横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

外傷性大動脈断裂

2019-01-30 19:50:46 | 心臓病の治療
 主に交通事故などで発生する多発外傷の中でも、最も重症度の高いものの一つに外傷性大動脈断裂があります。通常、大動脈弓部が体に固定されている部位として、動脈靭帯がありますが、ここを起点にして大動脈が断裂するものです。直接大動脈に打撃が加わるのではなく、体全体が衝突の刺激で急速に減速した場合に、内部の質量をもつ大動脈が断裂してしまうというもので、急速減速性外傷、とか、高エネルギー外傷ともいいます。交通事故以外に、転落でも同じようなことが起こりえますが、今まで最も多く遭遇したのは、バイク搭乗中の事故でした。

 この大動脈断裂は、事故現場で半分が命を落とすと言われ、病院に搬送されるまで生存しているのは一般に半分で、そこから救命される可能性は半分ともいわれています。まるで大動脈瘤破裂に匹敵する重症の状態ですが、この多発外傷は、他の臓器損傷を伴うことが多いのが特徴で、骨折や脾臓破裂、腎破裂、脊椎損傷、肝挫傷、肺挫傷、心外傷などが合併していることが多く、特に腹腔内出血を伴う場合はどちらの治療を優先するべきか、迷いことも少なくありません。

 最近ではこうした外傷による出血に対する治療として、血管内治療が主流になってきています。脾臓破裂や腎破裂、肝破裂などの場合も、その臓器を灌流する動脈をコイル塞栓することで止血ができればより低侵襲での治療が可能となり、救命の可能性が高くなります。

 大動脈断裂においても、以前は左開胸して下行大動脈置換を行うのが一般的でしたが、10年程前より、ステントグラフト挿入術による再破裂予防治療が一般的になりました。ステントグラフトが出来ない症例や状況でのみ、下行大動脈置換術が選択されると考えていいでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2018年の横須賀市立うわまち病院心臓血管外科手術件数

2019-01-29 16:11:56 | 心臓病の治療
 横須賀市立うわまち病院は2002年に国立横須賀病院が横須賀市に移管され、横須賀市立うわまち病院として新たに地域医療振興協会に指定管理者として運営を開始になり、心臓血管外科は2009年に開設されております。
 2014年からは心臓血管外科専門医基幹施設に認定され、心臓血管外科医の育成も自治医科大学さいたま医療センターの関連施設として、スタッフのローテートをしながら行っております。2018年からは一人増加して5名体制で診療しています。専門医取得を目指して個人の習熟度に合わせた術者経験が積めるような執刀、助手の配置をしております。また、他科と連携して外科専門医やステントグラフトの基礎経験が取得できるように配慮しています。
 また、うわまち病院は地域の医療を担う中核病院として、救命救急センターでは年間6000台以上の救急車を受け入れ、28診療科で地域の完結型の医療を目指しております。
 心臓血管外科開設後10年目にあたる2018年は303件の手術件数があり、うち、心臓胸部大血管手術は110件でした。部長交代、体制変更後に大幅に件数が増加した2017年よりも若干件数は減少しましたが、目標である100件以上の心臓胸部大血管手術件数を維持できました。2018年は特に、4月から小開胸の弁膜症手術が新たに保険加算が認められるようになったことで、うわまち病院でも小開胸の手術が大幅に増加しました。特に手術器材がそろった8月以後に可能な症例は標準術式として採用したことにより更に増加傾向にあります。特にそれまで僧帽弁形成術を主に対象としておりましたが、大動脈弁、三尖弁、心臓腫瘍、心房中隔欠損症など適応を広げております。また、保険加算の対象とはまだなっていない左小開胸の冠動脈バイパス術も可能な症例は実施しております。小開胸手術を行った患者さんの術後回復が速く、合併症も少ないので、退院までの期間が短縮し、合併症に対する追加手術が減少しました。今後もこの傾向は更に進んでいくものと考えられます。

2018年の手術実績

手術件数 303件  うち、心臓胸部大血管手術 11件
腹部大動脈瘤(腸骨動脈瘤含む) 43件 末梢動脈手術 9件
透析用シャント造設術 20件  下肢静脈瘤レーザー治療 118件

心臓胸部大血管手術の内訳

虚血性心疾患  冠動脈バイパス術 30(全て人工心肺非使用手術、 左開胸8件)

弁膜症手術 51件

大動脈弁置換術  21件(うち右小開胸 8)
僧帽弁置換術    2件(うち右小開胸 2)
僧帽弁形成術   22件(うち右小開胸 12)
三尖弁形成術    2件(うち右小開胸 1) = 三尖弁単独手術
三尖弁輪縫縮術併施 8件(うち右小開胸 3)
大動脈弁置換+僧帽弁形成術 1件(うち右小開胸 1)
大動脈弁置換+僧帽弁置換術 1件(うち右小開胸 0)
大動脈基部再建術(Bentall) 2件

胸部大動脈手術  25件

急性大動脈解離      13件 
上行大動脈置換術     8件  
部分弓部大動脈置換    1件
部分弓部大動脈置換+大動脈弁置換 3件
大動脈基部再建術     1件

真性瘤
 上行大動脈置換術     3件
 弓部大動脈置換術     4件 (オープンステント挿入術 2)
 部分弓部大動脈置換術   1件
 下行大動脈置換術     1件
 瘤切除+パッチ閉鎖術   1件
 胸部大動脈ステント挿入術 2件

その他
 右小開胸心臓粘液腫切除術   1件
 右小開胸心房中隔欠損症閉鎖術 1件
 左心耳切除術(縫縮含む)   3件(うち小開胸 2)
 冠動脈-肺動脈瘻根治術    1件
 心外傷に対する止血術     2件
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

民間の静脈瘤クリニック・施設間競合

2019-01-26 08:42:29 | 心臓病の治療
 最近はクリニックで日帰り静脈瘤手術をするクリニックが増加し、都市部では患者獲得競争も激しくなっています。近隣のところでは毎月のように新聞に折り込み広告を出して患者を集めています。特にレーザー治療が保険適応になってからこうしたクリニックは爆発的に増加し、血管外科医だけでなく、美容系の医師が参画していることも珍しくなくなってきています。

 昨日のセミナーで、末梢血管の座長をしましたが、大学病院でも行ってきたこうした静脈瘤治療と民間のクリニックとの競争について質問したところ、こうした民間のクリニックで発生したトラブルの対処目的に紹介されたり受診したりする患者さんが多いため、近隣の競合クリニックができても、現在では患者数は増加している、とのことでした。経験なる血管の専門医が実施していることにより、その患者数は決して減るわけではなく、それだけ、静脈瘤をかかえる患者さんが多いということなのかもしれません。

 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも、開設以来10年間横須賀市唯一の静脈瘤治療機関として、専門医・指導医が静脈瘤治療にあたってきましたが、近隣に近々新たに始める施設ができても、それほど影響ないと思いたいです。しかしながら老舗というだけでは、常に成り立つという時代も長くは続きません。常に最新の知見を学び、日々の進化を怠らない努力が必要です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心臓血管外科ウィンターセミナーIN富良野 なでしこジャパン元監督佐々木則夫さんの講演

2019-01-24 13:22:32 | その他
富良野で心臓血管外科ウィンターセミナーが開催されています。

昨日は特別講演で、元なでしこジャパン監督の佐々木さんがお話されました。ワールドカップ優勝までの苦労話、その成功のための提言を聞くことが出来ました。日本人の特性に合わせたサッカーをすること、また、チームの目標とする選手像、チーム像を明確にしてそれに向かって努力することが結果を生んでいく、そうしたお話で非常に感銘を受けました。

特に目標を達成するための条件として
①感謝すること
②明るく、礼儀正しいこと
③ほめて伸ばすこと
④粘り強い、芯の強さを育成する
⑤チームワーク・コミュニケーション
などが大切、とのことでした。

特に日本人女性は、体格が小さいハンデはあっても、周囲に気がきく、気配りができる、礼儀正しい、芯が強い、などの特徴があり、非常にサッカーに向いている特性をもともと備えている、ということで、その特徴を生かしたチーム作りが大切です。
心臓血管外科の診療チームとも非常に共通点があると思いました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フリースタイル弁

2019-01-19 12:44:14 | 心臓病の治療
 フリースタイル弁は豚の大動脈基部をそのまま処理して大動脈基部ごと移植することができるタイプの人工弁です。冠動脈再建しての移植も可能ですが、多くは冠動脈口の部分をくりぬいて、その下部の大動脈弁だけを移植します。特殊な使用方法として、感染性心内膜炎に対して大動脈基部再建に使用したり、Apico-aotic counduitなどに使用します。

 感染性心内膜炎に使用する場合は大動脈弁輪に膿瘍を形成した症例において、膿瘍の除去をした後に、このフリースタイル弁を移植し、冠動脈は入口部で閉鎖した上で、冠動脈バイパス術を左右冠動脈に行うか、もしくは冠動脈を直接このフリースタイル弁に縫着して冠動脈再建をすることになります。実際にこのような手術を行う必要のある重症の症例は非常に希であり、前任地でもハイボリュームセンターを言われているにもかかわらず、おそらく開設後25年で1万件以上の心臓手術を行ったうちでも1例しかありません。
 最近、紹介されてきた患者さんで、他施設において同様の手術で救命された患者さんがおり、その治療・手術は賞賛すべき内容であることを患者さんにお伝えしました。

またApico-aortic conduitは、心尖部に人工血管、それにフリースタイル弁を連結し、それにまた人工血管を連結して、下行大動脈に遠位側を吻合する手術です。大動脈弁狭窄症において、大動脈弁を操作せずに左室内から大動脈へ血流を導く新たなルートを作成する手術ですが、この場合もフリースタイルベント人工血管のフィッティングが良く、使用するのに便利です。TAVI(経カテーテル的大動脈弁位人工弁挿入術)が普及する右用になってからこの手術が行われることは非常に希になっています。

 その意味で、このフリースタイル弁が使用されることは非常に希で、国内で使用される個数は年間数個と聞いたことがあります。フリースタイル弁は、他の生体弁と違って、金属製などのステントが入っていないステントレス弁であり、これによって弁口面積が大きいのが特徴です。最近は狭小弁用の生体弁が多数開発されるようになって、このフリースタイル弁を使用されることはますます希になっていますが、こうした知識を保持しておくことも心臓血管外科専門医にとっては重要です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

移転後は、うわまち病院南館をどうするのか?

2019-01-18 22:02:40 | 心臓病の治療
 国立横須賀病院から横須賀市立うわまち病院と新しく市の病院として生まれ変わってから、うわまち病院南館が建設され、そこには新しい病棟、リハビリテーションセンター、手術室、眼科外来などが設置されています。実際の病院の中心の一つである手術室には多くの最新の手術器材などが設置されています。泌尿器科で使用している手術ロボット「ダビンチ」もその一つです。心臓血管外科においても、診療の最も重要な手術はこの南館の一番広い4号室で主に行われています。この南館、まだ築12年ほどで、おそらくこのまま使用していけば、まだ数閏年使用可能な状態ですが、もし病院移転した場合は、この建物は取り壊してしまうのでしょうか?それとも何か新しい使い道はあるんでしょうか?その意味で、病院移転は数十億円の無駄が発生することを既に含んでいます。

 基本的にこの南館は、同じ敷地内で横須賀市立うわまち病院を新築移転した場合に、新館と連結して使用し続ける計画で建造されたものです。そのあと、前市長が選出されて、新病院計画が頓挫し、今度は新しい市長になって全く新しい方針になって動いてしまっている現状では、先行きがかなり不透明です。

 心臓血管外科も開設して10年ですが、新築移転後も存続し続けていけるかどうかは、その土地のニーズがあるかどうかにかかっています。
 
 うわまち病院移転後は、中央地区に新しい病院を新設する必要性が出てくると考えられます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

横須賀市立うわまち病院の名称変更 ⇒ 横須賀市立医療センター

2019-01-17 21:35:25 | 心臓病の治療
 横須賀市立うわまち病院の移転のニュースが新聞にも報道され、今後、移転に向けての動くが出てくると思われますが、こちらは市立病院でもあり、市が中心になって病院の運営など行われていくものと思われます。地域医療振興協会 横須賀市立うわまち病院は、横須賀市からの管理委託を受けて開設以来病院運営を行い、大幅に経営を改善して、黒字経営を継続しており、診療科も28診療科、常勤医師数も100名以上と、この規模の病院としては充実した内容で、救急にも積極的に関わってきました。
 ここに来て、市の中心部から郊外への移転は、病院機能の大幅な縮小の可能性があり、特に心臓血管外科などは、対象患者さんが少ない地区では、かなりデメリットが大きいのは間違いありません。残念ながら、現在の病院職員としては、病院の為の方策を最優先に考えがちですが、実際に新築移転を行う横須賀市としては、現在のうわまち病院の機能などをそのまま継続することを想定して、方針を決定しているとは思えませんが、ここはオーナーである横須賀市の意向に従わざるを得ません。

 さて、場所が移転になったあとは、新しい名称が必要になります。 現在のうわまち病院としては、移転先の名称を、その後も移転などがあっても普遍的に使用できる、しかも、市民の為の高度医療を担うことを責任もって行うための名称である必要があります。その意味では、個人的には是非「横須賀市立医療センター」という名称に変更して欲しいと思っています。他のスタッフは「総合医療」という地域医療振興協会の掲げる名称を使用して、「横須賀市立総合医療センター」という名称を希望しているひともいます。

 現実問題として、この名称変更は、移転前に変更しておく必要があり、万が一、移転と同時に名称変更をした場合、現在のうわまち病院のもつ、指定医療機関の継続が出来なくなる可能性があります。たとえば、心臓血管外科修練施設の認定は、過去三年間の手術症例などを申請して認められるものであり、もし移転の場合に新病院として名称変更した場合は、三年以上施設認定がとれなくなる可能性があります。移転前に名称変更した場合は、施設認定に関しては名称の変更は申請でき、移転の場合は、同じ病院の移転としてスムーズに引き継がれます。

 市民の為の病院機能をおとすことを最小限におさえて移転を迎えるには非常に重要な問題です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

副腎動脈Adrenal arteryと腎副動脈Accessory Renal Artery

2019-01-16 14:28:00 | 心臓病の治療
腹部大動脈瘤の手術の際には、左右の腎動脈と大動脈瘤・人工血管置換範囲との関係が重要になります。通常の腎動脈は左右1本ずつ腹部大動脈から分岐しましが、それ以外の腹部大動脈の枝から腎動脈以外の経路で腎臓を灌流する動脈が見つかることがあり、Accessory Renal Arteryと呼ぶことがあります。

 このAccessory Renal Arteryを日本語ではなんと表記するのか、を調べたところ、腎副動脈と呼ぶそうです。非常に間違えやすいのが副腎動脈です。副腎動脈は大動脈または腎動脈から分岐して、副腎という腺組織を灌流する動脈です。Adrenal arteryと英語では表記します。Accessory Renal Arteryは、英語では全く表記が違いますが日本語になると、非常に間違えやすいですね。


 2005年の磯村さんの論文によると、
「動脈 の他 に腎 門を通 らない で腎臓 に分 布す る動脈 は剰 腎動 脈、 または異常 腎動脈の名 で古 くか ら知 られてお り、 腹大動脈 か ら直接 分岐す る例 が一 般的 であ るが 、
他 に総腸 骨動脈や正 中仙骨 動脈 か ら生ず るこ ともあ り、出現 本数 も1本 か ら4本 まで、 そ して両側 に出現 す るの こ と も報 告 され て い る
とあります(https://www.jstage.jst.go.jp/article/keitaikinou2002/3/2/3_2_51/_pdf/-char/ja)

昔、杉田玄白や前野良沢が苦労してオランダ語の解剖図譜Ontleedkundige tafelenを苦労して日本語に訳した、とは学校で習いましたが、この腎副動脈は彼らが命名したのでしょうか?ちょっと興味がわきますね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心臓血管外科ウィンターセミナー学術集会

2019-01-14 10:40:39 | 心臓病の治療
 毎年スキー場で行われる心臓血管外科ウィンターセミナーは今年は富良野です。幹事は自治医科大学附属さいたま医療センターなので、その関連施設である横須賀市立うわまち病院からもスタッフが3名出席予定です。新富良野プリンスホテルを会場に、今年は過去最高の演題数のようです。
 筆者は末梢血管のセッションでの座長を依頼されておりますが、横須賀市立うわまち病院からは、大動脈解離術中の手術術式変更により救命できた90代の患者さんについての症例報告を行います。
 学術集会中は参加者の希望者で、スキーのタイムトライアルも行われます。たまに勘違いしてネクタイ着用で発表する人もいますが、基本的に無礼講な感じでスキーウェアなどを着たまま発表するようなラフな、その代わり、演者と聴衆の距離が非常に近い、参加型のセミナーです。

 出張旅費として申請しやすいという理由から、前回よりセミナーのあとに「学術集会」という文字をつけての名称変更されています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心臓血管外科専門医修練基幹施設

2019-01-12 08:53:14 | 心臓病の治療
 心臓血管外科の専門医は、胸部外科学会、心臓血管外科学会、血管外科学会の三学会で認定される専門医資格で、心臓血管外科学会を目指すには、まずは外科専門医を卒後5年めくらいに取得し、そのあと、心臓血管外科修練医に登録し、約3年間かけて心臓血管外科手術の修練を積んで、もっとも早くて8~9年目に専門医試験を受けて、合格すれば晴れて専門医として認定されます。実際の手術の修練などは専門医を取得して、これから始まるという感じです。専門医取得には一定期間以上、修練施設でのトレーニングが受験資格に必要です。
 その上の資格として修練指導医の資格がありますが、一人前の心臓血管外科医として認められるのは、この指導医を取得して初めて、独立して新たな心臓血管外科医を指導しながら自分のチームを形成して診療を行うということになります。指導医の取得には、500例以上の高難易度の術者経験と、論文などの業績が必要になります。
 指導医を取得すれば、修練施設の責任者として、実際の指導が可能となりますが、そのためには施設を修練施設に認定させる必要があります。修練施設にはその手術件数によって基幹施設と関連施設があります。5年ごとの更新が必要で、この施設認定をとらないと、修練医の手術経験が専門医試験受験資格に反映されないため、修練医を集めることができません。
 横須賀市立うわまち病院は、今年、修練基幹施設の更新で、このための更新申請の書類提出を今月末までに行う必要があります。昨日の予定の手術支援が延期となったため種類仕事の時間ができ、間に合わせることができました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

とある、早朝の外科科長宅への電話

2019-01-11 14:07:00 | 心臓病の治療
以前に勤務していた町立病院での出来事

朝、5時半に電話がかかってきました。枕元の電話をとると、

「おれだ、おれ!」    「はぁ?」
「朝飯たべていいか?」  「はぁ?」
「だからぁ、今日採血するなら、今、朝飯たべないし、採血しないなら今食べちゃうし、どっちよ!」

その日受診予定の患者さんからの電話でした。糖尿病がある患者さんなので、血糖の採血項目があるから、朝食を食べないで受診した方がいいかどうか、という朝5時半の電話でした。

「食べてきていいですよ」と、答えましたが、その町の病院の外科科長宅の電話番号が電話帳に載っているので、それを見てかけてくれたようでした。最近は個人情報のことがうるさいから、そうした自宅の電話番号とか載せないことになっているとは思いますが、その平成初期のころは、田舎では普通のことのようでした。地域の医療は、患者さんからのアクセスがいいことがメリットでもあるので、一概には否定しませんが、時代はまたアクセスが悪い方向へある部分、向かっているのかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

急性大動脈解離手術の救命率

2019-01-10 14:35:42 | 心臓病の治療
 急性大動脈解離の手術成績は年々改善しており、昨年発表された全国統計では手術死亡率は10%まで低下しています。海外では20%前後の死亡率が一般的かと思いますが、日本だけ抜き出た形になっております。

 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科における、急性大動脈解離の死亡率は現体制となった2016年9月からの27例のうち、死亡例は1例のみ(死因は悪性症候群の疑い)で、死亡率は3.4%となっています。当院のような一次~三次まで診療する救急体制でありながら、最初にファーストタッチする施設としては良好な成績といえます。この27例の中には90歳以上の症例が3例含まれており、90歳以上の症例は全例生存退院しています。

 大学病院のような、一般病院から転送されて急性大動脈解離を受け入れる施設では、転送までの間に生存しそうな患者さんが選抜されているために良好な成績が多いのですが、診断のファーストタッチからかかわる施設では転送出来ないような、より重症の症例を扱うことが多くなるために、積極的に治療しようとするほど成績は悪くなる傾向があります。

 ますます症例の蓄積が必要ですが、今後も良好な成績を維持すべく努力する必要があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

血管吻合における標準術式と修練医のトレーニング(マットレス吻合と連続縫合)

2019-01-09 14:29:09 | 大動脈疾患
 大動脈疾患の手術は基本的に自分の血管と、人工血管の縫合手技がメインとなります。その縫合の工夫として、確実に出血せず、強固に吻合することが基本です。また狭窄を作って血流障害を起こすことも予防する必要があります。大動脈の手術は、出血の制御に難渋したり、循環停止中に吻合するため一刻を争って確実に吻合する手技が要求されます。
 この対策として、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科のグループでは、大動脈の吻合をプレジェット付2-0ポリエステル糸による全周マットレス吻合を基本手技として採用し、これによって若手の修練医にも安心して術者を経験させることができるため、他の医局に入局するよりもより早期に多くの症例を術者経験できることが多く、それを目指して全国から心臓血管外科医を目指す若手医師が集まっています。

 横須賀市立うわまち病院でも、その指導をしながら若手医師にも大動脈瘤や大動脈解離の術者を経験させることがより早期にできるような体制としていますが、常にこのマットレス吻合で慣れてしまうと、かえって連続縫合による吻合の経験が不足し、いざ連続縫合をするときにイメージできない、手が動かない、というリスクを持っていることがあります。当施設で採用している全周マットレス吻合は、特に口径差がある血管どうしを形態良く吻合したり、形がいびつな断端の血管を、人工血管にプロポーションよく吻合するのに非常に優れた方法です。たしかに優れた吻合方法で楽に確実に吻合が可能であれば、それにこしたことはありませんが、急に従来の方法で吻合するというときに、いざとなると出来ないというようなことでは、不足の自体が起きやすい心臓血管外科の世界では対応出来なくなる危険性があります。これはまるで、電子カルテに慣れすぎてしまい、いざ電子カルテが故障したり、採用されていない施設で仕事をしようとすると機能しないということや、普段は洗濯機で洗濯しているのに突然手洗いで選択しなければならいないような事態に似ているとも思います。


 世の中ではまだまだ連続縫合による吻合が主流ですので、それにも十分習熟しておかないと、どこの施設でも通用する技量とはいえません。特に、最近はリスクに対しての予期や対策が重要視されていますので、いかような手術手技にも対応できるように、普段から修練しておくことは非常に重要と感じています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

胸骨部分切開による大動脈弁置換術

2019-01-06 19:40:28 | 心臓病の治療
小開胸による弁膜症手術が広まるなか、小開胸には適さない症例の場合、出来るだけ低侵襲で手術をしようとした場合の一つのチョイスが、胸骨部分切開による手術です。通常の胸骨正中切開よりも半分以下の創で手術でき、特に、胸骨が左右に離断されていない分、胸郭の固定がいいため、術後の呼吸障害が起きにくいと考えられます。術中、片肺を虚脱する必要もないため、肺機能の悪い症例や、特に高齢の患者さんには適しています。

右小開胸と、胸骨部分切開の使い分けにより、今後ますます小開胸手術元旦から、普及するものと思われます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高額医療制度:医療費の自己負担はどのくらい?

2019-01-05 08:39:46 | 心臓病の治療
自己負担限度額について  = 自己負担限度額は被保険者の所得区分によって分類されます。

 実際の医療費はどのくらいかかるのか?患者さんとしては、自分の病気の心配もさることながら、治療費の心配も少なからずあるはずです。決してお安くはないかもしれませんが、日本の医療費は先進国の中でも最低に近く、おとなりの中国に比較しても半額、最高に御高いアメリカ合衆国に比較しても五分の一くらいかと思います。この低価格は医療者の低賃金によって支えられていると同時に、国民の多額の税金の投入(税金の三分の一が医療福祉に使用されている)によって制度が支えられています。
  詳細な数字は https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3020/r151 より

70歳未満の方の区分  平成27年1月診療分から
①区分ア  (標準報酬月額83万円以上の方)
(報酬月額81万円以上の方)   252,600円+(総医療費※1-842,000円)×1%    多数該当140,100円

②区分イ  (標準報酬月額53万~79万円の方)(報酬月額51万5千円以上~81万円未満の方)
167,400円+(総医療費※1-558,000円)×1%                    多数該当 93,000円

③区分ウ(標準報酬月額28万~50万円の方)(報酬月額27万円以上~51万5千円未満の方)
80,100円+(総医療費※1-267,000円)×1%                     多数該当44,400円

④区分エ(標準報酬月額26万円以下の方)  (報酬月額27万円未満の方)
57,600円                                     多数該当44,400円

⑤区分オ(低所得者)(被保険者が市区町村民税の非課税者等)
35,400円                                     多数該当24,600円

※1 総医療費とは保険適用される診察費用の総額(10割)です。
※2 多数該当:療養を受けた月以前の1年間に、3ヵ月以上の高額療養費の支給を受けた(限度額適用認定証を使用し、自己負担限度額を負担した場合も含む)場合には、4ヵ月目から「多数該当」となり、自己負担限度額がさらに軽減されます。

注)「区分ア」または「区分イ」に該当する場合、市区町村民税が非課税であっても、標準報酬月額での「区分ア」または「区分イ」の該当となります。


70歳以上75歳未満の方の区分

現役並みⅢ(標準報酬月額83万円以上で高齢受給者証の負担割合が3割の方)
 252,600円+(総医療費-842,000円)×1%            [多数該当:140,100円]

現役並みⅡ(標準報酬月額53万~79万円で高齢受給者証の負担割合が3割の方)
 167,400円+(総医療費-558,000円)×1%            [多数該当:93,000円]

現役並みⅠ(標準報酬月額28万~50万円で高齢受給者証の負担割合が3割の方)
 80,100円+(総医療費-267,000円)×1%             [多数該当:44,400円]

②一般所得者(①および③以外の方)
 外来18,000円 (年間上限14.4万円)     入院 57,600円 [多数該当:44,400円]

③低所得者
Ⅱ(※3)  外来8,000円    入院24,600円
Ⅰ(※4)  外来8,000円    入院15,000円
※3 被保険者が市区町村民税の非課税者等である場合です。
※4 被保険者とその扶養家族全ての方の収入から必要経費・控除額を除いた後の所得がない場合です。

注)現役並み所得者に該当する場合は、市区町村民税が非課税等であっても現役並み所得者となります。

実際の窓口負担額について(「区分ウ」に該当する場合)

計算例 1ヵ月の総医療費(10割):100万円 所得区分:区分ウ 窓口負担割合:3割

限度額適用認定証を提示しない場合

300,000円(3割負担)を医療機関窓口で支払って、後日高額療養費の申請により、212,570円が払い戻され、87,430円の自己負担となります。

自己負担限度額:80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円



限度額適用認定証を提示した場合

87,430円(自己負担限度額)の支払い、後日高額療養費の申請が不要となります。

限度額適用認定証申請時の留意点
•被保険者が低所得者に該当する場合は「健康保険限度額適用認定申請書」では申請できません。
「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定申請書」をご提出ください。
•限度額適用認定証の有効期間は、申請書を受け付けた日の属する月の1日(資格を取得した月の場合は資格取得日)から最長で1年間の範囲となります。
•申請書受付月より前の月の限度額適用認定証の交付はできません。日程に余裕を持ってご提出ください。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする