花日和 Hana-biyori

鹿の王(下)~還っていく者

上橋菜穂子『鹿の王(下)~還って行く者』(KADOKAWA)を読み終わりました。面白かった~。ただ、終わり方はもうちょっと、なんとかはっきりしてとは思いましたが。そういうものと言われれば納得できないわけでもありません。

***上巻からのあらすじ***

大国・東乎瑠(ツオル)帝国がアカファ国とその辺境の国々を征服し、ゆるやかな統治を進める世界。妻子を亡くし死に場所を求める戦士、ヴァン(40代前半)と、貴人と崇められる医術師一族「オタワル」の青年・ホッサル(26歳くらい)の2人が主人公。

大国との戦いに敗れ、奴隷として岩塩鉱で苦役についていたヴァンは、ある日、鉱山の奥で山犬の襲撃に遭う。噛まれた奴隷たちは疫病にかかり次々に死んでしまうが、ヴァンだけが生き残り、脱出する。一方、ホッサルは奴隷たちが罹った病を調査するが、その症状はかつて栄えた自分の一族オタワルを亡ぼした疫病に酷似していた。ただ一人生き残ったらしい奴隷は疫病の解明に役立つと考え、逃げたヴァンを追うように指示をだすが――。

この、ヴァンとホッサルの両面から話が進み、2人がいつどのように出会うのか?という興味で物語に引き込まれます。2人のキャラクターが良く、とくにヴァンは如何にも落ち着いた、精悍な大人の男といった雰囲気が魅力的。ホッサルは対照的に端正な美青年風に描かれていて、想像するのが楽しいです。登場人物が多く、背景が複雑なストーリーですが、権謀術数あり、スピード感あふれるアクションありでエンタメ性もあります。アニメ映画化されるそうなので、アクションシーンが楽しみです。

* * *

物語を大きく捉えると、大国が辺境の小国を飲み込み、人々を移住させたり、土地に住む動物・家畜・植生を変えてしまうことで、どのような影響あるのか、とても綿密に描かれていました。人間の身体を維持しているのは目に見えない、自分の意思とは関係ないものの働きのおかげ(悪影響も含め)ということにも思いを致させます。

病理的な側面と、宗教の考え方で輸血や投薬ができない問題、覇権争い、根源的な民族意識や郷愁、家畜を超えた特別な鹿や馬に対する思いなど、多くの要素が物語に効果的に溶け込んでいて読み応えがありました。面白いファンタジーは、架空の世界を舞台にしながら現実社会の問題や人間の葛藤をより鮮明に描き出す、ということを、改めて思いましたよ。
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