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ぐるぐる・ぶらぶら

歌舞伎と映画と美術と読書の感想

【歌舞伎】歌舞伎座 十二月大歌舞伎 2018年12月

2018-12-24 23:12:14 | 歌舞伎
歌舞伎座百三十年
十二月大歌舞伎
歌舞伎座
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女形の芸の継承を目の当たりにする。
玉三郎さんから教わったという話は菊之助さん七之助さんなど
これまでも耳にしてはいましたが。今月は殊更エポックメーキングな印象。
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◆夜の部
 
阿古屋。
演者の全パターン押さえるのはスケジュールも財布も厳しいので、
あえてBプロを2回取って、梅枝さんと児太郎さんのと両方観ました。
目撃したかったのです。
 
観たら結局、Aプロも観たかったと思っちゃったけど。
 
観客からするとまずは観ること自体が喜びだった。
 
同じ役でも演者の個性が滲むのね。観る方の思い込みかも知れないけど。

未来につながる何か、
学びながら伸びる若芽のエネルギーや美を観たと思う。
継ぎながら、それぞれの表現をこれからじっくりと成熟させていくのだろう。
次回も観たいよ。
 
Bプロの岩永左衛門は何と玉三郎さんなのですが、
女形の柔らかさを、人形という特性がもつ愛嬌に包んでいて
人形としてのリアリティが面白かった。

あんまと泥棒。
中車さんのあんま秀の市と松緑さんの泥棒権太郎の丁々発止。
あんまはからりと明るく軽く見えるのだけれど、よくよく考えれば
社会から虐げられ続けたことで強固な不信の殻を纏っていて、
こわい人かもしれない。
 
傾城雪吉原。
新作、玉三郎さんの舞踊。
感想を言語化するだけ野暮だ。私の場合。
観て、聴いて、香りを感じて(冒頭お香かおしろいっぽい香りがしたような?)、
そのまま胸の辺りに雪の光があわく映るのを感じ取る。
寒いけどそこはかとなく幸せ。
そんな空間。
 
(2018.12.15と16)
 
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◆昼の部 
 
世話物。上方vs江戸。
 
一、幸助餅
 
よくできた構成なんだけど、現代人の目には、ラストシーンに
病の再発の予感が漂ってしまわなくもない。
っていうくらい、松也さんの幸助の相撲好きの病ぶりが熱演です。
 
二、於染久松色読販
 
幾度もの早替わりを入れつつ、壱太郎さんが七つの役柄を演じ分けて
テンポよく、芝居が進み。
全般楽しく安定の見せ場が続く。
油屋の場面の演出もメリハリに新味があったりして。
お六、竹川、貞昌といった薹が立った年齢の役がカッコいい。
 
船頭長吉・松也さんと女猿廻しお作・梅枝さんとお光が邂逅する場面に
何故だかドキドキ。
今までに見たことがない感じの気持ちいい違和感というか。
ある種の新しさ、予定調和ではない組み合わせが持つ未来感。
妙味だったなぁ。
 
(2018.12.24)

【歌舞伎】歌舞伎座 芸術祭十月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年10月

2018-10-14 22:03:34 | 歌舞伎
歌舞伎座百三十年
芸術祭十月大歌舞伎
十八世中村勘三郎七回忌追善
歌舞伎座
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よき緊張と楽しさ。
十八世中村勘三郎追善の想いがあちこちに。
ご子息たち、もはや"追いかける"でなく"前を走る"。
真向で演じている中から個性が立って、無二の印象が高まってきた。
 
◆昼の部 
 
一、三人吉三巴白浪
 
七之助さんのお嬢、少年が強め(早め)、これ私は好き。
鶴松さんのおとせの「人が怖い」からの入れ替わりに息を呑み。
 
今回の三人はストリートギャングの風情を感じて興味深かった。
そもそもそういう演目なのかも知れない。
 
二、大江山酒呑童子
 
勘九郎さんの酒呑童子が楽しくて目が離せない。
頼光サイドのりりしい面々との対比も楽し。
 
三、佐倉義民伝
 
歌六さんの渡し守が錠を絶つところと、家族と別れるところ、
みごたえ。
 
勘九郎さんの家綱は台詞ほぼないながら存在感。白皙の侍が似合う。
 
◆夜の部 
 
一、宮島のだんまり
(職場に行ってて戻りが間に合わなくて見れず。ごめんなさい)。 
 
二、吉野山
 
踊り上手が3人で、最初から最後まで途切れなく心地よい緊張の中で
緩急強弱、舞手がうごく。こころ打つ素敵なものを見た。
 
三、助六曲輪初花桜
 
追善公演のトリ演目は、かつての大阪公演へのオマージュを被せて、
芝居のうまさ面白さと楽屋オチの二重のお楽しみ。
仁左衛門さんの助六、勘九郎さんの新兵衛、七之助さんの揚巻、玉三郎さんの満江。
彌十郎さんの通人が追善をガイド。
 
(2018.10.14)

【歌舞伎】歌舞伎座 秀山祭九月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年9月

2018-09-17 22:47:46 | 歌舞伎
歌舞伎座百三十年
秀山祭九月大歌舞伎
歌舞伎座
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みっしり詰まった濃い演目3つ。
福助さんに落涙。嬉しい。 
 
一、金閣寺
 
児太郎さんの雪姫。清廉。
松永大膳を仇と見極めたときの所以を語るところと、
鼠を描こうと決意するところ、女傑の気配が立つ芯の太い声色、
私はとても好き。
色っぽさはこれからかな。
 
松緑さんの松永大膳。やんちゃ味がラブリー(っていう見方はダメかしら?)。
 
福助さん。
5年ぶり。
はっきりとした言葉、台詞がしっかり聞こえた。
そこに到達するまでに5年かかったということかも知れない。
瞬間、ああ、そこにいること自体が嬉しいと思って泣いたけど、
あの声に、挨拶のために出てきたんじゃないと確信した。
 
現・福助さんと、先の福助である梅玉さんと、次に福助になるかも
知れない児太郎さんが揃ってる、と、何となく思ったり。
 
二、鬼揃紅葉狩
 
観客を飽きさせないレビュー、の印象。おもしろい。楽しい。
4種の音楽。多彩。
 
三、河内山
 
過去にも観ているはずの吉右衛門さんの河内山。
どうしてこんなにも新鮮なんだろう。
 
90分を超える芝居は、滞りのない気持ちの良い流れとメリハリで
まったく長さを感じさせない。
 
洒脱で達者な河内山。
 
歌六さんの和泉屋、又五郎さんの高木、魁春さんのおまき。
絶妙だなぁ。
 
幸四郎さんの出雲守、若くて癇の強い危険な殿様もいい味。
 
(2018.9.9)
 
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◆夜の部
 
夜の部も濃厚だった。贅沢。
 
一、松寿操り三番叟
 
三番叟は幸四郎さん、後見を吉之丞さん。
繰り人形の面白さ。今回ひとあじ違った。
どこだろうなぁと後から思うに、幸四郎さんの三番叟は
重力から自由な度合いが高いように感じたところかな。
 
二、俊寛
 
吉右衛門さんの俊寛。
丹波少将を菊之助さん、平判官康頼を錦之助さん、千鳥を雀右衛門さん。
 
通底するトーンは、ひっそりとした哀しみのような何か。
よい報せに喜び合い、帰還を夢見て微笑んでいても、常に予感が覆う。
 
終幕近くの遠く呼んで呼んで、やがて沈黙する表情は
単純でない、様々な感情がないまぜで、それがそのまま胸に来た。
 
又五郎さんの瀬尾に歌六さんの丹左衛門尉基康が動かしがたい何かを
表していて手堅い。 
 
三、新作歌舞伎 幽玄
 
羽衣、石橋、道成寺
鼓童のパフォーマンスは初めて拝見しました。
ダイナミックな動作のイメージが先入観的にあったので、
羽衣の冒頭のさざ波のような演奏でまずちょっと毛穴立って(感動の意)、
羽衣は、風や水音のような自然を思わせる演奏に聞き入り、
目は玉三郎さんの天人と釣り人たち、鼓童のフォーメーションに見惚れ。

特に終盤の回り舞台をうまく使った動きがすばらしく、
3階だったこともあるかな、全体の動きがとんでもなく面白かった。
 
石橋は、音楽も舞踊もエネルギッシュ。
 
道成寺、白拍子花子の心理が音で拡張される。
舞台だけど、メディアアートのインプレッションと通じる。
道成寺をよくよく理解してないとアレンジの面白さがちゃんと受け取れないかも。
私は理解不十分、ゆえ、もっと勉強しとけばよかった。
 
(2018.9.17)

【歌舞伎】歌舞伎座 八月納涼歌舞伎 第一部・第二部・第三部 2018年8月

2018-08-16 00:44:45 | 歌舞伎
歌舞伎座百三十年
八月納涼歌舞伎
歌舞伎座
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1日で全部観てしまうと味わいを反芻するいとまがないので
もったいない気もしたのですが、事情により敢行。
大人渋→清廉絢爛→魅力女子→次世代大集合→さらりしっとり→壮絶ずっしり。
納涼歌舞伎らしい、多彩で楽しい夏休みの1日となりました。
 
◆第一部
 
一、花魁草
 
扇雀さんのお蝶の終幕の表情がすばらしかった。
萬次郎さんの菊岡の女将が印象的。 
 
二、龍虎
 
難度高そう。染五郎さん奮闘。
衣装(縦涌で揃えてたのかな?)がシンプルにして高貴。
太夫・三味線4×4。宏太郎さんリード三味(?)。
 
三、心中月夜星野屋
 
からっとライトな新作、この配役は最強かも。
したたか女子(母と娘=獅童さんと七之助さん)が爽快。
 
◆第二部
 
一、東海道中膝栗毛 またいくの こりないめんめん
 
主役は弥次喜多=幸四郎さんと猿之助さん、なんだけど、
今回は若手・子世代の押し出しがすごかった。
押し出された方もしっかりこなす。
地獄をどりで最高潮。
衣装もすてき。
 
演出いろいろ遊び感。
早替わりとモブ多数。
ダブル×2の宙乗り。
大道具小道具の遊びが随所に。お子様ランチ。スマホ。明朗会計。
 
獅童さん&七之助さん&中車さんのトリオが
たたみかけるように花道→早替わり→花道→…3回、の後に
顔出し父母兄、地獄の使者、赤尾太夫道中、たしか6役。
 
三毛猫・鶴松さんとむく犬・弘太郎さん、まさか本人が操るとは。
 
史上最大(たぶん)のだんまりとか。
 
二、雨乞其角
 
今月のしっとり担当、扇雀さん。
ここでも若手大量投入。
 
◆第三部 
 
通し狂言 盟三五大切
 
南北。
この物語のつむぎ方は「綯い交ぜ(ないまぜ)」という手法だそうで。
あれやこれやの芝居のセリフとシーンも折々顔を覗かせる。
 
源五兵衛を幸四郎さん、三五郎を獅童さん、小万を七之助さん。
妙味な役を亀蔵さんや中車さんが押さえる。
橋之助さんの真摯。
 
からりとした笑いに、時々漂うエロ。人びとの腹の底の陰。
源五兵衛の反転以降はずんずんと重く血なまぐさく。
 
緊迫は、源五兵衛が小万に刀を持たせたあのシーンでピークに。
息ができませんでした。
 
(2018.8.15)

【歌舞伎】新橋演舞場 NARUTO 2018年8月

2018-08-05 21:26:56 | 歌舞伎
新作歌舞伎 
ARUTO -ナルト-
新橋演舞場
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ダイナミックな舞台装置の構成。
義太夫。
時折三味線が効いてる音響。
劇場空間を拡張するプロジェクションマッピングはこなれて、
使いどころを心得ている。
歌舞伎の装束をうまく取り入れた衣装は充実。
何度も繰り出される激しく鋭い立回り。
 
そういう重厚で刺激的な装置・演出と「NARUTO」という枠組みの中、
終幕直後にしみじみ「役者を観た」と思った。
 
装置やコミック的大胆な展開に食われない、役者さんたちの
力量を目の当たりにして、歌舞伎の地力を思う。
 
巳之助さんのナルトと、隼人さんのサスケ。
特に立ち回り、すごい。終盤の本水なんて目が離せなかった。
力いっぱいぶつかり合い。
 
観劇日のマダラは愛之助さんでした。
単純悪じゃなかった。革新を起こす人が持つ機動性もある。
 
人物が素敵。味わい。
猿弥さんの自来也、笑三郎さんの大蛇丸。笑也さんの綱手。
市瀬秀和さんのイタチ。
カカシの嘉島典俊さん。マスクしてるのによく通るなぁ。
サクラの梅丸さん、女子度高い。
 
歌舞伎の特徴点、折々の見得の演出もさることながら、
渾身の附け打ちが支えるところも大きいと思う。

たまにTVのアニメ版を目にするくらいの予備知識でも
ちゃんと楽しめる構成でした。
時々、字面が浮かばなかったりしたけど。
「びじゅう」とか。多分「尾獣」だろうなぁ。違ったりして。
 
72巻ですよね…圧縮、技の習得や苦闘の克服などの成長過程を
描くことを手放したんだろうなと思う。
ゆえに前述の感想に戻るのです。
しつらえと、役者の身体性・表現。みどころ。
 
義太夫、もちっと聴きたかったかも。
 
ほんとうに全ての立回りが半端なく激しい。すごい。
千秋楽まで頑張ってください!
 
(2018.8.5)

【歌舞伎】歌舞伎座 七月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年7月

2018-07-09 23:49:28 | 歌舞伎
歌舞伎座百三十年
七月大歌舞伎
歌舞伎座
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◆昼の部:通し狂言 三國無雙瓢箪久
 
『文化財としての歌舞伎に課せられた境界線を引きなおす試みは
 三代目猿之助や十八代目勘三郎の記憶が鮮烈であるが、
 そのどちらとも違う。舞台が発する祝祭性は小屋感とでも呼ぼうか。
 さりとて単なる原点発掘の先祖返りでもない。
 これは、海老蔵による歌舞伎空間の再定義である。』
 
なーんちゃって。
 
"さんごくむそうひさごのめでたや"。
本能寺の変から清須会議後の焼香までの49日。
「大徳寺焼香の場」、昭和35年に十一世團十郎と十二世團十郎が
演じたという親子を、今回は海老蔵さん勸玄さん。
 
前述の"小屋感"。うまく説明できない。
わちゃわちゃで、ケレンも入って、睨みもいれて、
予定調和から微妙に外れていて、多様が多様のままある。
人物造形の重点に一貫性を置かない。
そうして『それでいいのだ』というメッセージが据わっている。
 
めぐる因果と情感の芝居は「松下嘉兵衛住家の場」が見せ場。
 
「近江湖水の場」の波、人の揺らす波文様の布とライティングが
相まって、なんとも豊な海になっていました。馬も名演。

◆夜の部:通し狂言 源氏物語
 
歌舞伎、能、オペラ。華道。
 
「型」の異種格闘技。
 
多様が多様のまま、は、夜の部でも共通基調。
昼よりも多様の幅が大胆な分、あの全体観は高難度な技だと思う。
 
海老蔵さんの声、いままでに聞いたことのない声色だったな。
 
魁春さんの弘徽殿女御と雀右衛門さんの六条御息所。情念。
 
多彩なプロジェクションマッピング。
花や雨の映像はフレームを消し去って観客の視野全体を舞台化する。
 
東海龍王の宙乗り、映える絵だったけど、舞台上で同時に進行していた
白い荒波のプロジェクションマッピングの奥で赤めのライトに照らされた
浄瑠璃・三味線・囃子の方々の姿も演奏と相まって素晴らしかった。
 
歌舞伎を観に行って、能とオペラを見聞きできるとは。
言語的な意味を雰囲気で理解するしかないのがもったいなかった。
字幕があるとよかったかな。欲を言えば。
 
異種格闘技、拍手のタイミングが難しいのであった。
 
(2018.7.9)

【歌舞伎】歌舞伎座 六月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年6月

2018-06-02 23:00:01 | 歌舞伎
歌舞伎座百三十年
六月大歌舞伎
歌舞伎座
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◆昼の部 
 
一、妹背山婦女庭訓 三笠山御殿
 
鱶七の豪胆、求女と橘姫のやりとり、御殿のお三輪。
3つのみどころが順番に展開される。
物語としては繋がっているのですが、3つのお芝居を観た感じ。
 
使者・鱶七、武者人形的おおらかさ。型でみせる。
 
新悟さんの橘姫、繊細で新鮮。
 
おむらは芝翫さん。なかなか色っぽい。
 
時蔵さんのお三輪。
お三輪の恋一途、ある種の愚かさは、お節介な観客をハラハラさせる。
「あれを聞いては」は花道上。3階から必死で「疑着の相」を見つめる。
うっすらと笑みが入っていたよう。
 
女官によるいたぶりを見ていて、この場面の表象は、今日に至っては
たいへんに現代的だなぁと。妙な感慨と心痛を持ちました。
  
二、六歌仙容彩 文屋
 
菊之助さん、登場からして軽やか。
気を抜きまくって鑑賞してしまいました。
落ち着きと爽やかを兼ね備えた装束が印象的。

三、野晒悟助
 
任侠、「男の生面」割り、我慢に我慢を重ねた後の反撃、というかたちが
夜の部の夏祭浪花鑑と対照に配置されている今月。
 
命日の禁忌で反撃を封じた野晒悟助の額を割るのはライバル提婆仁三郎。
W押しかけ女房、お嬢の小田井を米吉さん、かわらけ売りの娘お賤を児太郎さん。
直接対決しない、悟助をはさんでの微妙な距離感が面白い。
 
野晒悟助の菊五郎さんと浮世戸平の菊之助さんが絵になる。うっとり。

終盤の傘を使った立ち回りがゴージャスです。

◆夜の部 
 
一、夏祭浪花鑑 鳥居前・三婦内・長町裏  
 
吉右衛門さんの団七九郎兵衛。
三婦・歌六さんと一寸徳兵衛・錦之助さんとファミリーが温。
 
種之助さんの磯之丞が、見た目はさわやか素直、なのに、
琴浦のこととか、(芝居場面にはないけど)殺人やっちゃったりとか
考えると、すっとぼけが感じられて面白い。
 
気風を示すお辰を雀右衛門さん、
鷹揚なおかみさんがすてきなお梶を菊之助さん。
 
いちばんの見どころ、ナニワ全開の三河屋義平次・橘三郎さんとの
ねっちりした遣り取りから終盤に至る場面、すごい。没入。
 
二、巷談宵宮雨
 
24年ぶりの上演だそう。
終盤の怪談化する手前は、リズミカルな展開・所作の数々と、
シニカルな笑いがどんどこ来る。長さを感じさせない。
24年前もこんな風だったのかな。今風に演出してるのか。
 
龍達は芝翫さん、今までにない感じの役が新鮮。
 
松緑さんの太十に雀右衛門さんのおいち、
夫婦してそれぞれ善ではないのだけれど、道を反れながらも
日常を生きる姿が自然。
   
橘太郎さん・薬売、梅花さん・おとま、橋の上の人びとなど
脇が世界を立体化している。
 
(2018.6.2)

【歌舞伎】コクーン歌舞伎 切られの与三 2018年5月

2018-05-13 21:33:22 | 歌舞伎
渋谷・コクーン歌舞伎 第十六弾
切られの与三
シアターコクーン
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歌舞伎座で何度となく観た「切られ与三」とは違うなぁ、と。

大きく違うところ2つ。
 
よく見る歌舞伎公演の多くは物語の半分か、三分の一くらい。
だから大筋はこちらの方が原作に近いようですね。
 
もう1つの違いは、言うのも野暮ですが、人物。
 
アイデンティティ、という言葉は、いつもの歌舞伎公演を観ながらは
浮かんでこない。コクーン歌舞伎ならでは。
 
不安定で揺れ動く与三郎のアイデンティティを途切れなく演じ抜けた
七之助さん、演者として何かが一つ熟したのを見た。
 
もうひとつの強力なアイコン、お富を梅枝さん。
情と冷徹、継続と断裂、時に人ならぬ気配を帯びるお富は
ファムファタールに見えて、でも次の場面では人の姿だったり。
 
ベテランが固める脇は各2役、
与三郎の不安定な波長とは対のように、強くゆるぎない重力場を受け持つ。
 
人ならぬ道にどんどんと滑りゆく与三郎を見ていて、
これはひょっとして、既に死んだか死にかけている与三郎が
見ている夢なのだろうか、と思ったりした。
(直前にディックの「ユービック」を読んでいたせい?)。
(でも原作は島抜けの辺りは『嶋廻色為朝』=見た夢ということ
 なので、原作の再解釈なのかも)。
 
幕が下りてすぐは、消化しきれていなくて少し戸惑いがあった。
観劇から6時間経った今、やっと、記憶の中の芝居が発酵しはじめて、
改めてその肉厚な何かを味わい始めている。
 
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http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/18_kabuki/
 
(2018.5.13)

【歌舞伎】歌舞伎座 團菊祭五月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年5月

2018-05-05 22:42:41 | 歌舞伎
歌舞伎座百三十年
團菊祭五月大歌舞伎
十二世市川團十郎五年祭
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團菊決定版な演目に時蔵さんの舞踊が華を添える。
脇はベテランと若手がバランスミックス。
昼夜とも立回りがふんだん、視覚とアクション、目を楽しませる。
 
◆昼の部 
 
一、雷神不動北山櫻
 
二世市川團十郎生誕三百三十年だそう。
2階ロビーには成田山新勝寺から不動さまが出開帳。
 
海老蔵さんから丁寧な口上・解説。
たしかにややこしい。
短冊の経緯から始まり、「毛抜」「鳴神」「不動」と続きます。
 
単独上演しか見たことのなかった「毛抜」も、雷神不動北山櫻の
中で見ると意味が通じてくる。
 
今回の海老蔵さんの五役では、快なる粂寺弾正が一番かなぁ、と思ったら、
その後の鳴神上人も甲乙つけがたし。
 
「鳴神」、菊之助さんの雲の絶間姫の、清潔な肉感性がすばらしくて
そりゃあ鳴神上人のクラっとくるわさ。
堕とされる鳴神上人、かわいい分、気の毒感も増す。
 
早雲王子との立回りで、珍しい回転(すみません、ヒップホップダンス
っぽい)の後、やわらか着地のバック転して舞台袖に引いた方が印象的。
 
二、女伊達
 
時蔵さんの女伊達に、種之助さん橋之助さんの男伊達。
たぶん見たことない取り合わせ。
二人とも大きくなったねぇ…きびきびした所作が旨味。
 
種之助さん夜の部では浜松屋宗之助やってて、先が楽しみな感じ。
 
◆夜の部
 
一、弁天娘女男白浪 
序 幕 雪の下浜松屋の場、稲瀬川勢揃の場 
二幕目 極楽寺屋根立腹の場、極楽寺山門の場、滑川土橋の場 
 
鉄板演目。
豪華配役。
 
見せ場ダイジェストだったのは致し方なしですが。
もう少し長く見たかったなぁ。
 
二、鬼一法眼三略巻 菊畑 
 
時蔵さんの虎蔵が若々しい。5月は時蔵さん大活躍。
松緑さんの智恵内、惚れる。
児太郎さんの皆鶴姫、すなお。 
亀蔵さん笠原湛海、こういう役けっこういいかも。
 
 昼の部の雷神不動北山櫻から直前の弁天娘女男白浪まで
 けっこうめまぐるしい演目が続いたので、ここでやっと
 少し余韻を楽しむ余裕が。
 
三、喜撰
 
喜撰法師かわゆす。おおらか。
 
(2018.5.5)

【歌舞伎】歌舞伎座 四月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年4月

2018-04-22 22:47:34 | 歌舞伎
歌舞伎座
歌舞伎座百三十年
四月大歌舞伎
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◆昼の部 
 
一、西郷と勝
 
西郷どん連動企画、ではなくて「明治百五十年記念」。
松緑さんの西郷隆盛、とてつもない情報量のセリフにのせる情動。
聞かせます。魅せます。高度です。
 
二、裏表先代萩
 
おなじみの名場面「でかしゃった」=足利家御殿、時蔵さん政岡。
出の瞬間、意外な(失礼)美熟女にハッとしてしまった八汐の彌十郎さん。
 
これをはさんで"裏"にあたる、毒薬供給元の大場道益にまつわる
強盗殺人事件のドラマ。

昼夜活躍の孝太郎さんの娘っぷり。最近見る度に若くなってる気がする。
酸いも甘いも噛みしめ切った小助の菊五郎さんの滋味旨味。「ざまあねぇなぁ」。
 
彦三郎さんの荒獅子男之助、印象的。
 
ねずみさんのバック転がすばらし。
 
弾正のたっぷりと長い引っ込み。
場内みな、息を呑んでたからさぞやすばらしかったのだろう。
3階からは見えないんです。残念。
 
仁木刃傷、「外記、めでたいのぅ」は
細川勝元(錦之助さん)と渡辺親子(東蔵さん亀蔵さん)。
 
◆夜の部
 
通し狂言 絵本合法衢
 
仁左衛門さん、一世一代です。
左枝大学之助と立場の太平次、二役。
 
大学之助のパワーと狂気の源は出自だったりする所為か、
悪といっても太平次の悪に比べると子供っぽいところがあるのね。
太平次は、それこそ、息をするように嘘を吐き、人を殺める。
客観的にはサイコパス?でも仁左衛門さんは太平次をサイコパスにはしない。
ニコニコと笑って挨拶する優しさすら見えるふつうの人、が、
そのまんまサクサクと人を刺す。
 
4/23追記
 一日反芻して、"子供”というのはいまひとつしっくり来ない気がしてきた。
 大学之助と太平次はどちらもある種の無邪気さがあったな。屈託がない。
 大学之助、色事まっしぐらの助平は、考えてみれば子供というより
 オヤジ要素なのですが、そのわきまえない感じが却って"子供"という
 言葉を想起させたのかも。
 太平次は、わきまえた上できもちいいくらいおかまいなしに踏み倒す。 
 
主役だけど狂言回しでもある。堪能。
 
しかし、びっくりするほど死に至る主要人物たち。
錦之助さん与兵衛、受難が似合う…。
 
(2018.4.22)

【歌舞伎】歌舞伎座 三月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年3月

2018-03-11 23:14:02 | 歌舞伎
歌舞伎座
歌舞伎座百三十年
三月大歌舞伎
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うつくしい愛らしい世界を愛でる時間をたくさんもらった3月。
 
◆昼の部 
 
一、国性爺合戦
 
この演目、成り行きがちょっと苦手系。
でも壮麗な衣装、和藤内と甘輝の立ち姿にうっとり。
東蔵さんの老一官がシブい。 
秀太郎さんの渚と。
 
二、男女道成寺
 
四世中村雀右衛門七回忌追善です。丸6年。
雀右衛門さんと松緑さんをおだやかな気持ちでゆるりと観る。
 
三、芝浜革財布
 
芝翫さんの政五郎と孝太郎さんのおたつのリズムが気持ちいい。
酒宴に来るお仲間さん役の役者さんたちとのやりとり、
群像が生きてるいい「場」だなぁ。
 
事前に上演時間を確認したら、14時45分は上演の真っ最中。
今回の芝浜の落ちは、たぶん、アレンジ入ってましたよね?
 
◆夜の部
 
一、於染久松色読販 と 二、神田祭
 
「玉孝」の見せ場満載。
於染久松のお六と喜兵衛は夫婦、神田祭はいい仲の鳶頭と芸者、
絡み方も表現も当然違いますけど。
観る方が照れる「仲」なんだけど、もう一回見たくなる。
 
三、滝の白糸
 
壱太郎さんが滝の白糸がんばる。(イイネ!)。
歌六さん春平、滋味。
彦三郎の南京寅吉、吹っ切れ感あり。
 
(2018.3.11)

【歌舞伎】歌舞伎座 二月大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年2月

2018-02-18 01:13:28 | 歌舞伎
歌舞伎座
歌舞伎座百三十年
松本幸四郎改め 二代目 松本白 鸚
市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎 襲名披露
松本金太郎改め 八代目 市川染五郎
二月大歌舞伎
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夜の部の「木挽芝居賑」はじめ演目全般、配役ゴージャス。
襲名演目では幸四郎さんの一條大蔵卿が特に印象に残る。
草間彌生さんの祝幕がステキ(帰宅してからEテレも見た)。
 
◆昼の部
 
一、春駒祝高麗
 
曽我物、舞踊、襲名興行にふさわしく"陽"が前に出てる。なんだか幸せ。
 
二、一條大蔵譚
 
幸四郎さん、つくり阿呆が可愛すぎだなぁと思っていた前半、
しかし終盤、今までの観劇で感じたことのない大蔵卿の意思が
ふわっと来た。
「楽しきは、能、舞」(←記憶不正確)にすっと漂うのは、
行動を封ぜられた立場の忸怩たる思いと反発。
そこに色気が立ちのぼる。
 
奥殿の出語り、葵太夫さんと宏太郎さん。
 
三、暫
 
海老蔵さんの鎌倉権五郎。
昼の部大活躍の孝太郎さんが照葉、さいきん益々若々しい。
 
四、井伊大老
 
不穏な予感、お静の方の瑞々しい感性、あざやかな認知の反転。
じっくりとした味わい、
吉右衛門さんの井伊大老と雀右衛門さんのお静の方。
 
◆夜の部
 
一、一谷嫩軍記 熊谷陣屋
 
幸四郎さんの熊谷直実、終盤が印象的。
「夢だ」で自らの頭に手をあてた瞬間に、剃髪の実感がもたらす現実、
物理的に失った髷の手触り、昨日までとは変わってしまった今、
もう泡のように消えつつある16年への空虚感が重なってずんと来た。
魁春さんの相模、登場したその時から避け得ない命運の気配。
      
菊五郎さんの義経、左團次さんの弥陀六。厚い。
 
二、木挽芝居賑、口上
 
かつてない人数。
確かに見たことのない豪華さ。
 
我當さん!
 
三、仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場
 
そもそも一力茶屋の兄妹の掛け合いが大好き。
殊に今回は(奇数日)、仁左衛門さんの平右衛門に玉三郎さんのお軽。
ほのぼのから胸刺す痛みへ。贅沢した。
 
白鸚さんの由良之助。魚肉の恨みが殊更深く昏い。
金太郎さんの力弥、可憐。がんばった。
 
見立て遊びに聖火登場。冬季じゃなくて2020のほうね。
 
(2018.2.17)
 
2/19 熊谷陣屋の感想部分を変更しました。

【歌舞伎】浅草公会堂 新春浅草歌舞伎 第2部 2018年1月

2018-01-14 21:02:36 | 歌舞伎
浅草公会堂
新春浅草歌舞伎
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第2部を観劇。
 
お年玉は種之助さん。
 
「操り三番叟」で始まり「京人形」で〆。
どちらもホクホクと楽しみましたよー。
人ならぬ人型が、人のごとく、人を映して、自ら勝手に…
自律機械(AI、ロボット、自動運転車)がCES2018の眼目になっている
2018年の新明けとしては暗示的?深読みしすぎか。
 
「京人形」巳之助さんの甚五郎見てて、大和屋さんの大らかさが
立ち現れていたのが嬉しい。
 
種之助さんが甚五郎女房おとく。
 
「引窓」良かった。
"生(き)"だなぁ。
まだまろやかにならない若いお酒みたいな。
"溜め"が少し物足りないけど、若さが助けることもある。
 
お幸を歌女之丞さん。

(2018.1.14)

【歌舞伎】歌舞伎座 壽 初春大歌舞伎 昼の部・夜の部 2018年1月

2018-01-07 23:20:22 | 歌舞伎
歌舞伎座
歌舞伎座百三十年
松本幸四郎改め 二代目 松本白 鸚
市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎 襲名披露
松本金太郎改め 八代目 市川染五郎
壽 初春大歌舞伎
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高麗屋三代同時襲名。
おめでとうございます。
豪華で多様な配役で華やかに着実に。
 
◆昼の部 
 
一、箱根霊験誓仇討
 
感情の転換が忙しい。反転が随所にあって、なんだか面白い脚本で
襲名興行のウォーミングアップ。
これと双蝶々とも、愛之助さんが二役に変更してリリーフ。
 
二、七福神
 
神様なのにみんな呑気な感じがすてき。ゆるゆる。
 
布袋様と福禄寿と寿老人と3人で取り合いをしてた
起き上がり小法師みたいな大きい瓢箪、いいな。ほしい。
 
三、菅原伝授手習鑑
 
車引は新・幸四郎さんの松王丸と、中村屋兄弟の梅王丸・桜丸、
風情よし。舞台から生命力がこぼれ出て快。
 
新・白鸚さんが寺子屋の松王丸。
梅玉さんの武部源蔵、雀右衛門さんの戸浪、魁春さんの千代と。
首を見た瞬間の「でかした…源蔵!」にぐっときた。
 
猿之助さんが涎くり与太郎でごちそう。
花道おんぶなし。御自愛ください。
 
◆夜の部
 
一、双蝶々曲輪日記
 
芝翫さんの濡れ髪に、愛之助さんの放駒と与五郎、吾妻を七之助さん。
「箱根霊験誓仇討」でも思ったけど、
次世代とか若手とかいう枠から完全に抜け出た。
 
二、襲名披露 口上
 
二代目白鸚・十代目幸四郎・八代目染五郎。
 
多彩なご挨拶。
清々しさもさることながらむしろ、既にあった柱がさらに重みを
増したよう。存在感を感じる口上。
 
前の襲名が37年前だそう。
 
三、勧進帳
 
幸四郎さんの弁慶、大きくなった。
厳しさと茶目っ気と。
 
吉右衛門さんの富樫に、
シブい四天王(鴈治郎さん芝翫さん愛之助さん歌六さん)、
なんだかとてもいい空間。
”枠組みはがっちり作ってやるから思い切ってやれ”。
 
義経・染五郎さん、平成17年生まれ、もうじき13歳ですかね。
襲名披露興行にしては比較的手堅い演目・配役が並ぶ中、
最も大きなチャレンジをしたのは染五郎さんだと思う。
やりきった。
 
今月は奮発して一等席。久々。
弁慶の飛び六方、一階だと振動も感じられる。
当然、花道も全部見えるし。いいな。時々は贅沢しよう。
 
四、相生獅子・三人形
 
舞踊。寿ぎ。
緊張ほぐれ、ほっこりして、終幕。
 
(2018.1.7)

【歌舞伎】歌舞伎座 十二月大歌舞伎 第一部・第二部・第三部 2017年12月

2017-12-04 00:55:27 | 歌舞伎
歌舞伎座
十二月大歌舞伎
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大きな役へのチャレンジを見守る第一部、
身体性とリズムで魅せる第二部、
情と洗練の第三部。
 
◆第一部 
 
一、実盛物語
 
しっかり踏んで演じられているとは思うし
晴れやかな場面、かわゆしな場面は、なごむ。
 
欲を言えば、もう少し辛さ苦さみたいなのがあるといいのかなぁ。
水底の闇にどっぷり潜ってから水面に浮上する感じというか。
 
基調が明るいのかな。
これからの変化・熟成を楽しみに。

二、土蜘
 
松緑さんの土蜘vs彦三郎さんの源頼光。
どっちも声が好きな役者さん、聞き比べがおいしい。
 
梅枝さんの胡蝶。 
左近さん太刀持音若、活躍。他の演目も。
 
◆第二部
 
一、らくだ
 
熊五郎(愛之助さん)久六(中車さん)の酔態を深めながらの
やりとりの間合い。
 
片岡亀蔵さんの宇之助/らくだ(の遺体)、磨きがかかってる?
アクションが全般的にダイナミックになっているような。
 
二、蘭平物狂
 
前半の物狂い、後半の豪華な立ち回り。
 
棒を操る若党と蘭平の一対一の丁々発止がみごとだったのだけれど、
見惚れていたら拍手しそこねた。
 
◆第三部
 
一、瞼の母
 
前回観たのは、調べたら2012年。
玉三郎さんが同役。
 
拗ねながらも母への愛を断てない忠太郎(中車さん)と、
「情が湧かない」と口にはしながらも涙の止まらなないおはまの
真情が切なくて泣けた。
 
二、楊貴妃
 
人ならぬ。しかしあやかしでもなく。
やさしい、体重を感じないけど軽いのとも違う。
舞台のしつらえ、衣装、道具、バレエやオペラや京劇のエッセンスが
ありつつも、そのいずれでもなく歌舞伎舞踊。
 
(2017.12.3)