考える葦のブログ

さわやかに さりげなく

保険金不払い問題について考えてみる

2007-05-07 23:09:50 | 社会的責任

読売新聞のサイトを見ると、「生命保険会社38社による保険金の不払い件数100万件を超えそうだ」という記事がありました。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20070507mh09.htm
4月13日の生保各社の「横並び」の公表では、約25万件・約284億円、
その後、金融庁のヒアリングで44万件・約359億円に膨らんでいたそうですけど・・・
どこまで数は増えるのか?

そんな状況ですけど、マスコミの報道はすっかりおとなしくなっていますよね。
内容が難しいからか?
それともスポンサーへの配慮か?
企業としての根幹をゆるがせる問題なんですけど、食や住宅、乗り物などに比べると切り口が甘いという気がしています。

ちなみに、先ほどgoogleニュースで「保険金 不払い」で検索すると363件。
http://news.google.co.jp/news?hl=ja&ned=jp&ie=UTF-8&q=%E4%BF%9D%E9%99%BA%E9%87%91%E3%80%80%E4%B8%8D%E6%89%95%E3%81%84
この数字が多いのか、少ないのか。
ちなみに「高校野球 特待」で検索すると860件、「ジェットコースター 脱線」だと190件。
こうして見ると、報道はそれなりにしているんですね。

それらの記事を読むと、「加入者への説明不足」であるとか、「顧客軽視」であるとか、「契約が分かりにくい」とか・・・
ハッキリいえば、保険と言う商品、つまり「万が一の時に役に立つ契約」(契約が機能するときに契約者が正常な判断が出来るとは限らない、さらにいえば契約者が存在するかも分からない)という商品特性を考えれば、加入者が理解していなくても、契約が分かりにくくても、正しく支払うのは契約した会社の当然の義務であるわけです。
つまり企業としての本質的な問題なんですよね・・・

個人的にはコメントし難い問題ではありますが(苦笑)、、、
先日、愛読している村上龍さんのメールマガジン『JMM(ジャパン・メール・メディア)』の「金融経済の専門家たちに聞く」という連載で、「保険金不払い問題をどう考えるか」という村上編集長の質問に専門家のみなさんが答えられているのを読みながら、自分なりに考えていました。
せっかくなので、そのときにボクなりにその問題を考えてみたことを、今日は紹介させてもらいます。

まず断っておきますが、「保険金の不払い」と一言で言っても、生保と損保では切り口が異なると思いますが、今回は生保を意識しています。
また、最初に不払いが問題となった明治安田生命の一件とその後の業界としての問題も、あえて言わせてもらえば、前者は「犯罪」的であり、後者は「過失」的であるという点で全く切り口は異なります。ここでは、基本的には後者、業界としての問題として考えたつもりですので、お含み置きください。

また、JMMでも普段は何人かの生命保険会社関連の方が、専門家の一人としてコメントされているんですけど、先日の問題では何もコメントがなかったんですよね。
外からも、中からもなかなかこの問題を振り返る機会がない・・・
残念ながら、これも業界の苦境の一因であることは間違いないでしょう。

と言うことで、ここまでが導入部分です(笑)。
まだまだ長くなりますけど、よろしければ読んで、コメントください。

みなさん、ハローです。ホディです。

「保険金不払い」の問題を私たちはどのように考えればよいのか?

一言で言えば『「保険金の支払い」は保険会社の使命であり、その使命を果たせなかったは企業としての存在意義を失わせるほどの致命的な失策である。』と考えるべきです。保険商品の難解さ、営業職員の説明不足、査定担当者のミス、契約者の知識不足など、細かく原因を挙げていけばキリがありませんが、結果として、会社としての最大の使命が果たせなかった、このことは複雑に考えるよりもシンプルに捉えるほうが良いと思います。

身も蓋もない書き方になりましたね。
少し背景を説明させてもらいますと、「保険金不払い」には生保を取り巻く、大きく言って4つの環境の変化があります。

○競争の激化
ご承知の通り、外資系企業の本格参入や生損保の相互乗り入れなどで、バブルの崩壊以降、保険の販売競争は一層激しくなりました。その結果、形のない保険商品の特殊性からか、単純な価格競争とはならず、保険商品の複雑化が起きました。(特約や支払い要件にいたっては、きっと社内の職員ですら正確に理解できていないのではないでしょうか。)

○保険会社の多角化
そうした競争の激化の反面、日本版金融ビックバンと当時呼ばれたように金融機関の経営の自由化が進みました。生保においても、損保への乗り入れのみならず、投資信託など他分野にまで多くの会社が経営の幅を広げました。その結果、多方面に主力人材の配置を行わざるを得なくなり、人材(戦力)の希薄化が進むこととなりました。

○雇用環境の悪化
多くの生保会社はセールスレディと呼ばれる女性営業職員に支えられていることは、よくご存知のことと思います。従来より女性が活躍できる職場として先陣を切っていたはずでしたが、皮肉にも男女雇用機会均等法などの効果で他業界でも女性の人材登用が進んだことの影響などもあり、生保の営業職員への就職人気に翳りが見えはじめます。もちろんGNP(義理・人情・プレゼント)営業や知友人募集、ターンオーバーの激しさなどからイメージが悪化してきた影響も大きいと思われますが。

○モラルリスクへの警鐘
和歌山毒物混入カレー事件は、まだ多くの人の記憶にあると思います。その事件の影に、保険金搾取があったことも記憶されているでしょうか?
その頃は、カレー事件以外にも保険金目当ての殺人事件なども大きな話題を集めており、「保険金を騙し取る」社会現象が問題視されていました。
そこで当局もマスコミ(社会)も、保険金に対するモラルリスクを厳しくチェックするよう保険会社に求めました。その結果、保険加入時の審査のみならず、支払い時の審査が正当化されたと考えたはずです。

このような環境変化が護送船団方式で守られてきた生保業界に津波のように押し寄せてくる中で、業務運営は新規契約の確保(古い契約の転換・下取りも含む)に偏り、多くの顧客を抱えるものの新しい顧客を増やすことは困難となってきたベテラン営業職員は少しずつ去り、担当者を失った顧客を奪い合うという業界内での契約の乗り換えがますます盛んになる、それが生保の業務運営をさらに新規契約の確保に向かわせるといった悪循環が始まりました。
また、「金融危機」と言われるように保険会社というより金融機関全体が経営不安に直面していたことが時代背景にあったこともここで触れておきます。

そのように業務運営が新規契約に向かっている間に、顧客・営業職員・従業員が会社から離れていっていることに気がつくことが遅れ、気がついたときには顧客とのつながりを失い、過去の保険契約の知識や対応の経験を失ってしまった後でした。ご承知のとおり生命保険契約は契約期間が数十年にも及ぶ長期の契約です。その長期の契約のフォローが新規契約という短期の業績を求めすぎたために、疎かになってしまうという事態を招くことになったわけです。
気がついたら、保険会社としての『使命』を全うできなくなってしまっていた・・・

ここではこれ以上説明することはしませんが、
最後にこの問題をここまで大きくしてしまった原因について、通常の報道などではあまり触れられていない二点を挙げさせていただきたいと思います。

1.「相互会社」という会社のあり方
株式会社でも同様の問題が発生していますので、「相互会社だから」という言い方は適切ではないかも知れませんが、生保業界のみに許される特殊な会社形態であり、しかも相互会社の占める割合が大きいため、あえて触れさせていただきたいと思います。
相互会社についての詳細な説明は割愛させていただきますが、大雑把に言いますと、一部の契約者が通常は会社から指名され、契約者の承認を経て総代(株式会社でいえば株主に相当)に就任し、その合議体である総代会(株式会社でいえば株主総会に相当)において、経営のチェックが行われると言う仕組みです。
その経営のチェック、つまり総代会が機能していなかった、と言えるでしょう。
なぜ総代会が機能しなかったのか?
株式会社に比べて経営の透明化が図られ難い相互会社という会社形態が保険会社に適しているのか?
このあたりの議論も避けられないと思います。

2.マスコミの報道姿勢
大スポンサー(大株主)への配慮からか?あるいは難解な保険会社・保険商品を追求するだけの知識に欠けるのか?
公務員の不正、建物・製造物の安全性、食品の安全性など、同様に会社としての使命を果たせなかった企業(経営者・個人)への追求に比べ、矛先が鈍いと感じているのは私だけでしょうか?
保険会社という社会的責任を考慮すれば、経営の透明化を後押しするのはマスコミの力に頼らざるを得ないのが現状です。しかしながら、今回の「保険金不払い」という不祥事には他の不祥事でよく見聞きする被害者や社内などの「当事者の声」が全く聞こえてきません。
今回の不払い問題が表面化する前には、当然、多くの苦情があったわけですから、本来であればこのような小さな声を拾って公で追求する、あるいは表面化した後でも不払いがどんな悲劇を招いたのか?追求する、数万件・数億円と言う数字だけではなく、現実を報道することが次の悲劇を防ぐ手助けとなり、保険会社の経営を透明化することにもつながります。
このあたりの報道姿勢についても、検証が必要かも知れません。

保険は、死や病など万が一の場合に必要となる特殊な商品です。つまり契約者が正しい請求が出来る状態であることはそもそも想定されていないと考えて良いと思います。
そんな商品を販売する以上は、請求する側(契約者側)が正しい請求をすることに頼るのではなく、保険会社が常に正しい支払いをする体制を構築することが当然の義務だと私は考えています。

長々と書きましたけど、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
本当ならば、「社会保険」のひとつとしてのあり方、保険金の適正化などについても自分なりの考えを書きたかったんですけど・・・
機会があれば今度書きますね。


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3 コメント

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真実 (fall)
2007-05-07 23:45:33
マスコミは「生保」と言う大口スポンサーに尻込みしていると言われてもしかたありませんね。報道番組の多くに生保がスポンサーになっていることも、したたかな報道封じなのでしょう。
民放は営利企業だからと言い訳するかもしれませんが、これではモラル欠如、拝金主義と揶揄されても仕方がないでしょう。

マスコミは「勧善懲悪」をイメージしがちなですが、一歩誤れば「権力に巣食う巨悪」になり得ることを我々は強く意識すべきでしょう。
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Unknown (non)
2007-05-08 20:48:32
お久しぶりです。
本件、最早生保・損保共通の話題と言っていいですよね。もともとは生保での発覚がきっかけでしたが、損保で大きく育てて、生保に戻ってきた、といったところでしょうか。
この手の問題については、業界人だからこそ、生保・損保別に見なければいけない点と、業界人だからこそ同一軸に見ないといけない点と、両者あると思うんですが、今回は後者のほうが強いんでしょうね。私も損保のことについてはいくつか書いてきているんですが、hoddyさんの書いていることとだいぶかぶってます。(笑) 
とはいうものの、生保と損保では業界規模もメディアへの貢献?もケタが違いますから、一緒にするなといわれちゃいそうですけどネ。
私もこの件については、いいたいことが沢山あるんですが、すでにコメントしての領域を超えた長文になりつつあるところなので(苦笑)、一点だけ。詳しくはまたオフ会でね。
報道については、ご指摘の通りスポンサーの問題が多分にあると思いますが、あと政治がかなり効いている部分もあります。4月の日経の金融欄を流して見てみると、生保、損保でそれぞれかなり駆け引きがあったことがうかがい知れますし、その顕著なものが、4/11の記事数本と損保の直近の問題発表(自動車保険)がGWに入る直前の金曜日の午後だった点あたりにうかがうことができると思います。
あとは、私も去年の9月に痛感したことなんだけど、保険のネタは記事としてウケないので、扱いが単発で長続きしない….
返信する
ありがとうございます (hoddy)
2007-05-09 00:39:58
fallさん、コメントありがとうございます。

保険会社のように分かりにくい企業への監視の目は、やはりマスコミに担ってもらうしかない・・・これが現実だと思っているので、こういうときこそ、マスコミがんばって欲しい。
特に相互会社は外部のチェック機能が脆弱ですから。。。

マスコミに意図的な報道の歪曲があるのだとしたら、保険会社の保険金不払いと問題の本質は同じになりますね(苦笑)。



nonさん、コメントありがとうございます。

期待通り(すみません)反応いただき、ありがとうございます。“保険のネタは記事としてウケない”中、嬉しく思います。

損保と生保、確かに今回の不払いの背景は似ていますよね。どちらも本当に改善されるには時間がかかるような気がします。
そして、ご指摘の政治・・・
確かにおっしゃるとおりですね。金融関係の不祥事は必ず金曜日の発表。。。そして、見事なまでの分割発表。
こういう業界がまだまだ許されているんですよね~

ところで、政治と言えば、社会保険庁の改革、あるいは民営化・・・
「官は悪で民は善、民営化すればそれが改革」という神話が少なくとも保険業界では真ではないことが明らかにされつつあります。
これからどのような政治の駆け引きがあるのか分かりませんけど、本格的な議論は参院選挙後でしょうか?
この問題も、いろいろな意味で注目されると思っています。

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