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人の旅を笑うな ~ベトナムの水辺の村へ~

ちょっとだけ垣間見た川と湖のほとりの暮らし

38 大通りのゆでとうもろこしとじゃがいも、そしてくたくたになって

2017-03-11 07:10:00 | フォンディエンの町と村 お話
ベトナム南部、フォンディエン。旅5日目の午後。

次の宿に向かってトランクを引きずりながら歩く。荷物が鬱陶しいがまだ日は高い。バイクに乗って一気に移動するのもばかばかしい。通りはずっと川に沿っている。ときどき支流にかかる大きな橋を渡る。

川と道路の間の細い土地に家や店がある。とうもろこしとじゃがいもをゆでて売っている。とうもろこしは皮ごとゆでている。試しに買ってみる。モチ種なのか、ものすごくもっちりしていて甘い。粒は白くてところどころ紫がかっている。日本では見たことがない品種だ。お醤油をつけて焼いたらどんなにおいしいだろう。
そんな店はいくつかあった。ある店では七輪風のものを使っていた。主な燃料はおがくずだ。おがくずをどこでもらってくるのだろう。

道路の横にはどこにも茶店があり屋台がある。景色はずっと同じように続く。いい加減歩き、暑さのせいもあってすっかり疲れてしまったので、あと2kmぐらいだったけれど、バイクに乗った。GPSでホテルの位置と自分のいるところは分かっていた。

けれどホテルに足をひきずりながらたどりつくのに2時間ぐらいかかっただろうか。道を知らないバイクにも振り回されたし、看板には単に「アンビン」としか表記されてなくてそれがホテルだとは気付かず、私は何度もその前を行ったり来たりした。くたくただった。


フロントに入っていくと、めがねをかけたきれいな中年女性がにこにこと迎え入れた。愛想がいいだけでなく人も良さそうだ。ほっとした。看板がなかったと文句を言おうにも全く英語が通じない。

ボートチャーターと書いた貼り紙がある。詳しく知りたいがこの女性では尋ねようがない。それなら何を書いてくれたって無意味だ。

部屋に案内してもらうとき、2階の廊下からほんわかした感じの若い白人女性がほほえみながら降りて行くのを見た。私の部屋は3階だった。川も見える。きれいでとてもいい部屋だ。ベッドもしっかりしてへこんだりしない。やっと着いて、とにかくほっとする。

ボートチャーターのことなど考える余裕もないほど疲れていた。しかし考えなければならない。
とりあえず夕食を探しに行こう。

宿を出るときにもう一度貼り紙をよく見る。カイランが1艘(2人)で3時間、50万ドン(2600円)。カイランとフォンディエンの両方に行くのが4、5時間で85万ドン(4420円)。私はフォンディエンに行きたい。しかし4420円ももかかってしまう。1人の旅は高くつく。

37 ここまで来て水上マーケットを見ないバカにならないようにもう少しだけ

2017-03-10 07:10:00 | フォンディエンの町と村 お話
ベトナム南部、フォンディエン。旅5日目の午後。

これからどうしようかと考える。今日の行き先はまだ決まっていない。鬱々とする。どんよりする。レストランを通り過ぎたところにあるベンチに座る。

このきれいなホテルでもう一日過ごすのか。
もう水上マーケットはあきらめて、ほかの土地に行くか。
けれども、フォンディエンの水上マーケットがだめだとしても、カントーまで来て水上マーケットを見ないバカっているだろうか。いてもいいけど、それなら何のためにカントーに来たのか。無駄ではないか。

いかん、これはゲームで負けたときの心理だ。勝つまでゲームをやめたくないという心理だ。いや、それでもいい。なんとかリベンジしたい。諦めがそう簡単にはつかない。

ほっしゃんの舟に乗ればよかったのかもしれないという考えが何度も頭をよぎった。少々納得がいかなくてもほっしゃんの舟に乗って水上マーケットを見ていれば、こんなにも心残りな気持ちでカントーを後にせずに済む。一応は水上マーケットを見てこの地を発つことができる。そうしなかったばかりに、私はこの場所に縛り付けられている。


水上マーケットを諦めるか、諦めないか。自分でもよく分からない。
どうなるという確たる考えもなかったけれど、とりあえずもう少しカントーに近い宿に移ってみようと思った。

宿泊サイト・アゴダを探すと、大都市カントーまで行かなくても、水上マーケットのあるカイランに近いところで手頃な宿が出ている。アンビンホテルを予約。
レセプションに行くとテルちゃんが、「何時にチェックアウトしますか」と聞く。もうチェックアウトしたつもりだったけどまだだったんだ……。そもそもパスポートを預けっぱなしだった。

テルちゃんは無線で誰かに連絡を取ると若い男の子がやってきて何かを報告する。そして私は高いカップラーメン代をしっかり取られた。そうと知っていたら食べるんじゃなかったな。とにかくメニューの案内やお部屋の使い方のリーフレットなど何も置いてなかったから、何が有料で何が無料なのかも分からなかった。ベッドの横にあった水だけが無料だったのだろう。

テルちゃんとお別れだ。ベトナムの女の子は本当に小柄で、顔も小さい。肩幅は25センチぐらいしかないように見える。テルちゃんもそうだった。勘も悪く想像力もないけれど、それなりに一生懸命仕事をしているから、ちょっとかわいい。テルちゃん、バイバイ。

36 なんとか朝食に間に合いたい。嫌がるバイクタクシーに乗って

2017-03-09 07:10:00 | フォンディエンの町と村 お話
ベトナム南部、フォンディエン。旅5日目の朝。

かなり疲れていた。それ以上行ってもキリがないだろう。8時30分。今から急げば9時のホテルの朝食に間に合う。朝食は宿泊代に含まれている。バイクタクシーをつかまえなければならない。こんな田舎道で見つかるだろうか。しばし、立ち止まる。

ほどなくして若い人のバイクが停まってくれた。ここから4、5kmだと言うとありありといやそうな表情が浮かぶ。それでも私を乗せて走り始めた。

道を教えながら、さっきの紅白の橋を渡り、元来た道を走る。けれどすぐ近くだと思ったのは思い違いだった。私はなんと遠くまで歩いてきたことだろう。とても4、5kmではない。10kmぐらいありそうだ。朝食に間に合わないかもしれない。

ミーカンに着いたのは、9時を1分ぐらい過ぎていた。私はバイクを待たせたまま中に走り込み、テルちゃんに「朝食!」と頼んでからお金を払うためバイクに戻った。

料金は100,000ドンだと彼は言った。高くついた。一応、ちょっと負けてくれない?と聞いたけど、彼は断固として首を振った。やっぱり10kmぐらいだったのだろう。そして憮然としてお金を受け取り立ち去っていった。4、5kmと言われ仕方なく連れてきたのに10kmもあったら、不愉快になっても仕方ない。申し訳ない。

レストランに行くと、テルちゃんがメニューを胸に抱いてぼんやり池を眺め待っていた。いや、実際何も眺めてはいないだろう。顔がそっちを向いているだけだ。「手持ち無沙汰」と顔に書いてある。けれどなかなか絵になっている。彼女が注文を取るらしい。どうやら、このホテルで英語を話せる人はテルちゃんしかいなくて、外人客の応対はホテル業務からレストラン業務までテルちゃん一人でやっているっていうことよようだった。

「卵料理は、オムレツ、目玉焼き、……」とテルちゃんはいろいろ言ってくれるが聞き取れない。何でもいいのでオムレツとコーヒーを頼む。やがてフランスパンが運ばれてくる。高いレストランだからといって特においしいわけではない。むしろあまりおいしくない。オムレツにはトマトを細かく切ったものが入っている。味が少し薄いのでテーブルの上にあったしょうゆのようなものを少しかけて食べる。

とても暑くなっていた。猛烈に眠気が襲ってきた。疲れてもいた。どこかで横になりたかった。すでにチェックアウトしてしまっている。けれどこのガーデンの中ならどこかにハンモックがあるかもしれない。そう思って、レストランを出て散策道を奥へと歩いて行った。

ハンモックはどこにもなかったが、水車の形をした座れる場所が東屋にあったので、そこで横になることにする。形状的に頭が少し下がってしまうけれど仕方がない。

しばし眠る。ベトナム人の若いグループが私を見て何やらクスクス笑ったりして楽しんでいるのが分かるが無視する。

まもなく吐き気がしてきた。変な格好で寝たからに違いない。そのうち治るだろうと期待してしばらく寝ていたが、だんだんひどくなり、どうにも止まらなくなってきた。レセプションのほうに戻りトイレに入って吐いた。

35  紅白の橋を渡ると、美しい村があった

2017-03-08 07:10:00 | フォンディエンの町と村 お話
ベトナム南部、フォンディエン。旅5日目の朝。

私は川の横の道を再び先へと歩き出した。

向こう岸に渡る大きなはしけ船が接岸していた。たくさんのバイクが載っている。向こう岸に良さげな村が見えている。その村に行きたい。はしけ船に乗れば行ける。

フォンディエンの水上マーケットに行く望みはもう絶たれたかもしれない。ぼんやり思う。それなら向こう岸の村に行って散策すればいい。けれどすぐにはしけ船は離岸していった。乗り逃した。

ちぇっ。ぼんやり先へ歩いて行くと、赤と白に塗り分けられた頑丈な橋が見える。もう諦めよう、水上マーケットは。その橋を渡って向こう岸の村を見ることにしよう。だって、もうそれしかやることがないもん。

走り抜ける何台ものバイクとともに橋を渡ると、道は川に沿って左右に2つに分かれた。分岐点のあたりにはお店もあり、人の気配が満ちている。左に行くとにぎやかなところに出そうだった。バイクに乗った若い女性が左へと走っていった。
静かな村のありそうな右への道を選び、とぼとぼと歩いていった。


その村は美しかった。椰子の木や広葉樹の葉がそよぎ、家が間隔を置いて並んでいる。インドネシアでも見てきたような、好ましい小さな村だった。

細い道沿いには色とりどりに品物を並べた食料・雑貨店がある。庭の広い小さな家が続いている。

道の右側の家は、川に向かって建っている。水場が川の方にある。川に面して生活が繰り広げられている。その家から見ると、道に面した方は裏側でもある。けれど今は道ができたのでなかば表側でもある。車は通らず、ときおりバイクだけが通る静かな道だ。後部にぎっしりとカラフルな箒やモップを乗せた行商のバイクが走り去っていく。

美しい村を進むと道が分岐し、さらに別の美しい村への入り口になっていた。紺色の看板が掲げられている。奥に向かって並木が続いている。その向こうにどんな暮らしがあるのだろう。

34 誰かに連れて行ってもらうしかないけど、ほっしゃんはイヤだ

2017-03-07 07:10:00 | フォンディエンの町と村 お話
ベトナム南部、フォンディエン。旅5日目の朝。

立ち上がって、また歩いた。途中いくつもの支流にかかる橋を渡る。川岸を見ながらマーケットを探す。やがて昨日来たフォンディエンの町のお店の並んでいるところまで来る。

水上マーケットはどこなのか。それが分かれば簡単なのだ。『地球の歩き方』には、フォンディエンの水上マーケットはカントーから17km離れていると書いてあるだけだ。昨日ネットで見た記事も、どれも同じことが書いてある。おそらくすべてが『地球の歩き方』をパクっただけだ。大体その距離感、何? フォンディエンの町はカントーからそこまで遠くない。

もうかなり歩いたし、場所が分からない以上、誰かに連れて行ってもらうしかないと思う。

疲れてとぼとぼと歩いていたら、橋の上で私を追い抜いてからさりげなく停まって待っているバイクタクシーのおじさんがいた。すすけた服を着た、いい感じの人。私の気持ちを見透かしたようだ。フォンディエンの水上マーケットに行きたい、10000ドンでどうかと言うと、「よし来た」と私を乗せて走り出した。

楽だー。風が気持ちいい。1kmぐらい行って、堤防がぐっと広くなって広場になっているところに来る。船着き場もある。そこに若い男の人が3人いる。どの人も一応バイクタクシーのようだ。おじさんはそこで、(多分)この人を水上マーケットに連れて行けと頼んだ。するとその中の、俳優の元ほっしゃんによく似た人が、嬉々として自分がボートに乗せて行くと言う。100,000ドン(520円)だと。

うーん……。

100,000ドン(520円)でどんなサービスがあるのだろう? 昨日ネットで見た情報では、舟に乗りカイランを見てフォンディエンを見てほかにも村々を見せてくれていろいろ案内してくれて4、5時間チャーターで300,000ドンぐらいだった。ここから水上マーケットまでどれぐらい遠いのだろう。100,000ドンで3時間ぐらい乗れるなら、多少サービスが悪かったり英語が通じなかったりしても、いい値段かもしれない。が、たとえば15分で着いてすぐ戻ってくるようなことなら高い。バイクタクシーの値段を考えると、とてつもなく高い。とんでもない暴利をむさぼられることになる。それにこのほっしゃんはうさんくささでいっぱいだ。泥棒や詐欺や殺人鬼ではなさそうだが、金を儲けたいという気持ちがありありと見える。

私はメモ帳を出し、何時間連れて行ってくれるのかとか、1時間当たりいくらなのかとか、いろいろ聞いてみた。が、何を聞いても「そうだ、その通りだ、100,000ドンだ」と大喜びして言うだけで全く通じない。なんて勘の働かない男なのだろう。それに察しようとする気が全くない。押し問答を続けたが本当に通じないので、その人と舟に乗っても多分いらつくだけだろうと思い見切りをつける。

すでにバイクタクシーのおじさんには10,000ドンを渡して帰ってもらった。おじさんはなにがしか申し訳なさそうなような、残念なような、心残りな表情をしながら去って行った。

また歩き始めると、ほっしゃんの仲間のバイクの男が来て、50,000ドン(260円)でどうかという。もうどうでもよくなり、30,000ドンでどうかと私が言うと、諦めて立ち去っていった。確かにそれは安すぎるだろう。50000ドン(260円)なら十分安い。いや、100000ドンでも安いだろう。
私は何にこだわっていたのだろう。ちょっとどうかしていた。
疲れて頭が変になっていたとしか思えない。