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なぜ優秀な人が脱落するのか?②

2017-02-04 18:05:39 | お話
🍀🍀なぜ優秀な人が脱落するのか?🍀🍀②


「ビースト」のことを知った私は、軍事心理学者のマイケル・マシューズのもとを訪ねた。

長年、ウエストポイントの教授陣に名を連ねる人物だ。

マシューズの話を聞いたところ、入学審査では、男女を問わずウエストポイントでたくましくやっていける資質を持つ人物を選定していた。

そのために、入学事務局では各志願者について「志願者総合評価スコア」を算出する。

すなわちSATもしくはACT(ともに大学進学適性試験)のスコア、

高校での成績順位(各志願者の学年の生徒数に応じて調整したもの)、

リーダーとしての資質の評価、

体力測定のスコアの加重平均だ。

この志願者総合評価スコアは、士官学校の4年間で経験するさまざまな試練を乗り切るための能力を、

各志願者がどれだけ持っているかを判断するための好材料と言えるだろう。

言い換えれば、軍隊の指導者に求められる数多くのスキルを、どれだけ容易に習得できるかを推定したものだ。

このようにウエストポイントの入学審査では、志願者総合評価スコアがもっとも重要な決め手となっていたが、

「ビースト」の厳しい訓練に耐え抜けるかどうかを予想するには、

残念ながらあまり役にたたなかった。

それどころか、志願者総合評価スコアで最高評価を獲得した士官候補生たちは、なぜか最低スコアの候補生たちと同じくらい、中退する確率が高かった。

マシューズが私に会ってくれた裏には、そんな事情があったのだ。

しかし、マシューズ自身も若いころ空軍に入隊した経験から、

彼はこの謎を解くカギを握っていた。

ウエストポイントほど過酷ではなかったが、

入隊時の経験には顕著な共通点があったのだ。

最大の試練は、自分たちの手に負えない難問を次々に突きつけられたこと。

それこそ1時間ごとに、できないことばかりやらされたのは、

彼にとっても、同期の入隊者たちにとっても、生まれて初めての経験だった。

当時を振り返って、マシューズは言った。

「2週間もしないうちに疲労困憊して、孤独でどうにかなりそうだったよ。

もうすぐにでも辞めたいと思った。

クラスのみんなもそうだった」

そして実際に、何人かは辞めていった。

だが、彼は辞めなかった。

マシューズが驚いたのは、困難に対処する力は、才能とはほとんど関係ないということだった。

訓練の途中で辞めていった者たちは、才能がなくて辞めたわけではない。

それよりも重要なのは、マシューズの言葉を借りれば、

「絶対にあきらめない(ネバー・ギブ・アップ)」という態度だった。


困難に負けずに立ち向かう姿勢が大事だ、と言っていたのはマシューズだけではなかった。

そのころ大学院で「成功の心理学」の研究を始めたばかりだった私は、

業界でも屈指のビジネスパーソンや、アーティスト、アスリート、ジャーナリスト、

学者、医師、弁護士などを対象に、インタビュー調査を行っていた。

「業界でトップの人びとのお名前を挙げてください」

「どんな人たちですか?」

「その人たちには、どんな特徴があると思いますか?」

調査の中で浮かび上がってきた特徴には、

各分野に特有のものがあった。

たとえばビジネスパーソンの場合、

重要なのは

「金銭的なリスクを積極的に取れること」

だと答えた人が何人もいた。

「周到に考え抜いて、何億ものカネを動かす決断を下しながら、

夜はぐっすり眠れるようでないとね」

だがそれは、アーティストとはまったく関係がなさそうだった。

アーティストの場合、もっとも重要なのは、

「創造する意欲」だと答えた。

「ものづくりが好きなんです。

何故かわかりませんが、とにかく好きなんです」

いっぽうアスリートたちは、

「勝負のスリル」が最高の刺激になると答えた。

「勝負に強い選手は、他人との真っ向勝負が大好きですね。

ものすごく負けず嫌いなんですよ」

そのような各分野ならではの特徴があるいっぽうで、

どの分野にも当てはまる共通点も見て見えてきた。

私がとくに興味を持ったものもまさにその点だった。

どの分野でも、もっとも成功している人びとは、

幸運と才能に恵まれていた。

それは以前から聞いていたことでもあり、疑う余地はなかった。

だが、成功の要因はそれだけではなかったのだ。

インタビューで多くの人が語ったのは、

ずば抜けた才能に恵まれながらも、能力をじゅうぶんに発揮しないうちに、

挫折したり、興味をなくしたりして辞めてしまい、周囲を驚かせた人たちの話だ。

失敗しても挫けずに努力を続けるのは、、

どう考えてもたやすいことではないが、、

きわめて重要らしかった。

「調子のいいときは、やたらと意気込んでがんばる人もいますが、

そういう人はちょっとつまずいただけで、とたんに挫けてしまうんです」


しかしいっぽうで、驚異的な粘り強さでがんばって、

みごとに結果を出した人たちの話も聞いた。

「その作家は、駆け出しのころはとくに優秀ではありませんでした。

社内では彼の原稿を読んで笑ったりしていましたよ。

文章が何とも野暮ったくて、メロドラマ風だったんです。

でも彼はその後、めきめきと腕を上げて、去年はとうとうグッケンハイム奨励金を獲得したんです」

また、そういう人たちは、つねに貪欲に進歩を目指していた。

「彼女は絶対に満足しませんね。

あそこまで登りつめたら満足してもよさそうなのに。

あの人は、自分自身のもっとも手厳しい批評家なんです」

つまり顕著な功績を収めた人たちはみな、

粘り強さの鑑(かがみ)のような人が人だった。

なぜそこまで一心不乱に、仕事に打ち込むことができたのだろうか?

そもそも彼らは、自分の目指している大きな目標に、簡単にたどり着けるとは思っていなかった。

いつまでたっても、「自分などまだまだ」と思っていた。

まさに自己満足とは正反対だった。

しかしそのじつ、彼らは満足しない自分に満足していた。

どの人も、自分にとってもっとも重要で最大の興味のあることをひたすら探究していた。

そして、そんな探究の道のりに、、

その暁(あかつき)に待ち受けているものと同じくらい、、

大きな満足をおぼえていた。

つまらないことや、イライラすることや、つらいことがあっても、

あきらめようとは夢にも思わなかった。

彼らは変わらぬ情熱を持ち続けていた。


要するに、どんな分野であれ、

大きな成功を収めた人たちは、

断固たる強い決意があり、

それが、ふたつの形となって現れていた。

第一に、

このような模範となる人たちは、

並外れて、粘り強く、努力家だった。

第二に、

自分が何を求めているのかをよく理解していた。

決意だけでなく、方向性も定まっていたということだ。

このように、みごとに結果を出した人たちの特徴は、

「情熱」と「粘り強さ」をあわせ持っていることだった。

つまり、「グリット」(やり抜く力)が強かったのだ。


(「GRIT やり抜く力」アンジェラ・ダックワーズさんより)

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