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米国・豪間の米国法執行機関による豪州の犯罪容疑者のDNA、指紋情報DB等へのアクセスに関する了解覚書

2011-11-23 16:55:06 | 信頼性の高い情報とは



 米国オバマ大統領とギラード首相の軍事共同活動拡大の具体的同合意については本ブログを含め、政府による公式発表情報を含め各方面で取上げられている。

 一方、一般メディアでは一部でしか報じていない豪州の司法トップや駐豪米国大使間の米国による犯罪容疑者情報の開示にかかる「了解覚書(MOU)」について、筆者はオーストラリアのサイバー法の専門家でかつ大学の客員教授も任じており、多くの観点から積極的な言論活動を行っているロジャー・クラーク(Roger Clarke) 氏から届いたウェブ・ニュースで知った。

 その”MOU”の内容は一部メディアは極秘情報のように扱っているものもあるが、事実はそうではない。
(note1) しかし、人権擁護から見た問題はそう簡単ではない。

 今回のブログは、(1)米国とオーストラリア間の“MOU”の具体的内容と人権擁護面から見た問題点、(2)国家間における“MOU”の法的効果、(3)条約(treaty)や合意(agreement)等との相違や使分けについて米国国務省や国連の担当部の見解等、(4) 民間企業や団体間における“MOU”の法的問題と実務面の課題等も踏まえながら問題を整理する。
 特に、(2)および(3)については国際社会での交渉に長けていないわが国の政治家には多少でも役に立つのではないか。


1.米国とオーストラリア政府間の“MOU”の内容、位置付けと人権擁護面から見た問題点
(1)オーストラリア政府の11月16日付け公表内容
 オーストラリア連邦政府内務大臣サイトの「Statement on Memorandum of Understanding on Combating Crime」に“MOU”締結のリリース文および“MOU”の本文を一部仮訳する。なお、同サイトではどういうわけか小項目のたてかたがばらばらである。原本では小項目は(a)、(b)であり、リリース文本文で15(3)(b)というように引用しているにも関わらず、小項目立ては1、2という記載になっている。筆者は、この不整合さについては改めて内務省に照会メールを送付する予定である。

①リリース文
 本日、ブレダン・オコナー内務・法務大臣は駐豪米国大使ジェフリー・L・ブライヒ(合衆国国土安全保障省の代理)は越境犯罪に関する了解覚書(MOU)に署名した。
 本MOUの下で、両国は1年以上の拘禁刑の対象となる犯罪の阻止、検知および捜査に関する指紋等バイオメトリック・データの照合が可能となる。また、照合結果が得られたときは、関係する個人の情報につき相手国に対し更なる詳細情報の提出を要求しうる。
これらの照合は個々の事件に関する場合のみ行い、両国の国内法に準拠する。従って、当該情報はオーストラリアまたは合衆国が現時点で法的に許容されないときは共有できない。
 また、両国は個々の事件につき相互にDNAプロファイル(DNA個人識別特性の組み合わせ(a set of DNA identification))(note2)の検索につき合意した。
 なお、筆者はフォレンジックスの専門家ではないので誤訳などがあれば、具体的に指摘いただきたい。(note3)

②今回の“MOU”本文の概要と構成
 時間の関係で全文の仮訳は略し、主要個所の仮訳と項目訳のみ挙げる。“MOU”のポイントとなる部分についてはメディア“ZDnet.com.au”の記事を参照して仮訳した。

1.定義
本覚書の目的:(1)「DNAプロファイル(DNA識別パターン)」とは、解析対象の人間の非コード化されたいくつかの識別特性すなわち各種DNA遺伝子の化学的特性を表す文字または数字を意味する。
(2)「個人データ」とは、特定されたまた特定可能な自然人(データ主体)に関する情報を意味する。
(3)「個人データの処理」とは、自動的な手段化否かに関わらず、個人データの収集、記録、組織化、保存、適合または変更、ソーテング検索、協議、使用、需要に基づく開示、流布または可能な方法、結合または整合性、阻止、破棄による削除を言う。
(4)「参照データ」は、DNAプロファイルおよび関連する参照DNA(参照データ)または指紋データおよび関連する参照データ(指紋参照データ)を意味する。参照データは、直接データ主体を特定するいかなるデータも含むべきでない。参照データは個人を追跡できないものはそのように理解すべきでない。

2.本MOUの目的と適用範囲
(1)本MOUの目的は、犯罪の阻止と犯罪と戦うため合衆国とオーストラリア間の協力の強化である。
(2)本MOUの適用範囲は、1年以上またはさらに重大な自由剥奪の刑罰を科すべき両国( both Participants)の法の下で処罰すべき犯罪を構成するものを含む。
(3)本MOUは、供給する署名両国の要求に基づき法的な支援チャンネルの使用につき代替や使用制限は行わない。
3.指紋データ
4.指紋データについての自動化された問い合わせ
5.個人特定データに使用する問い合わせの代替手段
6.更なる個人データおよびその他データの提供
7.2国家間の接点部門と協定内容の実行
8.DNAプロフィルの自動的な問い合わせ
9.DNAデータベースへの問い合わせの代替手段
10.さらなる個人データやその他データの提供
11.2国家間の接点部門と協定内容の実行
12.重大な犯罪やテロ犯罪阻止のための個人情報その他情報の提供
12(1)重大な犯罪およびテロ犯罪を阻止するため両国はそれぞれが持つ法に準拠し個々の事件において要求の有無にかかわらず、相手国の接点部門と第7項を参照の上、データ主体につき、以下の(a)から(c)いずれかの状況が明らかでありその必要性がある限りにおいて第12(2)項に定めるデータを提供しうる。
(a)両国の国内法において定義されるテロに関する犯罪またはテログループやテロ組織にかかる犯罪を犯すであろうまたは犯したとき
(b)第12(1)(a)項に記載した犯罪の訓練を受けているかまたは過去に受けてきたとき
(c)重大な刑事犯罪をまたは犯した、または組織化された犯罪グループまたは犯罪組織に参加していること
12(2)可能な場合、追加的に提供する個人情報は、姓名、旧名、別名、仮名(aliases)、別表記名(alternative spelling of names)、性、生誕地、現在及び過去の国籍、パスポート番号、その他本人識別書面、指紋データおよび第12(1)項に関係する確信または信じうる具体的記述を含む。
13.プライバシーと個人データ保護
14.個人データの特別な移送に関する追加的保護
15.個人情報やその他情報の保護のための制限(両国は2.3で定める権限を侵すことなく、また2.2に従い、本MOUの下で得たデータにつき次の目的に沿い処理を行いうる)
15.(1)(a)犯罪捜査目的
15.(1)(b)治安への重大な脅威を回避する目的
15.(1)(c)パラグラフ(15.(1)(b))で定める捜査に直接に関連する非刑事手続きまたは行政手続きにおいて
15.(1)(d)データの移送に関し両国間で事前の同意がある場合のみその他目的
16.データの修正、阻止および削除
17.文書化と記録保存
両国は、相手国に移送または受領した授受年月日やデータ記録の保存義務を負う。
この保存期間は2年間とし、データ提供国は当該情報がどのように利用されているかにつき質問することが出来る。
18.1データ・セキュリティ
 両国は、必要な技術的手段および組織化した準備が事故または違法な破棄、事故による損失または無権限の開示、変更、アクセスおよび無権の処理形式に対する情報保護策を活用することを保証する。
19.透明性―データ主体に対する情報提供
20.相互の利用情報
21.他の両国間の協定との関係
22.両国間の本MOUに関する定期的協議
23.費用負担
24.本MOUの停止
25.改正
26.本覚書の効力開始時期

(2) 今回の“MOU”に関する米国政府の公表
 2011年11月16日、 ホワイトハウス報道官室発表の「White House on U.S.-Australia Cooperation to Combat Crime」で今回の“MOU”を発表している。ただし MOU本文はリンクしていないため詳細の確認はできない。
 国務省の「MOU検索」でも本文自体はリンク出来ない。(note4)

(3)プライバシー保護や人権擁護面から見た今回の“MOU”の問題点
 後述するとおり、“MOU”自体が極めて高度な政治的性格を持つことはいうまでもない。しかし、その反面、人権侵害やプライバシー等への極めて重大な侵害も引き起こす可能性が高い問題でもある。
 この問題に関し、今回は時間の関係で海外の人権擁護団体等の具体的指摘や解析については情報が十分に入っていない。機会を改めて取上げたい。

2.国家間・国際法上における“MOU”の法的効果に関する論点整理
(1)“MOU”の法的意義・効果
 改めて調査してみたが、わが国も含めこの問題につき正確に論じているものがない。ここでは、ごく一般論でしかないが、概略の説明を行う。(note5)
 まず、“MOU”についての“Wikipedia”の説明は次のとおりである。
「了解覚書(Memorandum of Understanding、略称:MOU、MoU)は、行政機関等の組織間の合意事項を記した文書であり、通常、法的拘束力を有さない。了解覚書が用いられる最も代表的なケースは、複数の国家の行政機関の間で取り決めを結ぶ場合である。このような、国際公法上の了解覚書は条約の一種に分類されるが、締結の手続やその法的拘束力において実際上は大きな相違がある。
 まず、了解覚書の締結には、通常の条約の締結において必要とされる国会での承認手続のような複雑な手続が必須でない。このため、複数の国家の行政機関間での制度の運用などに関する取り決めは了解覚書の形式を取ることが多い。
 また、了解覚書は、通常、取り決めを破った場合の罰則などを規定しない。日本においては、立法機関である国会の承認を経ない了解覚書は直接的-には法令としての地位を有さない。ただし、了解覚書で取り決められた事項を実施する手段として、法律や政省令が改正される場合には、間接的に法的規範として機能することになる。」

 一読して理解できる内容ではない。具体例で説明しよう。
2009年7月外務省のリリース「国際宇宙基地協力計画(ISS計画)について」において“MOU”につき次のとおり説明している。
「2.国際宇宙基地協力協定・了解覚書の枠組み
(2)国際宇宙基地協力協定の実施のため、アメリカ合衆国以外の4極の協力機関(日本については日本国政府)は、アメリカ合衆国の協力機関であるNASAとの間で宇宙基地協力活動の詳細を定める了解覚書を締結しています(日米間の了解覚書は2001年6月に発効)。
(3)国際宇宙基地協力の活動は、国際宇宙基地協力協定及び了解覚書を法的な基盤として実施されています。」

 以上見たとおり、その法的意味合いはかなり微妙な内容を持つのであるが、そもそも“MOU”とは何かについてわが国の外務省サイトでは説明はない。
 国際法等研究者の論文を調べてみた。例えば、亜細亜大学 秋月弘子「国連法の概念―総会の補助機関が締結する協定を題材として―」、三重大学 洪恵子「国際協力における双方可罰性の現代的意義について(二)・完(Double Criminality in International Law (2))」三重大学法経論叢(2001, 18(2), p. 43-65)」等である。いずれも、“MOU”の法的側面につき専門的に解説したものではないが、その法的性格付けの微妙さについては参考となろう。
 また、米国等における“MOU”の法的解説も調べてみた。この点も、わが国に劣らず明確かつ専門的な解説はない。“Online Law Dictionary”も役に立たない。
あえて紹介するとすれば、「了解覚書:その法的性格と起草(Memorandum of Understanding:Legal Nature and Drafting)」が12頁の短いものであるが、要点は良く纏まっている。

(2) オーストラリア法改革委員会(ALRC)報告書「オーストラリアの国家機密に関する法等と開かれた政府(Secrecy Laws and Open Government in Australia )第14章「有効な機密情報取り扱いのための枠組み:了解覚書」に見る問題点
 2010年3月11日公表したオーストラリア法改革委員会(ALRC) (note6)報告書「オーストラリアの国家機密に関する法等と開かれた政府(Secrecy Laws and Open Government in Australia )(ALRC Report 112)」第14章「有効な機密情報取り扱いのための枠組み:了解覚書 (Frameworks for Effective Information Handling : Memorandums of understanding)から、関係する部分を抜粋する。
 なお、この報告書はあくまでオーストリアにおける政府機関間における公開性、透明性の問題を論じており、ここでは今回の米国とオーストラリア間の犯罪者情報に関する“MOU”の問題にかかる指摘個所のみ抜粋した。“MOU”の問題を正面からとりあげている優れたレポートであると思う(特に“ALRC’s view”の部分)。

14.69:オーストラリア政府は情報の交換につき外国政府機関と“MOU”を締結しうる。例えば、証券投資委員会(ASIC)は証券取引法の法執行に関し、米国証券取引委員会(SEC)と“MOU”を締結した。この“MOU”は両国の証券取引法の法執行および法遵守の保証を目的として支援と情報の効果にかかる重要性と煩雑さを認識させる。しかしながら、例えば機関に国内法に違反する方法で行動することを要求する場合を含むある特定の状況下で要求に対し拒否することを認める。また、当該“MOU”は要求してきた相手国に対し情報の提供につき条件を科すことができるのである。

3.条約(treaty)や協定(agreement)等との相違や使い分け等に関する米国国務省や国連の担当部の見解
(1)国家間の“MOU”の法的効果と外交政策的に見た留意点
 これに関し、国際法関係に詳しい米国国務省法律顧問室(Office of the Legal Adviser)は明確な見解「国際法上、法的に非拘束となる公文書策定ガイダンス(Guidance on Non-Binding Documents)」をまとめている。わが国も政府間の“MOU”締結例は多くあるものの、どの程度これらの具体的配慮にもとづき作成されているのか疑問に思う。ここでは重要な意義を持つ問題なのであえて全文を仮訳しておく。なお、法律顧問室の以下の解説を今回の“MOU”の文言と照合すると、その的確性が確認できよう。

「各国政府はそうすることにより国際法に基づく義務を作り出すことなしに、国際関係上しばしば覚書や協定内容につき書面による記録を欲する。使用言語、標題や表現技術面でこの目標に沿うことはかなりの困難さを伴う。国際法上、法的な拘束性を持たない一方で、非拘束的な政治手段(non-binding instrument)は重大なモラルや政治的な重みを持ちうる。
このような手段は、米国の国際関係において政治的な取組みを達成するうえでしばしば用いられる。

当該文書が法的に拘束力を持ちうるか否かにつき「曖昧さ(ambiguity)」は避けねばならない。非拘束的な手段を用いた外交交渉時に両国または関係国全部は国際法上法的な拘束力を生じるという相互の了解を確認すべきである。

文書における特定の形式、スタイルおよび言語上の特徴は、国際法のもとでの拘束力のある協定とともにあるべきであるが、一方で純粋に政治的な性格を持つ合意を作り出すという参加国の意図は反映されるべきである。曖昧さを回避するため我々は以下のような一般的なガイダンスを提供する。

①非拘束的な書面の標題に関し、その交渉時において「条約(treaty)」、「協定(agreement)」という用語の使用は避けねばならない。“Memorandum of Understanding”というような標題は非拘束性の外交文書において一般的である一方で、 我々は、あえて当該文書を“Memorandum of Understanding”と呼ぶだけで自動的に合衆国が国際法上当該文書を非拘束性の文書とするということについては警告をならす。合衆国は、我々が国際的に法的に拘束力があると考える“MOU”をこれまで締結しているからである。

②外交交渉時に非拘束性の文書策定において「当事者(Parties)」の用語の使用は避けねばならない。さらに、「参加者(Participants)」というような他の用語の使用を勧奨する。

③策定にあたりとるべき行動に関し、“shall”、“agree”または“undertake”という用語の使用を避けることを勧奨する。多くのケースにおいて、法的に非拘束の文書を作成する際には“should”、“expect”等の用語の使用を強く促してきた。

④さらに交渉時「効力発生(entry in force)」の用語使用は避け、「運用開始(is to come into operation)」や「行動開始(activities are to commence)」という表現の使用を検討する。

⑤交渉時に、「完了した(Done at)」や「結論付けた(Concluded at)」という法律専門用語は避ける。

⑥法的に非拘束的な文書を自国外の異なる言語に翻訳しうるが、非拘束力の文書において異なる言語の文書を同等の信頼性を持つ(equal authenticity)旨の表現や引用はしないよう助言する。

⑦具体的状況にもよるが、国際法上法的な拘束力を持たないという文言を書面上明記した免責条項を挿入することも有益である。

(2)多国間の国際規制強化に関する“MOU”の事例
 2011年5月9日、経済産業省および農林水産省は、証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions:IOSCO)が策定した枠組みである各国証券監督当局間の協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書(Multilateral Memorandum of Understanding concerning Consultation and Cooperation and the Exchange of Information)への署名を行った。マルチMOUへは、現在、アジアや欧米の国・地域から80の市場監督当局が、IOSCOから署名当局となることの承認を受けている。

4.民間企業や団体間における“MOU”の法的問題と実務面の課題
 ここでは逐一解説は加えないが、次のような解説があるので必要に応じ参照されたい。
①ブラジルの民間ビジネスに有用な”MOU”の内容解説「What is a Memorandum of Understanding – MOU」
②オーストラリアのクイーンズランド工科大学が作成した企業間の“MOU”の解説「Guidelines for signing contractual documents and memoranda of understanding」

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(note1)本文で述べたとおり、今回の”MOU”につきオーストラリアの政府内務省サイトは
広く内外に担当大臣名で公表した。この“MOU”の署名者はオーストリアはブレダン・オコナーナ(Brendan O'Connor)内務大臣・法務大臣兼プライバシーおよび情報自由化大臣である。
一方、米国側の署名者は駐豪大使のジェフリー・L・ブライヒ(Jeffrey L. Bleich)である。
 このメデイア記事(cnet.com. au)にリンクしているのは、実際のMOU原本をコピーしたものであろう(最後に両人の署名がなされている)。とすると、このような高度に国家機密に属するもののコピーそのものが出回ること自体、問題になろう。

(note2) 詳しくは、 わが国法務省解説資料「アメリカにおけるDNA型情報により被告人を特定して起訴する取扱いについて」を参照されたい。

(note3)11月23日の深夜(日本時間)に筆者の手元にFBIからDNAプロファイル等に関する解説情報「FBIとDNA:パートⅠ:犯罪解決を支援する全米DNAデータベース・システムのメンテナンス(The FBI and DNA Part 1: Maintaining the Nationwide System that Helps Solve Crimes)」が入った。Q&A形式で分かりやすい内容なので併せて参照されたい。

(note4) 参考までに言うと、 国務省のMOU検索では古いものはピックアップできない。例えば、2008年5月16日にサウジアラビアとの間で署名した「米-サウジアラビアの原子力協定(U.S.-Saudi Arabia Memorandum of Understanding on Nuclear Energy Cooperation)」のリリースは同省の“Archive”でないと見れない。すなわち、2001年1月20日~2009年1月20日の間のリリース・オンライン・データの検索は“Archive”でしか閲覧できないのである。この点は、わが国(例えば、独立行政法人 日本原子力研究開発機構 のMOU記事「核不拡散ニュース No.0090 2008-05/23:2008年5月16日、米国とサウジアラビアは原子力協力に関するMOU(了解覚書)に署名した」でリンクされている国務省サイトをクリックしてみて欲しい)だけでなく米国の関係機関でも徹底されていないためか、リンクできないことが多い。機会があれば国務省の担当官にコメントしたいと考える。

(note5) ここでは詳しく論じないが、国連条約部のMOUの解説は参考になる。

(note6) 法改革委員会(ALRC)の任務の概要をウェブサイトの説明に基づき説明しておく。

1975年に設立され、「1996年法改革委員会法(Australian Law Reform Commission Act 1996)」に基づき運用する連邦機関である。連邦議会に対し責任を負い、司法長官職の一部をなす。司法長官からの各種法分野に関する具申や諮問を受けて広く国民に意見を求め(inquiries)また独自に意見をまとめる。ALRCは自身がみずから“inquiries”を行うことはできないが、政府から独立した機関として調査、協議や法政策文書の作成が可能である。
 “inquiries”の目的は、①時代遅れまたは不用な法律の廃止や法の不備を排除する、②法執行や司法施行のための新たなもしくはより効率的な手段を助言する、③可能な限り、連邦、州、各地域等の法の調和を保証する、④オーストラリアが国際的に見て最善の法実践を行なうことを保証すべく海外の法システムをモニタリングする、という内容である。

 現在、法改革委員会が取上げている国民への調査質問事項(Inquiries)は「連邦における法体系(National Classification Scheme Review)」と「家族内暴力とオーストリア連邦法(Family violence and Commonwealth laws)」である。

 なお、過去に取上げてきた“inquiries”のテーマは多様なものがあり、わが国で紹介されているものでも次のようなものがある。

 例えば、(1)「人組織法(Human Tissue Act)」に関し、1977年、オーストラリア法改革委員会(the Australian Law Reform Commission-ALRC)は、人体や採取したものの保存や使用、また手術や治療、移植、教育や研究を目的とした臓器や組織の保存や使用について取り組みはじめたのです。ALRCが法案をつくり、これが1983年のヒト組織法(Human Tissue Act)の基本となりました。この法の中では、(1)生きている成人および子どもから提供された組織、(2)献血、(3)死後に採取した組織、(4)検死、(5)組織の売買の禁止などが扱われました。」(「オーストラリアにおけるAID(非配偶者間人工授精)をめぐる法と制度」報告から一部抜粋)。
(2)オーストラリア法改革委員会(Australlian Law Reform Commission: ALRC)は、現行法によるプライバシー保護の有効性について調査を行い、2008 年8 月11 日に報告書を公表している(内閣府 消費者委員会 第3回個人情報保護専門調査会 「個人情報保護の状況に関するヒアリング~諸外国における個人情報保護制度の概要から」から一部抜粋)

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米国・豪政府が2012年末までのオーストラリアでの米軍の兵力配備や共同軍事展開の具体的拡大計画を発表

2011-11-19 08:49:11 | 信頼性の高い情報とは



 筆者の手元に届いた米国国防総省のプレスリリースによると、11月16日オーストラリアの首都キャンベラでオバマ大統領がオーストラリアのジュリア・ギラード首相(Prime Minister Julia Gillard)とで行った協議の結果を踏まえた共同記者会見等で、新たな兵力配備を含む両国の軍事協力強化の具体的内容を明らかにした。

 この問題について、公式にはホワイトハウスの報道官室(Office of the Press Secretary)のリリースホワイトハウス・ブログが報じており、その中では公式共同声明や国防総省とリンクさせている。
 一方、オーストラリア政府やメディアはこの問題をどのように報じているのであろうか。

 今回のブログは、それらの両国のこれまでの交渉経緯や報道内容を比較、整理するとともに米国の太平洋軍事戦力の課題を垣間見たいと考えまとめた。

 なお、11月18日午後、筆者の手元に米国大使館レファレンス資料室から届いた「最新の米国政策情報」には、16日のギラード首相とオバマ大統領の公式共同声明のほか、11月17日のオバマ大統領の豪連邦議会でのスピーチのURLも紹介されている。

1.ホワイトハウスの報道官室のリリース(Prime Minister Gillard and President Obama Announce Force Posture Initiatives」)内容
 以下の通り仮訳する。
・本日、ギラード首相とオバマ大統領は、オーストラリアとアメリカ合衆国(米国)間の防衛問題の協力関係の重要な強化するであろう新たな2つの兵力配備戦略(force posture initiative)につき発表する。

・両国は「ANZUS軍事同盟(ANZUS Alliance)」(note1)の60周年記念を迎え、これらの戦略はアジア太平洋地域における安定性や平和の頼みの綱(anchor)としてすでに強靭なパートナーシップを強化してきた。これら戦略は、両国の地域の安全保障を強化する永続的かつ目に見えるかたちでの取組みを反映し、オーストラリアと米国の軍隊の相互運用性を拡大させることとなろう。

・2012年に約6か月にわたる具体的な展開が始まるが、オーストラリアはダーウィン(Dawin)と北オーストラリアにおける米軍の展開を歓迎することになり、そこではオーストラリア国防軍(Australian Defence Force)(note 2)と輪番の演習や軍事教育・訓練を行うことになる。その初期の展開は小規模の連絡部隊(liaison element)と海軍の250人程度の中隊(company)からなるものとなる。2012年中の目標は最大2,500人のアメリカ海兵隊の海兵空陸任務部隊(Marine Air & Ground Task Force:MAGTF)を輪番駐屯させることである。
 米国海軍は、ノーザンテリトリー準州でオーストラリア国防軍の輪番基地で教育・訓練(train)や演習(exercise)を行う予定である。
 
・また、両国の首脳は北オーストラリア上空を通過する米国航空機数の増加をもたらすオーストラリア空軍(Royal Australian Air Force)と米国空軍(U.S.Air Force)の緊密な協力関係に同意した。このことは、合同教育・訓練や演習にとって双方の共同作業の機能を向上させるとともに大きな機会を提供させる。これらのオーストラリアの施設を利用する共同戦略は、米国のより地理的配分の追及を目的とするアジア太平洋地域の兵力配備に関する現下の見直しの一部であり、その展開の弾力性や同地域での政治的に持続可能性ある軍事面の存在を確実なものとする。

・これらの両軍は、合同演習を増加させることにより、さらに両者のパートナーとしての能力や相互運用性を深め、両国が共通の利益追求に際し効率的には働くことを可能にする。

・さらにこれらの戦略は、両国がアジア太平洋地域における様々な偶然性に対する人道支援や災害救助を含む他のパートナー国とともに時宜を得たかつ効果的な対処に寄与することになる。

2.オーストラリア政府サイトやメデイアの報道内容の概要 
(1)首相サイトの報道内容
 内容は前述したホワイトハウスの報道官室の公表内容と同じである。(note3)

(2) 2011年9月15日オーストリア外務大臣サイトが発表した「米豪共同コミュニケ(Australia-United States Ministerial Consultations (AUSMIN) 2011 Joint Communiqué)」の概要

 今回の共同声明と直接関連する部分(第Ⅳ項)のみそ内容を仮訳し、その他については項目のみ挙げておく。
第Ⅰ項 共有する安全保障責務(Shared Security Obligations)
第Ⅱ項 アジア太平洋地区における地域的特徴(Regional trends in the Asia-Pacific Region)
第Ⅲ項 共同で、グローバルな安全保障問題に立ち向かう(Jointly confronting global security issues):個々で取り上げられている問題は、アフガニスタンとパキスタン、中東と北アフリカ、その他地域の国際的開発支援問題である。

第Ⅳ項 米豪同盟関係に基づく協力活動の強化
米国とオーストラリア同盟は、アジア太平洋やその他地域の平和や安定性の頼みの綱になる。アンザス条約(ANZUS Treaty)締結60周年を迎え、両国はさらなる同盟の協力関係、相互運用性およびその能力強化のための手段を承認した。両国は、海洋、宇宙空間、サイバー空間、および今まで例を見ない安全保障への脅威等を懸念する。

〔宇宙空間〕
・我々は宇宙空間の現下の状況の理解と透明性および信頼構築手段の拡大に努力する。
・2008年AUSMINで基本合意した「豪米軍事衛星パートナーシップ(Military Satellite Communications Partnership)」に基づく「豪米統合通信パートナーシップ(U.S.-Auistralia Combined Communcations Partnership)」の開発努力を支援する。(note4)

〔サイバーの脅威〕
 変化し続ける環境の変化に対処できる同盟軍の維持能力の更なる熟考として、我々は次の対処事項を決定した。
・2国および広く国際社会が直面しているサイバーの脅威に取組む。
・サイバー問題に関する2国間の緊密な共同行動を熟考かつ強化する意味で共同声明を支持する。

〔兵力配備〕
 2010年、我々は両国の国家安全保障にとり利益となる方法で望ましい兵力配備の整備のための意見の作成にかかる作業グループを設置した。同作業グループは地域の安全保障問題の環境を具体化する上で支援すべき役割を担う。
両国はともに様々の潜在的共同戦略の観点から、次の点につき、より改良、見直しを行った。
・オーストラリア人の軍事訓練、演習や試射の増強に関する意見
・オーストラリアでの米国装備の事前集積
・オーストラリア軍施設や港の利用拡大に関する意見
・アジア・太平洋地域での共同かつ結集に関する意見
 なお、今回の米豪の合意は共同作業グループの結果として、項目中「兵力配備(Force Posture)」の具体的内容が今回発表されたと筆者は考える。

〔相互運用性〕
 我々は、相互運用性は同盟の顕著な特徴であり、また緊密な同盟の共同行動でますます強固なものとなることを強調する。「国防関連貿易協力に関する条約(Defense Trade Cooperation Treaty)」(note5)の実現はこの協力関係を支持することになろう。我々は、次の項目を決定した。
・両国の軍の相互運用性の強化、すなわち、戦闘、輸送機、ヘリコプター、潜水艦システムおよび魚雷技術に関する共同の取組みに関する問題に関わる。
・我々が取組んでいる最大かつ最も重要なもので成功裡に終わっている「TALISMAN SABER(TALISMAN SABRE)」軍事演習の民間部門の拡大は、相互運用性と紛争終結後の安定化や再建能力の強化に寄与する。

〔弾道ミサイル防衛網(Ballistic Missile Defense:BMD)〕
 弾道ミサイル防衛網の見直し(note6)について、オーストラリアは米国との間で米国がまとめた「弾道ミサイル防衛網の見直し報告書」(同報告書は弾道ミサイル防衛につきアジア・太平洋地域固有の脅威を認めている)の概要に則したBMDへの段階的適用計画の開発につき、協議を継続する。

(3)メディアの反応
 オーストリアのメディアは今回の豪米合意に関し、多くは報じていない。その中で「News.com .au」の報道内容が一般的といえよう。

3.わが国の防衛問題から見た日・米・豪軍事協力関係問題
 前述した9月15日の「米豪共同コミュニケ」に内容を見るだけでも多くの水面下の課題がうかがえる。
 ちなみに「平成23年版防衛白書」におけるこの問題に関する個所を確認した。(note7) 第2章 諸外国の防衛政策など、第7節 オーストラリアで取上げている。その中で、オーストラリアと米国のアフガン、パキスタン問題等を含む軍事同盟や戦略面の共通課題として近年問題視されてきた「宇宙空間の監視」、「サイバーセキュリティ」に関する協力強化に関する合意内容等が解説されている。

 ところで、前述した「米豪共同コミュニケ」の中で両国はアジア太平洋地区における安全保障にかかる地域的特徴とりわけ「対日本」問題をどのように見ているであろうか。
 そのⅡ項として初めに日本を取上げている。その内容は決して具体的ではない。しかし、一語一語の意味を改めて考えると、わが国に関係者としてはその意味を正確に理解しかつ戦略的な意義を考えるべき重要性があると感じた。以下、仮訳しておく。

①東南アジアの平和と安全に関し重要な米国と日本の同盟関係を支援し、オーストラリアと日本の防衛と安全関係をさらに進展させ、またこの3カ国の一層の軍事面の相互運用と訓練の機会を増加させるよう一段と進展させる。
②「3カ国戦略対話(Trilateral Startegic Dialogue)」(note8)や「3カ国安全と防衛にかかる共同フォーラム(Security and Defense Cooperation Forum)」を通じてオーストラリア、日本および米国の地域およびグローバルな問題につき3カ国の政策協調を強化させる。
③日本と東南アジア地域およびグローバルな進展や支援努力を一層強化する。

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(note1) “ANZUS Treaty” (全文:原文)は、「オーストラリア、ニュージーランド、米相互安全保障条約」(Security Treaty between Australia, New Zealand and the United States of America)の略語である。同条約は1952 年4 月29 日に発効した。ニュージーランドが1984 年以来、非核政策を採っていることから、米国が防衛義務を停止した状態が継続している。

(note2)オーストラリアの国防と安全保障全般に関する基本的問題は、在日オーストラリア大使館サイトが説明している。さらに詳しい情報としては、海軍、陸軍および空軍の内容については国防総省サイト軍の戦略的改革問題(The Strategic Reform Program – Making It Happen)>、「2009年防衛白書(Defence White Paper 2009:2009年5月2日公表)」等を参照すべきと考える。
 また、日本との関係から見た分析(前政権であるケヴィン・ラッド(Kevin Michael Rudd )労働党内閣時にまとめられたものである)としては、国立国会図書館(レファレンス 2009. 12) 冨田圭一郎「オーストラリア・ラッド政権の国防戦略と日豪安全保障協力」平成23年版防衛白書(127頁以下)、片原 栄一「米豪同盟関係の動向と今後の課題」(防衛研究所紀要第11 巻第3 号(2009 年3 月))等も参照する必要があろう。

(note3) オーストラリア政府の公表文(Australia-United States Force Posture Initiatives)と本文で仮訳したホワイトハウスの報道官室の公表文を比較すると以下の最終パラグラフはホワイトハウスの報道では抜けている。
“Both leaders reaffirmed that the ANZUS Alliance is one based on the strongest of friendships resulting from shared values. They agreed to continuously explore ways to deepen cooperation and to maintain the vitality of the Alliance in the face of an ever-changing global environment.”
 意図的に抜いたかどうかは不明であるが、筆者としては報道官に別途確認する予定である。このことは外交問題では日常的とは言い切れない重要な問題と考える。

(note4) 筆者は、可能な範囲で「豪米軍事衛星パートナーシップ(Military Satellite Communications Partnership)」や「豪米統合通信パートナーシップ(U.S.-Australia Combined Communications Partnership)」の具体的内容につき米豪の関係機関を調べたが、極めて機密性の高い軍事情報であるのであろうか、内容は確認できなかった。

(note5) 米豪両政府は2007 年9 月、 「国防関連貿易協力に関する条約(U.S.-Australia Treaty on Defence Trade Cooperation)」に調印した。この条約は、ライセンスの取得を必要としない国防関連装備およびサービスの輸出を認めることによって、両国間で装備、技術、情報、サービスの共有およびそれらへのアクセスを拡大させるものであり、米国が現在、この種の協定を締結している国は英国のみである。(前記 片原 栄一「米豪同盟関係の動向と今後の課題」から一部抜粋)
 なお、ここで引用されている英国と米国の条約とは2007年6月21日に公表した「米英国防関連貿易協力に関する条約(Treaty Between The Government of The United States of America and The Government of The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland Concerning Defense Trade Cooperation)」をいう。

(note6) 米国の「弾道ミサイル防衛網の見直し」については、わが国では首相官邸:新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会(第4回)資料2「米国の安全保障戦略と日米同盟」(防衛省作成)の項目2「米国の安全保障戦略」の中の「米国の弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)報告書の概要」にある程度説明されている。しかし、その概要だけではこれだけ重要な国防問題につき、正確な理解は期しがたい。
 
 ここでは網羅できないが、国防総省サイトから米国の防衛問題を理解する上でのキー情報となる4分野を整理し、そのHPと各報告書のURLをまとめておく。
(1) 国防計画の見直し(4年毎)(Quadrennial Defense Review:QDR)のHP
2010年2月公表「2010年国防計画見直し報告書(Quadrennial Defense Review Report)」(全128頁) 
(2) 核配備態勢の見直し(Nuclear Posture Review :NPR)のHP
2010年4月公表「2010年核配備態勢の見直し報告書(Nuclear Posture Review Report)」(全72頁)
(3) 弾道ミサイル防衛網の見直し(Ballistic Missile Defense Review :BMDR)
2010年2月「弾道ミサイル防衛網の見直し報告書(Ballistic Missile Defense Review Report)」(全61頁)
(4) 宇宙配備態勢の見直し(Space Posture Review:SPR)
 なお、この分野の報告書はない。

(note7)筆者としてはそもそも“AUSMIN”や“ANZUS”に関する正確な理解という観点からキーワード検索を行った。防衛白書自体にキーワード検索機能があるが、“AUSMIN”や“ANZUS”では検索できない。Goggleの検索で行うと白書の該当個所が出てくるが、白書のどの部分でとりあげられているのか、全体の構成が理解できない。ちなみに筆者が行った調査結果に基づき手順を追って説明しておく。
①「平成23年版防衛白書のHP」を開く→②第Ⅰ部 わが国を取り巻く安全保障環境→③第2章 諸外国の防衛政策など→④第7節 オーストラリア→⑤3 対外関係
 以上のプロセスを行ってやっと“AUSMIN”や“ANZUS”の説明にたどり着くのである。

(note8) 3カ国戦略対話(Trilateral Strategic Dialogue:STD)や「3カ国安全と防衛にかかる共同フォーラム(Security and Defense Cooperation Forum )」の正確な定義は外務省のサイトでも明記されていない。“STD”に関しては、在日オーストリア大使館のサイトで見る限り2009年9月に行われた対話が最新である。その際の共同声明は確認できる。


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米国連邦議会の米中経済安全保障調査委員会「2010年次報告書」の“Executive Summary”等を正確に読もう

2011-11-17 16:34:17 | 信頼性の高い情報とは



 去る11月15日付けのブログで「米国が取組むハワイAPEC首脳会議およびTPP参加国の共同声明の内容を正確に理解するには」を取上げた。
 本日(日本時間)午後に同大使館レファレンス資料室等から、(1)標記委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission)の年次報告(2010 Report to Congress)、(2)同委員会の委員長の声明、に関するURL情報が手元に届いた。

 その前文で、経済面では増大する中国の国有企業の影響や知的所有権の侵害、技術移転の問題などについて、また安全保障面では中国の軍の近代化、領域支配、宇宙戦略などについて焦点が当てられていると記されている。

 時間の関係でとりあえず筆者なりに要旨部分(12頁)を斜め読みした。そこで感じた点はわが国のメデイア
(note)が報じているより、貿易、経済・通貨問題や環境問題、インターネットや情報統制問題等ずっと幅広く中国問題を取り上げている点である。

 本報告書で特に重要かつコアとなる部分は本文271頁以下、要旨では最後11頁以下で言及している「45」の勧告内容である。わが国のテレビ等のメディアは中国によるサイバー攻撃や宇宙の軍事利用、さらに東シナ海や南シナ海での紛争時の先制攻撃等への対抗の必要性などが特に強調され過ぎていると感じた。

 時間の関係で本ブログでは要旨の項目のみ挙げることとしたが、関係者は要旨の全文や本文の勧告項目の内容ならびに関係項目につき吟味した読み方を実践して欲しい。


1.標記委員会の年次報告(2010 Report to Congress)のURL
 同委員会のHPでは報告書の要旨や各章や節ごとに読むことができる。

2. 同委員会の委員長の声明
 全部で3頁ものであり、その要旨は簡潔である。

3.報告書「要旨」部分の項目一覧
(1)Overall Assessment of U.S.-China Economic and Security relations

(2) Key Conclusions and Recommendations

(3) The U.S.-China Trade and Economic Relationship

(4) China’s Activities Directly Affecting U.S. Security Interests

(5) China in Asia

(6) China’s Green Energy Policies and Efforts to Promote Alternative Energy Sectors

(7) China and the Internet

(8) Information Control

(9) The Commission’s Key Recommendations
 全45の勧告項目のうち重要な10項目が列記されている。

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(note)一例であるが訳語が明らかに誤っているメディアがあった。例えば16日の日経新聞ネット版である。同委員会の名称を「米中経済安全保障再考委員会」と訳している。“review” の意味を明らかに誤訳しているし、誤解を招くもとである。米国大使館員も読んで噴出したのではないか。


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オーストラリア“Scamwatch”がソーシャルネットワーキングを介したギフト券や商品頒布詐欺被害の警告

2011-11-08 14:50:51 | 信頼性の高い情報とは



 本ブログが、しばしば取上げてきたオーストラリア政府詐欺対策専門サイト“Scamwatch”は本年11月、ソーシャルネットワーキングを介したギフト券や商品頒布にかかる詐欺行為被害阻止に向けた警告を行った。

 今回のブログは、その詐欺の手口の解析と詐欺被害予防策について警告文に基づき簡単に解説する。


1.詐欺の手口
・あなたはフェイスブックやツイッター等のソーシャルネットワーク・サイトで無料のギフト券や製品プレゼントの投稿を見るであろう。

・最近見られた詐欺の例では、スーパーマーケット(note)や喫茶店に関する偽の割引券(vouchers)があった。また、スマートフォンやタブレット端末、さらにラップトップPCの提供をうたうものがあった。

・この手の詐欺は、被害者はこの勧誘を本物にみせるため有名な会社や商品ブランド名やロゴを使用する。

・あなたが、割引券や商品の申し込みするため初めにフェイスブックのページで“Like”ボタンを押すと友達と詐欺の共有や詐欺アンケート調査を完成させる手順に入る。すなわち、詐欺調査の次の段階は詐欺師がなりすまし詐欺を実行するために詳細な個人情報を求めてくる。

・いったんあなたが詐欺の犠牲者になると、絶対にあなたは割引券や商品を受け取ることはない。あなたが「オンライン・割引券」を印刷しても何の価値もない紙切れとなる。

・この手のより詐欺内容のより洗練されたものでは、リンクにクリックするだけであなたのソーシャルメディア・アカウントはハイジャックされるか、信用を失うことになる。詐欺師は、このハイジャックされたアカウントを使ってより多くの詐欺を行うことになる。

・同様な詐欺はフェイスブック以外のオンライ詐欺調査にリンクする電子メールでも行われている。

2.詐欺から自身を守るための手段
・あなたの友人といえども、ソーシャルネットワーク・サイト上の疑わしいリンクは行わないことである。申出の内容がうますぎると思ええたらそれはおそらく詐欺の誘いということを覚えておくべきである。

・ソーシャルネットワーキング・ポストやページにリンクされたアンケート調査に記入するときは極めて用心深く行うことである。詐欺師はあなたの貴重な個人情報を盗み取るために一般的にこの手を使うのである。

・もし、この種の無料サービスの申出の信憑性ついて疑いがあるときは、それが本物であることを確認するためサービス発行者の「公式の顧客サービス照会電話番号(official customer service number)」を使って発行会社に連絡すべきである。
 また、あなたは多くのソーシャルメデイア詐欺を特定、確認するため申出に使われた言葉を用いてインターネット上で検索することが出来る。

・個人情報はあくまで自身で守るべきである。ソーシャルネットワーキング・サイトでは、どのような情報を誰と共有しているか、誰が掲示できるか、また友人以外の誰がその内容を見れるか等について慎重に考えるべきである。

・オンラインソーシャル・ネットワークのプロフィール内容は個人的に管理が出来る形で設定すべきである。アカウントとの内容は決して公表せずに、かつ定期的にあなたのパソコンのセキュリティ・ソフトを更新すべきである。

・強度に設定した暗証でアカウントを保護するとともに定期的に変更すべきである。各ソーシャルネットワーキングの暗証には異なるものを使い、仮に漏洩したときでもその全部が危険にさらされないように配意する。

(note) 2011年11月初めにオーストラリアの大手スーパー「コールス(coles)」がホームページ上で消費者に次のような警告を行っている。
「昨夜、フェイスブックに電子メールによって配信された「コールスのための無料の500ドルのギフトカード」とのリンクが発見されました。コールスはいたずらでこのウェブサイトを作ってもいないし、擁護しないことに注意してください。この件は当社にクレーム等が来るとすぐに、私たちは、ホームページ上で警告を出しました。顧客のうちの数人がこのサイトを誤解してしまったことを、私たちは非常に残念に思います。
また、私たちはこの件を「連邦競争・消費者委員会(ACCC)」の“SCAMwatch”サイトを報告しました。しかしながら、もしあなたが個人の詳細情報(クレジットカード情報を含む)を詐欺師に提供しているという疑いがあれば、一層の助言を求めるためにあなたの取引銀行や金融機関とできるだけ早く接触するように勧奨します。」


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英国は日本の電力各社や政府の原子力問題慎重化によりMOX燃料製造工場の閉鎖を決定

2011-08-05 12:45:44 | 信頼性の高い情報とは


 8月4日付けでわが国メディアは、NDA(英国原子力廃止措置機関:Nuclear Decommissioning Authority)がセラフィールドのモックス燃料工場を今後数ヶ月後に閉鎖する旨を発表したと報じた。

 筆者は本年4月19日の本ブログで、英国インディペンデント紙が英国のイングランドのカンブリアにあるセラフィールド再処理施設(Sellafield site)で格納されている約60億ポンド(約8,280億円)に上る世界最大量のプルトニウム廃棄物(plutonium waste)の振り分け計画や再処理工場の今後に関し、日本の電力会社の放射能問題の慎重さにより脅かされている旨の4月11日付け記事を紹介した。

 今回、英国政府の機関であるNDA(4月19日ブログの(note3)参照)が同工場の閉鎖決定を行った背景には、(1)わが国の原子力エネルギー政策上重要な点は、2010年5月13日わが国の電力10社は英国で回収されるプルトニウムの将来のMOX燃料加工に関する全体的な枠組みの合意について」(note1)を締結したにもかかわらず、約半年後の2010年12月6日、中部電力は「浜岡原子力発電所4号機におけるプルサーマル計画の延期について」を公表した点、(2)英国がまさに日本の市場向けに莫大な投資をもって開発した同工場の今後に対する財政面の危機感をいかに取扱うかという問題が政治的な問題としてあげられる。

 今回のブログは、工場閉鎖問題だけでなく、英国の原子力政策(note2)そのものにかかわる動向をNDAの声明内容そのものやインディペンデント紙の記事等をもとに紹介するものである。


1.NDAの声明の概要
 8月3日に公表されたものである。従業員に対する雇用面の内容が中心で政府の原子力政策の今後を占うものではないが、その背景にあるNDAの今後の経営戦略を垣間見ることは出来よう。

「2010年4月、セラフィールド再処理工場(Sellafield MOX Plant:SMP)に関する民間ベースの契約が整った以降、NDAは運用の工場ならびに投資金額に見合う価値を生み出すよう納税者たる国民にかわり、そのモニタリングを保証してきた。DNAの主たる任務は運用コストの最小化により納税者の負担を減らすべくビジネスとしての経営を監督することである。

 NDAは日本の利用電力会社とともに取組むとともに、3月の巨大地震以降、日本の核エネルギー産業への影響の観点から見たSMPの今後ならびにSMP計画と関連する民間契約の好ましい結果等について見直してきた。

 NDAの役員会は、目下、日本の大地震およびその後の出来事による潜在的遅延に基づく商業ベースの各種リスクの軽減について調査した結果、英国の納税者が将来の財政負担を負わないことを保証するには最も早い時期にSMPを閉鎖することが唯一の合理的な方法であると結論付けた。

 SMPの閉鎖はSMPの業績向上に努めてきた従業員を反映したものではない。NDAはセラフィールド社とともに今回の決定につき雇用への影響を最小化するために緊密に協力し、今後数年間で策定予定の新セラフィールド計画において配置転換の可能性等を検討している。

 NDAAは今後、日本のプルトニウムの国際的に見た安全な保管、これらのエネルギー資源の再使用に関し日本の発電所政策を支援すべく責任を持ったかたちで日本の利用企業と議論を煮詰める予定である。

 今回のNDAの閉鎖決定はSMP工場だけの問題であり、別途政府と英国におけるモックス燃料の再使用およびプルトニウムの備蓄問題について協議をすすめている。」

2.インディペンデント紙他のメデイア情報
 セラフィールドのモックス燃料加工工場の閉鎖が7月25日に決定された。これにより約600の従業員(note3)の職が失われる。今回の工場閉鎖は直接的には日本の福島原発事故であり、世界中上において原子力産業が閉鎖や再考が引き起きた。しかし、このような動きは英国の新原子力発電政策とはかかわりあいはない。

 同工場の従業員は、7月25日朝にセラフィールドの複合施設の他の事業分野においてかなりの範囲で再雇用される旨説明を受けた。完全に工場が閉鎖されるまでは数週間かかる。

 1990年代の初めに西カンブリアのモックス燃料加工工場に国民の税金を14億ポンド(約1,764億円)つぎ込んできた。同工場は英国政府が所有するNDAが運営するもので福島原発を含む日本の電力会社を主要顧客として民間契約(commercial arrangements)等にもとづき1996年に設立され、2001年に操業を開始した。

 NDAは今回の閉鎖についてTHORP再処理工場事故(2005年4月19日に起きたもので前処理施設で放射性溶液の漏えい(INES)が発見され、操業を停止した)の影響は否定した。しかしTHORP工場はプルトニウムやウラニウムからなるモックス燃料を製造している。
 NDAの最高経営責任者であるトニー・ファウンテン(Tony Fountain)は7月25日に従業員に対し、「今回の工場閉鎖の理由は直接的には日本で起きた津波や現在続いているエネルギー市場への影響であるが、その結果我々はこの工場の顧客や資金源を持たなくなった」と説明した。

 ファウンテンは、同工場は納税者等から長年にわたり能力不足問題が指摘されてきた点を認めた。また、近年の同工場を存続させる試みとして日本の電力会社による核燃料の再利用ならびに英国の優れた研究拠点への支援を検討していたが、日本の原子力産業の危機によりこの路線計画はもはや現実的でなくなった。

 中部電力が所有する浜岡原発は最初のモックス燃料の引き受け手となる予定であったが、現在は大規模な補強工事のため閉鎖中であり、またモックス工場の製造物の50%の引き受けを予定していた東京電力はまさに最も困難な課題に直面している。日本の原子力産業は福島原発事故後においての回復しそうもないことは明らかとなったことから、同の工場の未来計画についてはこの数ヶ月停滞したままである。

 NDAは、セラフィールドのモックス燃料加工工場(SMP)による将来の納税者の経済負担を回避するには早い時期に工場の閉鎖を実行することが唯一の合理的な選択肢であると結論付けた。

 英国政府は、セラフィールド工場の閉鎖は英国において計画中の数箇所の新原発の建設には影響しないと主張している。このような新たなモックス再処理工場の建設はその莫大な費用と非経済性等から見て好ましくないことは明らかである。

 しかし、最近時の政府の諮問でも原子力産業の専門家が電力会社がモックス工場の建設を望まないと指摘しているにもかかわらず、新たなモックス利用型の工場の建設案を提示したままである。

 別の疑問としてNDAがセラフィールド・モックス工場の閉鎖と同時にTHORP再処理工場を閉鎖するであろうかという問題である。NDAはTHORP再処理工場の閉鎖についてはTHORP再処理工場は他の核廃棄物からプルトニウムを製造するもので2つの工場の問題は無関係であると述べている。

 しかしながら、THORP再処理工場はセラフィールド・モックス工場と同じ前提すなわち原子炉で使用される再処理燃料の市場ニーズがあるというものであった。その市場とは日本が唯一でかつ極めて小さな市場であり、日本の原子力産業の終焉により完全に市場を閉鎖された。

 英国政府が計画している新たな原子炉工場として「フランス電力公社(EDF)」(note4)やドイツの「ライン・ヴェストファーレン電力会社(Rheinisch-Westfälisches Elektrizitätswerk AG:RWE)」(note5)等のEU各国の電力会社が英国内に計画しているものはモックスやプルトニウムは使用しない。
 この英国内で政府が燃料としてモックスを使用する別の工場を建設するという政府案について、原子力専門家は極めて懐疑的である。モックス処理工場について数10億ポンドの税金を投入してもその製品価値はほとんどかまったく市場を持たない「無用の長物(another white elephant)」となろう。(以下、省略)

(note1) わが国のメディアが報じている日本の電力会社10社とモックス燃料製造工場やNDAとの将来の使用済燃料の利用とモックス燃料製造に関する大枠の合意をさす。

(note2)「 イギリスでは、当初、軍事用プルトニウムの生産を目的に再処理開発を始めたが、その後、民間原子力発電計画に基づき発生する使用済み燃料の処理、再処理施設を持たない国に対しての再処理請負へと転換してきた。イギリスにおける最初の産業規模の使用済燃料の再処理施設として、1952年にウインズケール(後に「セラフィールド」と改称)にマグノックス炉の使用済燃料の再処理工場が運転を開始した(1960年代から運転し30,000トン以上の処理実績を持つ)。さらに同サイトに改良型ガス炉(AGR)およびドイツ、日本等海外からの受託軽水炉使用済燃料の処理を目的に酸化物燃料用の大型工場(THORP)を建設し、1992年2月に建設工事完了、1994年3月に試験操業を開始、1997年8月に全運転許可証を得た。2005年4月1日から、原子力エネルギー法の改正により、施設の運営責任は従来通りBNFL内の廃止措置部門BNGにあるものの、原子力デコミッショニング機構(NDA)にマグノックス炉の廃止措置、THORP再処理工場、MOX加工工場(SMP)、廃棄物工場、などの資産と施設の廃止にかかる費用、廃棄物管理に関する費用などの債務処理が移管されている。」 (財)高度情報科学技術研究機構のサイト「セラフィールド再処理工場の技術開発と現状 (14-05-01-17)」から一部抜粋引用。

(note3)8月5日朝日新聞朝刊の記事は800人が解雇とあるが600人の誤りである。

(note4)フランス電力公社の活動概要については社団法人「海外電力調査会」の解説等が分かりやすい。

(note5) RWEなどドイツの電気事業および原子力産業の解説は(財)高度情報科学技術研究機構の説明に詳しい。

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