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人の旅を笑うな ~ベトナムの水辺の村へ~

ちょっとだけ垣間見た川と湖のほとりの暮らし

17 小さなお店の大きなクッキー

2017-02-07 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の朝。

この島は予想以上にきれいだ。昨晩は夜だったから分からなかった。乾いているけどホーチミンのようにほこりっぽくはない。

縦横無尽な小径の両側には低く刈り込まれた垣根が続いている。どの家も、作業スペースを兼ねた平らな庭があり、その先に建物があった。庭はどこも丁寧に手入れされ、広い庭でみんなのびのびと暮らしている。垣根の近くには鳥の餌台みたいなベトナム風神棚があって、お香が立ててある。

小径の横に小さなお店があった。家の一室が店になっている。のぞくと、片隅に年配の女性が座っていて、にっこりと笑った。低い台の上に大型のクッキー風の焼き菓子が何種類もある。壁には小袋に入ったお菓子がずらりと縦につながってぶら下げられている。ぶら下げ陳列が巧みだ。

「写真を撮ってもいいですか」。バッグからベトナム語会話集を取り出して、指さしながら聞くと、発音がずいぶんおかしいらしく、ひとしきりベトナム語講座をしてもらう。お孫さんのような子も一緒になって相手をしてくれる。

お礼の意味も込めてピーナツがたくさん載った焼き菓子を買う。ゴマ炒り器ぐらいに大きいから、朝食前に食べるわけにもいかなさそうだ。20000ドン(約120円)。結構高いと思う。概してベトナムは割高感がある。インドネシアよりも3割ぐらい割高に感じるし、日本とあまり変わらないようなものもある。ちなみに、このクッキーは100%小麦粉ではなく何か違うものが入っているようだった。

それにしても、この島のこの小じんまり感、心地いい。気分にしっくりくる。ずっと滞在したい。かわいい。そして豊かだ。昨日までのどんよりした気分がふっとび、ものすごく気分がよくなっている。ドーパミンがどんどん放出されている!
1時間ぶらぶらして、宿に戻った。そして話は冒頭に戻る。8時40分。私は緑の風の吹き渡る宿のテラスで朝食をとっているのだ。

この宿では外界とつながることができる。島にどっぷり浸ることができる。この島に長逗留したい気がしていた。ときどき旅でそういう町があるように、ずっといられる場所になる気がした。



16 庭先で果肉をはぎ取る。家族で仕事

2017-02-06 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の朝。

この島に着いて初めての朝。樹々の間をかいくぐった清らかな空気が窓から入ってきている。ベニア板で囲まれたこの簡素な部屋は、外の空気とつながっている。土と、植物と、たくさんの生き物と、川と海と空の、すべてが溶け合って作り出す空気とつながっている。
やっと自分の旅にやってきた。きわめて上機嫌に起床。7時40分。

テラスに出たが、誰も朝食を食べていない。というか、誰もいない。何時から朝食なんだろう? まさかもう終わっている? よく分からないのでカメラを持って散策に出るところで、昨日向こうの岸辺で会った男の人と会った。朝食のことを聞くので、後でと答える。よかった。私の朝食忘れられてたわけではなかった。

庭を出て左に曲がると、垣根の上に竹の平ザルがあって、へたばったナマコのようなものが干してある。バナナを薄くスライスしたものだ。へえ、バナナ干すんだ。干してどうするのかな。
その家の大きく張り出したひさしの下で、3人の女の人が腰を下ろして作業をしている。マスカット大の丸くて薄茶色の木の実を小刀を使ってむいている。庭の中に入って、見せてもらう。

外側の薄くて硬い殻を取ると中に軟らかい白い半透明の果肉がある。その果肉を素早くはぎ取っていく。果肉の中には大きな黒い種があって、女の人たちの前には、茶色い殻、半透明の果肉、黒い種の3種の山ができていた。私に話しかけたり笑いかけたりしながらも手は止まることなく、次から次へと果肉を分別していくのだった。

食べてみれば?としきりに勧めてくれるので、1個もらって食べる。ざらっとしたぶどうのようだ。

この光景はその後島のいたるところで見た。果肉を干して出荷するんだろうかと思うが、不思議と干しているところは見かけない。実はnhoというと後でラック湖畔の人に聞いた。市場でこの実そのものも売っていた。



15 ホームステイの簡素な部屋

2017-02-05 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅2日目の夜。

私を乗せたバイクは、不意に垣根の切れ目を左に折れて屋敷に入り、エンジンを止めた。着いたのだ。ここが私が泊まるところだ。
木々の茂った庭。その向こうにある家。ここは「家」。ホテルじゃない。
ほかにも2、3台のバイクが停めてある。家の前面に張り出した広いテラスがある。迎えに来た若い女性についてステップを2、3段上り、そこから中に入っていく。テラスに続くオープンスペースには小さな明かりがついているが薄暗い。何組かのテーブルセットがある。

そのフロントっぽい部屋の奥に通路があり、両側の薄っぺらい板壁にドアが並んでいた。その一つが私の寝室だった。
真ん中に大きなベッドがあり、少し色あせているけど乾いたシーツがかけられ、蚊帳が吊るされている。窓もある。ニスのはげかかった整理ダンスもある。調度品は立派ではないけど、とても簡素で、さっぱりしている。いいじゃないの!

つやつやのマゼンダ色のトランクを降ろし、掛け金を外した。ぎゅうぎゅう窒息しそうになっていた服を取り出し、シャワーを浴びるために部屋を出た。

通路の横の庭に続くところに食事する場所があって、思いのほかたくさんの欧米人ぽい旅行者たちが楽しそうに食べている。エビがメインのようだ。ずいぶん豪勢なディナーだ。きっと高いに違いない。それにあんなには食べられないし、一人で食べてもつまらない気もする。夕方ツイスト麺を食べていたので、とりあえずその日の夕食は断る。

バスタブもないごく簡単なシャワー室で汗を流し、タンクトップや靴下を洗う。トイレと一体になっていて、コンクリートの床は地面と同じレベルだから、日本人的にはあまり心地のいいものではないが、何度かのインドネシア旅行でそういうものにももう慣れてきている。この国の人はきっとみんなこんな感じで暮らしているのだ。翌日、一体になっていないシャワーだけのもあると知ったけど。

気分もさっぱりして部屋に戻った。短いような長いような一日だった。お昼までホーチミンにいたことが信じられない。ここは別天地だ。

部屋はフロアを薄っぺらなベニア板で簡単に仕切っていくつかの部屋に分けただけのもので、板の上部は天井にまで届いていない。物音も蚊も行き来自由だ。網戸のない窓からも虫は入ろうと思えば入り放題だ。しかし入ろうと思う虫はあまりいないようだった。

なんて素敵なんだろう。この簡素さ!
前の日に泊まっていたすばらしくデラックスなホテルよりも、こんな薄い板張りの部屋の方が心地いいなんて、どうにも不思議な感じだ。簡素さに身を置くことが、何かしら浄化的なものと結びついている?

22時就寝。念のため蚊取り線香を点ける。相変わらずあまりよく眠れない日が続いていた。


小径の横で家の人が野菜を売っている。ニンジンや大根はこの島の暑い気候のわりには出来が良すぎるので、よその地方のものを仕入れているのかもしれない。ベトナム南部、アンビン島 2016年1月

14 橋のような船に乗り、メコンの中州島へ

2017-02-04 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン。旅2日目の夕方。

再びバスは大きな通りをどんどん走った。途中、何人かが降りる。そして突然、私も降ろされる。18時半頃か。「国道のど真ん中で無造作に降ろされ、そこからはバイクタクシーに乗るしかなく、バイクタクシーはぼったくりがあったりして危険なので乗らないほうがいい。つまり、このバスは利用しない方がいい」と『地球の歩き方』に書いてあった。しかしそれならどういう交通手段があるのか。『地球の歩き方』が推奨するのはホーチミンから旅行会社のツアーに参加する方法である。バカらしぃ。

バスを降りたところにすでに何人かのバイクタクシーの兄さんたちが集まって来ていた。ちゃんと誰もが認める乗り継ぎとして用意されている。「アンビン島」と言うと、30000ドン(160円)だと言う。船着場までということだろう。それなら妥当なんじゃないか。試しに安くなるかと聞くとならないと言う。別にかまわない。
すでに薄暗くなっていた。

バイクに乗って少し走るとすぐになみなみと濁った水をたたえた川の横に出た。人が大勢群がっている。はしけなのか船なのか分からない巨大な板のようなものが浮かんでいて、それにも大量のバイクと人がセットになって乗っている。とにかく混み合っている。

川の前の群衆の中に降ろされ、私は群衆の中に取り残された。ぼんやりしている場合ではない。はしけ船に乗れば私の目指すアンビン島に行くのだろう。それを確かめ、今夜中に宿にたどり着かねばならない。

不意に近くにいた男の人がニコニコしながら、どこのホームステイに泊まるのかと話しかけてきた。宿の名前を書いたメモ帳を見せると、その人はおお!と喜んで、「それは自分の家族の経営するところだ、妻が今行くところだから一緒に行け」と言うのだった。

やった! 今夜はもう楽勝だ! 渡りに舟とはこのことだ。いや、渡りにバイクだ。すぐに、まだ若く黒髪をなびかせた女の人が、大きく黒くてピカピカの威厳のあるバイクに乗ってきて、私を後ろに乗せた。

ほとんど動いているようにも見えなかったはしけ船がこちらに着岸したらしかった。おびただしい数のバイクがはしけ船から道路へとなだれ込んで来て、それと入れ替わって大量のバイクがはしけ船へと乗り込んでいく。私たちもその一員となってじりじりと進んでいく。両隣のバイクとほとんど接触しそうだ。そしてすべての人間がバイクに乗っていた。ウィズアウト・バイクな人はいないのだ。バイク専門の船なのに違いない。もし私がこの宿の女性に遭遇しなかったら、どうやって川を渡ることができたのだろう。

船はそろりと岸を離れ、向こう岸へと動いていった。
船代はどう払えばいいのだろう。誰も切符を売りに来ない。バイクの人がきっとどこかで払っているのだから、私は便乗ということで、要らないってことにしておこうと思う。

10分もしないうちに向こう岸に着く。池に放された小魚の群れのように、たくさんのバイクが勢いよく島の陸へと走り出した。すっかり暗くなっていた。
私の乗ったバイクも走り出す。幅90センチもないようなコンクリートの小道。両側に低い垣根、その向こうには樹々に覆われた家々がある。深い藍色の空に樹々のシルエットが黒々と迫る。バイクはそのかわいらしい道を風を切ってプルルルと進んで行った。
うれしい。天国だ。
思いがけずあっという間にこんな天国にたどり着いたのだ。


ベトナム南部、ヴィンロン 2016年1月

13 メコンデルタの町で、ツイストマカロニのスープ

2017-02-03 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ホーチミン。旅2日目の午後。

バスは大きな通りを走った。道路は広く、ほこりにまみれてすすけていた。あらゆるものが白っぽいほこりをかぶって、景色全体が白くかすんでいた。まるで目がかすんでいるように。雨がザーッと降って砂埃を洗い流してくれればいいと思った。
17時半、ドライブインに入る。隣の席の男の人が、ここで食べるのだと身振りで教えてくれる。たったの3時間なんだからこんなところでゆっくりせずさっさと目的地に行ってほしい。

大きなレストランの、ドアのない入口を入ると、たくさんのテーブル席があり、その奥に池があって魚が泳いでいた。そこにも水上住宅のように食べる場所がしつらえてある。

バスの客と乗務員は振り返りもせず奥の方へと消えていった。誰も私にかまってはくれない。隣の夫婦連れだけが少し私に親しげだったから、それとなく後について行く。2人はトイレに入った。私も入る。出てくると、夫婦は奥へぶらりと行ったが食べる様子はなく、もう私にはかまってくれなくなった。私はどうしたらいいの? 一体何時何分まで休憩なの?

入口に近いテーブル席ではいろいろな人が食事している。みんな丼に入った麺っぽいものを食べていて、横には生野菜がもりもりと盛られた皿がある。ウェイターはみんな高校生ぐらいの男の子たちだ。
どうするともなく立っているとその中の一人が注文するかと聞いてくれたので席につき、近くにいた人の食べているものを指差して同じものを頼む。

すぐにみんなと同じ生野菜が運ばれてきた。ほとんどが香りのありそうなものだ。一番上のセリ科の野菜がよく目立つ。皿にレースを添えたように葉がきれいだ。これって噂のパクチーというもの? でも特段臭かったりしない。

やがて丼が運ばれてくる。中に長いツイストマカロニのようなものがぷるぷると浮かんでいる。白いのと薄黄色いのがある。そこに豚の薄切りが入っている。どうやらそれに葉野菜を投入して食べるのが流儀のようだった。これはフォーというものなのか? (きっと違う)

ワクワクしながらお箸でツイストマカロニをつまんで口に入れた。ものすごくツルツルした触感。たぶん米粉で作られている。イタリアのツイストマカロニよりはるかにおいしい。日本ではどうしてこういう米の粉物が発達しなかったのだろう。逆に言うと、どうしてベトナムでは米を粒で食べるよりも粉にする方が発達したのだろう。

そして葉野菜。香りのいいのをバッと丼に入れてベトナムらしく食べたいが、怖い。どういう環境に生えていたものか分からないし、どういう水で洗ったのかも分からない。それが生なのだから。私は比較的おなかが強い、あるいは東南アジアに合ってるようだけど、まだベトナムに来て間もなくておなかが慣れてないので油断は禁物。ちょっぴりつまんで丼に入れてよくかきまぜ、熱をしっかり通す。

生野菜とは別の小皿に、赤い、根曲がり竹を斜め切りにしたようなものが載っている。唐辛子には見えない。きっと辛いものではないと言い聞かせながらたくさん取ってどんぶりに入れ、パクリと食べた。のどが裂けるかと思う。とんでもなく痛い。そして涙が出る。水、水、水っ!

このツイストマカロニ麺は40000ドン(約220円)。
ここでの休憩時間がどれだけあるか分からないからそそくさと食べ、外に出るとみんなもう車に乗っていた。17時55分出発。まだ明るい。