シューマッハカレッジ留学記

英国トトネスにあるシューマッハカレッジ。その在りし日々とイギリスのオーガニックな暮らしを記録した留学記です。

A Tribute to Brian Goodwin

2013-10-26 | カレッジ関連記事


ホリスティックな視点から生命の姿を追求し、私たちに新しい示唆を与えてくれたブライアン・グッドウィン教授。やはり偉大な科学者だったと思います。この映像にも紹介される彼の人生の集大成の本でもある「Nature's Due」は、生命のしくみから、地球生命系における人間の社会の在り方までを説いた、とても示唆に富む本です。

Nature's Due: Healing Our Fragmented Culture
Floris Books

Grow Small, Think Beautiful

2011-10-22 | カレッジ関連記事

Grow Small, Think Beautifulは、
世界がこれから、
25年程度をかけて行きつく、
着地点を表現している言葉でしょう。

これは、
シューマッハカレッジに関わる面々が、
世界が直面している危機に対して、
それをどのように解決し、
いかなる新たな社会を作っていくかの議論を収録した、
シューマッハカレッジが、
この20年間の集大成として、
このほど初めて出版した本のタイトルです。
Grow Small, Think Beautiful: Ideas for a Sustainable World from Schumacher College
Floris Books


編集したのは、
この学校を20年にわたって支えてきた、
エコロジストでガイア理論の研究者である、
ステファン・ハーディング。

執筆者にはシューマッハカレッジを立ち上げてきた人々や、
その卒業生が名を連ねています。

ガイア理論のジェームズ・ラブロック

理論物理学者でエコリテラシー研究所の、
フリチョフ・カプラ

日本でも近年注目され、
来年も来日が予定されている思想家であり活動家でもある、
サティシュ・クマール

「懐かしい未来」の著者で、
映画「幸せな経済学」の製作者でもある、
社会活動家のヘレナ・ノーバーグ=ホッジ

生物学者であり、形態形成論の提唱者である、
ルパード・シェルドレイク

ローカル経済、地域通貨の研究で知られる
リチャード・ダウスウェイト

ホールシステムアプローチ(全員参加型集会)のひとつ、
Cooperative Inquiryの中心的研究者である、
ピーター・リーソン

ホリスティックサイセンス修士コースの、
コーディネーターを長年にわたって務めるとともに、
ホリスティックな調和的な社会構造を研究してきた、
ギデオン・コゾフ

今年度からスタートした、
サスティナブル経済学修士コースの責任者、
ジュリー・リチャードソン

その他、
ホリスティックサイエンス修士コースの卒業生で、
それぞれの分野で研究を続けている、
研究者や大学教員たちの文章などが収録されています。

テーマは、
地球生命系のことから、教育の在り方、科学論、
経済、貨幣システム、トランジションの考え方、
エネルギー、ビジネス、組織論、デザイン論まで、
多岐にわたっていますが、
一般向けに書かれていますので、
比較的読みやすい文章になっています。

そもそも地球生命系は、
時計仕掛けのような、部品が積み重なってできたものではありません。

地球生命系は、
極めて複雑に相互影響し、
相互に依存しあいながらお互いの生命を維持する系です。
従って、「個」ばかりを研究していても、
本当の姿はわかりません。
地球生命系の本当の姿を知るには、
「個」がどのように「他」と相互影響、相互依存を行い、
そこから「全体」がどのようにして形成され、
維持されているかを明らかにする、
全体性(ホリスティックな視点)を重視した研究が必須となります。

1970年代以降、
ガイア理論、オートポイエーシス、システム思考、複雑系科学、
などの研究の進展で、
地球生命系のしくみを全体性の視点でとらえなおす,
数々の研究が行われ、
それまでの生物学、地球環境学の常識を覆す事実が、
次々に明らかになってきました。

地球規模においては、
すべての生命と地球、宇宙とが、
お互いにうまく相互影響しながら自律機能を発揮する、
非常に安定した地球生命システムを作り上げてきた、
そのしくみが明らかになってきました。

そして、個々の生命においても、
その基本には数々の絶妙に調律された創発現象が積み重なって、
極めてレジリアンス(しなやか)な、
生命=自律を保つプロセス、が起こっていることがわかってきました。

地球の進化は、
それぞれの「個」の変化が、「全体」に変化を与え、
「全体」が変化すると、それが「個」の変化をさらに誘導する、
“共進化”によってすすみます。

従って、「全体」に調和できない「個」が現れた場合、
それは淘汰されるか、
あるいは、場合によっては「全体」の崩壊を招きます。

今、人間は、まさにその岐路に立っているのです。

私たちが自然界と共生しようとするのならば、
その相手である、自然界というものが、
どのようなものであるかをよく知る必要があります。
少なくとも、
自然界を形成している基本的なしくみを知ることは、
私たちのこれからの社会づくりを考えるうえで、
その唯一の拠り所となるはずです。
(概略は「新しい社会の基本がわかる」をご参照ください)

先日ご紹介した、
Occupy Wall Street運動を支える、
一つの論理的基盤を提供している、
デビッド・コーテンも、
そういった地球生命系の原理の知識をベースに考えを積み上げています。
Grow Small, Think Beautiful
の本の全ての著者も、
地球生命系の原理を理解した上で議論を展開しています。

まだアマゾンでは買えませんが、
出版社からは直接買うことができます。

私もまだ全部読んでいるわけではありませんが、
面白い論考がいくつもありますので、
何かの折に、順次ご紹介していきたいと思います。

追悼 Prof. Brian Goodwin

2009-07-18 | カレッジ関連記事
シューマッハカレッジの、
ブライアン・グッドウィン教授が
一昨日の晩、亡くなられたとの連絡がありました。
78歳でした。

グッドウィン教授は、
若い頃に、数学者であり有機体論的な自然観を主張した、
アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドに影響を受け、
数学を学んだ後、オックスフォード大学では、
ジョン・メイナード・スミスの研究室で、
理論生物学を専攻されました。

構造主義生物学の中心的な研究者として、
形態発生の研究などで世界的に知られる人となり、
その後、複雑系の考え方を用いた研究を行い、
アメリカのサンタフェ研究所の創立メンバーとして、
創立後は外部アドバイザーをされていました。
日本の京都学派にも関心が高く、
今西理論などにも造詣が深かったようです。

多くの研究者に影響を与え、
特に日本でも知られた人達としては、
スチュワート・カウフマン、
メイ・ワン・ホー
柴谷篤弘先生、岡田節人先生、
などと、親交が厚く、
共同研究などを行いました。
カウフマンの“At Home In the Universe”
(邦訳 自己組織化と進化の論理)
には、カウフマンがグッドウィン教授に、
影響を受けたときのことが書かれています。

機械論的な視点から研究している、
一般の研究者にとっては、
根本的な自然観の違いから、
受け入れられないとの批判も多く、
特に、利己的な遺伝子を主張する、
リチャード・ドーキンスとは、
お互いの考え方を尊重する一方で、
何度も対談や紙上討論を行われました。

先生は12年前、
イギリスのオープンユニバーシティーで教鞭をとられた後、
シューマッハカレッジに来られ、
様々なショートコースの講師を務めるとともに、
世界で始めての、
ホリスティックな視点での学究を行う大学院である、
MSc. in Holistic Scienceコースを立上げました。
これは、まさにグッドウィン教授の
科学哲学、方法論、研究の集大成であるとともに、
ゲーテ、ホワイトヘッドから続く、
全体論的な視点での研究、
有機体的自然観を、
次の時代に継承する貴重な場となりました。
また、それに複雑系、システム論などを加味し、
自然科学のみならず、医療、社会、経済分野など、
幅広い分野にわたる、
ホリスティックな研究を扱う拠点となりました。

2002年に先生が心臓発作を起こされたとき、
先生は臨死体験に近い経験をされ、
そのことを最後の著書となった、
“Nature’s Due”に書かれています。
この本は、それまでに書かれた本とは違い、
先生の研究者としての枠を超え、
まさに人生の集大成として、
これからの地球で生きる人類のために、
必要となる考え方や視点、
そして、何が大事なのかが書かれています。

グッドウィン教授は、
時代の先を行き、
残された私たちに道を切り開き、
灯火をつけていって下さった方でした。

その偉大な功績と、
我々に多くを残していって下さったことに、
本当に心より感謝申し上げると共に、
ご冥福をお祈り申し上げます。

Ancient Future ~ ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ

2009-04-13 | カレッジ関連記事

サティシュ・クマールの今秋の招聘を企画されている方から、
ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさんのインタビュー記事が、
ネットで公開されているとの情報を頂きました。

私が留学していたころ、ヘレナは学校のすぐ近くに住んでいて、
頻繁に学校に来られていました。
学校でスピーチをするときもありましたし、
夕方に散歩がてら、ご主人とともに遊びに来られる時もありました。

もともとはジャーナリストだけあって知的好奇心は強く、
「知恵の樹」(左のお奨め本参照)の共同執筆者であり、
その後、認識論や哲学の分野で世界的に注目を浴びていた、
故フランシスコ・ヴァレーラが来て講演したときも、
大勢の聴衆の中で、後方の席から大きな声でヴァレーラに質問していた姿が忘れられません。

ヘレナと言えば思いだす6月のイギリス。
さわやかな風がそよぎ、やさしい日差しが溢れる最高の日でした。

当時、ハーバード大学で教え、アメリカの大量消費社会の問題を研究し、The Overworked American やThe Overspent Americanなどのベストセラーを出していたJuliet Schorと、自給自足的な共同体や地域循環型経済、地域通貨の研究で知られるRichard Douswaitとが講義するコースに参加していた人々が、

学校の前に広がる芝生の庭にはえていた大きな木の下に集まり、
ヘレナを囲むように輪になって彼女の話を聞きました。

彼女の得意の話は、チベットのラダッカの話です。
豊かな伝統文化と社会制度があったラダッカに、西洋文化が浸透していくにつれ、その真の豊かさが失われていきました。その過程を見ていたヘレナは、私たちの現代社会が享受した物質的な豊かさの裏側に、その量と同じくらい負の部分があったことに気づかされました。

そのことが詳しく書いてあるヘレナの代表作Ancient Futureの本は、「懐かしい未来」と言うタイトルで、懐かしい未来ネットワークと言うグループの方々が翻訳され、出版されています。

ラダック 懐かしい未来
ヘレナ ノーバーグ・ホッジ
山と溪谷社

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この本を読んでも、次の社会のための具体的な方策は書いてありません。しかし、これまでの社会では、具体例を用いて、官庁主導の全国画一的な取り組みが目立ちましたが、これからは、それぞれの地域の人がその地域に相応しい方策を、自らの智恵を絞って考えることになるでしょう。従って、具体例よりは、考えるときに指針となる、哲学ないしは、考慮しなければならないポイントのほうが重要となるはずです。この本にはそれが含まれています。

これからの社会を形作っていかれる方の全てに読んでいただきたい一冊です。世界中で読まれていることからしても、現代の必読書の一冊でしょう。

翻訳本は、とても丁寧に訳されており、脚注も充実しています。
翻訳に関わられた方々には、本当に感謝です。


ディープエコロジー ~ 故アルネ・ネス先生を偲んで

2009-04-13 | カレッジ関連記事


ヨーロッパのディープエコロジー思想の先駆けであった、
Arne Nessアルネ・ネスさんが亡くなられました。
御歳96歳、現代においては十分なご長寿でした。

私がシューマッハカレッジの大学院にいたときに、
アルネ・ネスさんが学校の講師として呼ばれ、
私たちは、特別に彼との対話の時間を頂くことができました。

その時にアルネ・ネスさんが強調されていたのは、
生命の「Intrinsic Value」。
なんと訳せばよいのでしょうか。
直訳すると、あらゆる生命に内在する本質的価値とでもなるのですが、アルネ・ネスさんは、そういった上辺だけの形而上的な言葉を超えた、心の体験でしか理解することのできない奥深い意味を込めて使われていたと思います。

アルネ・ネスさんが、Intrinsic Valueを感じ、
ディープエコロジー思想に傾倒していかれたのは、
彼が大学院生のときの理科の実験の時だったそうです。
熱っせられた薬剤の入ったビーカーの中に、
一匹の虫が突然飛び込んできたのだそうです。
ビーカーの中でもがく虫を、アルニ・ネスさんは、
何とかして助け出そうとしましたが、
何もできずに虫は死んでしまったそうです。
その短い時間に、アルネ・ネスさんは、
かつてない、衝撃にも似た、強烈な印象を受けたそうです。
そして、初めて生命のIntrinsic Valueというものを、
体験を通して心で理解したのだそうです。

彼は後に、生命のIntrinsic Valueを理解している状態について、
別の言葉でEcological Platformという言葉を作ったそうです。

シューマッハカレッジの専任講師のステファン・ハーディングは、
生命と宇宙の本源に触れ、それに基づいて研究したり、
行動したりしている人のことを、
“Ecological Platformに触れている人”と表現していました。

アルネ・ネスさんはもちろん、サティシュ・クマール、
ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ、ブライアン・グッドウィン、
ダライ・ラマ、・・・、今や沢山の人が仲間です。

これからの時代は、生命の本質を基本にした世界になるはずです。
こういった“Ecological Platformに触れている人”が、
時代をリードしていくことでしょう。


平和への旅路 ~ サティシュ・クマールの半生と思想 

2009-02-13 | カレッジ関連記事
シューマッハカレッジの創設に深く関わり、その後もプログラムディレクターとして学校運営に携わっておられるサティシュ・クマール氏が、2007年に来日された折に、長野県安曇野において3日間にわたって滞在され、約30名の方々とともに、貴重な時間をともに過ごされました。

以下の記事は、サティシュ・クマール氏のことと安曇野での3日間のことを兼ねて、マクロビオティックの月刊誌「むすび」誌の2007年7月号に寄稿したものです。その号は既に完売してしまい、入手が不可能になったことから、オリジナル原稿をもとにインターネット版として掲載することにしました。
 
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平和への旅路 
~ サティシュ・クマールの半生と思想 


シャロムヒュッテの臼井氏(左)と意気投合するサティシュ・クマール氏(右)

 2007年4月29日。その日の安曇野は、眩しいほどに青く澄み亘った空に、ワイシャツ一枚が心地良い暖かさであった。昨日は冷たい風と激しい雨の嵐のような一日だったそうである。しかし、それはあたかも夢だったかのように、気温はぐんぐんあがり、木々のこずえには新緑が芽吹き、地面では様々な草花が勢いを増し、さわやかな自然の香りを漂わせている。天と地と様々な生命の息吹に包まれたこの一瞬は、全てが繋がり、調和に満ちた平和の一つの姿を、自然が私たち人間に見せてくれているかの様であった。

 その安曇野にある、広い農園と林に囲まれたマクロビオティックの宿“シャロムヒュッテ”の庭先に、スローライフの提唱者である辻信一さんに連れられて現れたのは、今や平和運動やエコロジーの分野、或いは、精神性を重視した新しい社会づくりにおける分野において、思想家として、活動家として世界的に知られ、欧米ではカリスマ的存在にもなっているサティシュ・クマール氏であった。今日から2泊3日の間、辻氏やクマール氏の著書の翻訳をされた尾関氏のご家族とともに、じっくりと彼の思想を聞き、私達の歩むべき方向を語り合おうというのである。

母の教えとジャイナ教

 クマール氏のこれまでの人生は、まさにミラクル(奇跡)であり、ドラマチックであり、感動に満ちている。そして、人と自然(神)を信頼し、他者への愛と感謝に満ちた毎日を送ることに貫かれている。そこには、自然は全てのものが繋がりあい、お互いに影響しあい、依存しあいながら生命の営みを行っており、決して部分を切り離して考えることはできない自然観が原点にある。

 クマール氏は、インドの田舎の農村で、質素でありながら、豊かな自然と特に母親からの愛とに満ちた環境の中で育てられた。母親は、インド古来のジャイナ教の熱心な教徒であったが、自らもある種の神秘的な能力のある体質の持ち主だったらしく、クマール氏の成長を見計らいながら、自然界のしくみや人間の生き方、自然と人間との関係や、暮らしのための智恵など、様々なことを教えてくれたそうである。

 クマール氏が8歳になったある日、母親は、庭先に生えている野生のプラムの木の前でクマール氏に語った。プラムの木は自然の営みの中に身を任せ、宇宙の進行とともに生きている。私たち人間も、過ぎた自尊心や孤立することを止めて、他人を自分と同じように尊重しながら、生命の流れの中で生きていくならば、プラムのように沢山の実をつけることになるだろう。もちろん、一人一人の個性も大事である。それは種が一つ一つに分かれるために殻を必要とするのと同じである。しかし、種は芽吹くと殻を脱ぎ去り、他の生命との共生の中で生きていく。人間も、ある一時期は個性(エゴ)を必要とするが、種が殻を捨てるのと同様に、いずれ個性(エゴ)を捨て、他人や自然との深い結びつきの中で生きていくことが必要なのだと。

 クマール氏は9歳のときにジャイナ教の修行僧として出家した。そこでも様々な導師たちから教えを受け、彼の思想はますます深まっていった。彼が18歳のときに、その後の人生を大きく方向付けた一冊の本と出会った。それは非暴力思想を世界に知らしめ、今でも世界の多くの人の精神的支柱となっているマハトマ・ガンジーの自伝であった。それを読んだクマール氏は、ジャイナ教の修行僧や尼僧のように、一般の社会から離れて修行を行い、自らの救済の道を求めていられるのは、限られた小数の特権であり、世の中には沢山の救済を求めている人がいるからには、自分はその人たちのために何か行うべきだと考えた。そして、彼はなんと、僧門を出て、再び一般の社会へと戻ってきたのであった。
 
ピースウォーク

 彼はその後、核兵器の廃絶を訴えるために、友人とともに、インドからモスクワ、パリ、ロンドン、そしてワシントンまで徒歩で歩きとおすピースウォークを行った。彼らはあえてお金を一銭も持たずに旅に出た。もしお金を持っていたとしたら、疲れたらホテルに泊まり、お腹が空いたらレストランに入ってしまう。すると、人と話しをする機会もなくなってしまい、折角の旅の意味も薄れてしまう。
また、彼らは旅の道中もベジタリアンを貫いた。自分たちがベジタリアンであることを話すと、きっと人々は何故ベジタリアンなのかと聞くことになる。それは、自分たちの非暴力と平和の理念を説明するきっかけとなったからだ。二人はガンジーの墓の前を起点にして、神とこれから出合うだろう人々だけを信じて出発した。実際、毎日、様々な人が彼らに寝るところや食べ物をすすんで提供してくれた。彼らは、8000マイル(12000キロ)を歩き通し、ワシントンのホワイトハウスまで無事にたどり着き、最後はやはり凶弾に倒れたJ.F.ケネディーの墓の前を終着点として無事に旅を終えたのであった。


サティシュを囲みながら参加者全員で安曇野ウォーク

リサージェンスと二つの学校

 クマール氏は、その後、バートランド・ラッセル、クリシュナムルティー、マーチン・ルーサー・キング、そして、「スモール・イズ・ビューティフル」の言葉で知られる経済学者F.E.シューマッハなど、偉大なる先人たちと会い、語り合った。イギリスに渡ったあとは、自然との共生や精神性を重んじるライフスタイルを提唱する雑誌「リサージェンス(RESURGENCE)」の編集長の座につき、美しい小さな田舎町であるハートランドに住みながら、編集、執筆、講演などの仕事をこなしている。

 また、彼はこれまでに世界的に知られる二つの学校を設立した。その一つが、子どもの教育のためのスモールスクールである。

 小さな町であるハートランドには、小学校はあったが中学校は無く、子どもたちは一時間もかけて隣町まで通わなければならなかった。しかも折角時間をかけて通う学校は、それぞれの子ども達の性格や学習進度を考慮した教育を行うには、規模が大きすぎて無理だったのである。そこでクマール氏は、スモールスクールと言う、その名のとおりの学校を作ったのだった。生徒が十数人のその学校では、授業の50%は正規の授業を行うのだが、残りの半分は、地域の人も協力して、暮らしのために必要な実際的な技術、例えば家作りなどを教えている。この学校は、イギリスのみならず世界にも紹介されるようになり、世界各地でこのタイプの学校が追随して設立されているそうである。

 もう一つの学校は、大人のためにつくられたシューマッハカレッジである。ここは、持続可能であり、精神性の高い社会づくりを行うために役立つ智恵を教えることを目的にしている。環境、食、経済、建築、心理学、芸術など、様々な分野の授業が開かれている。経済学者シューマッハの名前を冠にしたこの学校には、シューマッハの思想に共鳴する世界的な活動家や研究者が講師として招かれ、参加者は2~3週間のあいだ、寝食をともにしながら、じっくりと彼らの考え方や智恵を学ぶことができる。1998年からはホリスティックサイエンスという、世界の全体性を学ぶ正規の大学院コースも開設されている。参加者も、日本も含め、世界各地から来ており、世界でも稀に見る学校となっている。

世界を変えるもう一つの生き方とは

 さて、そのようなクマール氏が安曇野で語ったメッセージの中心は、現代の一般的な価値観、経済、社会の考え方とは一線を画す、もう一つの生き方の提唱であった。今の世界は不安と恐怖に満ちており、それに基づいて様々な判断と行動とがなされている。既に世界的な環境破壊や利己主義に満ちた経済活動、そして大量消費文化を特徴とする今の地球は破綻に近づいているとよく言われるが、それに対して不安や恐怖に基づいてヒステリックな反対行動を行うことは、問題を引き起こしているものと同じ次元であり、同じような結果を引き起こすとクマール氏は忠告する。対立では問題は解決しない。一人一人の個人が変わらなければ、本当の世界の平和は訪ずれないのだ。

 大事なのは、一人一人が愛に基づいて毎日の一つ一つの判断や行動を行い、常に、どの瞬間も、自分がこうありたいという「自分」を生きることである。人間のみならず自然に対しても非暴力であることに注意を払いつつ、自然と共生した生活を実践すること。決して他人を否定したり、自分の理想を他人に押し付けたりすることも行わない。

 国や人種や文化が違っていても、人がこころの深いところで感じる喜び(JOY)は時空を越えて共通する。その喜び(JOY)の感覚こそが私達が生きる上での最も大事な指針となるはずだと、クマール氏は話の最後を締めくくったのであった。


シャロムヒュッテの周辺は生命の多様性に満ちていた

(終わり)

共生社会への扉

2009-02-13 | カレッジ関連記事
(この文章は、2000年の夏に長野で行われた“いのちのまつり”のために書いた文章です。10日間にわたって、日本全国から2万人近くの人が集まり、新しい社会のあり方と人間としての生き方についてをテーマに、トーク、シンポジウム、体験イベント、ダイアローグ集会などが繰り広げられました。そのときに語られたことが、その後、次々と現実のものとなり、それは今も続いています。)

共生の基本となる対話=ダイアローグ

 あの「スモール・イズ・ビューティフル」を書いた経済学者E・F・シューマッハにちなんで設立された、イギリスの小さな大学院に留学していた時、“目から鱗が落ちる”と言うのはこのことかと心底実感した本がありました。それは量子力学の巨匠デビッド・ボームが彼の晩年に書いたものでした。
 その中でボームは、これからの社会の展望を語る中で、人間同士が行なう「対話=ダイアローグ」の重要性を強調しています。これは彼が晩年に最も力を入れた活動の一つです。ダイアローグのダイアは「通 じる」と言う意味を持ち、ローグは「ロゴスまたは真理」を意味します。
 ボームは、お互いが公平な立場にたち、情報をみんなで共有し、相互の意見に耳を傾けて対話を進めるならば、独り善がりや先入観が排除されるばかりでなく、一人では到達し難い、よりふさわしい結論に至る事ができると述べています。また「対話=ダイアローグ」は、私達の社会があらゆる過ちを避けるための、最も優れた免疫機能としての役割を果たすであろうとも述べています。

まず相手の意見をしっかり受け止めること

 お互いの間で何かを決めなければならない場合には、まず相手の意見をしっかり受け入れる事からスタートします。 自分の意見もきちんと主張するものの、相手の意見も自分の意見と同等に尊重しながら、お互いの合意点を探って行く事がそのプロセスとなります。お互いが相互の意見を十分に尊重するならば、必ず合意に達します。しかも「対立」するよりずっと簡単に合意にいたる事も可能です。
 「共生」とは、「お互いが存在する事によってお互いが生かされている」ことを深く認識し、「自分の存在をしっかり表現しながらも、他の存在も自分の存在と同等に尊重し、共に全体への調和をとりながら生きていく」ことだと考えられます。その意味において、この対話による合意形成は、人間社会はもちろん、人間と自然界における「共生」においても、最も基本となることと考えられます。

いま住んでいる地域を変えていく

 私達が共生社会をめざすならば、社会の構造もおのずと変わって行くことになります。対話による合意を重視するためには、大きな集団では不可能です。よりふさわしい小さなサイズの集団にならなければなりません。また、自分達の活動が他の人々や自然界に及ぼす影響に対して、しっかりと責任を負う必要があります。そのためには、私達の生活の主要な部分を、できるだけ自分の見える範囲で生産し、消費することが要となってきます。社会のシステムも自己管理し、自己メインテナンスします。金融も自分達でまかないます。教育もそうです。つまり、自分達の、自分達による、自分達のための、自分達で納得し責任を負える社会を形成して行く事が大事になってきます。
 そして、それは意外と小さな地域レベルでの活動となるでしょう。 これは昔の田舎にあったような閉鎖的なコミュニティーのことではありません。また、どこかに理想郷を作ることでもありません。これからの共生社会への第一歩は、お互いの自由な意思を尊重しながら、今住んでいる地域のコミュニティーを、相互の信頼と協調関係をベースに、より自立的なものに再構築していくことと考えられます。

協調を主体にした共生のコミュニティー

 それならば、一体何が具体的に変わってくるのでしょうか。例えば、協調が基本の共生のコミュニティーでは、生産者と消費者、経営者と従業員、店員とお客といった相い対する関係よりも、それらが相互に融合した形が生まれてくるはずです。その方が必要とされるニーズに合った、質の高い財やサービスを安定して供給できるからです。
 また、個人が全てに所有権を主張することよりも、無駄 をすることなく共有できるものは皆で持つというスタイルが多くなってくるでしょう。エネルギー資源の利用についても、それは地域で共同で自給自足することが多くなってくるはずです。このことは、必要なものを必要なだけ消費するといった、新しいライフスタイルをも生み出します。
 長い年月のあいだに築きあげられた伝統的な地域の文化も、貴重な知恵の宝庫として見なおされてきます。財やサービスの交換も自分達で管理する交換システムの中で行なわれる様になります。子供の教育も、大規模な画一的なものから、地域の文化と個人の特質、精神的・身体的な発達に合わせた教育を可能とする、地域に支えられた小規模な学校が増えてきます。
 協調を主体にした共生のコミュニティーは、私達の社会に豊かな多様性を育み、愛に満ちた生活の場を提供してくれるはずです。地域のひとりひとりは、そのコミュニティーの中に自分の場所を見つけて、コミュニティーを支える大切な役割を担って行きます。そして、その自分の場所と役割は、周囲が移り変わっていくのと同じペースで、常に全体に調和しながら自らも変わって行きます。

自然界の原理と共通の基本を持つ社会

 まさに自然界の原理と共通したしくみがここにあります。これこそ本当のエコロジカル社会と言ってもよいでしょう。ひとりひとりの愛に満ちた小さな活動が集まれば、それがコミュニティーの「質」を高めていきます。コミュニティーの「質」が高まるとそれがまたひとりひとりの精神的、市民的意識を変えていきます。ここには、全体への調和を大事にする個人とコミュニティーとの相互のフィードバックがあり、それが全体を共に進化させていきます。これは、私達の母なる地球“ガイア”が、32億年の歳月をかけて現在の地球を創りあげてきた共進化の原理と全く同じです。
 実はこれらはもう絵空事ではありません。世界中の各地で、日本の各地で、すでに様々な形で実践が始まっています。消費者と農家が共同で経営する無農薬有機の農業法人、コミュニティーで作る信用組合、地域での財やサービスの交換システム、地域単位 のエネルギー供給システム、車などの共同所有、地域全員の合意を前提とする地方、地域で建てて地域で運営する小学校、などの様々な取り組みが、世界中で同時多発的に起こっています。そこでは実際に新しい人間関係や、人々と自然界との関係が生まれ、それがコミュニティー自体を変えつつあります。
 これらは、まさに地球規模での変容を実感させる出来事です。シューマッハやボームをはじめ、多くの偉大な先人達が描いていてきた夢が、いま現実に動き出しているのです。


《参考文献》
E.F.シューマッハ  「スモールイズビューティフル」、「スモールイズビューティフル再論」
D.ボーム、D.ピート  「Science, Order and Creativity」
H.マチュラナ、F.ヴァレーラ 「The Tree of Knowledge」
J.ラブロック  「ガイアの時代」
R.ドゥースウェイト 「Short Circuit」


尚、この文章は下の「パーマカルチャーしよう!」のなかにも収録されています。この本は、いろいろな方が寄稿されており、その多様性に満ちた想いと考え方は、それぞれにとても参考になります。お薦めです!

パーマカルチャーしよう!―愉しく心地よい暮らしのつくり方

自然食通信社

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学校の共同生活を通じて、自分自身が変わっていく

2008-12-10 | カレッジ関連記事
ネットで検索していたら、
シューマッハカレッジで年間を通じて行われているショートコースの様子について、岡本享二氏が書かれたレポートを見つけました。

「野趣あふれるシューマッハ・カレッジライフ」

シューマッハカレッジでは、
共同生活を行い、
お互いがお互いのために働きます。
自然界の中の基本でもある、
その相互依存のあり方を、
実践を通じて感じてもらう意味もあります。

また、学校の食事は、
すべてベジタリアン料理。

朝は、瞑想からはじまります。
(これは任意ではありますが)

こういった、普通の大学ではありえないことが、
この学校の中では、
あたりまえのこととして行われます。

ショートコースで短期に学校を訪問されると、
最初はこういったいろいろなことに、
???ということが多いものです。

特にシューマッハカレッジのスタイルと違ったライフスタイルをされていた方にとっては、
本当に、怒ってしまうくらい、
不満がたまってしまうのは良くわかります。

しかし、そういった疑問も、
滞在されていくうちに解けていき、
それぞれに深い意味があることがわかってきます。

著者も、
終了されたときには、
自分が変わられたことに、
自分自身で気づかれたご様子が記述されています。

これは、カレッジの創立に関わった、
サティシュ・クマール氏がこだわった、
体験を通じて理解するという、
シューマッハカレッジの基本でもあります。

私自身、読ませていただきながら、
とても懐かしく学校のことが思い出されました。

どうもありがとうございました。