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スコットランド議会の法務小委員会が警察の「サイバー・キオスク」本格投入を一時停止するよう求める報告書を公表

2019-04-15 14:11:17 | メディアを越える最新情報

 4月8日のスコットランド議会ニュースが筆者の手元に届いた。その内容は、スコットランド議会の「警察活動に関する法務小委員会(Justice Sub-Committee on Policing)」のメンバーは、4月8日の新しい報告書で使用の法的枠組み等がより明確になるまで、スコットランド警察に「サイバー・キオスク(cyber-kiosk)」または「デジタル・トリアージ端末装置(dgital triage devices)」(緊急時フォレンジック情報収集機器システム)の展開・拡大を中止するよう求めた、というものである。

 なお、「サイバー・キオスク」は、警察が暗号化を回避しつつ携帯電話やラップトップなどのデジタル機器から個人データをすばやく読み取ることを可能にするラップトップサイズの機器である。

 筆者が最も気になった点は、(1)サイバー・キオスクの具体的な機能はいかなるものか、(2)その機能は本当に検証できたのか、端末機器にある情報やクラウド・ファンディング・アカウント内に保持されているデータや、連結中の第三者の使用する機器の内容まで捜査することが技術的に本当に可能なのか、(3)捜査手続法などの観点からみた法的問題はいかなるものか、(4)プライバシー等人権保護面から問題はいかなるものか、等である。

 このような問題意識をあらためてBBC等英国メディアや人権擁護団体など関係サイトを検索した結果、最終的に行き着いたのはスコットランド議会の「警察活動にかかる法務小委員会」サイトが極めて克明に解説していた。

 今回のブログは、まず(1)議会ニュースを仮訳し、(2)同小委員会の報告書サイトのキーとなる部分を抜粋、仮訳する。なお、これら資料で公式に明示されていない情報もあるので適宜筆者の責任で注書等で引用した。

 また、筆者が極めて気になった点であるが、英国の警察体制の在り方にきわめて重要な意義を持つと思われる「SPA」の正確な役割である。わが国ではまともに訳している専門家はいない。筆者なりに試行的な解説を試みた。

 さらに興味を持ったのは「2017年警察および犯罪法( Policing and Crime Act 2017)」に基づく公選による「警察および犯罪コミッショナー(PCC)」「Independent Custody Visitors Association(ICVA)」(PCCおよび警察当局主導のスキームを主導し、支援し、代表するために設立された「内務省」、「警察」および「警察および犯罪コミッショナー(PCC)」が資金提供する会員組織。地元のボランティアは、警察の拘留中に拘留中の被拘禁者の権利、資格、幸福および尊厳を確認するために、警察の監護権を非公式に訪問し、PCCおよび警察署長に報告を求める)等第三者たる統治・監査機関の正確な実態の理解である。ただし、これらにつき、わが国では本格的に論じたものは皆無であり、あらためて取りまとめることとしたい。

 なお、筆者が調べた範囲では、4月14日の18時現在で「サイバー・キオスク」に関するわが国の解説ブログは皆無であった。

 1.議会ニュースの仮訳

 現在、スコットランド警察は2018年の秋からスコットランド全域の警察署に展開することを意図していて、これらの機器を計41台購入した。(note1)しかし、法的根拠についての明確さの欠如のために警察はそれらを本格的に使用できなかった。その懸念は、2018年5月からサイバー・キオスクを調査している、「警察活動にかかる法務小委員会」によって行われた精査を通じて広範囲にカバーされてきた。 

 小委員会は新しい報告書で、「スコットランド警察業務・近代化局(Scottish Police Authority:SPA)」(note2)は効果的な精査と監視の欠如であると批判しており、スコットランド警察はコットランド全土での使用を広めるためには、これらの機器を試験的に使用する前にベストプラクティスに従わないことを決定している。

 実際の試用(traials)では、エジンバラとスターリングの2警察署では、必要な統治(governance)、精査(scrutiny)、影響評価(impact assessments)を行わずに、容疑者、目撃者、被害者の携帯電話を捜索した電話が押収され検索された公衆のメンバーは、彼らの電話が裁判の一部としてサイバー・キオスクを使用して検索されることになっていることに気づかず、同意を与える選択肢も与えられなかった。

 小委員会は、またスコットランド政府にその調査結果を検討し、「サイバー・キオスク」の法的立場を明確にするよう求める。

 報告が公表されたときに併せ、小委員会の委員長である John Finnie MSPは以下のとおり述べた。

 「小委員会は、デジタル犯罪に効果的に取り組むために変革するというスコットランド警察の野心を100%支持する。ただし、警察活動目的で使用される新しい技術を導入する前に、メリットとリスクの両方の評価を実行しておく必要がある。

 本格導入予定のサイバーキオスクに関連して、スコットランド警察によってSPAに提示されたのは利点のみで、既知のリスクは提供されていないようである。 SPAは、その一部として、きわめて重要でないアセスメントで提供された情報を受け入れたようである。

 このテクノロジを使用するための法的根拠など、最も基本的な問題でさえも、見過ごされがちである。

 この準標準的なプロセスにより、50万ポンド(約7,300万円)以上の機器が集まり、ほこりがたまっている。 

 明らかに、これは受け入れられない状況である。小委員会はスコットランド政府と協力し、この新技術の使用に必要な保護手段を提供する解決策を見つけるためにサイバーキオスクを導入することの影響を検討するために遅滞なく集まった関係者グループと協力したいと考えている。 

 小委員会は、デジタル犯罪に効果的に取り組むために変革するというスコットランド警察の野心を完全に支持する。ただし、警察目的で使用される新しいテクノロジを導入する前に、メリットとリスクの両方の評価を実行しておく必要がある。 」

 さらにフィニー議員は、以下のとおり付け加えた。 

 「サイバー・キオスクの試用に関連した出来事は過去のものであるが、小委員会は、この技術が人権、平等または地域社会への影響度評価、データ保護またはセキュリティ評価なしに現場の官吏によって使用されたことおよび公的広報キャンペーンが欠落したままであることを懸念し続ける。このようなアプローチは、スコットランドの警察の評判にとって有害であり、そしてこれによって影響を受けた被害者、目撃者、または容疑者にとって非常に深刻なものとなる可能性がある。今後のあらゆる試用は、より慎重な注意と予見を伴って、はるかに高い水準で実行されなければならない。」

2.スコットランド議会の警察活動にかかる小委員会報告

 報告書の本文の重要部分を抜粋、仮訳する。

(1) はじめに

①スコットランド議会の警察活動の法務小委員会は、2018年9月からスコットランド全域でモバイル機器を捜査するために「緊急時フォレンジック情報収集機器システム(口語的には「サイバー・キオスク」として知られている)」の使用を導入するというスコットランド警察の意向について調査を行った。この調査の付託事項は、 エジンバラ署とスターリング署での2回にわたる最前線の警察官によるサイバーキオスクの試用の精査結果も含まれていた。

② 小委員会は2018年5月10日に調査を開始したが、この問題を精査する計5回の証拠セッションを開催し、2019年1月31日に終了した。それはスコットランド警察の新技術の導入について非常に貴重である主要な利害関係者からの多数の書面による提出を受けた。 

(2) デジタル機器トリアージ・システム/サイバー・キオスク

③ 過去25年間で、現代の電子無線デジタル機器はスコットランド社会では当たり前のものとなっている。その結果、サイバー犯罪の捜査、およびIT機器のデジタルフォレンジック捜査は、スコットランドの警察によって行われる犯罪捜査の中心的部分となっている。

④ 英国各地の警察は、犯罪捜査の一環として、PCや携帯電話などの最新のデジタル機器に保存されているさまざまな形式のデータを捜査および復元するために、さまざまな専用ソフトウェア・ツールを使用している。その結果として、最新のデジタルおよびICT戦略を開発することは、21世紀の警察活動の中核要素となっている。

⑤ サイバー・キオスクは、外見は小型のラップトップPCのように見え、携帯電話、タブレット/サーフェスデバイスなどのさまざまなデジタルデバイスに保持されている電子データを画像化(imaging)イメージングまたは抽出するように設計されているソフトウェア・システムである。警察などのような第三者による解析を可能とする。サイバー・キオスクは、近代的な警備の一環として英国の一部の警察で使用されているより広範なデジタルフォレンジックシステムの一部を形成している。

⑥ 過去20年にわたり、警察が一般の人々と行っていた日常的なやりとりの大多数は、携帯電話やタブレットなどのデジタル機器を扱うことを伴う。警察が犯罪を捜査するときにそのような機器に保存されたデータにアクセスする必要があるかもしれない、または警察がそのような機器を保持する必要があるだろう理由はさまざまである。

⑦ 携帯電話のようなデジタル機器は通常、パスワードやデータ暗号化などのセキュリティ機能を備えており、機器の所有者以外の誰かがその機器に保存されているデータにアクセスすることを防ぐ。サイバー・キオスクを使用すると、警察サービスはパスワードの使用を回避できるとともに、ロックや暗号化セキュリティを克服して、モバイルデバイスに保存されているデータに直接アクセスできる。そのデータとは、バイオメトリック・データなどの広範囲のもの、およびクラウドベースのサーバー・アカウントに保持されている情報など、デバイスの外部に保存されているデータである。

⑧ サイバー・キオスクを使用すると、警察サービスは、個人に関する大量の個人データおよび個人データさらにはデバイスの所有者と接続している可能性のある第三者に関するデータにもアクセスできる。

⑨ スコットランド警察は2018年秋にスコットランド中でそれらの使用を展開するつもりで2018年4月に41台のCellebrite(note3)サイバー・キオスクを購入した。Cellebriteサイバー・キオスクはモバイルデバイス上のすべてのデータのイメージを撮ることができるデスクトップ・パソコンである。データを抽出して保存する。デバイス上のデータを検索するための検索パラメータを挿入できる。サイバー・キオスクは、モバイルデバイスに保存されているデータを変更または削除することはできない。

⑩ 小委員会の調査中、利害関係者は、サイバー・キオスクの導入の提案、その使用の法的根拠および人権とデータ保護の評価が行われているかどうかなど、いくつかの懸念を表明した。

⑪. これらの懸念に応えて、スコットランド警察は、9月から10月、11月、そして2018年12月までの間、現場の役員へのサイバー・キオスクの配備を延期しました。同意による合法性および取り締まりの問題が解決されるまで、キオスクは配置されない。

小委員会によるサイバー・キオスク計画の精査は進行中であるが、この問題を検討し始めてからほぼ1年が経過したことを認識している。したがって、議会への報告として、これまでに集めた証拠をまとめることには価値があると考える。小委員会の報告を発表した時点では、サイバー・キオスクはスコットランド警察によって導入されていなかった。

⑬ この報告書は、小委員会によるこの提案の精査、その精査中に提起された問題、そしてこの新しい技術の提案された導入に関する現時点での我々の見解を詳述している。小委員会は、この問題を引き続き検討する予定である。

(3)警察活動の法務小委員会報告の補足

 警察活動の法務小委員会は2018年5月から2019年1月までの間、5回の証拠セッションを開催した。ここでは、警察官のためのサイバー・キオスクの使用を導入するというスコットランド警察の提案の問題が検討された。証拠セッションの詳細は附属書Aにある。また小委員会は、附属書Bに詳述されている多くの書面による証拠の提出を受けた。小委員会は、この問題の精査のために口頭および書面による証拠を提供してくださったすべての人々に感謝する。

 証拠セッションを通じて、小委員会は、2つの別々の試行でのスコットランド警察のこの新技術の使用についての懸念、すなわち裁判を実施し、スコットランド全域の最前線の警察官による使用のためのサイバー・キオスク購入の決定の監視について懸念を聞いた。モバイルデバイスの捕捉と検索の基本的人権、プライバシー、データ保護とセキュリティの問題、およびインフォームド・コンセントなどの問題はこの報告書内で考慮されている。

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(note1)フィニー議員のコメントのとおり、41台の購入費用は全部で50万ポンド(約7,300万円)である。1台178万円を安いとみるか、高いとみるかは人によって異なろう。機能と比較。検証結果次第であろう。

(note2) Scottish Police Authority (SPA)ついてはわが国では決まった訳語がない。あえて言えば以下の内容などからみて「警察業務・近代化局」であろう

したがって、SPAのウェブサイトなどからその主要な点を引用する。

スコットランドの警察管理者は、イングランドおよびウェールズとは異なり、議員のみで構成されていた。1996年4月より、警察管理者の業務は、新しいスコットランド議会(Unitary Council)に統一された。そして警察機関についても、「2012年スコットランド警察・消防再編法( Police and Fire Reform (Scotland) Act 2012)」に基づき、2013年4月より、スコットランド政府機関の1つとして警察として一本化され、「スコットランド警察業務・近代化局(SPA)」を設立し、以下のとおりその5つの中核的機能を定めた。SPAのウェブサイトの主要部を仮.訳する。なお、委員会のメンバーの写真)は筆者独自にリンクさせた。

① 警察サービスを維持すること。

② 2012年法に定められた規制原則を推進すること。

③ スコットランドの警察活動の継続的改善を促進し支援すること。

④ スコットランドの警察活動を見直し続ける。

⑤ スコットランドの警察活動を説明するために警察本部長(Chief Constable)を支援する。 

 これら5つの機能は、SPAの2つの統合された責任すなわちスコットランドでの警察活動の精査および警察本部長の説明責任におけるその監視の役割ならびに警察サービスの維持と改善におけるその支援的役割を示している。またSPAは、スコットランドにおけるフォレンジック・サービスの管理および提供にも責任を負う。

 SPAは、スコットランドがその機能を果たす方法において、またそのガバナンスの取り決めの質を通じて、スコットランドの警察に対する信頼と信頼を高めることを目的としている。 SPAのガバナンスフレームワークは、公益のために警察が従うことを目指す価値を定めている。

•公平性 - 誠実さを保ち、偏りのない、現実の、または認識されていない独立した方法で行動する。

•オープンネス - オープンで透明な方法で行動し、最善の実践内容を推進し、共有する。

•説明責任 - それが行う決定、その機能の実行、および公的資金の使用方法について完全な説明責任を負う。 

【SPAの基本情報】仮訳

 スコットランド警察をサポート、監督し、支援するために、政府による国家組織として2013年に設立された。

② 年間予算が12億ポンド(約1,752億円)と英国で2番目に大きな警察サービス22,000名以上警察官と職員の労働力保持に責任を持つ。 

③ 主な機能は、人、場所や地域社会の安全と福祉を向上させるために、レビューを維持し、スコットランドでの警察活動の重要な目的を促進しながら考慮してスコットランド警察を維持することである。 

④ 警察の上級幹部(本部長補(Assistant Chief Constable (ACC)以上)を募集し、上級幹部に関連する苦情や行動の問題を評価する義務を持つ警察の従業員の雇用者として責任を負う。

⑤ SPAは、スコットランドの大臣によって選任された最大15名の非法執行の警察外公的指名委員会(Board)によって全体が管理される。

⑥ 委員会メンバーは、必要とされる職歴や経験の範囲を持っており、委員長からのより重要なコミットメントと毎月の時間のコミットメントの1カ月に最大5日間その任務にあたり報酬を受ける。

⑦ SPAは、現在の約40のスタッフで構成された組織運営チームによってサポートされている。 

 SPAは、組織の能力と能力を強化するための組織的な改善と再編の計画に着手した。 

⑨ SPAの最高経営責任者は、委員会への主な顧問であるとともに11億ポンド(約1,640億円)警察予算のために議会に対する説明責任役員である。 

⑩ SPAはスコットランドの裁判所の450名強の犯罪現場にかかるフォレンジック・サービスを支援し、裁判所にスコットランドのための”Independent Custody Visitors Association(ICVA)”の150名以上の-強力なネットワークを維持する責任。 

 

(note3)サイバ―・キオスクの製造メーカー”Cellebrite”は、サン電子のイスラエル子会社である。日本法人のサイトがあるので、内容を確認したが、機能説明から見てそこに挙げられている製品「Cellebrite UFED」の2種類がスコットランド警察で購入されたものであろう。

 

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