よんたまな日々

サッカーとゲームと本とおいしい食べ物

車に乗らない話(前編)

2021年06月19日 | 日々徒然

むかしむかし、まだ私の両親がお見合い後のデートを重ねていた頃のある日、うちの父は、母をドライブデートに誘った。とても楽しみにして待ち合わせ場所で待つ母の目の前に現れた車は、ピンクと赤のツートーンカラーで、車体に大きく、化粧品会社のメーカー名が書かれていた。父は、何と、仕入れ先の会社に用意させた宣伝カーでデートに現れたのである。
今でいうレッドブルカーみたいな感じだったと推測する。
母は幼い私に対して、何度もこの話をした。本当に驚いたらしい。

まだ高度成長期のとば口で、1964年東京オリンピック直後のモータリゼーションが大きく進む中、まだ珍しかったドライブデートに母が心ときめかせたのも当たり前な時代。高価な車を入手するために、父も知恵を絞ったのであろう。
この派手な車は、私が幼稚園に入るまで我が家で使われており、幼い頃の印象的な記憶の一つである。

私が小学校に入る頃、父はようやく自分の車を入手し、それはおそらくスカイラインGTだったと思う。当時の希望の象徴である車が、父は本当に好きだった。
主に電話注文された化粧品の配達のために使われたが、父が何かと車を出したがるので、よく車で外出する家庭であった。
母は車酔いがひどく、いつも助手席に座って飴を舐めながら乗っていた。
私も長時間のドライブとなると、車酔いをした。
それでもみんな車で外出するのが大好きだった。

その後、我が家にペットの犬と、妹が加わった。この一匹と一人も車に乗るのが好きだった。
犬は、助手席の窓から身を乗り出して、外の景色を見るのが大好きだったし、妹は、いつも運転席と助手席の間の後部座席に座って、車の前方の景色を見るのが好きだった。
結果、父が急ブレーキを踏むと、いつも後部座席からサイドブレーキを超え、助手席のダッシュボードの下まで転がっていた。
よく頸椎骨折とか起こさずに、元気に育ったものである。当時チャイルドシートというものが既に存在していたかどうかは知らない。

さて、こういう家庭であれば、次期ドライバーとして、当然長男に期待がかかるものであるが、この長男、大いに問題あり。
野球をやればフライは取れない、カスタネットを叩かせるとどんな曲でも徐々に徐々に遅れていく、お遊戯で踊れば、どんどん踊りがずれていき、気が付くと、マイペース踊り。もしかして、稀に見る運動音痴?
心配した父が、小学校の頃はキャッチボールに連れ出すが、絵に描いたような顔面キャッチを見せ、自転車に乗らせて見ると、何でもない平らなアスファルト道で、綺麗に転んで見せる。
高校生になってからは、インドア派でうちで文庫本読んでいたいというのを引っ張り出してきて、無理矢理バイクに乗せるが、近所の道路を自転車みたいな低速で一周回ったら、とっとと降りて家に戻ろうとする。「父は高校の頃、親父のバイクを盗んで乗り回したのだぞ。」と武勇伝を聞かせても、「乗りたくない。」「もっとスピード出して走ってみろ。面白いから。」「怖いから、やだ。」と、全く乗って来ない。

当時の奈良・法隆寺界隈は、いや、日本中が、車社会となっており、店もジャスコを中心に国道に面した広い駐車場を持つロードサイド郊外型店舗ばかりになっていた。
伊勢街道沿いに発展し、周囲の集落からの自転車、徒歩で集まる顧客をターゲットにした小さな商店街は、駐車場もなく、道も狭く車で入って来れないので、そういうロードサイド郊外型店舗に客を奪われており、法隆寺駅前を中心に大阪のベッドタウンとして新たに開発された住宅地の住人を集客できず、急速に衰退し始めていた。

高度経済成長は、地方の小さな小売店を一瞬豊かにしたが、車を中心としたロードサイトショップという新たな生活スタイルを浸透させ、そのスタイルに適応できない店を淘汰したのである。

そんな車社会のど真ん中で、明らかに車向きでない性格と能力の、この化粧品屋の息子は、大学に入学し、「生活必需品だから」と両親に説得され、嫌々地元の自動車教習所に通い始めていた。
嫌々通っていて、身につくほど、車の運転は簡単じゃない。早くも一段階、二段階から実技試験は落ちまくる。当時の自動車教習所教官は、警察官上がりの強面ばかり。まともに運転技能を身につけられない出来の悪い生徒に、懇切丁寧に教える忍耐も持ち合わせていない。教官の皮肉と溜息と舌打ちに、ますます苦手意識を募らせ、すっかり暗礁に乗り上げていた。
田舎の狭い村社会のこと、教習所所長と知り合いだった父が頼み込んで手を尽くして、何とか一年の期限内に本免取得と相成りました。

ところがこんな感じで、何とか免許は取れたが、本人はちっとも車に乗りたがらない。何とか乗せようと、無理矢理用事を作り、店の配達や、家族での外食や、親戚への届け物や、墓参りやと、車の運転をさせたが、何とか事故は起こさずに運転しているが、いつまでも危なっかしい運転で、本人も運転が終わると緊張から来る疲労でぐったりしている。

ここから、私視点に直して書きます。車の必要性理解し、何とか乗ろうと頑張りましたが、日常の交通手段とするには厳しい。
どう厳しいか。
・時速40kmを超えるスピードで動いているものにふさわしい反応速度での判断が難しい。先に考えておかないと動けず、アドリブでの対応できない。
・車幅感覚ない。田舎の狭い道で脱輪や縁石への乗り上げしまくった。
・縦列駐車無理。
・方向感覚ない。道迷う。
・トラック煽らないで、怖いから。
・狭い道で道の端をふらふら走るおばあちゃん自転車、道路状況無視の高校生自転車、怖いです。
・セルフガソリンスタンド、自分で給油できないです。
・高速道路なんて絶対無理!
という困ったちゃんドライバーでした。

ただ、こんな感じでも、緊張感持って慎重に運転している間は何とか走ってられたのです。
ある日、一人で真っ直ぐな片側一車線のやや狭い道を運転していた時に、何でもないところで、ボーっと運転していて、寝ていた訳じゃないんだけど、集中力が切れていて、道路脇の生垣で車の側面激しく擦りました。生垣側にも車側にも全くダメージはなかったのですが、その時、車の走行位置とか生垣との距離とかそういうことは全く意識になく、午前中の数学の問題の解法が頭に浮かび、その検算しか考えていなかったことが、本気で怖かったです。

これは間違いなく将来事故を起こすと思ったので、この運転を最後に、もうハンドルは握らない決心をしました。
その場から、すぐに車を返し、自宅の駐車場に車を入れ、鍵を親に返しました。

父はそれで納得したらしく、私がペーパードライバーでいることに文句を言いませんでした。
母は、それからも事あるごとに、ため息混じりで、「車乗ってくれたら、生活がずっと楽になるのに」「女の子は、白馬に乗った王子様が車で迎えに来てくれると思っているのよ。」「子供ができたら、ペーパードライバーなんて甘えたこと言ってられないわ。」などとずっと言い続けていました。

今でも病院通いする時に、叔父を呼び出して運転させているので、「他人ちに迷惑かけるようなことは辞めて、タクシー使ってくれ。」というと、「あんたが車の運転できたら、そんなことしないわ。」などと言ってます。

この文章書いてて思った。もし私がペーパードライバーでなかったら、この歳で会社勤めしていてもまだ母のアッシーやっていたかもしれませんね。それは怖い未来だ。母には車の諸費用考えるとタクシーのほうが安上がりだと何度も説明しているのですが、タクシー代がもったいないと言って、誰かマイカーオーナーの車に乗ろうとします。それを世間はフリーライドと言う。

車に乗らない話、前編はここまでです。世間の男性でペーパードライバーはマイノリティ。後編では、ペーパードライバーならではの困ったエピソードを書きたいと思ってます。



最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (nognogblack)
2021-06-19 07:17:48
ボクもペーパーです。
運転免許取得で苦労するあたり、運転に対する不安、女の子をエスコート出来ない…
全く同じです。

なかなか共感してくれる人いませんよね。(T_T)

就職先も限られてしまうし、免許持ってるんだから…とあてにされ困った事も数知れず

情けないやら、悔しいやら

彼女とのデート、地元観光地でタクシーの運転手に騙された事も…

その反動でボクは『自転車でどこでも行ってやる!』って意地になっているのかも?
返信する
Unknown (h_tutiya)
2021-06-19 07:28:28
@nognogblack nognogblackさん、いらっしゃい。そうそう、ペーパードライバーって、すごく身を縮めてひっそり暮らしていますよね。まさか、あの多才なノグさんがペーパードライバーだったとはびっくりです。後編では、ペーパードライバーとして出会った「ああ勘違い」なエピソードも書きたいと思っています。いっぱいありすぎんだよな。どうぞお楽しみに。
返信する
Unknown (kotobukibiyori)
2021-06-19 18:28:03
こんにちは!
世間の皆様が当たり前の様に免許を取得し車を運転している事が、臆病な私には信じられません。
あんなの特殊技術無くちゃ乗りこなせません、跳び箱を習得するのとは訳が違うんだから、一般技能の様に語らないで欲しい。
…私も母と顔を合わす度に、運転免許を取って自分を何処かへ連れてけ〜と言われ困ってるので、貴方様の記事を身につまされる思いで読みました。
後編に期待しております。
返信する
Unknown (h_tutiya)
2021-06-20 06:45:36
@kotobukibiyori いらっしゃいませ。kotobukibiyoriさん。総合目次の内容から、むっちゃ趣味が合うと思っておりました。
ペーパードライバーの痛い話、早速、続きをアップしました。kotobukibiyoriさんのお話も是非お聞かせ下さいまし。
返信する

コメントを投稿