🍰🍰エーデルワイス🍰🍰④
🔹比屋根、とにかく繁盛する店、魂の入ったお店というのは、街を歩いていてもすぐ分かりますね。
それはいま言ったオーナーの姿勢や、商品のよさ、サービスなど、
いろんな要素が絡み合ってトータルで伝わってくるものだけれども、
僕ももう80近くになって、物事を少しは冷静に見られるようになってきたから、
そういうのはもうすぐ分かるようになりましたね。
人間は年齢を重ねるにつれて、その年相応の知恵を身につけていくという話を聞いたことがあるけれども、
本当にそのとおりだと思う。
いまのような冷静な判断力が、10年前、20年前にあったと思わんでもないけれども、
逆にそういうものが身についたこれからが楽しみです。
この頃では社員のため、社会のためにという思いをこれまで以上に抱くようになりました。
商売をやっているんだから、もちろん儲けは大切です。
でもいまは、できるだけ社会のために奉仕していきたいという思いのほうが強い。
そのためにも、あなたのような優れた職人をこれからも育てていきたいと思うね。
🔸牧野、私はその域にはまだ遠く及びませんが、
店づくりにおいては会長から教わったように、
人間が持っている五感を刺激することを常に意識していました。
例えば、よそのお店で花が綺麗だなと思ったら、
自分の店でも花を飾って視覚や嗅覚に訴えてみる。
そういうことを意図的にやっているかやっていないかで、差がついてくると思うんです。
それを分かっていてやっているお店はやっぱり繁盛しています。
人間の五感のうち、三つに訴えかけているお店は、まぁまぁ流行っているし、
五感すべてに訴えるものを持っているお店は行列ができていますね。
🔹比屋根、そのとおりだと思うよ。
🔸牧野、ですから私はスタッフに、
「商品をつくるんじゃない、毎日店をつくることが我われの仕事や」
と言っているんです。
店をつくることを意識していると、その店に必要な商品も自ずと生まれてくるんだと。
昔は会長から商品開発をやれと言われても、
正直、商品のことしか頭になかったですよ。
ヒット商品をつくれと盛んに言われて、よそにないお菓子、いままでにないお菓子をつくることばかり一所懸命考えていました。
だから、なかなか会長に満足していただけるものができなかったのかなぁと思うんです。
それである時、お店をつくるという視点で考えていったら、必然的にその店が必要とする商品が見えてきたわけです。
ケーキ屋さんだからショートケーキがいる、
シュークリームがいるという発想ではなくて、
そのお店が必要としているからプリンを開発するんだと。
会長の前でおこがましいんですけど、そういうことが何となく感覚的に分かってきたんです。
こんな話をするのは初めてですけれども、いまになってようやく、
あの頃の会長の不満が何となく分かるんですよ。
🔹比屋根、突き詰めて言えば、どれだけ心を込めて、妥協せずに、
最高の味を追い求めていくかということだね。
やっぱりその執念、信念をなくしたらダメです。
だから僕は毎日会社の各ポジションを回って、
少し気の抜けているスタッフがいたら、
「目が死んでいるぞ。
もっと頑張らなければいかん」
と励ます。
逆にイキイキ頑張っている子を見ると、
「そうだ、お菓子はそうやって喜びを持ってつくることが大事だ」
と応援する。
そうやって毎日皆の肩を叩きながら、一緒にものづくりに打ち込むことが生きがいなんです。
今年も新入社員が38名入ってきたけど、
入社して2週間も経つと、もう顔つきが違ってきている。
お店に入ればさらに目がイキイキしてくる。
そうやって若い子が育っていく姿を見ていると、
我が子の成長を見つめる親のような気持ちにさせられて、
とても嬉しくなるものですよ。
そして彼らの成長を促すことによって、
会社もさらに成長するし、業界の発展にもつながっていくんだね。
先ほど、全員に一時金を支給したら、社員からお礼の電話がかかってきて鳴りやまなくなったという話をしたけれども、
そういう機会に社員一人ひとりと言葉を交わすのは本当に楽しいものだよ。
「今期はこんな目標を立てているから、皆で勝ち取ろうな」
「ゴールデンウィーク中も働いてくれてすまんな。
しかし、我われが頑張ることで、多くの人に喜びと感動を与えられるんだから、
笑顔を忘れるなよ」
「常に衛生面に気をつけて、絶対に気を抜くんじゃないよ」
と。
そんなちょっとした言葉を掛けてあげることで、
また社員も喜んでお店に立ってくれるんです。
🔸牧野、いまの会長のお話には、弟子と向き合う師のあり方を教えられる思いがします。
🔹比屋根、皆と向き合う時はいつも自然体で、あまりこう接しなければいけないと考えたことはないけれどもね。
ただ師と弟子とある一定の距離を保ちながら、
すべてにおいて愛情を持って見つめてあげることが大切だと思います。
いつも我が子を見るような気持ちで接していると、
最近いい顔になってきたなとか、何か心配事でもあるのかとか、そういうのはよく見えるものです。
🔸牧野、父親のいない私にとって、会長は父親代わりでしたし、
世間でよく言うよな、師を越えてやろうとか、少しでも近づこうなんていうことを、私は会長に対して思ったことはありません。
私にとっての会長は、そういうものを通り越した存在ですからね、
たぶん私のどこを切っても、会長と同じ血が出ると思いますよ(笑)。
だから、もし会長が将来ボケてしまって、私の顔も名前も忘れてしまわれるようなことがあったとしても、
私の中では最後まで師なんですわ。
🔹比屋根、弟子からそこまで言ってもらえると、師として冥利に尽きるね(笑)。
僕がどうしてここまで会社を大きくしてこられたのかというと、
常に弟子たちにしっかりした、
いい後ろ姿を見せていたいという思いと、
子である弟子たちに何かあった時に、親としてしっかり面倒を見てあげられるだけの力を持っていなければならないという思いがあったからです。
会社にしっかりした力をつけて、
どんな時でも弟子たちを応援してあげられるようにしておくことは、いつも意識してきました。
アメリカの鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーは、自分の墓碑に
「己より賢き者を近づける術を知りたる者、ここに眠る」
という言葉を刻ませています。
僕はこの言葉がとても好きでね。
苦労をともにしてきた弟子たちとは、
死んでも一緒にいたいと思っているんです。
🔸牧野、会長には、まだまだ頑張っていただけないと困りますよ(笑)。
🔹比屋根、それくらい育ててきた君たちには愛情を持っているということだよ。
これからも君たちと切磋琢磨して、
さらにお菓子づくりの道を極めていきたいものですね。
(おしまい)
(「致知」7月号、比屋根 毅さん牧野眞一さん対談より)
🔹比屋根、とにかく繁盛する店、魂の入ったお店というのは、街を歩いていてもすぐ分かりますね。
それはいま言ったオーナーの姿勢や、商品のよさ、サービスなど、
いろんな要素が絡み合ってトータルで伝わってくるものだけれども、
僕ももう80近くになって、物事を少しは冷静に見られるようになってきたから、
そういうのはもうすぐ分かるようになりましたね。
人間は年齢を重ねるにつれて、その年相応の知恵を身につけていくという話を聞いたことがあるけれども、
本当にそのとおりだと思う。
いまのような冷静な判断力が、10年前、20年前にあったと思わんでもないけれども、
逆にそういうものが身についたこれからが楽しみです。
この頃では社員のため、社会のためにという思いをこれまで以上に抱くようになりました。
商売をやっているんだから、もちろん儲けは大切です。
でもいまは、できるだけ社会のために奉仕していきたいという思いのほうが強い。
そのためにも、あなたのような優れた職人をこれからも育てていきたいと思うね。
🔸牧野、私はその域にはまだ遠く及びませんが、
店づくりにおいては会長から教わったように、
人間が持っている五感を刺激することを常に意識していました。
例えば、よそのお店で花が綺麗だなと思ったら、
自分の店でも花を飾って視覚や嗅覚に訴えてみる。
そういうことを意図的にやっているかやっていないかで、差がついてくると思うんです。
それを分かっていてやっているお店はやっぱり繁盛しています。
人間の五感のうち、三つに訴えかけているお店は、まぁまぁ流行っているし、
五感すべてに訴えるものを持っているお店は行列ができていますね。
🔹比屋根、そのとおりだと思うよ。
🔸牧野、ですから私はスタッフに、
「商品をつくるんじゃない、毎日店をつくることが我われの仕事や」
と言っているんです。
店をつくることを意識していると、その店に必要な商品も自ずと生まれてくるんだと。
昔は会長から商品開発をやれと言われても、
正直、商品のことしか頭になかったですよ。
ヒット商品をつくれと盛んに言われて、よそにないお菓子、いままでにないお菓子をつくることばかり一所懸命考えていました。
だから、なかなか会長に満足していただけるものができなかったのかなぁと思うんです。
それである時、お店をつくるという視点で考えていったら、必然的にその店が必要とする商品が見えてきたわけです。
ケーキ屋さんだからショートケーキがいる、
シュークリームがいるという発想ではなくて、
そのお店が必要としているからプリンを開発するんだと。
会長の前でおこがましいんですけど、そういうことが何となく感覚的に分かってきたんです。
こんな話をするのは初めてですけれども、いまになってようやく、
あの頃の会長の不満が何となく分かるんですよ。
🔹比屋根、突き詰めて言えば、どれだけ心を込めて、妥協せずに、
最高の味を追い求めていくかということだね。
やっぱりその執念、信念をなくしたらダメです。
だから僕は毎日会社の各ポジションを回って、
少し気の抜けているスタッフがいたら、
「目が死んでいるぞ。
もっと頑張らなければいかん」
と励ます。
逆にイキイキ頑張っている子を見ると、
「そうだ、お菓子はそうやって喜びを持ってつくることが大事だ」
と応援する。
そうやって毎日皆の肩を叩きながら、一緒にものづくりに打ち込むことが生きがいなんです。
今年も新入社員が38名入ってきたけど、
入社して2週間も経つと、もう顔つきが違ってきている。
お店に入ればさらに目がイキイキしてくる。
そうやって若い子が育っていく姿を見ていると、
我が子の成長を見つめる親のような気持ちにさせられて、
とても嬉しくなるものですよ。
そして彼らの成長を促すことによって、
会社もさらに成長するし、業界の発展にもつながっていくんだね。
先ほど、全員に一時金を支給したら、社員からお礼の電話がかかってきて鳴りやまなくなったという話をしたけれども、
そういう機会に社員一人ひとりと言葉を交わすのは本当に楽しいものだよ。
「今期はこんな目標を立てているから、皆で勝ち取ろうな」
「ゴールデンウィーク中も働いてくれてすまんな。
しかし、我われが頑張ることで、多くの人に喜びと感動を与えられるんだから、
笑顔を忘れるなよ」
「常に衛生面に気をつけて、絶対に気を抜くんじゃないよ」
と。
そんなちょっとした言葉を掛けてあげることで、
また社員も喜んでお店に立ってくれるんです。
🔸牧野、いまの会長のお話には、弟子と向き合う師のあり方を教えられる思いがします。
🔹比屋根、皆と向き合う時はいつも自然体で、あまりこう接しなければいけないと考えたことはないけれどもね。
ただ師と弟子とある一定の距離を保ちながら、
すべてにおいて愛情を持って見つめてあげることが大切だと思います。
いつも我が子を見るような気持ちで接していると、
最近いい顔になってきたなとか、何か心配事でもあるのかとか、そういうのはよく見えるものです。
🔸牧野、父親のいない私にとって、会長は父親代わりでしたし、
世間でよく言うよな、師を越えてやろうとか、少しでも近づこうなんていうことを、私は会長に対して思ったことはありません。
私にとっての会長は、そういうものを通り越した存在ですからね、
たぶん私のどこを切っても、会長と同じ血が出ると思いますよ(笑)。
だから、もし会長が将来ボケてしまって、私の顔も名前も忘れてしまわれるようなことがあったとしても、
私の中では最後まで師なんですわ。
🔹比屋根、弟子からそこまで言ってもらえると、師として冥利に尽きるね(笑)。
僕がどうしてここまで会社を大きくしてこられたのかというと、
常に弟子たちにしっかりした、
いい後ろ姿を見せていたいという思いと、
子である弟子たちに何かあった時に、親としてしっかり面倒を見てあげられるだけの力を持っていなければならないという思いがあったからです。
会社にしっかりした力をつけて、
どんな時でも弟子たちを応援してあげられるようにしておくことは、いつも意識してきました。
アメリカの鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーは、自分の墓碑に
「己より賢き者を近づける術を知りたる者、ここに眠る」
という言葉を刻ませています。
僕はこの言葉がとても好きでね。
苦労をともにしてきた弟子たちとは、
死んでも一緒にいたいと思っているんです。
🔸牧野、会長には、まだまだ頑張っていただけないと困りますよ(笑)。
🔹比屋根、それくらい育ててきた君たちには愛情を持っているということだよ。
これからも君たちと切磋琢磨して、
さらにお菓子づくりの道を極めていきたいものですね。
(おしまい)
(「致知」7月号、比屋根 毅さん牧野眞一さん対談より)