人の旅を笑うな ~ベトナムの水辺の村へ~

ちょっとだけ垣間見た川と湖のほとりの暮らし

83 旅の終わり

2017-05-13 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム北部。旅11日目の朝。

目が覚める。朝。平らなところを走っている。海に近い平原のようだ。雨はここでは止んでいるが、道路も田畑も樹々も濡れている。かなり降ったようだ。どんよりした空を背景に、景色が速く流れていく。見ていてもあまり面白いことはない大通りを走る。

昨晩また夕食をみんなでレストランで食べたが、朝食はなかった。昨日もらったパンを食べる。ほんのり甘くてとてもおいしい。

また頭が痛い。どんどん痛くなってくる。その頭痛はやむことはないだろう。景色が明るくなり高速で流れていくとき、頭痛はほとんど良くなることはない。一昨日の暑さのための頭痛が尾を引いているんだろう。片頭痛薬を飲む。

11時10分、ハノイ着。バスの車掌Bさんがバイクタクシーをつかまえて、私をハノイの街の宿のあるエリアに連れて行くように頼んでいる。私のトランクは後部の隅の方に避けておいてくれてあって、コーヒー豆の袋に潰されてはいなかった。特別扱いをしてもらいとても申し訳なく思う。

車掌Bさんもとても優しい人だった。本当に穏やかな顔をしている。この人たちはハノイとか北方の人なんだと思う。みんな優しくて、おかげでとても楽しいバス旅行だった。

片頭痛薬は全然効いていなかった。リュックから今度は安定剤を出し、バスの出口のステップを降りながらその白い粒を飲み下した。



その日はハノイに泊まる。

翌朝9時のエアアジアでクアラルンプールに発つ、はずだった。けれど空港へ行くとなぜか飛行機は飛ばず、丸一日待ち、代替機でクアラに発ったのはその次の日の未明だった。


関西国際空港に着くと、身を切るような風の中、雪が降りしきっていた。



 *このブログはこれで終わりです。


82 国境近くの峠を下る

2017-05-12 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム中部。旅10日目の夕方。

17時32分。峠を越えて下る。平らなところに村がある。標高432m。大きく美しい村だ。雨がパラパラ降ってくる。

ホーチミンではすごく乾燥していた。樹々はほこりをかぶっていた。おそらくもう何日も雨が降っていないようだったし、私が来てからもずっと、南部では雨が降らなかった。

峠を越えて気候が変わったのがはっきり分かる。山が緑に覆われてきた。景色が変わった。

18時50分。標高41m。目が覚めたら暗くなっている。水滴が激しく窓を伝う。その向こうに赤や黄色の町の光がにじんでいる。久しぶりにまとまった雨を見た。Ben Giang という平らな大きな町の大きな交差点を曲がり、両側の店の明かりの中を、バスがどんどん走っていく。通りの両側に四角い店が並ぶ、インドネシアでもベトナムの町でも普通の光景。完全に山岳地帯を抜けている。ラオス国境のあたりをそのまま走って行ってほしかったけれど、バスは海辺の町のダナンの方に向かっていた。

81 ラオスに近い道を行く

2017-05-11 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム中部。旅10日目の午後。

バスはラオスの国境近くを通って行くだろう。窓の外の風景は次第に素朴になっていった。道路は広くない道になって山あいの小さな村の間を抜けていった。ぽつぽつある家々は四角いコンクリート造だがとても小さくて、どの家も前面にオープンなスペースがあった。

かやぶきの集会所。小さなだんだんの田んぼ。まだ新しい壊れそうな畔。田んぼの横の高い木。牛。



ほうき草の大生産地。刈り取ったほうき草を持って歩く人。

バスは停まって、巨大な木の板をバスの下部に積み込む。板厚10㎝ぐらい。このバスは貨物主体のようだ。

原初的な田んぼと小さな村が続く。

Dak pek という大きな町に路上市場があり、それを過ぎるとバスはどんどん山を登って行く。山をところどころ焼いている。そこに巨大送電線と鉄塔が見えてきた。どこで発電しどこに電気を送っているのか。ラオスまで延びている気がしてならない。やがて峠。バスがすごくゆっくりになる。重くて進まないのか慎重なのかよく分からない。

16時35分。峠で警察のようなものの検問がある。ラオス国境まで5km。標高990m。
17時。ラオス国境に近接。濃霧。山中に田あり。バナナが多い。道端に高さ2、3mの観音像。

80 バスの中で見たり食べたり

2017-05-10 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム中部。旅10日目の午後。

バスに乗り込むと車掌Aさんが席にやってきて、私のシートを倒す。リクライニングのボタンが堅かった。けれど私はむしろ立てたかったのだ。まだ真昼間だ。バスが出発してから、私は倒されたシートを元通りに起こした。こんなところで寝ていてはいけない。外の景色を見るのが今日の仕事だ。

それにしてもバスの中で食べるものがありすぎる。それらを計画的に食べなきゃ。傷みやすそうなものから。

朝の市場で買ったさつまいも。もっちりして甘い。

バナナの皮包みの四角いの。中はもっちりしたもち米のかたまりで、その中に薄黄色いほの甘いあんが入っている。おいしい。バナナの皮が何重にも巻いてあるので、これなら腐らないだろうと思う。植物の力はやはりすごい。ビニールでは殺菌できない。このあたりの食べ物は黄色いあんが入っていることが多い。たぶんさつま芋がかなりウェイトの高い食べ物なんだろうと思う。





さっきのレストランのロールパンも5個ある。自分の取った分が食べられなかったので紙ナプキンに包んで持ち帰ろうとしたら、車掌Aさんがレストランスタッフに言いつけ、そこにあったパンを全部パックに入れさせて私にくれたのだ。もしかすると私がパンのような珍しいものを食べたことがないと思われたのかもしれない。あるいは、すごく貧乏で飢えていると思われたのかもしれない。
パンは日本の大手メーカーのバターロールみたいにふわふわじゃなくて、しっかりしている。ベトナム人は誰もパンを食べなかった。

幸いなことに、朝のおこわでもお芋でもおなかを壊すことはなかった。

79 みんなでテーブルを囲む、この旅で最高の食事

2017-05-09 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム中部。旅10日目の午後。

12時半。起こされる。バスが停まり、昼食。靴を持って外に出る。

車掌さんたちが口々にこっちこっちと私を呼び、ここに座れ、と私をテーブルにつかせた。私のほかに4人の客と5人の乗務員が同じ丸いテーブルについた。

やがて次々と料理が運ばれてくる。驚くほど次々と。エビの唐揚げ、ヤリイカの煮物、大きな魚と緑の野菜とトマトがたっぷり入ったスープ、豚肉の薄切り、トビウオらしき丸ごとの魚、レタスと玉ねぎの山盛りのサラダ、などなど。

みんな食べ始める。食べている間にもおいしそうなものがどんどん来る。全部食べたいけれどとても全種類は食べられない。白いご飯がたっぷりあるのに、いい香りのロールパンまで来た。丸顔の車掌Aさんは何かと世話を焼いてくれる。ご飯をよそってくれる。食べすぎないようにしようと思いながら、おかわりをすすめられ、ついご飯を2杯も食べてしまう。みんな自分の箸でつついている。このタレにつけろ、と指導されたりする。遠くにあるものに手を伸ばすと取らせてくれる。



目をらんらんとさせて食べまくっているのは私だけみたいだった。ベトナム人たちは慣れているのかちょこちょこと箸をつけるだけだ。車掌Aさんはレストランのボーイにお皿を持ってこさせて、真ん中のスープから大きな魚のかたまりを取り出し分割する。

何だか家族か、昔からの友だちと一緒にいるみたいだ。それに、この料理はこの旅に来て最高のものだ。どんなレストランに行ったって、一人ではこんなもの食べられない。それにホテルのレストランみたいな高いばかりの気取ったところでは、こんな家庭料理っぽいおいしいものは食べられない。

まさかバス休憩の食事でこんなにすごいくてこんな楽しい気持ちになれるなんて。まったく、まったく予想してなかった。これはただのバスでの移動ではない。これだけでプチ旅行だ。もう本当に、最高! これが旅の終わりにオマケのように起こったことなのだ。