6月21日 晴れ
午後から近くのフッディンゲまで買い物に行った。
晴れて気温16度。今年のこの地方では非常に暖かい、いや暑いくらいである。
で、散歩を兼ねて往復1時間歩いた。
買い物の一つは方眼紙を買うこと。
マンションの見取り図を書くのに、普通のノートでは具合が悪い。
フッディンゲでは本屋・アカデミーブウクハンデルに文房具が置いてある。
レジに並ぼうとして、オマケにぶつかった。
ノンフィクションのコーナーに、ポール・オースターの本を見つけたのだ。
好きな作家なので、捜していたわけではなかったが、手に取ってみた。
Report From Interior とかいうタイトルだった。
これは未読のはず。
本棚に表紙を見せて置いてあるのだから、新作なのかもしれない。
日本では、新刊のハードカバーは見ない買わない。文庫本になってから買う。
新作かどうかわからないのは、そのためである。
これはペーパーバックで1700円くらいではなかったか。
英語版で、冒頭から彼の世界へ引きこまれたような気がした。
昔は、自分が子どものころは月には人がいた、顔だけであったが不思議ではなかった、と
かいう書き出しで、さらにいろんなモノに名前がついていたり、仲間だったりしたというよう
なことが書かれていた。
ずいぶん前のことで忘れたが、Its good to die in Brooklyn と書き出す本があった。
最初のこの一行には衝撃を受け、同時に笑いだしたくなった。
現役時代には、毎朝毎晩毎回、それにとらわれていたからだった。
この本の冒頭を読んで、そんなことを思い出した。
この本もそれほど難しい「英文」ではなかった。
悩んだが、買わなかった。
じつは彼のニューヨーク3部作・スウェーデン語版を古本屋で買ってあって、これを訳して
見ようと思いながら、まだ手をつけていない。
新作は魅力的だったが、それもあって少し様子を見ることにした。
帰ってからネットで調べてみた。新作なのか、すで日本語訳があるのか。
2013年の本で、まだ日本語版はないようだった。
なら、買ってよいかもしれない。夏には恒例のバーゲンがあるので、この本が対象品にな
るかどうかわからないが、それまで待ってもよいか。
ネットでは、ついでにオースターと翻訳者の対談という項目を読んだ。
面白かったのは野球についての話。翻訳者が、アメリカがワールドシリーズとやるのは、お
ごりではないか、とか何とか聞いたのに対して、彼がこう答えた。
ワールドシリーズは、1903年、The Worldという新聞社がスポンサーになって始めた。そ
れでワールドシリーズっていう名前になったんだ。
じつは、同じ質問を、ロッテ監督を辞めた直後のバレンタインにしたことがあった。
彼の答えはこうだった。
「いや、アメリカのワールドシリーズっていうことなんだ。日本シリーズも、日本のワールドシ
リーズと言えばいいんじゃないかな」
そういや、ふたりの世界、動物の世界と、世界はそこらじゅうにあるな。なるほど、と聞いて
いたのだが、オースターのほうが正解ではないか。
オースターは大の野球ファンである。
若いころ、自らカードで遊ぶ野球ゲームを考案し、売り込みを図ったことがある。筋金入りだ
から、バレンタインよりも詳しくておかしくはない。
彼は自分と同じ年で、同じ70年にヨーロッパで貧乏生活を経験し、野球が好きで映画に強
い関心がある、という共通項があって、まあレベルは違うのだが、基本的なところで親近感
をもっている。
ついでにいえば、彼がニューヨークで本屋の店番をしていたとき、ふらりとジョン・レノンが入
店してきた。
ジョンがある本のことを聞き、オースターがこたえた。それだけのことだが、こういうエピソード
を自伝の中で書いたということに、ミーハー的なシンパシーを抱いた。
精神の迷路を、謎解きするようにかき分けて行くーー正解にはむろん行きつかないーー彼
の本には、いつでもそういう思いがする。
発想が突飛といっていいくらい自由自在、アミーバ的で、これが面白い。
ミステリーの原語は Mysterious Hunting というところから出た、と聞いたことがある。
江戸川乱歩がこれに猟奇的という訳語をあてたらしいが、オースターはこの系統を汲んで、
犯人を追うのではなく、人間の謎に迫るというミステリーを書いているような気がする。
わかりやすく面白いのは、そのためでもあるのではないか。
ところで買い物帰り、湖のわきを通ったら、サギをみた。
羽色はやや青みを帯びて、日本でふつうにみかけるサギより大きい。体長1メートル弱。
かれは、この辺りに生息しているらしい。
よく見かけるので、これにはキヨシという名前をつけた。
サギだからで、そのゆえんは、わかる人にはわかる。