昨日のマラガで思い出したのだが、1980年代初、コスタ・デル・ソルで冬を過ごしていた時に滞在していたホテルで油絵の展示即売会があった。太陽海岸とは言っても冬の地中海は、日差しは明るいものの風は冷たく、ホテルの中にいることが多かったので、時間つぶしにこの展示会に顔を出してみた。その時、このあたりのホテルを巡回して絵を売っているという画家がいた。聞けば、チリから命からがらスペインに逃れてきたのだという。当時はアジェンデ政権崩壊後の軍事政権による知識人弾圧のさなかで、たしかに説得力のある話だった。真偽のほどは確かではないが同人の語った逃避行は1976年に出版された五木寛之の小説、戒厳令の夜 を地で行くようなものでいたく興味をそそられるとともに平和な日本との落差を強く感じたものだった。
この絵はマラガから見た地中海を描いた、というもので、果たして絵としてどのような評価がなされるのかは知らない。この作家による同様の構図の油絵はいまでもオークションに出展されているようだ。買ったときにはもちろん額などはなく、ロンドンに戻ってから額に入れた。余談ながらその時、注文した額縁商から、額の選び方をいろいろと聞いてその後おおいに参考になった。
その後チリは民政移管されたし、30年以上も経って、あの当時すでに初老の域に達していたあの画家はとうに他界していることだろうか。