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金型産業の危機は日本のものづくりの危機だ

2010年10月17日 10時33分03秒 | ニュースの感想


金型産業の危機は日本のものづくりの危機だ
中小専業メーカーを追いつめているのは誰か
橋本 久義
http://summit.ismedia.jp/articles/-/355
やや専門的なニュースなのでごく小さくしか報道されなかったが、9月に宮津製作所と富士テクニカの合併が発表された。両社とも、自動車用ボディー金型の専門メーカーだ。

 ボディー金型は自動車の横腹になる鉄板をドスンと成型するものだから、非常に大きい。幅6メートル 奥行4メートル、高さ3メートルほどもある。

 大きな鉄の固まりを自動車のボディーの形に合わせて削って、凸型と凹型を作る。昔は機械の精度が悪かったので、大変だった。フライス盤やシェーパーというような工作機械で削るのだが、ある程度削った後はすべて手作業だった。

 私が通商産業省(経済産業省)で金型担当課長になった当時、某メーカーを見学した際に、作業しておられる方に聞いたら、担当者は「約半年間はこの金型を磨き続けます」と言っておられた。私も20分ほどやらせてもらったが、いくら力を入れてゴシゴシやっても、ちっとも光らない。ものすごい辛抱強さが必要とされる作業だ。

 凸型はまだそれでもいくらか作業がしやすい。大変なのは凹型の方だ。非常に作業しにくい。凸型を磨くの2カ月、凹型を磨くのに3カ月。凸型と凹型のギャップが板の厚さ0.6ミリになるように磨き上げてゆく。

 最近は工作機械の精度が飛躍的に良くなったので、大型の金型も数日で完成するようだが、最後の仕上げは手作業が必要だ。「心を込めて磨き上げた金型から生産されるボディーは輝きが違う」と、社長は胸を張っておられた。

日本の「お家芸」が苦境に陥っている
 かつて自動車用ボディー金型は日本の「お家芸」とも言える分野だった。オギハラ、宮津、富士テクニカが「御三家」と呼ばれ、世界中の金型を作っていた。ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラー、ルノー、プジョー、フォルクスワーゲン、アウディー、メルセデス・・・、日本製の金型を使う自動車メーカーは数知れず。韓国企業とて例外ではなかった。

 日本の自動車メーカーも、少量は自社で作るが(技術力の維持と、コスト算定のため?)、大部分は中小専業メーカーに任せる。

 今もその形は変わらない。ボディー金型に限って言えば、中国・韓国に追い上げられてはいるが、まだまだ実力には大きな開きがある。

 それにもかかわらず金型専業メーカーの経営が苦しいのはなぜなのだろうか。理由は3つある。

 第1は日本企業の宿痾とも言われる過当競争だ。

話は飛ぶが、かつてICを封止する樹脂の製造工場が火事になって供給がストップし、IC業界は大騒ぎになった。その工場が70%以上のシェアを持っていたからだ。

 ところが、その工場の担当者に聞いてみたら、その部門は万年赤字だったという。どうして世界の7割以上のシェアを持っている部門が赤字になるのか? 一担当者の言葉だから、本当かどうかは分からないが、「競争が激しく、ちょっと油断するとシェアを奪われて、二度と取り戻せなくなるから」なのだそうだ。

 良かれ悪しかれ、日本的競争の結果だ。 コストに目をつぶって際限なくシェア拡大競争を続けて、自滅してゆく。忙しいのに儲からない。

 ただ、完全に自滅はしないのが日本企業の凄いところで、そんな中でも技術を磨き、絶えず新しい技術に挑戦するから、存在意義は失われない。

運転資金をつなげられず、古い機械も捨てられない
 第2は資金繰りの問題だ。

 日本の商習慣で、昔から金型企業は「金型納品検収後、2カ月後締め、6カ月手形」というような支払い条件を強要されている。その間の運転資金は金型屋の負担だ。

 ちょっとした金型でも大変だが、ボディー金型メーカーは、試作からつき合って、最後に本格生産用金型の検収が終わって(プラントが動き出して)、初めて代金が受け取れる。最近はずいぶん短くなってきたが、それでも30カ月ほどもかかる。その間の人件費、材料代、金利などのコストはすべて金型メーカーが立て替えなければならない。

 御三家ともなると受注額も大きいから、運転資金が巨額になり、負担に耐えられなくなる。ボディー金型ナンバーワンのオギハラが数年前リップルウッドに買収されかかったのも、銀行がオギハラを支えきれなくなったからだ(今、オギハラは中国BYDの資本傘下にある)。

 世界に冠たる実力があって、世界中から注文があるのに経営が苦しく、なかんずく資金繰りに苦労するのも、実は発注主との間でこのような力関係になっているからだ。

 じゃあ、「自動車メーカーに対して、もっと強気で交渉すればいいじゃないか」と誰もが思うのだが、なかなかそうもいかないのが「日本という国」なのだ。端からみると、まるで暴力亭主に仕えるけなげな女房といった風情になる。

 第3は、設備投資の問題だ。韓国・中国の競合メーカーは歴史が新しいし、オーナー企業ならではの思い切った投資をするから、最新鋭の設備を装備している(「レートカマーズ・アドバンテージ」がある=遅れて参入してきた業者の方が、最新鋭装置のメリットを享受できる)。

ところが日本メーカーは歴史があるから、「昔は最新式だった」機械が工場のあちこちにあって、場所を占拠している。「能率が悪い機械なら、捨てればいいじゃないか」と思うだろうが、これがまたなかなか容易でない。

 日本の法定減価償却期間は非常識に長い上に、時々役に立つこともあったりする。おまけに日本人は(私もそうだが)機械に愛着を持つから、なかなか捨てる決断ができない。

金型産業を追いつめる大企業、金融機関・・・
 いずれにせよ今回の合併は、リーマン・ショック後の不況で苦境にあった宮津製作所、富士テクニカ(ボディー金型ナンバー2とナンバー3)を、企業再生支援機構のスキームを使って再建しようというものだ。時宜にかなった施策と言うべきだろう。

 日本の戦後の産業、特に自動車、電子電機産業が、優れた品質と価格競争力を背景に世界市場で躍進を続けてこられたのはなぜか。その大きな理由の1つが、高品質の金型が安く、安定的に供給され、しかも金型産業が顧客の注文に応じて臨機応変に対応し続けてきたからである。

 大企業は、その金型産業の貢献を忘れたふりをして、「安いところなら、どこからでも買う」とうそぶいている。

 金型・部品の図面は、協力会社が心血を注いで、無理な注文に応じて工夫し、コストダウンして作り上げたものだ。それを勝手に第三者に渡して金型を作らせて、「元の企業よりも製造費が安いからだ」と平然と言い放つ。開発費用が不要なのだから安いのは当然だ。これを「どろぼう」と言わずしてなんと言うのか。

 さらには、海外企業が決して同じ品質のものを作れないことを知りながら、海外と同じ価格を押しつけてくる。

 労働関係官庁も、これだけ日本の競争力が問題になり、経営者が経営を続けていくために死にものぐるいの努力をしている時に、労働規制を盾にして杓子定規なルールで経営を圧迫する。本人たちは労働者を保護しているつもりだろうが、実は労働者の働く場所をなくすよう努力をしているに等しい。

 金融機関は自分たちの都合で貸し剥がしを強行し、中小企業の経営を圧迫している。また、金融庁は金融機関にそうさせるよう仕向けている。

 ここで、施策を総動員して金型産業を含むサポーティングインダストリーを守らなければ、日本のものづくりはおかしくなってしまう。菅総理! お願いしますよ。



橋本 久義   Hisayoshi Hashimoto
政策研究大学院大学教授。1945年福井県生まれ。1969年東京大学工学部を卒業し通産省入省。鋳鍛造品課長、中小企業技術課長、立地指導課長、総括研究開発官などを歴 任。94年埼玉大学教授、97年から現職。著書に『町工場の底力』『町工場が滅びたら日本も滅びる』など多数。



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