芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

競馬エッセイ ソロナオール

2016年04月19日 | 競馬エッセイ

 むかしソロナオールという馬がいた。父フェリオール、母ソロナコメット、母の父ソロナウェー。北海道門別の法理牧場の生産馬であった。法理牧場は、障害レースの名手として鳴らした法理騎手の実家だったかと思う。ソロナオールは中山の佐藤嘉秋厩舎に入り、高森紀夫騎手が乗っていた。

 ソロナオールという馬は、男馬にしては温和しい女の子みたいに、小柄で細身の馬体であった。可愛いって感じの馬であった。ソロナオールにとって運が悪いことに、タイテエム、ロングエース、ランドプリンス、イシノヒカル、ハクホオショウ、タニノチカラ、ハマノパレード、ストロングエイトたち、つまり最強世代と同世代であったことであろう。
 その脚質はいつも最後方からの追い込み一辺倒である。。そしていつも3着。セントライト記念3着、京都新聞杯3着、菊花賞3着、有馬記念3着という成績である。これはかなり能力が高いと言わざるを得ない。
 彼は、格落ちのメンバーとの条件戦に出れば、当然1番人気に推される。何しろ、セントライト記念3着、京都新聞杯3着、菊花賞3着、有馬記念3着の実力馬なのである。何しろ、後方からの一気の末脚の斬れ味、ゴボウ抜きの凄まじさである。しかし、彼はその条件特別も3着なのであった。
 もっと前で競馬をすればいいのに、ソロナオールはそれができない不器用な馬なのであった。おそらく馬群に包まれるのが恐くて嫌いで、いつも後ろから行ったものであろう。

 むかしカブラヤオーの主戦騎手・菅原泰夫が、馬の引退後に言った。他馬を怖がる気の弱い馬の戦術は、逃げか、最後方からの追い込みしかないと。カブラヤオーもそういう馬だったと言うのである。
 カブラヤオーのデビュー戦は菅野澄男騎乗でダート1200。この時は人気もなかったが、最後方から行って、ゴール直前で猛然と追い込んで頭差の2着だった。勝ったダイヤモンドアイより、カブラヤオーの凄みが注目されたのである。その後は逃げて逃げて逃げまくって勝ち、弥生賞から茂木厩舎の主戦騎手の菅原泰夫が騎乗し、皐月賞もNHK杯も勝ち、8連勝でダービー馬となったのである。しかし、カブラヤオーは気が弱く、追い込むか逃げるかしかなかったのだという。
 おそらくソロナオールも他馬を怖がったのだろう。しかし大外から猛然と追い込んでくる脚は圧巻で、もうスタンド全体が「来た~」という感じで揺れた。しかしやっぱり3着。あ~あ、今日も3着か…。
 そのほとんどのレースで乗っていたのは高森紀夫騎手だった。あまり目立たない騎手だったが、高森と言えばソロナオール、ソロナオールと言えば高森というコンビであった。「この人この一頭」である。勝てなかったがファンが多かった。ソロナオールは胸をキュンとさせるのだ。判官贔屓であろうか、女性ファンも多かったように思う。
 そう言えば、ロイスアンドロイスという馬も3着ばかりだった。オールカマー3着、天皇賞・秋3着、ジャパンカップ3着…。このときは横山典弘騎手が乗っていた。しかしロイスアンドロイスは典型的なジリ脚タイプで、同じいつも3着でも、インパクトではやっぱりソロナオールだったろう。

 ちなみに私は長らく、「優駿達の蹄跡」(個人による日本・海外競馬のデータベース)というウェブサイトを、こよなく愛読している。漫然と眺めるだけでも楽しく、過去の馬のことや、海外の名馬たちを調べるのにも大変重宝している。引退した重賞勝ち馬全ての、全成績のデータ(血統、生産牧場、馬主、服色、厩舎、戦績、収得賞金、出走年月日、競馬場、馬場状態、距離、コース、騎乗騎手、相手、タイム、兄弟姉妹馬、産駒…)個人の競馬データベースとしては最高峰であろう。その管理人の名が「アホヌラ(ahonoora)」というのも良い。アホヌラとはイギリスの競走馬で、種牡馬の名前である。典型的なスプリンターで、決して超一流馬・一流種牡馬ではなく、知る人ぞ知る馬であろう。この管理人は相当マニアックな方であろうと思われる。ちなみに種牡馬アホヌラは、後継種牡馬にインディアンリッジやドクターデヴィアスを出した。
「優駿達の蹄跡」は、これまでの日本の重賞優勝馬の全データを記載しているが、この中で重賞勝ちのない馬が、二頭ほど掲載されている。その中の一頭は誰あろう、ソロナオールなのである。そしてもう一頭はロイスアンドロイスなのである。彼らの複数回の重賞3着とその印象度は重賞優勝と同じほどの価値があったということだろう。
 二頭のレースぶりは全く異なる。やはり競馬ファンとしては、「来た~」とスタンドを熱狂させた追い込むだけのソロナオールが忘れがたく、また良い。


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