4年前と同じ色のメダルだった。でも、その内実は大きく異なっていた――。
2月14日、ノルディック複合ノーマルヒル。ソチ五輪に続いて銀メダルを獲得した渡部暁斗の表情は、明らかに前大会のときとは違っていた。
試合は今大会での他競技でもよく見られた、風に影響を受けながらの展開となった。
ワールドカップ総合1位で今大会を迎えた渡部は、前半のジャンプでは最終の48番目でのスタート。順番が近づくと、思わぬ展開が待っていた。渡部の前の2人が相次いで失速ジャンプに終わったのである。
46番スタートのヨルゲン・グラーバクはワールドカップ総合3位、47番のヤン・シュミット(ともにノルウェー)は総合2位の実力者だ。にもかかわらず、グラーバクが90.0mの93.6点で23位、シュミットが88.0mの88.8点で31位と思わぬ結果に終わった。
記録上は両者ともに向かい風だったが、先に飛んだ選手とは明らかに異なる、不利な風の影響下にあったことは容易に見て取れた。
8秒だけの心もとないアドバンテージ。
そのあとを受けた渡部は、しかし105.5mの123.7点で3位につける。
「ジャンプの内容自体はまあまあ。あの流れに巻き込まれなくてよかったなというのはありました」
渡部もそう振り返る。前の2人とは違いうまくまとめることができたのは、磨いてきた技術に加え、経験を重ねたことで得た落ち着きが大きかったと言えるだろう。
ただ、後半のクロスカントリーに強い選手に対して、前半であまり差をつけられなかったのも事実だった。中でも、5位のエリック・フレンツェル(ドイツ)に対して、クロスカントリーで8秒のアドバンテージしか得ることができなかった。彼はソチ五輪の金メダリストであり、クロスカントリーに強みを持っていた。
競り合いが予想される中、クロスカントリー(10km)が始まる。トップから28秒後にスタートした渡部は、先行する2人の選手を少しずつ追い上げていく。そして渡部の後方からは、フレンツェルらが接近してきていた。
4年前と同じ負け方でも、表情はまるで違う。
5km付近で集団が形成されると、そこからは先頭がかわりつつも、徐々に人数が絞られていく。
9kmでついに4人となり、優勝争いはこのメンバーに絞られた。ゴールまでの距離も残されていない上り坂、フレンツェルが仕掛ける。追う渡部は徐々に差をつけられた。
結局、渡部はフレンツェルに4.8秒差をつけられ、2位でゴール。それはソチの再現を見ているようでもあった。4年前もフレンツェルと激しいトップ争いを続け、最後に突き放されての2位だった。しかし冒頭でも触れたように、その表情は前回とは違うものだった。
「確実に走力の差があるので、ああいう展開になったら厳しい。ですが、今日はわりとうまく走って体力も残せましたし、あそこで来るというのも分かっていました。自分も上りに入る前に加速したのですが……。全部プラン通りでしたけれど、微妙に勝ちきれなかったです」
率直に地力の差があったことを認めた。ジャンプで差をつけられなかった時点で、厳しい戦いになることは想定できていたのだろう。試合結果を冷静に受け止めていた。
メダルで気持ちが切れた4年前。
4年前と同じ銀でも、渡部は心境が異なると語った。
「確実に違うのは、4年前は持っていないものを初めて獲って、ある意味、僕の気持ちは切れていたと思うんですね。でも今はわりと冷静というか、獲れるものを獲ったという感じです。あとは自分が目標としているもの、もう1ついい色のメダルを獲ることに集中できる。そのへんの気持ちの違いがあります」
また、こうも語る。
「メダルを獲れたことは素直にうれしいです。あるのとないのとでは違うし。次は楽になると言ったら変ですけど」
金メダルまでの「距離は近いと思う」。
ソチでは悲願だったメダルをノーマルヒルで手にし、続くラージヒルは6位に終わった。今大会は、目標を金メダルに明確に絞り込んで臨んだ大会だ。
そのためには銀を獲っても集中が切れることはなく、一方でまずはメダルを得たことで、続くラージヒルでのプレッシャーは軽くなる。
「(金メダルへの)距離自体は近いと思うんです。ジャンプもいいし、クロスカントリーも走れている。僕としては獲れる準備はできています」
2位という結果で終えたノーマルヒルは、よいスタートとなった。ただ、楽観視はしていない。
「フレンツェルだけじゃなく、ノーマルヒルでは運のなかったノルウェーチームもいる。簡単には行かないだろうなと思いますが、いい流れが来れば、チャンスは4年前より大きいと思っています」
厳しい戦いになるであろうことは想定済み。それでも金メダルへの距離が縮まっていることは実感できている。気持ちにも緩みはない。
追い求めてきた目標の達成をかけたラージヒルは、20日に行なわれる。
(WEB引用)
腹がすく我慢も訓練次第・おめでとう
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