ハリエット嬢(114)
Miss Harriet
Maupassant
———————【114】——————————
Maintenant elle montait dans
sa chambre pour rajuster ce que
j'appelais ses verres de lampe ;
et quand je lui disais avec une
galanterie familière qui la
scandalisait toujours : « Vous êtes
belle comme un astre aujourd'hui,
miss Harriet », un peu de sang
lui montait aussitôt aux joues, du
sang de jeune fille, du sang de
quinze ans.
.————————(訳)—————————————
しかし、今や彼女は部屋に戻って、私が
「タコの足」*とつけた名前の髪を直しに
行くようになったのです; それから私は
いつも彼女には親しみを込めた慇懃さをも
って言っていたのですが、それがいつも彼
女の顰蹙を買っていたのでした.すなわち
「ハリエットさん、あなた、きょうもまた
お星さまのように美しいですね.」 しかし
それが、今や たちまち血がのぼって彼女の
両頬は15 歳ほどの若い娘っ子のように赤ら
顔になるのでした.
————————⦅語句⦆————————————
maintenant elle...:「その今の彼女は…」
maintenant が過去形とともに使われると、
「今」は「そのとき」に指す時間軸が変
わります.「今」をくずさないためなら、
主語のelle にくっつけて「今の彼女は…」
とすればいいでしょう.
montait dans sa chambre: 「自分の部屋に戻
っていた」
「部屋に行く」の「行く」にはしばしば
monter が使われます.おそらく部屋は
上の階にあるからなのでしょう.そうい
えば「異邦人」の書き出しで
“ J' étais un peu étourdi parce qu' il a fallu
que je monte chez Emmanuel.... ”
(いささか軽率だったのはエマニュエルの
部屋に行かなくっちゃということだ.)
という冒頭の一節があった.que の中に
収められた文なので接続法だが、
monter は「行く」と訳すのが自然です.
いやそもそも我が国でも、作業場で仕
事を終わるのを「もうあがっていいよ」
とか言ったりしますが、昔は住み込み
で、部屋が二階にあった名残り表現な
のでしょう.
rajuster:(他)[服装などを]きちんと直す.
rajuster sa cravate [sa coiffure]
ネクタイ[髪]を直す.
verres de lampe:❶ランプの火屋[ホヤ];
❷柔軟性のない.ところで、どうして
ハリエットさんの巻き毛をこう呼んだ
のかは不明.訳本を見ると、「手提げ
ランプ」と訳されていました.依然
不明.なんで巻き毛、ほつれ毛が手提
げランプなのか?仕方がないのでこれ
は私の自分への宿題にします.とり
あえず、ここの訳は
cheveux souple comme un verre de lampe
(しなやかな髪)を前提に皮肉を混ぜて
訳します.「タコの足」にしておきます.
なにしろ燻製ニシンがペーパーフリル
を着たお顔ですので.
尚、仏検受験学習者のみなさまには、
タコの足は tentacule de pieuvre (m)
であることを申し上げます.
galanterie:(f) [女性に対する] ❶慇懃さ、
親切、丁重、❷(女性にいう)甘い
言葉、お世辞
scandalisait:(直半過/3単) < scandaliser
scandaliser:(他) ひんしゅくを買う
眉をひそめさせる、
Ses propos ont scandalisé tout le monde.
彼(女)の言葉はみんなのひんしゅく
を買った.
4行目(deux points):「ドゥーポワン」は、
「すなわち」と訳せる場合が多い.
astre:(m) 星、天体
quinze ans:(m/pl) 15歳
aussitôt:(副) 直ちに、すぐに、即刻
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