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人の旅を笑うな ~ベトナムの水辺の村へ~

ちょっとだけ垣間見た川と湖のほとりの暮らし

22 旅の逡巡

2017-02-12 07:10:00 | アンビン島

ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の午後。

この島にずっと滞在していたい気がする。しかしこの島はもう十分見たのかもしれないという気もする。島の中はもうどこに行っても同じだろうと。

水上マーケットが見たい。昨日ガイドブックの中に見つけた有名なカントーの水上マーケットだ。水の上にたくさんの小舟が集まり、色とりどりの果物を売ったり買ったりしている光景、そういえば時々観光写真で見るなと思う。明日の朝はその水上マーケットには間に合わない。それなら朝この島の市場を見て、それからカントーに移動しようか。

13時半。風がここちよすぎる。とりあえず、朝、小径の横の小さなお店で買った大きなクッキーを食べて昼食代わりにする。
15時になったら出かけようか。自転車を借りようか。

この宿は白人客ばかりだ。フランス人が多いかもしれない。日本人はいない。みんなカップルで来ている。これまでそんなのをうらやましいと思ったことはなかった。私はいつも一人旅だ。それがよかった。けれど、今はふと、私もあんなふうであれば楽しいかもしれないと思う。一緒に旅をしたい人は確かにいる。その存在があるからそんなことを思うんだろうか。彼が一緒にいたらどんなふうだっただろう。ほのぼのと楽しかったに違いない。

暑いけれど、風がある。相変わらず心地いい風が吹いている。



21 すがすがしい住まい

2017-02-11 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の昼。

太陽が真上に来て、すごく暑くなった。宿に帰って休もう。
島の小径はどこも同じような感じなので、つい宿を通り過ぎてしまう。そのたびに、隣の垣根の干しバナナが宿の場所を教えてくれる。
12時半、宿にたどり着き、スプライトを飲む。暑いとなぜかスプライトが飲みたくなる。本当は麦茶が飲みたいがそんなものはない。

ちょっと横になりたい。でもそうしたらすぐに寝入ってしまうだろう。それでもいいから昼寝してしまおうか。ハンモックかなやっぱり。この宿の深い軒の下にはハンモックがいくつかぶら下げてあって、旅人がいつもそこにさなぎみたいにくるまれている。

旅に出るといつも自分の住まいのことを考える。広々としたところに住みたい。とにかく日本の家は物が多すぎる。減らすことはできないのか。たとえば本を買ってはいけないのではないか。自分の覚えていない本は持っていなくていいのではないか。
窓を開け放ち空気が流れるアジアの家のすがすがしさ。庭の刈り込まれた木と気持ちよく手入れされた草花。鉢植え。豪華でなくていいから、こんなさっぱりした家に住みたいと思う。全ての仕事よりも何よりも、住処をきれいに、清潔にすることの方を優先してみたいと思う。

家は人の暮らし方を表している。そこに住む人の心映えを表している。そして、そうだとすると、私の住んでいる日本の今の家が私そのものだとすると、それは恐ろしいことだ。


20 島ごと水上集落

2017-02-10 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の午前。

このあたりの家を特徴付けるのは軒の深さだ。それは軒というよりは、表の一室がオープンスペースとして造られているのである。四角い建物の壁に庇を後付けで付けているのではない。オープンな部屋の屋根の下は、奥へ向かって次第に明るさを減らし、いかにも涼しげに見える。心地よい風を感じることができる場所。南国には必要なものだ。

島の小径はどこもバイクがやっと通れる程度の幅で、コンクリートで舗装されているところもある。そして両側に低い垣根がある。島全体が統一された景観の中にある。

家の周りには幅1、2mの小さな水路が縦横無尽にある。少し大きな水路もある。
ホームステイでは、テラスが水路に面していて、水路には今はあまり水がなかった。手を洗うシンクが水路に向かって設置してあり、使った水は水路に直接流れるようになっていた。

雨期にはどれぐらい水位が上がるのだろう。水路には木やコンクリートで小さな橋が架けてある。橋は無数にあってそれぞれの家へと行き来できるようになっている。島ごと水上集落、いや水中集落と言った方がいいかもしれない。水の中に浸かっている集落だ。これがメコンデルタの典型的風景なのだろう。水路を小舟で行き来する光景をNHKのコウケンテツの料理番組で見たことがある。
水路や川には魚もいるだろうから、田んぼこそないものの、果物が採れ、魚が獲れ、気候は寒くなく、雨が多い、豊穣の島だ。

水の中に家々があるようなこの半水上集落で、この水がもっときれいだったらもっと心地いいだろうと思う。けれど仕方ない。メコン流域の東南アジアってこんなものだろう。この集落は水の中というよりむしろ、泥の中というべきかもしれない。
水とともに暮らし、水を豊かに使って暮らしている人たちがここにいる。雨期のようすも見てみたい。しかし雨期はとても暑いのだろう。そして猛烈に蚊が多いだろう。


19 大きな甕のある台所・家々の守り神

2017-02-09 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の午前。

カラオケ大会中の大きな家を裏に回って細い道を行くと、家々の台所が見えた。台所は家の横に寄せかける形で外付けになっている。木の台の上に洗った食器や鍋が並び、ガスコンロやかまどがある。台所の外には大きな茶色い陶器の甕(かめ)を備えていて、そこに水を溜めているようだ。たいていは水道の配管とバルブが甕のところまで引かれている。水道がなかったときにはそこに水を汲んできて入れていたのだろう。が、今は水道があるのにその甕をどういう用途で使うのかいまいち分からない。
台所が半屋外にある、南国の光景だ。

どこの家もたきぎを積んでいる。庭先にどこかから持ってきたままポンと置いてある家も多い。しばらくそこで乾かしているのだろう。
家の横ではたいてい茶色い鶏が走っている。インドネシアのように大きく自慢げなのはいない。少し小型だ。
バナナがあちこちに生えていて、庭の木々は実を付けている。



家の角口や庭には鳥のエサ台のような石で作った台があって、そこに線香と花が備えてある。要は、神棚だ。『地球の歩き方』を読んだら、特に何教というものではなくアニミズムだという。線香はだいたい朝火を点けるようだ。赤紫色の線香がよく置いてある。
屋敷のはずれの木陰にはぽつりと四角い祠があった。中には大黒さんみたいな人がいる。どれも水の流れの方を向いていて、家には背を向けている。絶対そうなっているのか偶然そうなっているのかは分からないけど、やっぱり水と切っても切れない生活をしていることと関係があるような気がする。



18 メコン川と小さな漁・青空カラオケパーティー

2017-02-08 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の午前。

足元の崖の下は、海だ。いや、川なのか。崖から水面に向かって丸木の足場が、飛び込み競技の飛び込み台のように張り出している。そこを伝って器用に舟に降りていく男の人がいる。
水際から何本かの杭が頭を出している。黒い網がそれを囲んでいる。小枝をまとめて水に浸しているものもある。その中に魚をおびき寄せてつかまえる、柴付け漁だ。

たくさんの舟が係留してあったり魚を獲っていたりする。遠くにはいくつかの大きないかだがあって、上に小屋が立っている。養殖をしているのだろう。

向こうの方をゆったりと大きな船が航行していく。長い屋形船で、若い人がたくさん乗って何やら騒いでいる。遊覧船? なみなみと、ゆっくりと、濁った水が流れるともなく流れていく。

これがメコン川なのだ。メコン川という名前こそよく聞くけど、その実態は知ることがなかった。きっと縦横無尽になっていて、その網のような流れすべてがメコン川なんだろうと思う。日本を発つときにはメコン川を見に来るなんて考えてもいなかった。今までほとんど関心もなく過ごしてきた。




やがてのどかな川辺の集落に、アンプを通した大音量の音楽が鳴り渡った。大音量とはいっても耳を覆うほどではない。音はのびやかに空に吸い込まれていく。広い庭のある家で、カラオケパーティーが始まった。庭に車座に人々が座って飲んだり食べたりしている。小さなステージがあって、マイクで歌っている人がいる。ちゃんとモニターまで設置してある。カラオケが目的なのか、バーベキュー的パーティーにカラオケが余興で付いているのかよく分からない。とにかく庭で自由にそんなことができる暖かい国っていいなと思う。

ここでの暮らしは開放的だ。家々は開け放たれ、どの家も広い庇のあるテラスなど、半屋外空間が十分に取ってある。暖かい国に共通する暮らしぶりだ。家の中に閉じこもっている必要はないのだ。

その家は崖っぷちの手前にあって、広い庭には木造の舟がひっくり返して置いてあった。それが飾りなのか使うものなのかよく分からない。そこにさっき車が来て脚のある大型のスピーカーを搬入していた。高級なステレオでも買ったかと思っていた。家も立派だしお金持ちっぽいから。けれどスピーカーはこういうカラオケ大会のために貸し出されたものなのだろう。やがてバラバラと人が集まってきた。

すっかり日も高くなっていて、ちょっと休みたかったので、その家の向かい側の古い木造りの小さな小屋の前の椅子に勝手に座らせてもらう。庇がちょうどいい陰を作ってくれている。小屋の入口からはおじさん的な脚が出ている。昼寝しているらしい。

と思っていたら、いつのまにかおじさんが外に出てきて、飲み物のボトルを並べていた。小屋は家ではなく店だった。こんな島の端っこに誰が買いにくるのだろう。