夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Pure White <その2>

2010年12月29日 23時50分45秒 | ハルヒSS:長編
   
   (その1より)


    <2日目>

運が良かったのか、はたまた空間制御のお陰か、昨夜は教師に見つからず部屋まで戻る事が出来た。
結局戻って来たのが就寝時間を大幅にオーバーした23時過ぎだったので谷口や国木田など、同じ部屋の連中にあれやこれやと問い詰められたのだが……一体俺の口から何を聞きたいのか、サッパリ解らん。 所謂、修学旅行の夜の定番って奴には俺は参加せず、先に夢の中へ。
 
気が付けば朝6時半。 起床時間だ。 谷口らは先に起き朝風呂に行ったと、残った国木田が言っていた。 広間で朝食を取り、バスに乗り込み函館駅へ。 今日は一路、ニセコへ向かい、今日の午後と明日の一日中、スキー合宿を行う訳だ。
だったらバスで直接ニセコへ向かえば……と思うが、冬季の山間部は凍結していて危険、列車の方が速い。 と言う訳で函館からニセコまで貸切列車で移動となった。 
まあ修学旅行の移動だ、大した列車じゃないだろう――その考えは駅のホームに着いた時、根本から改めなければならなかった。
「乗換えが面倒だ」とか「そのままバスで行けば」だの言ってた我がクラスの連中も、多分同じ考えだったのだろう。

    1号車(定員47)   1組+2組(2班)
    2号車(定員60)   2組(3班)+3組
    3号車(定員36)   4組
    4号車(定員42)   5組
    5号車(定員36)   6組
    6号車(定員60)   7組+8組(3班)
    7号車(定員47)   8組(2班)+9組

1・2・6・7号車は白い車体のハイデッカータイプ。 と言うのだろうか、『ノースレインボーエクスプレス』と言う車両らしい。 北海道の景色を眺めるには良さそうだな、見た感じ。 そして3・4・5号車は、赤い車体の

    『お座敷列車』   だった。 マジか!?

「ちょっとキョン、何この列車。 面白いじゃない!」 おい、はしゃぐなハルヒ……ってクラス全員似た様な反応だな。
「おやおや、羨ましいですね。 これも涼宮さんの力でしょうか」 ハルヒの力は関係ないだろ古泉。 単なるJR北海道の都合だろ、これは。
「……和式。 興味深い、ユニーク」 そうか、良かったな長門。
車内に入る。 2列+1列の座敷配置で4人用テーブルと2人用テーブルが通路を挟んで配置される。
俺達の班は4人用テーブルに谷口・国木田・朝倉・阪中と座ったので――
「キョン、あんたと向かい合わせで座るのは珍しいわね」
「ああ、不思議探索の時の喫茶店位、か」 俺とハルヒは2人用テーブルの座敷に座る事になった。

エンジン音が一段高くなり列車は動き出した。 小雪がちらつく中、雪煙を巻き上げて快調に走って行く。
早速、車内でカラオケ大会が始まる。 阪中・佐伯・大野木・成崎の4人がトップバッター。 確かコーラス部なんだっけ、流石と言うべきか、歌が上手いな。
続いてはグリークラブ所属の榊。 正直いけ好かないが、コイツも上手い。 そりゃモテる訳だ。
更に西嶋・瀬能・剣持の手芸部3人娘+朝倉。 朝倉の歌声は初めて聞くが、中々良いな。
そして朝倉と阪中に押されてハルヒの出番……特に語る必要があるか?
相変わらずだよ、文化祭のステージを思い出させるぜ。 この歌声に聞き惚れない奴が居るのか?
オチは谷口。 全く、自分の世界に入り込んで……クラス全員引いてるぞ。 中の人の歌は嫌いじゃ無いがな、個人的に。
――なんて事を思いながら、車窓右手に広がる噴火湾を、歌い終えて席に戻って来たハルヒと共に見ていた。

長万部から山間部に入り、車窓に見える雪の量も次第に増えて来た。 確かにバスでは危険かな、と想像しているとニセコ駅に到着。 駅からホテルまではバス移動。 荷物を部屋に置き昼食を取った後、スキー合宿へと突入した。
 


ニセコスキー場はアンヌプリ・ビレッジ・グランヒラフと3つのエリアが存在し、今回はその内のニセコビレッジをベースにスキー合宿が行われる。
宿もスキー板を履いたまま行く事が出来る立地で申し分ない。 ウェアや板等、スキー道具一式も此処のレンタルで……って

「おい、ハルヒよ」
「何よキョン」
「お前の履いている板は何だ?」
「見て解らないの? スノーボードよ!」
そんな事は解ってる、全く何を勝手にボードを借りてるんだ。 まあ何を言った所で、コイツは聞かないだろうから、この件に関してはこれ以上言うまい。 んで
「スノボ、やった事あるのか?」
「無いわ!」 即答かよ!
「両足の自由が利かないから難しいだろ」
「こんなの荷重移動で何とかなるわよ。 サーフィンと一緒よ!」
「そのサーフィンは、やった事あるのか?」
「無いわ!」 やれやれ、大丈夫なのか? こんなので。
「何事もチャレンジよ! 向上心の無い者はSOS団団員失格よ!!」 俺は即、失格だな。 まあ、今更クビになっても……困るのか、俺?
まあハルヒの事だからあっさりマスターして、少し滑るだけでプロ真っ青なテクニックでゲレンデを駆け巡るだろうよ。 
全く天は二物どころか、どれだけハルヒに与えれば気が済むのかね。 ああ忌々しい。
「んで朝倉よ」
「何、キョン君どうしたの?」
「ストック忘れたのか? あと、妙に短い板だが……折れたのか?」
「ボケてるの? これはショートスキー、元々短い板なの。 普通の板と比べて直進安定性は劣るけど、ターンがしやすいのよね」
「ふーん、そうか――あ、ハルヒめ。 勝手にゴンドラ乗って! 少しは初心者コースで足慣らししろよな。 古泉、ハルヒを止めろよ!」
「おや、僕は基本的に涼宮さんのやる事に反対しませんよ。 止めるのは貴方の役目ですから」
やれやれ仕方無い、俺達も後を追う事にしますか。 長門、本は置いていけ。 雪で濡れるぞ。
「……大丈夫、防水コーt「止めなさい」」
 
所で勝手に滑って先生方に怒られないか? とお思いの方。 今回の合宿は『経験者はフリー』って事で、俺達SOS団団員は自由に滑っている訳である。 去年の冬山でもハルヒに付き合わされて上級者コースに行った位だしな。
――今回は余計なトラブルは要らんぞ。 普通にスキーを堪能させてくれ。   
小雪がちらつく中、山頂にたどり着く。
「さあ行くわよ。 皆、あたしに付いて来なさい!」
おいおいハルヒよ、ボード初体験なのに先陣切って行く気かよ。 全く世話が焼けるな。
「んで朝倉、お前スキーやった事あるのか?」
「わたし? カナダで「実際に行った訳じゃ無いだろ?」」 
どうせ、こいつも長門と同じで宇宙的パワーを使ってるんだろうな。
 
 

「疲れたー!」
あれからハルヒに付き合わされる事4時間。 山頂から麓まで何往復した事やら……カウントする気力も失せてしまったよ。 全くもって、やれやれだ。
「そんな事言いながらも、顔は楽しそうだったぜ」 何言ってるんだ谷口。
「だったら僕達と一緒に初心者レッスン受ければ良かったかい?」 それは御免だ国木田。 今更かったるい講習はまっぴらだ。
 
ホテルは洋室で、3人1部屋。 丁度班毎に分かれている。 当然ながら男女のフロアは別だがな。
入浴を済ませ、バイキング方式の夕食――ハルヒと長門の食欲に一同唖然としていたのは印象的だったな……を終えて、自分達の部屋に戻り寛いでいると

   コンコン   ノックの音

「ヤッホー、キョン。 遊びに来たわよ!」 は、ハルヒ!? どうして此処に?
「部屋に居ても暇だから、遊びに来たのね」 阪中もか
「先生方には『4日目のフリータイムの打ち合わせ』って言ったら、あっさり許可してくれたわよ♪」 朝倉まで……谷口、顔のしまりが無いぞ。 国木田は普通、か。
「女子の部屋に男子を呼ぶのは許してくれなさそうだから、こうして来たのよ!」
「んで、何をやるんだ。 本当に打ち合わせするのか?」
「バカね、決まってるじゃない!」
……此処で『王様ゲーム』とか言い出したら即、却下の上、部屋から追い出す所だったが、無難にカードゲームを取り出して始めたので一安心。 それなりに盛り上がり、あっと言う間に消灯時間が来てしまった。 少し名残惜しいが、仕方あるまい。
「おやすみ、キョン」
「ああ、おやすみハルヒ。 また明日な」
ドアの前で3人を見送りベッドに横たわると、スキーの疲れからか、何時の間にか夢の中へ――。
 


 
     <3日目>
  
「痛って~っ!」  
起床時間よりかなり早く目覚める。 昨日のスキーのせいで全身筋肉痛だ。 『翌日に筋肉痛が来るのは若い証拠』とか言ってられん。 何せ、今日は丸一日スキー三昧。 体を休ませる暇も無い。
すると 『ドンドンドン!』と、 起床時間と同時にドアを叩く音
「全く誰だよ、朝っぱらから」 谷口がドアノブを捻ると
「おっはよー! キョン、起きてる?」 ハルヒか。 朝早いのに元気だな。
「おーいキョン、カミさn……ぐほっ!」 アッパーが決まったな。 
谷口、不用意な発言は控えておけ。 昔より大人しくなったとは言え、コイツは『涼宮ハルヒ』だぞ。 5年間も同じクラスなのに忘れたのか? って伸びてるな。 もしもーし。
「どうしようか、キョン」 どうしような国木田、この物体を。
「こんなの外に放っておけば良いのよ」 おいハルヒよ、外は氷点下2桁の世界だぞ。 しれっと言うな。
筋肉痛の全身に鞭打って朝食会場に向かう。 朝っぱらからハルヒvs長門の大食いバトルが繰り広げられて……見てるだけでこちらの胃袋は一杯だ。 うえっぷ。

そして今日もハルヒ主導の下、やって来ました頂上へ。 
天気が良ければ雄大な北の大地が眼前に広がるのが見える筈なのに、本日の天気は曇り。 昨日みたく雪が降っていないだけマシか。
「さあ、今日も行くわよ! キョン、辛気臭い顔してないで、付いて来なさい!!」 
やれやれ、こっちの苦労も知らんと全く。 水戸のご老公の一行……じゃなかった、SOS団マイナス朝比奈さんプラス朝倉の5人は今日も行く――。



「なあハルヒ、筋肉痛でもう限界だ。 午後から少し休ませてくれ」 
全員が集まったホテルの昼食会場で俺はハルヒにこう告げた
「はぁ? 何を生ぬるい事言ってんの。 午後もバリバリ行くわよ!」
「しかし、午前中の俺の滑り見ただろ? 付いて行くのがやっとだ」 昨日はスムーズに滑り降りたコースで、何度転倒したか解らない位だ。
「筋肉痛は普段のあんたの運動不足が原因でしょ。 全く、だらしないったらありゃしない」

――何故ここまで言われなきゃならんのだ? 段々腹が立って来た。 
今までハルヒの行動や言動に不満を感じた事が無い訳では無いが、愚痴を言いつつ一緒に行動して来た。
さすがに堪忍袋の緒が切れたのは去年の文化祭の映画製作時の朝比奈さんの件、位な物だろうか。 基本的に俺は気が短い訳では無いと自分では思って居たが……
     
   「うるせーっ!」
 
時が止まった。 波を打った様に静まり返る食堂。 気が付けば俺は怒鳴っていた
「大体日頃から引っ張り回しやがって! 俺はおまえの奴隷か?」
――違うだろ、俺。 好きで付いて行ってるだろ、ハルヒに
「いい加減、成長したらどうだ? 全く、周囲の気も知らんと自分勝手に!」
――ハルヒは成長してるだろ。 むしろ成長してないのは俺だろ? 何時も他人任せで……
「兎に角午後は少し休ませてくれ。 正直、身が持たん! 解ったな?」
 
  次の瞬間、ハルヒの口から発せられた言葉は、SOS団結成以前の冷たさを放っていた
   
「解ったわ、キョン。 あんたの本心……もう無理しなくて良いわ。 午後から、いいえ、今後SOS団の活動に参加しなくて良いから、好きにしなさい」
 
 
 
――誰も居ない食堂。 俺は独り残って一体、何をやっているんだろう。 午後1時を過ぎ、皆ゲレンデへ三々五々散って行った。
 
「こんにちは、隣あいてるかしら?」
「……どうぞ」

こんな広い食堂で俺しか居ないのに、何故、相席なんだ? そもそもこのホテルはこの3日間、北高の貸切の筈なのに……誰だ?
横を向けば、ピンクのスキーウェア・サングラスを掛け・長い栗色の髪・そして特盛って
「あ、朝比奈さん(大)!?」
「久し振り、キョン君。 そして『やっちゃった』?」
「はい……やっちゃいました」 そりゃ未来人だ。 今、何が起こったかはお見通しって訳だ
「なつかしいわね、ここ。 って、現在のわたしは去年、来たんだっけ」
「何の用ですか? すみませんが、ノスタルジーに付き合う気分じゃありませんので」
「ごめんねキョン君。 正直、わたしが此処に居るのは大した用じゃ無いの。 只、知らせておきたい事があって来たのよ」
「何ですか」
「近日中、重大な決断を迫られるって事」
「そうですか。 ちなみに具体的には「禁則事項です」」  ですよねー
「でもね、この決断をするに当たってはキョン君、自分のありのままの素直な気持ちで決めて下さい。 確かに未来的に重要な事ですが、それは気にしないで、自分の考えで決断して下さい」
「解りました。 その前に少し頭を冷やして色々考えたいと思います」
「頑張って下さいね」
「ありがとうございます朝比奈さん(大)。 何となくですが、少し気楽になった気がします」
「さ~て、もう少しスキーを楽しんでから帰ろうかなぁ」
「え、朝比奈さん(大)、スキー滑れる様になったんですか!?」 去年の冬山では散々だったのに
「はい、少しですが。 こう見えて努力してるんですよ、色々と」
――そうか、俺も少しは見習わないとな
「それじゃあ一緒に滑りませんか?」
「無理でしょキョン君。 だって筋肉痛でしょ」 そうだった、しかも、これが原因で……
「代わりに、この時代のわたしにスキーを教えてあげて下さい。 じゃあね♪」
 
行ってしまった。 また俺は一人取り残された。 しばらくしてやって来たのは
「どうも、筋肉痛の具合は如何ですか。 あ、コーヒーなんかどうです?」 ニヤケスマイルのイケメンエスパーか
「芳しくは無いな。 肉体的にも、精神的にも」
「精神的と、おっしゃいますと?」
「皆まで言わすな。 昼のやり取り見てて解っているだろ?」
「失礼しました。 ちなみに久し振りに閉鎖空間が発生したそうです」
「バイトか?」
「いえ、他の仲間が動いてくれてます。 僕は修学旅行中ですし、現地で直接ケアしてくれと……」
「そうか、色々と悪いな」
「謝る相手が違うと思いますが」
「すまん。 午後から暇になったお陰で色々考えててな」
「それで今後、どうするんですか?」
「団活か? 解らん。 クビになってしまったからな。 俺の考えも纏まらないから、もう少し考えるとするよ」
「……そうですか」
「ハルヒを頼んだぞ」
「僕には無理ですね」
コーヒーを飲み干して古泉は再びゲレンデへと去って行った
 
 

   (その3へ続く)



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