ID物語

書きなぐりSF小説

第32話。アクロニム。23. もてなし

2010-11-15 | Weblog
 (応接室に案内され、私たちには豪華そうな出前寿司、自動人形と五郎と六郎にはアルコールが振る舞われた。有名で成功した方、さんざん自慢話を聞かされるのではと覚悟していたが、それは前座の数分だけ。なめられないようにとの演説のみだった。その後は、こちらのことをしつこく聞いてくる。)

高橋。世界中を回られた。

奈良。学会発表なら。仕事です。

高橋。有名なの?。

奈良。いいえ。

イチ。動物行動学では、名が知られている。知っている学者は多い。

高橋。じゃあ、有名よ。よかったわ、有名人とお話しできて。それじゃあ、動物の心が分かる。

奈良。ある程度は。でも、分かったと思い込むと、裏切られることがある。完全に理解するのは無理。

高橋。おほほ、そんなの人間が相手だって無理よ。もしかして、ロボットの心理状態が分かるとか。

イチ。奈良さんはぼくたちに心をくれたんだ。だから、ボクもよく分かる。

高橋。自分と同じ能力を、ロボットに与えたのね。素敵な話。

奈良。簡単なしくみ。かわいそうだが、何も分かっていない。私たちを観察して、適当に仕草をしたり、しゃべったりするだけ。

高橋。あら、とても大切なこと。

奈良。分かっているつもりなのは人間の側。心通わない機械。

高橋。あなたが言っちゃだめよ。大切な機械なんでしょ?。

奈良。ええ、私にとっては。かけがえのない、大切なロボット。

高橋。かわいく振る舞ってくれるじゃない。それで充分。

 (小鹿氏は、次は伊勢に聞き始めた。伊勢はこの手の人間をあまり好かないのだが、知識に対して尊敬している態度が見られたので、普通に相手している。イチが私をフォローしてくれたように、レイが合いの手を打っている。どちらも先鋭的なので、レイがいなかったら多分、けんか腰だ。
 次は鈴鹿。最初から普通に話しているのはいいのだが、こいつは演技ができない。知っていることをぺらぺらしゃべる。さすがに、社の秘密とかIFFの秘密まではしゃべらないけど…。)

高橋。じゃあ、あなた、007みたいなことをしている。

鈴鹿。調査のために潜入する点は同じ。

エレキ。合法の範囲内で。

高橋。暗殺も請け負う。

鈴鹿。まだやったことない。

マグネ。調査だけだ。衝突しそうになったら、逃げるのだ。

高橋。武器を携帯しているの?。

鈴鹿。普段はしていない。

エレキ。武器が無くても、少し弱くなるだけ。普通の男では太刀打ちできない。

鈴鹿。あんたたち、さっきから何ちょっかい出しているのよ。

高橋。フォローのつもりらしいわよ。いい男じゃない。そうか、くの一。本物は初めて見た。

マグネ。単なる警備とくの一の違いは何だ。

高橋。もちろん、作戦遂行のためなら、何でもする。殺人でもお色気でも。

エレキ。そんなお芝居をしたのか。

高橋。やってみたいわ。いつも人情もののお笑いばかり。

マグネ。敵方のあっぱれ美人ボス。

高橋。おほほほー、そんなのがいい。で、あんたたちみたいなのが正義の味方で出てくる。

エレキ。陰謀は粉砕。

マグネ。敵の中枢に迫る。

高橋。そして、すんでのところで私は優雅に逃げる。おほほほー、今回は負けてやったわ。でも、次は必ず思い知らせてやる。よく覚えておくことよ。

 (ふー、お芝居の話だったらしい。と思ったら、甘かった。)

高橋。ぜひやらなくちゃ。展示会があるんでしょ?。

奈良。よくご存じで。この自動人形たちと日本のサイボーグ計画の展示会。

高橋。お芝居をしたことは。

イチ。過去に何度もある。お笑いの。

レイ。イチっ、何つられてしゃべってるのよ。

高橋。おほほほほー。ちょうどいい。ライターの港先生を呼んでくださる?。

お付き1。この時間にですか?。

高橋。さっさと呼びなさい。

奈良。本番は明後日。

高橋。だから、急がせるのよ。

記者。何かお芝居を。

高橋。できればしたいところだけど、間に合いそうもない。

奈良、記者。ほっ。

高橋。だから、私が歌を歌う。その前座にコントのある。

エレキ。寸劇も芝居は芝居だ。

マグネ。失敗は許されない。

高橋。私に恥をかかせたら、承知しないわよ。稽古は厳しいわ。そうね、時代は江戸時代の大坂。

エレキ。浪速(なにわ)捜査網。

マグネ。必殺商人(あきんど)。

高橋。こっちでは、庶民の方がお上より強いのよ。

奈良。想像もつかない。

高橋。任せなさい。悪いようにはしないわ。

第32話。アクロニム。22. 喜劇役者

2010-11-14 | Weblog
 (翌日、リハーサル前日。伊勢と鈴鹿は市内観光に出かけた。私はエレキとマグネを連れて街を歩く。東京と同じ。平日の昼間だというのに、大変な人出だ。
 エレキとマグネは背が高い上に、ハンサム。救護服は派手な上に凛々しくできていて、いやが上にも目立ってしまう。さっきから若いのやらおばさんやらに捕まっては、いっしょに記念撮影している。なので、商店街はあきらめ、一本脇の大通りに出る。こちらはサラリーマンの通行が多い。)

エレキ。大阪の人は積極的だ。

マグネ。東京ではめったに呼び止められないのに。

奈良。じろじろ見られる点では変わらないが。

 (目の前に人だかりが見えてきた。)

エレキ。けんかかな、大道芸かな。

マグネ。近づくのか。

エレキ。ああ。

 (人が倒れていた。中年女性。慌ててエレキとマグネが近づく。)

エレキ。AEDを。

マグネ。救急車を呼べ!。

 (エレキが心臓マッサージを開始。私はAEDの表示のある店に飛び込んで、装置を持って行く。エレキが素早く取りつけて、蘇生する。さすがにAED、心肺蘇生には成功した。救急車は10分もせずに到着。引き渡して終わり。警察がやってきたけど、事件性はないので簡単に話を聞いて去っていった。集まっていた人々も解散。こちらも去ろうとしたら、若い男が声をかけてきた。)

記者。もしもし、派手な格好をして。あなた、レスキューですか?。

マグネ。救護ロボットだ。

記者。ん?、ロボットって冗談…。うわわー、人間じゃない!。

奈良。驚かせてすみません。私が操縦するロボットです。アンドロイド。訓練中です。

記者。救護も訓練。

奈良。いや、たまたま遭遇しただけ。

記者。あの女性、知ってますか?。

奈良。さあ。買い物にしては何も持ってなかったな。

記者。おそらく、有名な喜劇役者ですよ。ここでは多くの人が知っている。

奈良。そうなんですか。

記者。こりゃ特ダネだ。有名喜劇役者を、たまたま遭遇した救護ロボットが生き返らせた。

奈良。それだけ。ありきたりの救命動作。

記者。あなた方、英雄ですよ。私、こういうものです。

 (若い男は名刺を差し出した。テレビ局の記者らしい。)

記者。さあさ、そこに並んで。写真を撮ります。

奈良。どうぞ。こんなの、記事になるんですか?。

記者。もちろん。放映されるかどうかは分かりませんが。

 (とにかく、街を背景に、エレキとマグネといっしょに写真を撮られる。記者は礼を言うと、タクシーに乗り込んで去っていった。)

マグネ。何なんだあれは。

奈良。あわてものだな。

エレキ。何か起こるんですか?。

奈良。さあ、とても放送できるようなネタとは思えんが。

 (予想通り、この件に関しては放映されなかった。しかし、リアクションはあった。その日の夕方。男部屋にて。伊勢と鈴鹿が訪問中。)

伊勢。ああ、よかった。ここには見どころがたくさんある。

鈴鹿。うん。奈良さんも来たらよかったのに。

奈良。ああ、今度な。

伊勢。あら、電話よ。…、はい、2602号室。フロント?、何の用でしょうか。面会。奈良さんに。エレキとマグネを連れて?。面会者は?。高橋子鹿。なにそれ、芸名?。有名な喜劇役者。

奈良。思い当たりがある。行ってみる。

伊勢。(電話に)行きます。

鈴鹿。何なの?。

 (昼間あったことを簡単に説明する。)

伊勢。お礼の挨拶よ。

鈴鹿。いっしょに行く。

 (お笑いに詳しい志摩に聞いたら、こちらではVIP級の人物らしい。あわてて正装に近い格好に整え、ロビーに行く。
 待っていたのは、小綺麗に着飾った中年女性とお付きの男性2人。例の記者もいる。話をつけたのは、記者らしい。)

高橋。はじめまして。高橋子鹿と言います。

奈良。はじめまして。奈良治です。大変有名な方。お呼び立てしたような格好になり、申し訳ありません。

高橋。いえいえ、こちらがお礼を言わなくちゃ。そちらがロボット。私を助けてくれた。

奈良。こちらがエレキ、こちらがマグネ。救護ロボットです。

高橋。自動人形。評判らしい。新型のようですけど。

奈良。よくご存じで。日本に来たばかりです。挨拶しなさい。

エレキ、マグネ。はじめまして。

高橋。よくできていること。それに、ハンサム。そちらの女性は。

奈良。私の部下。伊勢陽子と鈴鹿恵。

高橋。よろしく。それじゃあ、2人分追加しないと。

奈良。何か。

高橋。お礼ですわ。夕食に招待します。

 (とても断れない雰囲気。承諾する。まだ他にいるのかと尋ねられたので、ロボットのことを言う。全員来なさいと。モグに乗って、クルマについて行く。私は小鹿氏の相手。)

高橋。キャンピングカーだわ。楽しい。

奈良。お体はいいんですか?。

高橋。一時的な発作らしい。もう大丈夫。

奈良。心肺蘇生した。ただ事ではない。入院が必要なのでは。

高橋。あなたも心配性な方。医者といっしょの物言い。

鈴鹿。奈良さんは獣医よ。

高橋。じゃあ安心。救護ロボットに、獣医。万全ですわ。

 (こじつけもいいところ。かなりの精力家とみた。しばらくして目的地に着く。市内の住宅地にある邸宅だ。)

第32話。アクロニム。21. 迷彩した山城

2010-11-13 | Weblog
五郎。よろしいでしょうか。お取り込み中の所。

奈良。うわわわっ。なんだ、五郎か。用件を言え。

モグ。超低空を飛行する航空機を発見。怪しい。

イチ。追尾する。

レイ。行く。

 (言うが早いか2機が飛び立った。鈴鹿と伊勢はあわててモニターに直行する。山の輪郭の切れ目から一瞬モグに見えたらしい。)

鈴鹿。どんなやつよ。

モグ。これだ。

 (観光用のヘリコプターに見える。)

鈴鹿。飛行コースが異様なだけか。

モグ。断定するのは早い。

鈴鹿。生意気なやつ。

 (モグは生意気な反応に調整しているのだ。イチたちはあっと言う間に尾根を越える。ヘリの音が聞こえるが、姿がない。音を探しながら、2機は谷を飛ぶ。)

イチ。ここだ。木に着陸する。

 (一帯が巨大なテントになっていて、上空からは森に見えるように迷彩している。入り口が見える位置にレイを差し向ける。テントの下がヘリポートになっている。
 永田に知らせたら、しばらく動きを観察せよとのこと。少なくとも、政府系の施設ではないようだ。)

伊勢。山城みたいになっている。

奈良。道路はあるのか。

イチ。人が歩ける程度の細い道しかない。

 (さらに観察しようとしたら、永田から連絡が入った。直ちに避難せよ、速やかに半径5km外にと。モグと施設は3kmほどの距離だ。取る物も取り合えず、モグを発進させる。イチとレイも回収。)

イチ。何が起こったの?。

鈴鹿。永田さんからの避難命令。

レイ。攻撃よ。

イチ。何者の?。

レイ。すぐに分かる。

 (モグの移動速度は伝わっていたらしい。十分に離れたら、尾根の向こうの谷が光った。そして、大変な量の煙。続いて、すさまじい轟音。対地攻撃機がわずかに見え、消え去った。)

鈴鹿。A国軍の兵器だ。いきなりあんな攻撃を。

イチ。ヘリコプターと乗員はどうなったの?。

奈良。無事で済むわけない。

イチ。行こうよ。すぐに行ける。

 (永田に連絡したが、待機しろと。そして、すぐに追加連絡。許可するまで半径5km以内に近づくなと。その許可が得られるのは、ずっと後のことだった。)

モグ。友軍のヘリコプターが飛来している。こちらも観察された。

鈴鹿。普通に考えて、掃討するんだ。

レイ。どこかの軍事拠点か何か。

鈴鹿。少なくとも、それに類したものでしょう。

イチ。研究が継続できない。

鈴鹿。もうここでは無理よ。あからさまに軍事作戦に巻き込まれた。逃げるしかない。

伊勢。いったん帰りましょう。あれこれ余計なことを考えそうだから。

奈良。明後日には大阪入りする必要がある。

伊勢。そうだった。大阪支社に連絡する。

 (ホテルを紹介してくれた。会場の近くだ。広めの2室があてがわれた。
 途中からは高速道だ。夕方早くに着いた。出かけるのも面倒なので、男部屋に集まって、ルームサービスで食事にする。)

鈴鹿。ルームサービスで食事なんて、贅沢。

伊勢。レストランと変わんないわよ。

奈良。いただこう。

 (丸テーブルを囲んで食事。)

鈴鹿。さんざんなことになった。いいアイデアだと思ったのに。ごめんなさい。

伊勢。楽しかった。うれしかったわよ。

奈良。たまにはああいった頭脳の使い方をしなければな。

伊勢。主要データは取ってあるから、報告はできる。

奈良。近くに広い公園がある。都会のダニでも観察するか。

伊勢。やっておこう。あそこで確立した観察法がここでも通用するかどうか。

鈴鹿。転んでも、ただでは起きないわね。

伊勢。はいつくばってでも、納得できる成果を出すのよ。

 (夕食後、近くの公園に3人と4機で行く。六郎も付いてきた。並木は低いので、イチとレイは、それぞれエレキとマグネの肩に器用に乗って、木に近づく。LS砲とアナライザで分析。もちろん、普通に生物群はいる。私も伊勢も、自分の目やアナライザーで観察。鈴鹿も真似てみる。伊勢が要点を教えている。)

鈴鹿。やっぱり興味が続かないことには、何ともかとも。

伊勢。そのわりには、しっかり見ているじゃない。

鈴鹿。何かに役立ちそうだもの。ちょっと不純な動機。

伊勢。それでいいわよ。

鈴鹿。もっと遠くでも分かるかな。

 (さすがに若者は向こう見ずだ。どんどん距離を伸ばして行く。伊勢の計算なんか、関係ない。)

伊勢。何か分かるの?。

鈴鹿。樹木では役立たず。建物の壁面だったら、ある程度分かりそう。

伊勢。生物がまばらだもの。なるほど。

鈴鹿。密度さえ問わなければ、どこにでもいる。あんな高いところにも。猫の背中にも。

伊勢。猫って…。うわ、いっぱいいる。

レイ。猫の集会場だ。かわいい。

イチ。不気味だよ。

奈良。彼らの会話が聞ければな。

鈴鹿。ほとんど無言。

奈良。でも、寄ってきているって事は、何かコミュニケーションしている。

鈴鹿。おしゃべりじゃないだけだ。

イチ。ボクには分かる。安心しているんだ。それを確かめに来ている。

鈴鹿。仲間の状態を確かめているの?。

イチ。うん。今日も来ている、あの個体。元気そうだ。安心。なんて。

レイ。誰でも分かる。

奈良。それが大切なんだ。誰でも分かる。そんな単純な動機が学問になる。

伊勢。自動人形に学問は分からないわ。

イチ。お手伝いはできる。

レイ。使ってください。

伊勢。いとおしい子。うん、活躍して。

イチ。全力を上げて…。

レイ。期待にお応えします。

 (ホテルに戻る。伊勢は女性部屋でせっせとデータを解析しているようだ。こちらの男性部屋、―といっても、人間の男は私だけ、には自動人形が集まっている。六郎までいる。レイは気を利かせてくれたのか何なのか、男になっている。)

レイ。街が見える。ごちゃごちゃしているけど、活気がありそう。

イチ。うん。明るい。

 (永田からは追加の連絡はない。IFFは何か動いたようだが、虎之介はそのまま来るらしい。普通に風呂に入って資料を整理し、眠る。)

第32話。アクロニム。20. 休息

2010-11-12 | Weblog
 (私とエレキは、すぐ近くの森の地表近くで、伊勢の方法を試すために出かける。鈴鹿も付いてきた。
 アナライザーを対象の1mほどに近づけると、分析が可能になる。ダニそのものを外見で見分ける解像度で映し出すためには、アナライザーを30cmほどに近づけないといけない。3倍の距離だけど、その差は大きい。)

奈良。もう少し離れた距離から分からないかな。

伊勢(通信機)。LS砲で照らせば、5mくらい先から分かるはず。存在だけなら、もっと遠くからでも。でも、光で照射したら、ダニの行動が変わるんじゃないかしら。

奈良。試してみるか。

鈴鹿。当てるのは紫外線?、赤外線?。

伊勢。近赤外線のつもりだった。他のも試してみる。

 (実験開始。LS砲による照射条件をいろいろ試す。アナライザーは高感度だ。いくつか役立ちそうな条件を見つけ出した。空中にいるイチで再テスト。結果は当然とは言え、同じ。結局、5mほど先からでも、目星がつくことが分かった。もちろん、具体的なダニの動きは、ぐっと近づかないと分からない。)

伊勢。今回はこれで行くか。

鈴鹿。何だか複雑なテスト。

伊勢。染みを検出するようなものよ。匂いの間接的検出と言って良いかな。

奈良。再現性があれば、科学としては十分だ。

鈴鹿。雑音が混じっていても。

奈良。目的にかなえば大丈夫。測定している対象の正体が分からなくてもOK。

伊勢。納得できれば、の条件付き。

奈良。あまりに突飛なのは、認められないケースが多いだろう。今回はまず大丈夫。

鈴鹿。まあ、やってみよう。

伊勢。うん、試さないと何も分からない。

 (大学院に入ったためか、鈴鹿が研究の方法論に付き合ってくれている。ともかくデータを集め、こんなものかなと言うところまで来た。イチたちを引き上げ、次は夜になってから試すことにした。
 鈴鹿は体が鈍ってはいけないと、水着に着替え、五郎と六郎を連れて、湖に繰り出していった。伊勢と私は適当にモグ内で休む。ソファで休んでいたら、なぜか、イチがそばに寄ってきた。子供みたいにぴったりくっつく。タロやエレキで同じことをやられると、多分、びっくりする。ふつうに撫でてやる。)

奈良。小さいな。

イチ。うん。飛ぶためだ。顔まで幼くなった。

奈良。どれ、膝に乗ってみろ。

 (イチが膝に乗る。タロよりはずっと軽いが、軽々と言うほどではない。救護ロボットだけに、ある程度の力は要るからだ。重さを確かめていたら、レイが目の前でにらんでいる。)

レイ。イチ、ずるい。どきなさいよ。

イチ。どくよ。何するんだい?。

レイ。よっこいしょっと。

 (当然のように、私の膝に乗ってくる。)

レイ。どう?、重さは。

奈良。軽い。軽すぎることはないけど。

レイ。何か他に感じる?。

奈良。ええと。

 (さすが、救護ロボットで、こんなに小さくても、頼もしく思えるようにできている。あまりにうまくできているので、思わずじっと見つめてしまった。)

レイ。やだ、恥ずかしい。うふん。

 (うわっと、寄りかかってきた。このやろ、図に乗っている。かといって、振り払うとよけい厄介な気がしてきた。イチが寄ってくる。)

イチ。何がどきなさいだよ。こっちだって。

 (膝に乗ってくる。狭い。2機とも小さいから何とか乗っているけど。こうなると、私そっちのけで言い合いになった。けんかしているでもない、単なる言い合い。不思議な光景。ふと、伊勢がいる。)

伊勢。何やってるのよ。うるさい。

レイ。あら、マグネがいるじゃない。エレキも。こっちは定員オーバー。

伊勢。何を考えてるのよ。私が奈良さんの膝に乗りたいとでも。

イチ。やるの?。

伊勢。どうしようかな。

 (イチとレイはさっと脇にどいてしまった。何が起こるか、興味津々に観察している。
 伊勢はちょっとムッとしたらしく、イチを引っぺがしてその位置、つまり私の隣に座り、そのままイチを抱える。今度はレイがムッとしたらしく、私の袖を思いっ切りつかんで、くっつく。)

伊勢。ほどよい軽さ。これで音速が突破できるんだ。

イチ。最初から狙っていたのかな。

伊勢。周到に用意されていた感じ。状況証拠からの結論。

レイ。かなり細い木の枝にも乗れる。

伊勢。エスほどではないけど、細い場所をくぐり抜けられる。

レイ。ここに来れてよかった。いつまでいるの?。

奈良。素人が指令できるようになるまでだ。しかし、キキのように交代の要請がかかるかもしれない。

伊勢。ちょっとできすぎだもの。そのうち、お声がかかりそうよ。やりすぎたかな。

奈良。これでいい。

鈴鹿。ただいま。おやおや、いい光景。

 (鈴鹿はシャワー室のカーテンを引いて着替える。出てきたと思ったら、レイを引っぺがして、座り、レイを膝に乗せる。伊勢の反対側だ。自動人形をだっこした2人の女に挟まれた格好になる。)

鈴鹿。ふむふむ、この軽さ。空を飛ぶのにぴったり。

伊勢。進行波ジェットを使うのなら。

鈴鹿。うん。でかい音を出していいのなら、マグネに翼を突けて飛ばすこともできる。

 (美女2人に美少年、美少女ロボット。と、思ったら、いつのまにかイチが女に化けている。伊勢の操縦らしい。)

イチ。作戦で性別を変えたことない。

伊勢。役立つと思ったのに。

レイ。わざわざ衣裳まで買ったのに。

イチ。そうだった。

鈴鹿。性格はどうするの?。

伊勢。男の子の時とあまり変わらない。ボク少女。

鈴鹿。性格を与えているのは奈良さん。

伊勢。私には難しい調整。口を挟むことはあるけど。

イチ。ボク、こんな感じでいいのかな。

レイ。ふん、奈良さんは私の性格が気に入っているのよ。

奈良。ええと、当初のつもりでは、イチはたしか…。

イチ。ボクを見て考えればいい。

 (イチがおすましする。もともと美少年に作られてた機体だ。少し離れれば、ぞくぞくっと来るはず。さすがにこの近距離では機械に見える。それでも…。)

レイ。何ぼーっと見ているのよ。こっち見て。

奈良。ええと、レイ。いつも活躍してくれる機体…。

 (レイもきばっておすまし。らしくないぞ。でも、ふだんしないから、かえってかわいい。こちらも近づきすぎているので、機械に見える。それでも…。)

鈴鹿。部長っ、自動人形ばかり見て。私はどう?。

奈良。どうって、有能な部下。こんな職場に来てくれてうれしい…。

 (なんだ、鈴鹿が張り合っているのか。泳いで来たばかりだ。髪、―といっても、つけ毛が大部分、がしっとりしていて、いつもより色っぽい。ふつうの顔立ちだけど、若いし、きりっとしているから美人に見える。おまけに、隣からぴったりくっついている。服越しだけど、皮下脂肪が少なく、圧力は多量の筋肉成分由来であるのがもろ分かり。弾力があり過ぎるが、一応女性だ。スタイル抜群。ぐっと来ないわけがない。)

伊勢。こっちはどうなのよ。何も感じないっていうの?。

奈良。どんなに望んだとしても得難い優秀な部下。よく来てくれた…。

 (伊勢まで文句を言い始めた。こいつは正真正銘の美人だ。単に若いからきれいに見えるのではない、有り余る知恵と知識が磨きをかけた、奥からこんこんと湧き出てくる、えも言われぬ魅力がある。人生の後半まで、ずっと麗人のはずだ。女性からだって、うらやましく思われるはずだ。
 背中に大きな恐ろしい傷跡があるが、隠しているから知る者は少ない。少なくとも、私は平気だ。獣医だから手術痕には平気なのだ。目つきは恐いほど鋭いけど、私にはかえってチャームポイントに思える。ああ、すっかり伊勢の魅力にはまっている…。)

イチ。奈良さんっ。伊勢さんの魔力に負けちゃだめ。正気に戻って。ボクを見て。

レイ。あんたっ、どさくさに紛れて、アピールするな。奈良さん、こっちを見なさい。

鈴鹿。あんたに言えるのかよっ。部長、こっちを見てください。

伊勢。あらあら、たいへん。でも、誰が勝つかは自明ですわ。当然、こちらをご覧になってる。

 (女同士、―といっても半分はアンドロイドだが、が言い争いを始めた。ううむ、いつぞや、同じことがあったような。)

第32話。アクロニム。19. 空中観察

2010-11-11 | Weblog
 (朝食の片付けは鈴鹿がやった。虎之介が用意してくれた器具を点検して、作業開始。
 イチとレイが取っかかりとなるロープを張って行く。200m四方ほどの、狭い場所だ。空中サーフボードを使って、うまく木に飛び移る。伊勢が指示している。
 こちらは道無き道を行く。鈴鹿とエレキとマグネがいっしょだ。エレキが先頭で、次が鈴鹿。私が3番目で、最後尾がマグネ。
 やっとのことで、フィールドに到達する。こちらは観察しながら進む。マグネは先に進めて、危険があるかどうかをチェックする。)

奈良。堆積物を掻き分けた方がいい。

鈴鹿。いっぱいいる。いつも踏んづけているんだ。

奈良。避けるなんて不可能だ。

 (昆虫より小さい生物がたくさん居る。中でもダニ類は色がきれいだ。)

鈴鹿。これもダニかな。

奈良。8本足で、糸を出していなければダニだ。

鈴鹿。姿は小さなクモみたい。

 (地上の観察は2時間ほどで一巡できた。フィールドの様子が分かったので、モグに帰る。伊勢が出発の用意をしていたので、鈴鹿と行く。私は、モニタでイチたちの監視。ロープをうまく使って、林冠部の木の表面や葉の裏などを調べる。ダニ以外も多いし、あまりに個体数が多く、うまく調べないと、散漫になりそうだ。
 伊勢が到着。自分でもフィールド全体を回る気だ。時間をかけて観察している。伊勢と私では注目点がかなり違うらしく、鈴鹿は面白かったそうだ。
 帰ってきたのは、正午少し過ぎ。元気な鈴鹿は、昼食の用意。こちらは、作戦会議。何を重点的に見るか、順序はどうするかを決めて行く。文献を調査し、資料を取り寄せる。さすがに伊勢で、特徴的な化学物質によって種を特定する気だ。自然界で彼ら自身が使っている方法だ。ふと、気付くと鈴鹿がじっと見ている。)

鈴鹿。幸せそう。

伊勢。うふふ、まあね。浮世を忘れるってやつ。

奈良。鈴鹿も学者のエリートコースに乗っているはずだ。

鈴鹿。そういわれた。水本さんや土本さんは自覚がある。火本くんですら、自分の興味の赴くままではなくって、政治的意図を隠そうとしない。

伊勢。難しいわね。この調査はID社の指定項目だから、ID社が欲している情報でもある。

鈴鹿。伊勢さんや奈良さんの知恵を借りて、製品戦略の参考にする。

伊勢。だから、資金が出るのよ。タダじゃない。

鈴鹿。資金がなくてもやるんでしょ。

伊勢。あなた、よく分かっているじゃない。そうよ。暇があれば。

鈴鹿。一生かかっても、調査しきれない。

伊勢。それほどの山じゃないと、ちっとも面白くない。あなた、面白く思えるの?。

鈴鹿。微妙。彼らなりの世界があるのは興味がある。

伊勢。うふふ。1/1000になったアン人形。

鈴鹿。不思議の国のアリス。

奈良。とても面白いんだ。人間の目は0.1mmまで分解能があるけど、実際には1mmを下回ると普段は気付かない。

鈴鹿。同じ場所にいるのに、別の世界の住人。

奈良。そう。虫眼鏡の下は、全く別の原理で駆動している。

鈴鹿。素敵。

伊勢。素敵って、サイボーグ計画はそこまでやるんでしょうが。

鈴鹿。ええ。水本さんたち、知っているかな。

伊勢。教えてあげたら?。喜ぶかどうかで、彼らの実力が分かる。

鈴鹿。うん。試してみる。ささ、お昼ご飯をどうぞ。

伊勢。ううむ。おもいっきり主婦ご飯。そばにおむすび。

鈴鹿。てへへ。…、あんにゃろー、こんな食材選びやがって。

奈良。気が張らなくていい。ふつうにおいしいし。

伊勢。あらあ、心やさしい部長。

鈴鹿。特徴のある男ばかり集まってるから、世間の男ってどんなのか想像もつかない。

伊勢。そんな平凡なやつ、ちっとも面白くないわよ。きっとがっかりする。幸運よ。海原博士なんて、よく演技してくださる。って、あんた、営業しているでしょう。それよ、普通の男って。

鈴鹿。仕事で必死だし、こっちが演技してる。でも、何となく分かる。

伊勢。それが正常男よ。

奈良。こっちはヘンタイよいこか。

鈴鹿。何それ。

奈良。昭和は遠くなりにけり。

伊勢。クレージーキャッツとか知ってる?。

鈴鹿。「星よりひそかに」とか。

伊勢。全然違う。もういいわ。

 (食事が終わり、得られたデータを検討する。手当たり次第に見るだけだと、散漫になってしまう。テーマを絞らなくては。家畜は出てこないので、伊勢が化学物質中心に課題をまとめて行く。アナライザーで遠隔から分光分析できる利点がある。鈴鹿が目を丸くしている。)

鈴鹿。すごい。何でそんなにアイデアが出てくるの?。

伊勢。アイデアなんて大したことない。現実に使える形にするのが大変なのよ。

鈴鹿。そうなの?、奈良さん。

奈良。伊勢だからできるような気がする。

伊勢。奈良さんとは見方が違うから。何か入れたいテーマがある?。

奈良。大形動物が出てきたら、ダニの行動が変わるかどうかは、多少興味がある。

伊勢。なるほど。自動人形に注意するように言っておく。ウサギ以上の大きさの動物。

奈良。ムササビとかヘビとかか。どうしようかな。

伊勢。自動人形は、マウス以上の動物と、少数の危険動物に反応する。やっておく。

奈良。そっちは植物との対応か。

伊勢。当然。あとは日光とか温度とか湿度とか。

鈴鹿。化学物質って、分かってるの?。

伊勢。分かってるのもあるけど、ほとんどが未知。昆虫レベルでも、わずかな種類の刺激に反応しているだけ。ダニはさらに簡単なはず。

鈴鹿。よく生きられる。

伊勢。彼らなりの進化の頂点よ。興味あるの?。

鈴鹿。あまりないけど、話を聞くのは面白そう。

伊勢。それでいいわ。いつでも聞いてちょうだい。

鈴鹿。うん。

 (伊勢はさっさと手順を仕上げて行く。イチにアナライザーを調整させ、観察しては手順を考えて行く。しつこいので、イチは泣きそうになるが、レイが慰めている。)

鈴鹿。自動人形同士でもあんなことするのね。

奈良。会話は反応だ。そばにいるだけでいい。それを知らせるための仕草だ。

鈴鹿。いいコンビ。

奈良。イチとレイは、そばにいることが多いからな。役割ができているんだろう。

鈴鹿。だろう、って、奈良さんにも分からないんですか?。

奈良。そう見える。私の素直な感想を言っただけだ。本当のところは本人に聞かないと分からない。

鈴鹿。でも、聞いたところで、目の前の事実を解析してくれるだけ。

奈良。それだけだ。何も分からない。どれ、決まったようだな。エレキで試してみるか。

伊勢。ええ、やってみて。感想を聞かせて欲しい。

鈴鹿。こちらもいいコンビ。あうんの呼吸ってやつ。

第32話。アクロニム。18. 朝食

2010-11-10 | Weblog
 (早朝、目が醒める。外はまだ暗いようだ。五郎が運転席で当直してくれている。)

五郎。おはようございます。

奈良。おはよう。異常はあったか。

五郎。異常は検知されません。探索しましょうか。

奈良。したいのか。

五郎。できれば。

奈良。イチと六郎に行かせよう。それでいいか。

五郎。了解。

 (イチは上空に出発。六郎は周囲の地上と水中を観測する。朝もやと言うか、雲が出て来ているので、イチはまず、高空に出るらしい。モニタで追いかける。)

鈴鹿。ずいぶん高空に出る。

奈良。鈴鹿。起きてたのか。

鈴鹿。今起きたばかり。キキの時も感じたけど、よく訓練されている。

奈良。イチはF国ID社にいた機体だ。どちらのノウハウかな。

 (調べると、どうやらB国でのプログラムが動作しているらしい。キキとその兄弟のためにプログラムされたものだ。)

鈴鹿。飛行機に乗せられたんだ。

奈良。そうだろうな。こんなところで経験が活きている。Y国でリリたちが活躍し始めたころから、各国でいろいろな場面に駆り出されたようだ。

鈴鹿。その成果が自律パラメータ。

奈良。まだ正しい方向かどうか、分からない。

鈴鹿。ここでは成功している。

奈良。人間が使われている。耐えきれるかどうかだ。

鈴鹿。成功しているうちはいいけど、失敗するとフォローが大変。

奈良。そのとおり。

鈴鹿。亜有はうまく使っているように見える。予想が付くのかな。

奈良。ある状況での人間の行動パターンを知っていれば。今のところ、納得できる動作ばかりだ。

鈴鹿。ふーん。

 (興味が湧いてきたようだ。たまたま、近くにいたレイを捕まえて、こんな場合どうするとか聞いている。鈴鹿が話し込んでいるので、朝食を作ろうとしたら、伊勢が先にキッチンに立っていた。)

伊勢。あら、ちょっと待ってて。朝食の用意しているから。

奈良。めずらし。

伊勢。一人暮らしだから、毎日やっているわよ。

奈良。野暮な質問だった。失礼。

 (ソファに座る。狭い車内、キッチンはすぐそこ。伊勢がふと見せる女性的な仕草。ちょっと見とれていたら、たちまち鈴鹿とレイに絡まれてしまった。)

レイ。奈良さーん、そんなことしてていいの?。

鈴鹿。危ない視線。私の時は不安そうに見ていただけなのに。

レイ。成り行きによっては、恋人になっていたのかな。

鈴鹿。もう無理だけど、何かの偶然でそうなっていたかも。

 (ふと、鈴鹿の言葉で、伊勢との出会いを思い出した。そう、変わった女だった。研究者の冷徹な目だった。今、目の前にいる伊勢は、別人のようだ。でも、どこかに共通点がある。本人だから当たり前か。)

レイ。またまたまたっ。何ぼーっとしているの。

鈴鹿。こりゃだめだ。よほど気に入っているんだ。

レイ。ねえ、どこが魅力的なの?。参考にしたいから聞かせて。

奈良。全部…。かな。

鈴鹿。こりゃ大変。奥さんや娘さんには聞かせられない。

奈良。別に構わない。

伊勢。全部な訳ないわよ。研究者同士で、通じるものがあるのよ。学問に対する真摯な態度。努力しなければ、たちまち崩れてしまう。

レイ。それを、魅力一杯の美しい女性がやっている。

鈴鹿。うらやましい。そんな純愛のような出会い。

伊勢。ほらほら、食事ができたわよ。

 (なぜか5人分ある、いや、3人分プラス2機分か。イチも加わって食事する。私ですら、伊勢の手料理は初めてというのに。)

奈良。いただきます。

イチ。おいしい。

伊勢。あなた、いい子。

レイ。すかさずサービスするわね。でも、おいしい。

鈴鹿。ロボットに分かるのか。

伊勢。誰かが調整したんでしょう。

イチ。校正するから、誰か感想を言ってよ。

奈良。トーストの焼き具合がいい。サラダの野菜の切れ具合がいい。ハムエッグも絶妙な焼き加減。

鈴鹿。私は全部だめって聞こえる。

奈良。言ってない。

伊勢。食材の選択は志摩と亜有なのよね。ちょっと悔しい。

イチ。食材選びは一番大事だけど、アレンジと見た目も大切。

レイ。あんた、どこまでもわざとらしい。

イチ。レイもちゃんとほめろよ。

レイ。新婚の味ってとこかな。

 (私と伊勢の顔が赤くなる。)

イチ。子沢山の味だよ。

レイ。3人の子供ってか。

イチ。8機と3端末と、あとたくさん。

伊勢。奈良さーん、これが私たちの子供。

奈良。一人を除いて。

レイ。さしずめ、奈良さんがゼウス神。

鈴鹿。じゃあ、伊勢さんが…、やべ。

伊勢。私がヘラ。

イチ。本場ではへーラーと発音するらしい。

伊勢。同じだわよっ。

イチ。ゼウスは女にだらしなかったはずだ。

伊勢。それは作者よ。

鈴鹿。言っちゃだめよ。

奈良。あくまで、物語上だ。

レイ。話がずれたわ。

鈴鹿。自動人形が言ってる。

伊勢。あんたたち、私と奈良さんを両親と思っているの?。

イチ。ちょっと違う。

伊勢。そりゃそうだ。

レイ。よくしてくれる人。親子に匹敵する。

伊勢。どこが。

奈良。何となく分かる。動物では、単に親しい仲と親子は明らかに行動が違う。

鈴鹿。どのように。

奈良。表現しにくいな。具体的な行動を見れば直ちに分かる。人間も動物だから、見ればすぐに分かる。ああ、これかと誰でも思い当たるはず。

鈴鹿。多分…、それが私には足りないんだ。

イチ。今は十分なはずだ。

鈴鹿。うん、いやほど分かる。

伊勢。何よ、しんみりして。さあさ、さっさと朝食を摂りなさい。

鈴鹿。うん。

 (この手の話題になると、鈴鹿は急にしんみりとなる。でも、立ち直るのも早かった。)

鈴鹿。フィールドは決まった?。

伊勢。ええ。背の高い木をロープで結んで、三角形でメッシュを作る。そこからぶら下がるの。

鈴鹿。イチとレイが。

伊勢。交代で。空中からアナライザーで観察。

鈴鹿。そんなので分かるの?。

伊勢。分かるかどうかから研究課題よ。

奈良。ついでに、地上をエレキ、マグネのどちらかと歩く。地表部の様子を観察する。

鈴鹿。ダニも。

奈良。参考データにはなるかな。直接の課題ではない。

鈴鹿。私もいっしょに行っていい?。

奈良。ご自由に。

第32話。アクロニム。17. 鈴鹿の料理

2010-11-09 | Weblog
 (京都を単に通過して、南へ。途中からすっかり田舎になる。自治体の許可をもらって、ダム湖に入り、水上を上流方向に行く。ちょっとした砂浜みたいなところに、拠を構える。秘境と表現できるほどの場所だ。自然林が広がっている。)

モグ。差し当っての脅威を検出しない。安全だ。

イチ。このあたりに、猛獣いる?。

奈良。ツキノワグマは出るかもしれない。イノシシはどこにでもいるだろう。

伊勢。ニホンザルだって、向かってきたら恐いわよ。マムシが居るかもしれない。

 (探検用の服に着替え、車外に出て、おそるおそる周囲を観察する。私はエレキといっしょ、鈴鹿は五郎といっしょにだ。伊勢はイチとレイに上空を巡らせ、フィールドになりそうなところを探す。六郎には、周囲の水中を探査させる。データを集めるだけ集める。
 日が沈む。辺りは真っ暗。月は明るい。)

鈴鹿。食事ができた。まるで都会風だけど。

伊勢。しかたないわよ。ここは観光地でもキャンプ場でもない。目の前に食料があっても、採取したくない。

奈良。いただくぞ。

鈴鹿。どうぞ、召し上がれ。

奈良。うむ。うまい。うまくなったな。

鈴鹿。まるで、まずいのを予想していたような。

伊勢。おいしいわ。上達した。これなら、いつでもあなたに料理を頼める。

鈴鹿。伊勢さんまで。

奈良。自分でも食べて見ろ。

鈴鹿。うん。あら、予想よりおいしい。よくできてる。

伊勢。うふふ。同じ感想よ。

 (不思議な光景。親子でもないのに、親子のような会話。鈴鹿と私には家族がいるし、伊勢の両親は健在だ。DTM出身という、いわば同郷なので、心を許したのか。自動人形は、静かに成り行きを見守っている。
 予定では日の出から行動開始だ。2日の予定で、林冠の生物、特に小型節足動物、つまりダニ類を重点的に観察する。担当は、イチとレイ。エレキとマグネが余ってしまうので、林床でも同様の観察を行うことにした。五郎と六郎はサポート。伊勢と私は、必要時以外はモグから自動人形に指令する。この考えは甘かったことがすぐに分かるのだが…。
 シャワーを浴びてくつろいでいたら、鈴鹿がウィスキーを持ってきた。サービスのつもりらしい。受けないわけには行かない。一杯だけいただくことにした。)

鈴鹿。どう、普通のウィスキーだけど。

奈良。いきなりばらすでない。だが、うまいぞ。日本のウィスキーだな。

鈴鹿。うん。評判のやつ。

伊勢。あらあ、いい光景。娘みたいでしょ、奈良さん。

奈良。本物の娘は思春期真っただ中だ。鈴鹿みたいに女っぽくない。

伊勢。おやおや、そんなこと言っていいのかしら。

鈴鹿。以前は女っぽくなかったとか。

奈良。来たばかりのころは、いかにも軍人だった。ちょっと恐かったぞ。

鈴鹿。だって、事前に聞いたのは、諜報機関で特殊任務とのことだった。志摩も緊張していた。それに…。

伊勢。私と奈良さんも緊張関係にあった。

鈴鹿。今からは想像もできない。何か仲良くなるきっかけがあったの?。

 (伊勢と顔を見合わせる。あの養鶏場の事件で何があったかはすでに公開されている。)

伊勢。調べたら分かる。

鈴鹿。奈良さんか伊勢さんから聞きたい。

奈良。赴任した直後の海外出張。養鶏場の主人がカルト集団の傀儡になっていたのだ。

伊勢。そこにID社のからむシステムが納入されていた。

鈴鹿。カルト集団をやっつける。

伊勢。あのね、そんなこと、その国のやること。私たちは関係なかった…、なのに。

奈良。巻き込まれたんだ。IFFの案件の一つだった。カルト集団の解体。強国が付け入って、国内の混乱が起きるのを恐れていた。

鈴鹿。A31といっしょに。

奈良。A31は養鶏場の解析に必要と思ったのだ。あの頃はタロとかの愛称はなかったな。

伊勢。そう。A02とか、コード名で呼んでいたから、ロボットにしか見えなかった。

鈴鹿。で、カルト集団の本部に突入。

奈良。まだ先を言うのか。

鈴鹿。してほしい。

伊勢。私が暴走したのよ。幹部を粛清すると。で、奈良さんが止めに入った。

鈴鹿。伊勢さんの化学兵器と奈良さんの自動人形の闘い。

奈良。そう。どちらが勝ってもまずいことになる。

伊勢。だから、今も休戦状態。形式上は。もう、過去の事になりつつある。

鈴鹿。その結果が、今か。みんなハッピー。

伊勢。偶然よ。

奈良。危うい均衡の上に立っている。一夜の夢。

鈴鹿。そうかな。誰かの意志を感じる。

 (相変わらず鋭いやつ。ん、まてよ、たしかあの時、鈴鹿が居たはずじゃ…。)

鈴鹿。もう寝るの?。

伊勢。勝手に眠るわよ。あなたもいい加減、眠りなさい。お疲れさんのはずよ。

鈴鹿。うん。そうする。ありがと。

 (私は疲れていたのか、すぐにぐっすりと眠ってしまった。)

第32話。アクロニム。16. 出発

2010-11-08 | Weblog
 (道具は後で送るからと、モグで出発。久しぶりの生物学の研究だ。鈴鹿が運転。私と伊勢がいる。自動人形はイチ、レイ、エレキ、マグネ。そして、五郎、六郎。高速道を西に向かう。)

鈴鹿。木の上に居るダニの研究。よく気味悪くないです。

伊勢。ダニが?。線虫の方がよかった?。

鈴鹿。ぐえ。なんで生物の先生って、気味悪いのかしら。

伊勢。亜有さんでさえ、そんな感想持ってたわ。偏見よ。

鈴鹿。瓶に入ったヘビとかカエルとか思い出す。

奈良。ホルマリン漬けのことか。

鈴鹿。うあ、聞かなきゃよかった。

伊勢。そのままだと、乾燥するか腐るかだから、しかたないわよ。

奈良。飼っているイヌとかヒツジとかならいいんだろう?。

鈴鹿。うん。かわいい。奈良さんの専門だった。

奈良。蛋白とかでんぷんの話なら平気だ。

鈴鹿。そこまではいい。

伊勢。昆虫は?。

鈴鹿。きれいなのも多い。気味悪いのも多い。

伊勢。拡大すると、たしかに気味悪いわ。

鈴鹿。でも、興味の方が勝つ。

伊勢。そうね。そう表現できる。多様性。同じ原理で動いているはずなのに、こうも違うのかとあきれる。

鈴鹿。それに、巧妙。

伊勢。分かってるじゃない。そこに注目するのよ。姿のグロテスクさなんて、すぐ忘れる。

鈴鹿。そこが分れ目か。

 (サービスエリアで普通に食事。伊勢と鈴鹿が会話している。私は、エレキとマグネを連れて、公園みたいなところを散歩。辺りを観察させる。クローンとは言え、普通に自動人形だ。全く変わらないように見える。)

鈴鹿。奈良さん、行っちゃった。女性と話するのは嫌なのかな。

伊勢。そんなことないわよ。単に自動人形の世話をしているだけ。

鈴鹿。イヌやウシの世話をするようなもの。

伊勢。そんな感じで付き合ってる。自動人形も自動人形で、奈良さんが操縦すると、ほっとするみたい。これで安心だ、みたいな。

鈴鹿。亜有も慕われている。先日のイチとマグネの動きにはびっくりした。関さんも驚いていた。

伊勢。自動小銃持った男に飛びかかったことでしょう?。私もびっくり。あれができるのは、奈良さんだけと思っていた。

鈴鹿。何かつかんだのかな。

伊勢。そうかもしれない。奈良さんと違って、今ごろ正式なレポートにしているはず。

鈴鹿。何なのかな。

伊勢。さあ、あまり関心ない。ふー。よかったわ。久しぶりにゆったりした。あなたが企画したんだってね。ありがと。

鈴鹿。この旅行のこと。志摩たちが賛成してくれた。どうかゆっくり研究に打ち込んでください。料理とかは私が作るから。

伊勢。うん。週末は忙しくなるし。

鈴鹿。なんだったっけ。

伊勢。やだ、自動人形の展示会よ。大阪の大型展示場で。

鈴鹿。すっかり忘れていた。

伊勢。金曜日にリハーサル。土曜と日曜に展示会。

鈴鹿。また加藤くんが来るの?。

伊勢。そうよ。張り切っていた。

鈴鹿。ここ数カ月で、登場人物が大幅に増えた。

伊勢。ついでに自動人形も。

鈴鹿。結局、火本と水本はオブザーバか。亜有ほどの迫力はない。

伊勢。ちょっと期待外れ。サイボーグ研では活躍しそうだけど。

鈴鹿。話がそっちにシフトするのかな。

伊勢。ええと。もともと、このID物語はあなたと志摩が活躍する話なのよ。自動人形は端役のはずだった。

鈴鹿。なぜか、今は亜有と虎之介が大活躍。おいしいところかっさらってる。

伊勢。あんたっ、しっかりしなさい。作者に気に入られているのはあなたと私よ。

鈴鹿。とはいっても、読者受けしないと意味がない。

伊勢。たしかに、コアなファンにしか受けないような気がする。

奈良。何のことだ。

鈴鹿。戻られたんですか。私たちの出番が少なくなった、てこと。

奈良。あれだけ各方面に衝撃与えておいて…。

伊勢。行きましょうか。

奈良。ああ。

 (代わろうかと言ったのだが、鈴鹿は自分が運転すると言って聞かない。タフなやつ。)

第32話。アクロニム。15. 研究旅行

2010-11-07 | Weblog
 (数日後、第二機動隊本部にて。)

関。結局、御影を体よく追い出したのか。

清水。本人の希望通り。

関。活躍が見られなくて、惜しかったと思っている読者も多いわ。

清水。多分、役立たずよ。ヘリが突入してきたとき、腰を抜かしていたと思う。

関。かっこよかったのは、その後か。

芦屋。ハサミは使い様ってやつだ。けんかには強そうだ。

清水。実績多数みたいよ。こまごましたのは。

関。要はちんぴらレベル。

清水。またはっきりした表現。

芦屋。社長はどうなった?。

清水。仕事は続けているみたい。部下の動向は知らない。関さん、知ってる?。

関。知ってるけど、言えない。想像の範囲内よ。それにしても、亜有さん…。

鈴鹿。ハロー。元気?。

清水。鈴鹿さん、志摩さん。こちらに来るなんて珍しや。

鈴鹿。ゴールデンウィークで営業上がったり。奈良部長から、みんなでゆっくり旅行でもしたら、って提案受けた。

関。みんなって、私も含むの?。

鈴鹿。そう。先の事案に絡んだメンバーで。

芦屋。できれば、静かにしていたいな。

鈴鹿。でしょ。で、逆提案したいんだけど。

芦屋。部長に?。

鈴鹿。そう。部長と伊勢さんで旅行してもらう。

清水。いいアイデア。最近バタバタしていた。休んでもらわないと。

鈴鹿。モグで田舎でしっぽりと。

清水。奈良さんはおしどり夫婦。何か理由が必要。

鈴鹿。二人の共通点はと。

関。生物学者。

清水。それと自動人形。イチとレイとエレキとマグネを使って。私がセットする。

芦屋。おいおい、仕事とはいえ、2人っきりはまずいぞ。

清水。私、付いて行く。さりげなく散歩したりして。

鈴鹿。あんた、活躍しすぎよ。今回は突入までやってのけた。

清水。他に人手がなかっただけよ。誰かが勇気出さないと、自動人形は付いてこない。

関。そういう仕掛けなのか。イチとマグネが勇気を振り絞ったのも、亜有さんがそうしたので真似しただけ。

清水。そう表現できる。さっき尋ねかけたのは、そのこと?。

関。そうよ。分かってしまえば簡単なこと。

鈴鹿。論点がずれた。私が行く。

全員。えええーっ。

鈴鹿。何よ、全員一致であきれて。

関。休暇にならない。

清水。必ず事件を呼び込む。

志摩。呼び起こすだろう。

鈴鹿。あんたに言われる筋合いはない。

芦屋。だが、ほかを探すとしたら志摩しかいない。

全員。うーん。

鈴鹿。考え込むなっ。考えた末の結論よ。

関。結果だけ見たら。

鈴鹿。亜有さん、それでセッティングしてちょうだい。

清水。たしかに、他にアイデアが出そうもない。それで行く。ええと、生物学の案件か。探してみる。…、森林高層におけるダニ類分布の研究、ってのがある。

関。うげっ。ダニ。あのかゆいやつ。

清水。小さなクモ類のことよ。小さすぎて糸を吐かないやつ。興味示すかな。

鈴鹿。好きそうよ。言ってみたら?。

 (もちろん、私(奈良)も伊勢も生物には関心がある。いったん言われてしまうと、気になってしかたがない。受けることにした。)

関。信じ難い。生物学者って変なの。私なら、即パス。

清水。伊勢さんから場所の指定があった。近畿南部の山奥。

関。ちゃんと田舎で、適当に温度と湿度がある森。

清水。いいわね。しっぽり来る。

関。ダニが多数居そうだから。うわあ。

清水。関さん、さっきから。お宝の山よ。普通のダニは刺さないわ。

関。でも、うじゃうじゃのイメージ。

清水。そりゃそうよ。

関。とてもだめ。

清水。風光明媚な所よ。本物の自然。多数の生物が共存している場所。

関。寄生虫みたいなのも。

清水。当然。あなた、ジャングルでの作戦とか、経験させられたでしょうが。

関。ほんの短期間だったけど、ひたすら辛かった。

清水。トラウマがあるのか。

鈴鹿。こっちも同様。そんなところにわざわざ行くなんて、やっぱり学者は人種が違う。

芦屋。樹上での観測だな。

清水。中層って言うのかな(奈良註: 林冠)。木の上の方で、でも日光とか風雨は柔らかくなっているところ。

関。うまく表現する。確かに、生物にとって天国のような気がする。

芦屋。イチとレイに、木に登らせるための道具を発注する。

清水。奈良さんに知らせる。

第32話。アクロニム。14. 御影の就職先

2010-11-06 | Weblog
 (工場の会議室にて。)

永田。連絡があった。怪しい船舶を海上保安庁に引き渡す。これで我々は用済み。当局が制圧したら、引き上げるぞ。

秘書。解決したの?。

清水。そうみたい。

秘書。私の活躍の機会がなかった。

清水。いいじゃない。怪我せずに済んだ。

秘書。怪しい船って何よ。

清水。知らないわよ。コンテナの運び先でしょ?。そこで建設機械を組み立てて密輸先に運ぶ。怪しまれないように、大型の漁船とか貨物船に擬装。多分、そんなの。

秘書。すごい。面白そう。あんた、そんな大層な事案に関与しているの?。

清水。面白くないわよ。さっきだって、冗談抜きで死にかけた。それに、普段はちまちました調査ばかり。企業の技術を調べて、レポートに書いて。その繰り返し。

秘書。あーん、どこかにいい仕事ないかな。

清水。今の秘書でいいじゃない。私よりずっと収入多そうだし。

秘書。ちっとも刺激がないわ。

清水。暴徒くらい来るでしょうが。

秘書。ごくまれに来るけど、弱っちいやつばかり。

清水。強かったら、死ぬわよ。

秘書。でも、あんたがた、武装したヘリと突撃部隊を跳ね返した。混ぜてよ。

清水。困ったな。

秘書。あんな仕事にあこがれていたんだ。

清水。あのね。警察といっしょよ。普段はつまんない仕事。いったん事が起こったら、命懸け。軍とか海上保安庁に応募した方がいい。

秘書。公務員はつまらないわ。組織の一員でしょう?。

清水。外国の軍に行くとか。

秘書。だから、公務員はいやだって。

清水。好き嫌いの激しい人ね。

秘書。仕事、紹介してよ。

清水。我が社の。

秘書。そう、我が社、我が社。

清水。待ってて。聞いてみる。

関。こらー、なんて相談しているのよ。お前っ、札付きだから、軍に雇ってもらえないだけよ。

秘書。そういう言い方もできる。

関。だから、民間企業のガードをしている。大きくて、怪しい企業なんか、いっぱいある。そこに行きゃいい。

秘書。どこよ。

関。公務員の守秘義務。

秘書。やれやれ、お役人はこれだ。とにかく、ID社から。決めた。

関。くそまじめな企業よ。

秘書。だったら、繁盛するわけない。いろいろあるわよ。ね、清水さん。

清水。そりゃあ、いろいろ、あれこれ、それこれ、何とやら。

関。清水さーん、何エサぶら下げているのよ。要するに、帳簿のちょっとした間違いなんかよ。そんなの、どんな優良企業にだってある。新聞に載るのは、内紛の足引っ張り合いとか、そんなの。

秘書。つまんない。こっちもそうよ。で、さっき、どこに連絡しようとしたの?。

清水。本部。まだ残っている人がいるかも。

関。Y国。

清水。そうよ。

関。ガードの仕事があるとか。

清水。紛争地とか、それに近い場所の営業所はたくさんある。大国じゃないから、人員は割けない。だから、頭がよくて、実力のある人は引っ張りだこよ。

秘書。外国。

清水。当然。日本人女性は受けがいいわ。特に御影さんは特上美人だし。

関。英語とかできるの?。

秘書。できたりする。

清水。だから、赴任先はそんなの。日本ならぐっと田舎になるけど、世界は広い。いい暮らししながらってのもあるかも。

秘書。私にぴったり。

関。開拓地の用心棒。

清水。ええ。それでいい?。

秘書。うん、やってみたい。

 (そんな赴任先はごろごろしている。御影はあれこれ注文を付けていたが、ほどほどの条件のがあって、そこで妥協してしまった。たしかに、損得勘定はできる女だ。ボーナスが出るのを待って、さっさとその国のID社に行ってしまった。)

第32話。アクロニム。13. 擬装タンカー

2010-11-05 | Weblog
 (モグには志摩と鈴鹿が合流して、水中モードで半潜水艇を追いかける。上空にはクロとレイがいる。シリーズGは回収し、代りに六郎を接近させている。)

火本。本では知っていたけど、本当に機関砲で威嚇してから侵入するんだ。

水本。けが人も出た。志摩さんたちの表情がいつもと違う。

志摩。当然だよ。

鈴鹿。なのに、付いてくるって、いい根性している。

芦屋。そっちで寝ててもいいぜ。

水本。私、腰が抜けているみたい。ソファから立てそうもない。

火本。ぼくも同様。

エレキ。甘いミルクコーヒーを持ってきたぞ。飲め。落ち着く。

火本。ありがとう。救護ロボットの動作だ。こんなときにも落ち着いている。

鈴鹿。ヘリが飛び立った元は特定できたのかな。

志摩。レイが探知した。沖の小型タンカーらしい。擬装だ。

鈴鹿。ミサイル装備しているとか。

志摩。垂直発射式の。見る人が見たら、いっぺんにばれる。よくやる。

鈴鹿。発射されたら、厄介。

火本。どうするの?。早く海上保安庁に知らせようよ。

鈴鹿。動かぬ証拠を押さえてから。もう少しの我慢よ。

 (クロを超低空から接近させ、甲板に着陸させる。侵入開始。
 半潜水艇がタンカーに近づく。側面の扉が開く。小さなドックになっているようだ。)

鈴鹿。これが仕掛けか。

芦屋。ヘリの飛び立った場所はあるのか。

レイ(通信機)。蓋が開いたまま。クロがそこから入る。

クロ。入ったぞ。船内のヘリポートだ。他にもあるか、探ってみる。

 (半潜水艇といっしょに、六郎が入る。)

男11(スーツの男)。何者かの攻撃を受けた。こちらに異常はないか。

男21(船員)。お疲れさまです。異常はありません。

男11。うむ。本部の指令を仰ごう。

 (人がいなくなったので、六郎が船内の探索開始。男どもにはクロが付いて行く。船橋にて。スーツの男が連絡している。暗号通信だけど、クロは生音声を傍受。)

芦屋。ばっかなやつ。普通に通信してやがる。

火本。発信元が特定できるの?。

芦屋。当然。会話内容はスクランブルされているが、クロを通じて丸分かり。

鈴鹿。大変、証拠を隠滅しろとか会話している。

芦屋。何の証拠だ。

志摩。工場だよ。この船のどこかにある。

芦屋。侵攻開始だ。行くぞ。

 (まず前座。船橋が手薄になったので、クロがそこら中の器物を損壊する。船橋の全員で追いかける。レイが侵入。ミサイルの操作卓を探す。ここにはない。しかし、船内の地図があった。間抜けにも、ミサイル管制室とか書いてある。六郎を向かわす。ドアをノックする。)

当直。誰だ。あれ、おーい、どこへ行った。

 (六郎は当直が出た隙に侵入。ドアを閉めて、当直をロックアウト。)

志摩。六郎が侵入したぞ。操作は分かるか。

芦屋。任せろ。全弾使えなくしてやる。

 (六郎に指示して、次々に発射する。着弾場所は、自船だ。)

男11。何だ、あの音は。

男21。ミサイル発射だ。何事だ。

男11。次々に発射されているぞ。だれが管制室にいるんだ。

男21。当直。

男11。行くぞ。

 (虎之介と鈴鹿は船橋に五郎の蒸気ロケットを使って侵入。レイがいた。)

レイ。待ってた。

芦屋。ご苦労。工場に行くぞ。

レイ。クロが発見した。武器もある。

 (虎之介と鈴鹿が工場に行く。その間に、ミサイルが次々に着弾。対空用の武器なので、威力は小さいが、音はでかい。ミサイルサイロやら、もう一つのヘリポートを破壊して行く。)

男21。どうした。何があった。

男22(当直)。何か分からんが、ロックアウトされた。

男11。うわわわー、攻撃だ。

男21。どうするんですか。

男11。操舵室に集合するしかあるまい。

 (全員、船橋に集合。目の前に、破壊された甲板が無残に広がる。)

男21。誰かいる。

男11。当然だ。こんなことができるのは…。

男21。軍。特殊部隊。

男11。しかたあるまい。ここで待とう。くれぐれも自暴自棄にならぬことだ。分かったか。

男21。はっ。

 (虎之介と鈴鹿とレイは工場にやってきた。他にだれも居ない。)

鈴鹿。管理室はどこかな。

芦屋。あっちだ。

 (管理室に行く。証拠は保全されていた。)

鈴鹿。間に合った。永田さんに要請。

芦屋。撤退する。

第32話。アクロニム。12. 報復

2010-11-04 | Weblog
 (ところが異変が起きた。だれかが、5人の所に走って行き、何か話している。ちょっと話したと思ったら、いきなりスーツの一人が拳銃で来た男を撃った。とどめを刺そうとしたのか、さらに拳銃を向けた途端、今度はライフルの音がして、拳銃を持った男が倒れる。)

秘書。何があったの。

清水。大変。イチ、救出に行って。(通信機)マグネ、直行しなさい。

 (残りのスーツ1人と3人は、コンテナを放り出して回廊に向かう。一人の男が倒れた2人に駆け寄ってきた。永田だ。マグネは最新式重機で、イチはサーフボードで到着。2人とも重傷だが、何とか助かりそうだ。永田が警察と救急車を要請している。)

関。永田から連絡。社長が危ないって。

秘書。どういうことよ。

関。あの男、社内の密通者らしい。何も考えずに接近したから、消されかけたみたい。

秘書。怪我してても口は利ける程度だったのか。ライフルを撃ったのはマグネ。

関。いいえ、永田よ。別の角度から監視していたらしい。

秘書。なんで社長が危ないのよ。

関。分かるでしょうが。報復よ。

秘書。んな、滅茶苦茶な。

清水。ヘリコプターが接近しているって。ここを攻撃するんでしょう。

秘書。何で分かるのよ!。

清水。他の目的がない。

秘書。社長、部長、こっちに隠れて。

 (海の方向の暗幕とブラインドを退ける。ヘッドライトが見える。次いで爆音が聞こえてきた。)

関。ミサイル攻撃かな。

清水。それなら、とっくに着弾している。機関砲をぶち込んで、何人か侵入するのよ。

秘書。平気で恐ろしいこと言うなー。

清水。悪いけど、対応して。

秘書。相手によるわよ。

関。来た。

 (亜有の言うとおり、ヘリは機関砲を乱射する。全員伏せざるを得ない。3人の男が自動小銃を持って入ってきた。ヘリコプターからロープでベランダに侵入したらしい。
 モグ内で。)

志摩。ヘリは六郎と五郎でアタックしよう。イチに自動小銃を運ばせる。

芦屋。おれが行く。

 (ヘリは上空で待機。パイロットは1人だ。六郎と虎之介を抱えた五郎が突っ込む。まず、六郎が突入。ドアをぶち破る。次いで五郎と虎之介。虎之介がパイロットを引っぺがして殴って気絶させる。ヘリは五郎が操縦。六郎が鎮静剤を打ってパイロットを介抱。とりあえず、モグの脇に着陸させる。
 少し時間が戻って、侵入された展望台。)

男1。全員出てこい。

関。撃つな。出て行く。

 (関と亜有が対峙する。)

男1。けっ、女か。社長はどこだ。

関。おまえたち、さっさと降伏しろ。財務省の臨検だ。

 (この期に及んで、関は身分証を提示する。)

男2。バカかこいつは。

男3。さっさと社長を出すんだ。

関。あら、あんたたちのヘリがどっか行くわよ。

男1。いー加減なことを…。

男2。本当だ、おれたちを見捨てていったのか。

 (一瞬の隙。窓からイチ、階段からマグネ、正面から亜有のLS砲が炸裂する。イチとマグネと亜有がひるんだ3人から自動小銃を取り上げる。永田が自動小銃を持って入る。関は亜有から自動小銃を受け取って、構える。)

永田。そこまでだ。おとなくしろ。警察を呼んだ。

男1。うう、何が起こった。

関。おとなしくしろと言ってる。自動小銃はあずかった。手間をかけるな。

秘書。何か光った。照明弾か何か。まだ目がおかしい。

 (しばらくして、秘書や社長の視力が戻ってきた。)

秘書。何が起こった。スタングレネードか。

関。そんな感じのものよ。

秘書。隠してたのか。そこにいるのは、たしか永田。投げ込んだのか。

永田。そんなことはどうでもいい。おまえ、どっちに付くんだ。

秘書。社長側。

永田。それでいい。警察が来るまで待ってろ。

秘書。こいつら、機関銃ぶち込んだ上に、侵入しやがって。尋問してやる。

清水。無駄よ、こんな下っ端。ろくな情報持ってない。こっちが疲れるだけ。

秘書。ヘリは?。そうだ、ヘリが去っていったんだ。こいつらを見捨てて。何が起こった。

清水。さあ。

秘書。さあじゃない。しらばっくれて。何かやったな。

 (10分もしたら、警察が来た。永田が事情を説明して、3人を引き渡す。モグの所でも同様に、パイロットを引き渡す。
 展望台は警察の現場検証が始まったので、永田らは階下の会議室に場を移す。さすがに、御影も恐くなってきたようだ。)

秘書。おまえたち、軍関係者。うかつだった。最初から気付くべきだった。

清水。まだ終わってないわよ。コンテナを放棄した連中。半潜水艇で沖に向かっている。

秘書。そうだった。まてよ、そっちも変だけど、こっちも変だ。内部通報者がいる。展望台に我々が集まっていたことを知らせたやつが。

関。あのまま事が進んでいたら、社長といっしょに殺されていたやつよ。

秘書。どちらかか、どちらもか。

清水。少なくともあなたでないことは、よーく分かりました。

永田。相手がどんなのか分かったことだし、反省しているはずだ。

 (社長以下、全員うつむいている。イチとマグネがとりなしている。救護ロボットの身に付いた動作だ。)

第32話。アクロニム。11. 沖からの来訪者

2010-11-03 | Weblog
 (モグ内にて。)

火本。口げんか始めている。大丈夫かな。

水本。女性の会話って、あんな感じよ。けんかには思えない。

鈴鹿(通信機)。何とかなりそうな気がする。それより、動きはあるの?。

志摩。まだ早いよ。

水本。沖からの来訪者を待っているの?。

志摩。そうだよ。

水本。こちらの対応は?。

志摩。シリーズGを一基待機させている。六郎は回廊の工場側に居るけど、すぐに反対側に行ける。

芦屋。うーん、何か起こったのか。

志摩。まだだよ。

芦屋。まだ午後10時か。月夜なのに、来るのかな。

志摩。田舎だから。誰も居ないと高をくくっているはずだ。

芦屋。そう願うぜ。

 (果たして、午前零時、沖から半潜水艇がやってきた。)

秘書。うーん、何よ。今何時。

清水。午前零時。相手側に動きあり。沖から半潜水艇が近づいている。

秘書。近づいているって、あんた、何で分かったのよ。

清水。秘密。

秘書。とーぜん仲間が居るって訳か。組織同士の激突。くわばらくわばら。どさくさに紛れて、殺さないでよ。

清水。もうほとんど巻き込まれている。逃げるなら今のうち。

秘書。あんたはなんで逃げないのよ。

清水。これが商売。

秘書。私に利用価値があるかどうか、探ってるわね。そのためには、多少の危険も覚悟。いいでしょう。活躍してやる。

 (半潜水艇は海上に延びた回廊の先端付近に停泊した。小型のエレベータのようなものが半潜水艇から出てきて、5人の男が回廊に入る。志摩が上空のレイに連絡する。)

志摩。レイ、どんなやつらだ。

レイ。2人がスーツ。3人が作業服着ていた。

志摩。武器は分かるか。

レイ。遠すぎて分からない。少なくとも、自動小銃とかは持ってない。潜水艇には一人残っている。燃料と水を補給している。

志摩。5人の方の監視をしろ。

レイ。了解。

 (六郎が詳細に分析。スーツの2人は軍用拳銃を持っている。残りの3人は作業員らしい。回廊から出て、模擬ビルに行くところをマグネがとらえた。亜有が持ち込んだモニタに映し出す。)

清水。侵入者よ。

秘書。警察を呼ぼうよ。

関。緊急事態にならない限り、もう少し様子を見る。

秘書。かったるい。

関。元を絶たないと、密輸ルートが変わるだけ。

秘書。我が社は安全。

関。とは言い切れないわよ。こんなに簡単に仕掛けが見つかるうちに対処するの。巧妙になって、被害が拡大してからだと、会社は危ないかも。

秘書。やれやれ。やっぱり相手するのか。どんなやつ。

清水。スーツ男2人と、作業員3人。

関。スーツ男は武器を持ってそう。

清水。こちらの情報も同じ。

秘書。あんた、さっきから。どこに仲間が居るのよ。

清水。私も知らないわ。勝手に連絡が来るだけよ。マグネの位置からは、自動小銃でも持ってない限り分からないから、どこかに仕掛けがあるはず。

秘書。マグネに命じたら、狙撃するの?。

清水。何か理由がいる。人質を殺そうとしたとか。ただちに反応する。

秘書。うう、構えは本物だったか。

清水。くれぐれも自動人形の軍事コードは起動させないように。どんな反応が引き起こされるのか、完全には解析されていない。

秘書。イチにも入っている。

清水。もちろん。

秘書。だんだん感覚が変になってきた。あんたたち、普通じゃないわよ。

清水。そのうち慣れる。

関。大胆。懐中電灯でしっかり照らして、部品を集めているみたい。

清水。だって、釘とかいっぱい出てたもの。壁づたいには歩けない。

秘書。部品が集まったのかな。1階で作業している。

関。出てきた。コンテナを運んでいる。

秘書。やれやれ、こうして私たちが監視しているなんて、つゆ思ってないでしょうね。

第32話。アクロニム。10. 御影の心変わり

2010-11-02 | Weblog
 (一方、モグ内にて。)

水本。永田さんはいるの?。

芦屋。政府専用車が近くに止まっているはずだ。すぐに連絡できるし、すぐに踏み込める。

火本。あの御影っていう女、信用できるのかな。

芦屋。すぐに寝返るので有名らしい。まあ、今のところは大丈夫だろう。優遇されているようだから。

火本。内部の裏切り者が心配だ。

芦屋。そればかりは、その時にならないと分からない。イチとクロがいるから大丈夫だろう。レイも突入できるし。それより、仮眠しておけ。深夜に事が起こる可能性がある。

火本。部品が更新されたから?。

芦屋。それだけの根拠だ。

 (展望台にて。戻ってきた関はソファでくーすか眠っている。)

秘書。この女、豪傑だわ。こんな状況で、平気で眠っている。

清水。ふわあ、私も仮眠しなくちゃ。何か起こりそうだもの。

秘書。さっき、部品が運び込まれたから。

清水。そう。今夜空振りしたら、やっかい。ずっと張り込みしないといけない。

イチ。鈴木さんも仮眠してよ。活躍しなきゃ。

秘書。御影って呼ばれることの方が多い。そう呼んでくれる?。

イチ。じゃあ、御影さん、どうか休んで。何か起きそうになったら知らせるから。

 (社長も総務部長も技術部長も着の身着のまま仮眠している。今夜だけは缶詰めだ。何も起こらなかったら、部品を押収し、内部調査しておしまい。どことどう関連しているのかは、分からずじまい。ふと、御影が亜有に話しかけてきた。)

秘書。亜有さん、密輸って儲かるのかな。

清水。そりゃ儲かるでしょう。でないと、やらない。

秘書。そっちに付こうかな。

清水。今寝返ったら、政府にマークされて、しばらく身動きできなくなる。事が済んでからの方が安全。

秘書。そうするか。

清水。相手にもよる。大きな所と付き合ったら、内部抗争に巻き込まれたり、軍を相手にしたり、ろくなことはない。かといって、小さいところだったら、一人の裏切りで崩壊。

秘書。よく分かる。

清水。こっちでがんばっても、政府からは感謝状一枚。社長からはボーナスもらえるかもしれないけど。

秘書。ボーナスもらってから考えよっか。適当にがんばろう。

清水。無難な選択と思う。本日事が起こったら、相手の規模が分かる。

秘書。あなた、話が分かる。ブローカーできるんじゃない?。

清水。なんか、そんな商売になってしまった。まだデビューしてないけど。

秘書。将来さ、仕事があったら紹介してよ。がんばるわ。

清水。まだ、あなたの実力を知らない。少なくとも、世界ランキングには届いてない。

秘書。あなたの目で確かめてよ。強いんだから。

関。清水さーん、なんて相談しているのよ。

秘書。出たーっ、正義感のかたまり。

関。あんたっ、軍が恐かったら、寝返らないことね。

秘書。だから、今回は協力するって言ってるじゃない。

清水。関さん、大丈夫よ。この人、損得勘定はちゃんとできるみたい。

秘書。あんたと違って。

関。他人を安月給と思って…、真実だけど。ボーナスは出るけど、ちょっとうれしいだけ。

秘書。ほら見なさい。あなたほどの実力のある人が生かされてないのよ。さっさと親方を変えるべき。

関。それとこれとは違ーう。

清水。関さんを説得するのは無駄。特に経済的問題で。

秘書。こーむいんは安定しているものね。親方日の丸だしー。

関。言いたい放題言って。財務省をなめるんじゃない。

秘書。あらら、脱税調査時の殺し文句かしら。

清水。そういえば、脱税調査に関与したことはない。どんな感じ?。

関。やったらたっぷり教えてやる。くれぐれも、納税は確実に。

秘書。私の方が、よほど税金を払っているわ。いー暮らしさせてもらってるもの。

第32話。アクロニム。9. 関の合流

2010-11-01 | Weblog
 (政府からの使者として、関がやってきた。緊急対策会議を開く。といっても、事が事だけに、出席者は社長と秘書と総務部長と技術部長と亜有だけ。イチとマグネもいる。社長室にて。)

関。状況は分かりました。現場はあとで見るとして、今夜、監視のためにここに居させていだきたい。

社長。来賓用の宿泊施設はある。しかし、ここからは遠いな。

関。展望台があるとお聞きしました。

社長。行ってみるか。

 (全員で展望台に行く。社長が関に敷地内を説明している。秘書が亜有に話しかけてきた。)

秘書。あなた、関さんを知っているの?。

清水。はい。永田さんのパートナー。

秘書。画策したわね。

清水。何のこと。

秘書。社長好みの美人。その手の実力もありそう。

清水。大変な実力と聞いています。

秘書。色仕掛け作戦。社長はあの手の女にイチコロなのよ。立案者は誰よ。

清水。もちろん、永田さんの上司でしょう。永田さんたちに決定権はないはず。

秘書。じゃあ、最初から政府が絡んでいる。

清水。そんな感じ。

秘書。あなた。ただ者ではない。

清水。そちらこそ。ただの秘書じゃないわ。少なくともボディーガードができる。

秘書。うふふ。あとで打ち合わせしておいた方が、安全なようね。

 (で、社長が説明している目の前で、模型ビルに何やら運んでいるやつがいる。)

関。誰かが模型ビルに入る。

社長。え、どれだ。

関。あれですよ。

総務部長。社長、そこの観光用双眼鏡を使わないと見えません。

秘書。恐るべき視力。

清水。ええ。油断も隙もない。

社長。我が社の社員らしいな。技術系の感じだ。

技術部長。代わってください。あれは、第三技術課の課長ですよ。

社長。わざとやっているのか、知らずにやっているのか。

総務部長。あとで調査します。

関。怪しいです。鍵の開け方が分からないと、入れないんでしょう?。

総務部長。じゃあ、我々の動きは当分隠さないといけないな。

社長。やれやれ。監督責任は免れないか。

関。そうですけど、早い時点での通報、大助かりです。社長の決断力には敬服しました。悪いようにはしません。私のできる限りですけど。

社長。ああ、この際だ。心行くまで調査してくれ。

 (関は展望台で夜を過ごすことにした。ブラインドを下ろし、さらにカーテンの代りに暗幕を垂れて、明かりが漏れないようにする。社長が食事を運ばせる。)

社長。監視はどうするんですか。

関。自動人形にさせます。

秘書。イチとマグネ。

関。ええ。彼らは危険の検出に長けている。

秘書。他に仲間は?。

関。いますけど、詳細は明かせません。ことがあれば、警察といっしょに踏み込むはず。

 (マグネを、さっきの高性能建設機械に乗せ、微妙に離れた位置から模型ビルを観察させる。
 関と秘書と亜有は、展望台の一角で警備の打ち合わせ。イチを立ち会わせる。)

秘書。あなた、武器は持ってるの?。

関。ええと、鈴木御影さん。悪いけど、調べさせていただきました。流しの警備員。特定の企業団体とのつながりはない。今も雇われているだけ。

秘書。お見知りおきを。

関。今持っているのは、この拳銃だけ。

秘書。小型の自動拳銃。護身用だ。

関。ええ。あと、政府専用通信機。でも、事が起こったら、仲間がいろいろ持ってくるはず。

秘書。それはそうか。

関。清水さん。あなたの装備を見せなさい。

清水。これです。

秘書。ID社製の通信機に懐中電灯に、これ何。

清水。分析機です。望遠鏡機能があって、さらに狙った対象の分析ができる。

秘書。ややこしいもの持ってるわね。さすが計測機のID社。

清水。マグネは自動小銃を持っていっちゃった。A国の制式のやつ。入手経路は不明。

関。うむむ、見てみぬふりはできぬ。作戦が終わったら、没収。

秘書。しかたないわね。私の武器はこれ。

関。妙な伸縮警棒。先が曲がる。

秘書。フレイルと呼んでいる。

関。見せていただけます?。

秘書。いいけど、危ないわよ。

関。何が。

秘書。スタンガンになっている。打撃時に使う。

関。もういいです。何て恐ろしい武器。よく、平気で携帯している。

秘書。ふん。拳銃持っている女に言われたくない。

清水。よく明かした。私たちを信用しているの?。

秘書。信用していなくても、見せている。

関。大した自信。

清水。強そう。

秘書。関さんも大変な実力と伺っています。

清水。国際的VIPの警護をすることがある。

関。ごくまれによ。

秘書。大変なこと。特殊部隊相当か。目の前で見るのは初めて。肩書きは?。

関。これが私の身分証。

秘書。財務省専門情報調査課。脱税調査か何か。

関。そうです。

秘書。時として、刃向かってくる。

清水。たいてい逆上して向かってくるはず。半端な額の調査ではない。

秘書。だから、こちらは軍の身分証か。海軍中尉。ご大層な。どっちが本物よ。

関。どちらも本物。いつも居るのは、財務省。

秘書。今現在は財務省の臨検。

関。そうです。ご協力を。

秘書。その分だと、今回の相手はご大層な組織。やれやれ、乗りかかった船。とことん見学させていただくわ。多分、こちらは社長を守るだけで手一杯。

関。そうしてください。よろしく。

 (関は亜有に連れられて、主要箇所を巡る。)