2017.05.24 ~
2ヶ月ぶりに病院の玄関を出た時は、空気が違っていた。
外は季節の変わり目で、体感的には少し暑く感じた。
普通はそんなには思わないのだろうが、長い間外気と日光を
浴びてなかったせいか、皮膚に感じる刺激は強かった。
それに抗がん剤の副作用で、皮膚に当たる紫外線から2次的に
癌を発症する可能性もあり、二の腕から下はサポーターで防御していた。
病室から見下ろしていたそこは、当時 ”下界” と言われていた。
(勝手に言っていた…)
下界には非常に敵が多く、無数の病原菌、カビ菌、アレルギー物質、
有害物質を含んだ外気、容赦なく突進してくる人達、もちろんそこは
いままで自分がいた極々当たり前の世界である。
人間は立場が違うと思考も変わる。
今まで普通に暮らしていた世界が、ある瞬間から恐怖の下界に
変わるのだ。
自分は容赦なく突進していた人間ではなかったのか。
とにかく健康なときの生活はすぐには取り戻せない。
帰った部屋は懐かしくはあったが、どこか他人行儀だった。
自分が確かに暮らしていた。
玄関、廊下、ソファー、テーブル、椅子、身近なものがどこか他人行儀
なのである。
落ち着かない時間が少しの間流れた。