいなんてまだ思ってもいない
雨がもう少し強くなればいいとか 風がもう少し寒くなればいいとか
伸びすぎた爪を気にするように今はそう思うだけ
暗すぎる夜のさざめきの中少しそう思うだけ


住所録の中 死んだ名前を なぞっては闇に捨てる
眠っては 目覚める 寸断の明け方
朦朧と騒ぐ 乾く鼓動が 網膜に影を残す
狂ってる 疲れて 哀しみもあやふや

何度も顔を洗い 自分を覘く 落ち窪んだ目と こけた頬笑い
誰を憎むでもない 悪意が溜まる 傷を負うほどに 明確でもない

新しい朝に鍵のかかる部屋で沈黙してる
窓を刺す光り眩しすぎて不自然な気さえする
君が居なくなって錆びついた時間が 水音すら跳ね返るこの部屋でただ
真実のようにフロアを満たし僕を閉じ込めるだけ
暗すぎる夜の感触を軋ませて植えつけるだけ


美しい歌になだめられて眠りたいわけじゃない
新しい日々が欲しいなんてまだ思ってもいない
新しい朝に鍵のかかる部屋で沈黙してる
窓を刺す光り眩しすぎて不自然な気さえする
記憶などない 明日などない

美しい歌になだめられて眠りたいわけじゃない








Rain Fall

2006-04-24 22:36:44 | 






どんな結末なら良かった
どんな過ちなら
こんなに胸を痛めずに済んだんだ
春のさなかに至らないほど
冷たい雨が肩で遊んで
苛立つ風が転がした
空き缶の行方をただ眺めてた
窓明りに照らされ
街路で跳ねる雨粒は
どんな術もままならぬ
俺の影を炙るようだ
何も無かったのか
この胸を掻き立てたあの光
確かにあると感じたそれは
水溜まりのように掻き消えてしまうのか
雨に混ざれない
哀しみが心のひだを
撫でるように落ちて行く
くずおれて
決して見つけられなかった
選択を探し出したいのに
どんな結末ならよかった
どんな道化なら
こんな街角で迷わずに済んだのか
甘い映画のように滲む道の向こう
台詞を思い出せず
捨て置かれた役者のように
退き時の分からない
濡れそぼる街路
誰にも認識されない
宝石のように光を弾いている
帰るべき道が見つからない
帰らなくちゃいけない
意味を見つけることが出来ない
本当は止んでいるのかもしれない
俺だけの上に
降りしきるのかも
拭う力もないまま
野良犬のように痩せている
いつかはこの雨の中にも
見たいものがあったはずだった
静寂が神なら
俺は背を向けよう
悟りの気に怯えて
汚れた道を逃げて行こう
どんな結末ならよかった
どんな騒ぎにも
答えられるものは無く
ああ
冷えて行くんだ
凍えて行くんだ
駄目だった
すべて駄目だったよ
雨は
きっと止むことは無いだろう
俺は
夜の中で
亡霊と化して
そして
いつか雨に









眼(メ)

2006-04-19 17:03:13 | 




古い記憶の様にくすんだ空の彼方を
飴色の羽根の蜻蛉が果てしなく越えて行く
忘却の淵で行きつ戻りつする唄が
時折脳髄に痕跡を刻み込む

淑女のしなやかさで運命を決める創造主
点在するものに出来ることなどたかが知れている
賛美歌の隙間に紛れ込む囁きがある
光が強ければいっそう深く陰は凍るもの

天を貫かんと昔猛った巨木の根っこに腰を下ろして
風が爪弾く葉脈の命を辿った
獰猛な太陽は彼らの隙を探して
隠された一角にさえ光りあれと説く

湿度を慈しむ蔓に口づけをしながら俺は生きてきたよ
潜むものたちの優しさは度を過ぎることが無い
誰だって傷みに耐えたことがあるんだ
そしてそれを無駄にしないだけの理性があったのさ
磨かれた床に写るのは偽りの示唆だ
放たれるために編んだはずの拙い矢尻
つがえる間も無く土に汚れた
跪きうなだれた唇から漏れるのは本当の憎悪
飴色の羽根の蜻蛉はあの頃からすべてを見ていた

諭すだの
託すだの
受け継ぐだの
そんなものばかりで地を這ったわけじゃない
濡れたくない雨から逃げるためには
心底からの跳躍を膝が打たなければ

時計の針はどちらにも回る
時間など
誰が定めたものでもない
本物の時を知りたければ
疲労や
顔の皺を数えればいい
恥ずかしいと思ったなら
もう一度
心底から跳べ
心底から跳べ
飴色の羽根の蜻蛉が見ている
飴色の羽根の蜻蛉が見ている
あいつを地上に叩き落してしまえばいい

湿度を慈しむ蔓に口づけをしながら俺は生きてきたよ
そしてそれは


俺にとっての本当の光なんだ








真夜中の肴

2006-04-15 23:29:03 | 




割と愚にもつかない夢を見たんだ、雨が降り止まない青ざめた四月の夜に
俺は小さな器にずっと絵を描こうとしていた、その器は出来たばかりなのに古びていて外側は何箇所か剥げていた
何を描こうとしているのか判らないまま筆を動かしているとやたらと塗り潰されて何を描いたのかすら見止める事が出来なくなって

俺は布を持って染料をすべて拭き取った、もちろんすべてきちんと拭き取れるわけも無く器は犯されたように汚れた
ああ俺はいったいどうしてこんなこと始めちまったんだろう、今夜はぼんやりと本でも開いているつもりだったのに
イライラしたが止めるわけにはいかなかった、仕方がないので今度は上手く描こうと
じっくりと筆を動かして狐を描いたんだ、ところが今度は尻尾が気に入らなくて
また拭き取ったのさ、もちろん前よりいっそう汚れた

仕方がないので塗り潰したんだ、白い染料を使ってまんべんなくきっちりと
そしたら乾くまで待つしかなくってさ、驚いたことに何も手につかないんだ
俺、何やってんだろう、うろたえて筆入れに話しかけた
「そんなことは自分で決めればいいだろう」
そいつこう言ったよ、生意気だね、筆入れの癖に
俺、しょうがないから乾くのを待っていた―そこで、目が覚めてさ

気付くと月が出ていたんだ、それはもう綺麗な下弦だったよ
俺は指先を空に伸ばしてその輪郭をなぞった、すると爪に鮮やかな檸檬色が
ほんの一瞬、重なったんだな
月を描いたんだ、俺

雨上がりの月を
無性に嬉しいなんて言ったら、ねえ、笑われるかね、でもさ


それ、ちょっとしたもんだったんだぜ
妙に



いい気分だった