夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Pure White <その3(最終話)>

2010年12月30日 00時04分40秒 | ハルヒSS:長編

   (その2より)


     <4日目>
 


雪と熊笹の間を縫って、列車は峠を下って行く――目の前に居るハルヒは、ずっと窓の外を見つめたまま……
思えばSOS団結成以来、ハルヒと顔を合わせているのに、こんな長い時間会話が無かった事などあっただろうか。 正に『近くて遠い距離』とは言ったものだ。
 
筋肉痛も相まって昨夜は夕食終了と共にベッドに入って横になった。 しかし眠れる訳ではない。 正直、時間を持て余して居た。 だからと言って谷口や国木田と馬鹿話で盛り上がる気分では無かった。 
そんな俺を察してか2人共、他の部屋へ行き消灯時間まで戻って来なかったのではあったが。
今朝の朝食の味も覚えていない。 窓の外の景色は相変わらずのモノクローム。 まるで閉鎖空間を連想させる。
そう言えば古泉と食堂で会った記憶が在るが、何を言っていたか定かではない。 全くの上の空だった。
こんな鬱屈な気分で修学旅行を過ごしてる奴なんて、全国探しても、そうは居ないだろうよ。


 
本日の行程は小樽で昼食後、班毎に分かれて自由行動だ。  小樽・札幌選択フリーって事で、旅行前に我が班が立てたプランは両方回ると言う欲張りプラン(当然、言いだしっぺはハルヒ)だったのだが、憂鬱な気分で居るのが2名居るので他のメンバーが気を使ってくれたのか、昼食後、小樽運河付近を少し散策した後、17:30までのフリータイムを早々切り上げ、16時前にホテル入りしたのであった。
今日の宿は札幌駅より徒歩5分……と言ってある割にホテルの窓の外に駅が直ぐに見える位に近く、しかもオープン間も無い様に見受けられ、こんな修学旅行で宿泊するには勿体無い気がした。 尤も、この感想を思い浮かべたのは後の事であって、チェックインした時点では、そんな事を考えてる余裕なんて無かったけどな。
 
筋肉痛も少し和らいで、夕食時まで部屋で寛いでいた。 谷口や国木田には色々と気を使わせて申し訳ない。 勿論、朝倉や阪中も折角の修学旅行なのに、もっと観光したかっただろう。
「なあキョン、いい加減涼宮と仲直りしろよ」
「そうだよキョン。 確かに涼宮さんも悪い所があったかも知れないけど……あんなに怒ったキョンを見たのは珍しいし。 でも、このままで良いのかい?」
解ってるさ、このままで良い訳無いだろ。 そもそも、あそこまで怒る理由なんて無かったし。
あの後、さっさと「言い過ぎた、ゴメン」とでも言っておけば、それで済んで、今日のフリータイムも楽しく過ごせただろうに――。
そう考える一方、あの時のハルヒの表情を見て、それ以上、何も言えなかった自分が居たのも事実だ。
 
      「もう無理しなくて良いわ」
 
      「好きにしなさい」
 
ハルヒの口から冷徹に発せられた言葉と共に出ていた、有無も言わさぬ視線……嗚呼、これが『最後通牒』なんだと思うと更に凄みが増していた気がするのだ。
俺も冷静さを欠いていた為に『売り言葉に買い言葉』となってしまったから弁解の余地も無い。 はぁ、一体どうすれば良いのかね。
 


夕食は最上階のレストラン。 百人弱しか入れない会場なので18時より1時間毎・3回に分けてクラス別に食事する事となった。
食事前に行われたクジ引きの結果、2年5組は無難に19時からの食事になった。 クジを引いたのが委員長である朝倉なので、情報操作を行った結果こうなったのか、はたまた単なる偶然なのか。
ついでに朝食の時間帯もクジ引きで決定したのだが、7時より30分間×3回の内、これまた無難な7時半を引き当ててくれた。
これには感謝したいものだ。 7時じゃ早いし、8時じゃ後の身支度が慌しい。
ちなみに9組は何故か古泉がクジ引き。 よりによってゲームに弱い奴に何でクジを引かせるかね? 夕飯は20時・朝食は7時に割り当てられたらしい。

時間になったので最上階に向かう
 
 
   ――食事会場にハルヒの姿は無かった
 

 
何を口にしたか覚えていない様な食事を済ませ、部屋に戻ってテレビを見ながら過ごしていると

   コンコン

「キョン君居る?」 ドアを開ける
「何だ、朝倉か」
「はい、これ」
「何だ、これは」
「あなたの私服よ。 涼宮さん、外に出て行ったわ」 そう言えば俺の私服はハルヒのカバンの中だったっけ
「何処に行ったか解るか?」
「『この街の全てが見える場所』って言ってたわ」 何だって? それは一体、何処なんだ?
「そうか、サンキュ、朝倉。 着替えて行って来るぜ」
「頑張ってね♪」 ドアを閉め着替え始める
「キョン、聞こえたぞ。 これを逃したら仲直りのチャンスは無いと思えよ」
「解ってるよ谷口。 所で国木田、『この街の全てが見える場所』って、何処だ?」
「う~ん、考えとしては2通りあるね。 『全てが見下ろせる場所』と『全てが見渡せる場所』なんだけど……僕は、あそこだと思うよ」
国木田が指差した先は――。
 
着替えを終えた俺は、廊下を出てエレベーターに向かう
「おや、お出掛けですか?」 似非スマイルのエスパー少年か
「まあな。 お前のクラスは今から夕食だろ」
「はい、そうですが……外出ですよね。 ロビーには見張りの先生が居ますが」
「解ってる」 さて、どうしようか。 私服だから一般客に紛れて行けば大丈夫か
「都合良い事に、今の見張りは僕のクラスの副担任です。 用事がある、と会話しますから、その間に貴方は外へ――」
「サンキュ、古泉」
エレベーターを降り、先に古泉がロビーに向かう
「あ、先生。 こちらでしたか。 先程のクジ引きの件なんですがね……」
お、上手いネタ振りだな。 って感心してる場合じゃ無いな。 それでは今のうちに、と。
ホテルの玄関を出た所で古泉に向かって人知れずサムアップ。 さり気なく出したサインを古泉は気付いてくれたのか、顔は先生の方に向けたまま軽く背中からVサイン……今回ほどコイツの『仮面』に感謝した事は無いぜ。 さて急ごう、と言いたい所だが路面は凍結中。 迂闊に走れやしない。
仕方無い、のんびり地道に行きますか。 昼間は小雪舞う天気だったが、今は雪も止み星空も見えて来た。 目的地まで、あと僅か……すると
「お、メールか。 誰だろう?」
携帯を開くと
「長門か」 珍しいな
『件名:無題   本文:わたしの任務は涼宮ハルヒの観測。 よってこの事態に対する干渉は任務外の案件。 しかし、あなたがSOS団からの脱退を宣告された現状は正しいとは認識できない。 涼宮ハルヒは、あなたの行く先に居る。 後は、あなたに任せる』
了解だ長門、心配かけさせてすまなかったな。 あと朝比奈さん(大)、あなたの言っていた『重大な決断』って、これからの事ですね?
 
   さあ、目的地だ!
 
 

「ハルヒっ!」
「え……き、キョン!? どうして此処に?」
そう、此処は札幌駅に隣接するタワーの最上階の展望室。 エレベーターを上がると、展望台から俺達の宿泊先のホテルをハルヒは見下ろしていたのが見えた。
「朝倉に『この街の全てが見える場所』に行ったと聞いて、国木田が『此処じゃない?』って言ってくれて……出来れば自分で何とかしたかったが、相変わらず自分じゃ何も出来ない情け無い奴でね、俺は」
「――によ」
「は?」
「何よ! 何で来たのよ!! あんたの好きにするんじゃ無かったの? あたしの事なんて放っといて、自分の好きにすれば良いじゃない!」
「……ハルヒ」
「どうせ勝手な女よ、あたしは……あんた、ううん、皆の都合なんて考えず引っ張り回して、自分だけ良い思いして何が『SOS団』よ! 盛り上がってるのは、あたしだけじゃない!!」
「それは違うぞハルヒ、古泉だって単なるイエスマンじゃ無いし、朝比奈さんだって受験が終わっても部室に来てくれる、長門だって……」
「キョン、あんたはどうなのよ?」
「え!?」
「『日頃から奴隷の様に』って、あんたは、そう思ってたんでしょ?」
「……ハルヒ」
「確かにそうよね、あんたの意見、無視してばっかで。 実際、振り回してたし、愛想つかされても仕方無いわよね。 でも、面と向かってそう言われて――悲しかった」
「すまん」
「謝らないで!! あたしが悪いのよ、あたしが悪いのに、何でキョンが……去年の映画撮影の時もそう。 結局あの時だって、あんたやみくるちゃんに謝ってない。 今回だって、あんたが筋肉痛って言ってるのに、無理させた挙句に――キョンが怒るのも当然よね」
「いや、俺もあそこまで言う必要は無かったと思ってた。 ごめんな、ハルヒ」
「ごめんね、キョン」

気がつけばハルヒの目からは涙が零れ落ちていた。 誰だよ、ハルヒを泣かせるなんて最低な事をした奴は――って、俺でしたね、はい。
「キョン」
「何だ、ハルヒ」
「……笑わずに聞いてくれる?」
「ああ、何だ?」
「昨日の昼、あんたに怒られてから今まで、ものすごくつまらなかったの、ものすごく退屈だったの、ものすごく――淋しかったの。 だって、こんなにキョンが近くに居るのに、もの凄く遠くに居る気がして。 愛想つかされるって、こんなに辛い事なんだ、って。 中学の頃は別に一人でも淋しく無かった、あたしは強いって思ってた。 でも高校に入って、あんたと出会って、SOS団作って、皆と出会って……それから段々と独りの時間が嫌になって、皆と、ううん、あんたと居る時間がもっと欲しいって思う様になってた。 週末、あんたに勉強教えるってのは一人じゃ退屈で淋しいから、あんたに会う口実が欲しかったのよ」
「……ハルヒ」
「――高校に入って、あんたと出会って、SOS団作って嬉しかった。 ポニーテール褒めてくれて嬉しかった。 夢の中だけど……あんたとキスして嬉しかった。 気がついたら、あんたの事ばっかり考えてた。 あんたと一緒に居たいって考えてた。
これっておかしな事? ううん、これこそ精神病よ! そうよ、そうに決まってるわ」
「ハルヒ!?」
  
  「まさか、このあたしが……ストレートに言うわ。 あたしはあんたが好き!!」

「え!?」
 
  「キョンが好き! キョンの事が大好き!! ずっと一緒に居たい、離れたくない。 もう、こんな淋しい思いはしたくない!」
 
これって告白か? マジか!? 誰が? ハルヒが。 誰を? 俺を――驚天動地だ! あの『涼宮ハルヒ』が、だぞ!!
SOS団団長、校内一の変人、神様・自立進化の可能性・時空の歪み……ええい、肩書きなどどうでも良い! そもそもだ
「俺で良いのか? 何の取り得も無い凡人の」
「そうよ! キョンが好きなの。 キョンじゃなくちゃ駄目なの!」
断る理由があるのか、俺。 いいや、俺はこいつをどう思ってる? 黙っていれば北高でトップクラスの美人、スタイル抜群――いや、見た目は兎も角、性格は……他人を引っ掻き回して突き進む唯我独尊女。 でも以前に比べて大人しくなってきたのは事実だ。 今では少なからず団員の意見を求め、そして突き進む時は一直線! しかし他人に対して、どことなく不器用な奴でもある。 
そうだ、こいつを初めて見た時、今まで色褪せて見えていた景色が一瞬にして輝きを取り戻したんだ。 そして、引っ張り回されながらも、どこか楽しんでた俺が居た。 俺が心の奥で求めていた『非日常』、それを与えてくれたのは他でもない、ハルヒだ。
しかし、だ。 『非日常』は欲しいからハルヒと付き合うのか? それだけなのか? 『非日常』を発生させない涼宮ハルヒは俺にとって不要なのか!? 一人の女の子として見たハルヒは俺にとって何なんだ?
クラスメート・何時も俺の席の後ろの居る・思いつきで俺を引っ張り回して――でも『楽しい』よな、こいつと居ると。
『やれやれ』と言いながら顔がにやけてる俺が居るんだよな……。
 
「……やっぱ駄目、かな。 我が儘ばっか言ってる女より、みくるちゃんみたいに可愛い、有希みたいに大人しい、朝倉みたいに人当たりの良い――」
「ハルヒっ!」
「な、何よキョン」
「黙ってしまってすまんかった。 何せ告白された事が無くてな、気持ちの整理をしてたんだ。 答えは『Yes』だ。 俺はハルヒと居る時が楽しいんだ。 昨日、お前に怒鳴ってしまってから、今まで後悔してた。 寂しかった。 俺もハルヒから離れたくない」
 
俺はハルヒを抱き寄せる、そして――

   現実世界でのファースト・キスをした
  
この街の全てが見える場所で、光り輝く夜景を背景にして……澄んだ夜空に光る星達も、俺達を祝福しているかの様に輝いていた。

 
 
      <5日目>   (エピローグ)
 
  
「……なあ、古泉」
「何でしょう?」
「『スイートルーム』は、やり過ぎじゃ無かったのか?」
「そうでしょうか。 お二人の門出に相応しいかと~」
――これ以上聞けるか! お前の独演会など。 ああ忌々しい。
昨夜こいつの『仮面』に感謝なんて考えてたが撤回だ。 このニヤケスマイルをボコボコにしてやりたいぜ、今は。
 
昨夜あのキスの後、タイミングを見計らったかの様に古泉からメールがあった。
『閉鎖空間は消滅しました。 過去最大級だったとの報告で、仲間に加わる事の出来なかった自分がもどかしかったのですが……
そんな事より、もう消灯時間です。 今更こちらに戻るのもリスクがあると思いますので、そのタワーのホテルにお部屋をご用意致しました。 代金は「我々からのプレゼント」と言う事ですから、お気遣い無く。 では』
確かにこの時間から(いくら近いとは言え)ホテルに戻るのも、と思い古泉のお言葉とやらに甘える事にした。 メールの前半の内容は内緒にして、後はハルヒに話し、フロントに向かう。
「……やりやがったな、古泉め」 
ルームキーを受け取り向かった部屋は

       『スイートルーム』

「すっごーい! さすが古泉君ね。 持つべき物は頼れる副団長よ!!」
ハルヒよ、いい加減古泉の人脈に疑いを掛けても良いと思うが……チェックインしたので、今更戻る訳にも行くまい。 泊まったさ、仕方が無いからな。
そもそも、ハルヒの100万Wの笑顔にやられりゃ、後戻りも出来ないしな、やれやれ。
  
   その夜の事は、これ以上はノーコメントだ! 禁則事項だ!! 黙秘権を行使する!!!
  
そして起床時間に間に合う様に宿に戻り、谷口や国木田の冷やかしを受けつつ、この2人に礼を言い、朝食会場に向かう為エレベーターに向かった際、古泉に会い…冒頭の会話となった訳だ。
朝食会場に着く

「おっそいわよキョン!」 すっかり元気だな、ハルヒ。
「おはよう、キョン君♪」
「おっす朝倉、心配掛けたな。 あ、阪中も悪かったな。 色々と気を使わせて」
「ううん、私達の事は気にしなくて良いのね。 昨日、回れなかった所は又、来れば良いのね」 そうそう来れる場所では無いと思うがな、阪中よ。
気分が晴れたせいか、宿の食事も美味く感じた。 今日の天気も晴れ。 更に気分が良い。
 
食事を終えて身支度し、ホテルの前に停まっているバスに乗り込む
「おはよう長門。 昨日はメール、ありがとな」
「……あなたと涼宮ハルヒの関係が修復出来た事を、わたしは喜ばしい事と感じている。 あと――」
「何だ?」
「……おめでとう」
「サンキュ、長門」
バスの車内、俺の隣の席はハルヒだ。 当然だろ、俺の彼女だからな。
しかし未だ付き合ってる事を公表していない筈なのに、周囲の視線が生暖かいのは、気のせいだろうか。

「なあ、キョン」 どうした谷口?
「朝帰り、皆にバレてるよ?」 マジか国木田!?
「あら、バレて無いと思ってたの?」 朝倉まで……誰かに見つかったのか!?
「噂が広まるのは早いのね」 一体何処まで広まってるんだ、阪中!
「あら、別に良いじゃない」 いや、良くは無いぞハルヒ、先生方にバレたら困るだろ。
 
――実際に『朝帰り』が先生方にバレて、初日の『脱走』も含めて俺・ハルヒ・古泉・長門、そして、初日の『脱走』を手引きした朝倉まで後日、反省文を書かされる事になったのは……この時はまだ知る由も無かった。 空間制御したんじゃ無かったのか朝倉・長門よ。


 
何時の間にかバスは動き出していた。 午前中は道庁と時計台・大通公園を車窓見学し、羊が丘展望台を散策。 天気も良く無風なので外に出ても文句は無い。 以前にも言ったが、防寒対策はバッチリだからな。
本日の昼食はサッポロビール園でのジンギスカン食べ放題。 広いビアホールの中で……流石にビールは飲めないが、ラム肉は癖がなく美味かった。 またしてもハルヒと長門の大食いバトルは――周囲の連中も見慣れて来たか。 やっぱハルヒは、これ位元気があってこそ、だよな。

波乱に満ちた修学旅行もあと半日。 と言うか、あとは帰路に着くのみとなった。 正直物足りない気分だ。 そりゃあ『ぬけがら』になってた時間が一日半もあれば仕方無いが、な。
新千歳空港でお土産購入タイム。 朝比奈さんへのお土産を忘れてはなるまい。 本来なら朝比奈さん(大)にもお土産を渡したい所ではあるが、無理だろうな。 自分からお礼も言えないし。

「もう帰るのよね」
「そうだな」
「もっと楽しみたかったよね」
「仕方無いさ、時間は限られてるんだ。 良い事も悪い事もひっくるめて、印象に残る修学旅行だったとは思うがな」
「そうよね、後悔しても仕方無いもんね。 あ、そろそろ集合時間よ、行きましょ!」
「おい、引っ張るな。 そして走るなって!」
 
――ハルヒは先へと突っ走り、俺は後から引っ張られて行く。 この関係は永遠に変わらないものなのかね? やれやれ…
 
 
 
      <Pure White>   ~Fin~
 
 


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