皮膚が。面の皮が。それだけでここまで物語るのだ。
一種の驚きというか。崇高なものを感じさせる何かというか。
行燈の薄暗い室内にあって、映画館の大画面のアップショットがとらえる
男性俳優陣の貌は、皺、しみ、たるみ をあらわし陰影を備える。
高解像度化に伴って、つるつるとしみもなく毛穴もみえないキレイな面皮を
スタンダードとしつつある昨今のあれこれとは一線を画す彼らの相貌は、
たいへんに、とてつもなく、味わい深く、存外に醜さを感じることがなく、
ここまで徹底しているということはメイクなのか、とも思いつつ。
当然に俳優それぞれ異なる個性・唯一無二であること、
その人生の時間の降り積もった結果としての身体であることを示し、
梅安(豊川悦司さん)、彦次郎(片岡愛之助さん)、蔓役その他の関係人物の
背景の厚みに重ねられている。
そこにたぶんわたしは美を感応しているけれど、
もっと根源的なもので、「美しい」という言葉では上滑りしてしまう。
原作を読んだのはずいぶん前で、原作からどう物語を組んだのかは
確認していないけれど、ひとの厚みを味わう構成だと思う。
(おもんとの接点が最初意外で、あとまで見て腑に落ちた)。
俳優さん男女ともキャスティングすばらしく。
池上作品の特徴、悪か悪でないかが単純でない狭間の人物たち。
おみのの天海祐希さん、絶妙。
剣劇の殺陣は若い侍・石川(早乙女太一さん)で2回、
いずれも切れがたいへんにすばらしく、リアリティの高い虚構の粋、
こんなにいい殺陣を久しぶりにみた。演者も演出もみごと。
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公式サイト:https://baian-movie.com/
エンドロールの後に2につながる映像があるから、
さいごまで席を立たない方がよいですよ。
追記
屋外の風景、葉の落ちゆく銀杏、ふりしきる江戸時代の雪、
季節と日常のたべもの、登場人物たちの棲家のしつらえ、
細部にまでゆきわたる表現は大画面でそこここに存在感を示しており、
最終盤の石川の着物の衿の毛羽立ちに震えた。
(2023.2.5)