「かまける」という動詞が気になって、調べたり考えたりしてみましたので、ここにメモしておきます。なお、「かまける」は、漢字では「感ける」と書き、主要な意味は、「そのことだけにかかわって、他をなおざりにする」ということです。他にも「心を引かれる」、「感心する」、「ぐちを言う」という意味が辞書に載っていますが、現代において使われるのは、最初に挙げた「そのことだけにかかわって…」であろうと思います。
さて、この動詞が気になったきっかけは、東洋経済オンラインで読んだ、「中島義道の人生相談道場 子どもは親の虚栄心を見抜いている! 娘が勉強せず、不登校。どうすればいいですか?」という記事中の文です。まずこれを引用します。 《リンク》
この記事の中で、中島氏は、「かまける」という言葉を、次のとおり2度使用しています。
(1) 哲学にずっとかまけていると身にしみてわかるのですが、実は人生に起こることは何でも、ただの1回きりのことです。(1ページ目)
(2) 社会的成功を絶対視し、虚栄心にあふれ、世間体にかまけている親を、徹底的に滅ぼしたかった。自分を破滅させても、親の硬い価値観を崩したかった。(3ページ目)
1つ目の文での「かまけて」には、まったく疑問の余地がありません。「哲学にかかりきりになっている」ということです。
2つ目の文では、「世間体のことばかり気にしていた」という意味であり、意味は明白だと思います。しかし、「かまける」の意味が、「かかりきりになって…」ということならば、「世間体」よりももっと具体的な「世間体を守ることに」というような言い方にすべきではないでしょうか。「かまける」とのつながりを考えると、その方が望ましいような気がします。
以上の2例以外にも、日本語コーパス「少納言」で、「かまける」の用例を知らべてみました。多く見られたのが、「忙しさにかまける」という使い方でした(12例ありました)。これは確かによく見聞きします。しかし、「かまける」の意味の「あることにかかりきりになって…」において、「あること」を「忙しさ」に置き換えると、「忙しさにかかりきりになって…」ということになって、これもやはり、どうもおかしい感じがします。でも、多くの本で現実に使われているわけですから、「忙しさにかまけて」については、これ以上、ここでは踏み込まないことにします。《少納言へのリンク》
しかしそれ以外の用例を見ていくと、「これはきっと誤りだろう」と言えるのもいくつかありましたので、次に引用しておきます。
(3) 向いた。高校生らしき受験生たちが、懸命に勉強している。太郎君は最近、自分が勉強をかまけてパソコンに一生懸命になっているのを幾分うしろめたく思いながら、調べものの続きを始
(いやでもわかる経済摩擦・日本経済新聞社・1992年)
(4) 年生れ)が設計した、とても面白い建物だという話も聞いた。興味は津々ながら遠いのにかまけて今日まで訪れずにきたが、開館10周年を記念する「スタンダード」展を機に、遅ればせ
(芸術新潮2001年12月号・新潮社・2001年)
(5) まで飲んだものである。そしてラウンドとラウンドの間のランチョンでも、体力の消耗にかまけてパイ・ア・ラ・モードにまでいたる食事を、たっぷりと摂ったのだ。パイとアイスクリー
(Down the fairway・小池書院・1996年)
(6) るのは、あまり知性があるとは思えない。 たとえばあたたかいベッドの中で、筋肉痛にかまけて惰眠をむさぼるようなものだろう。 きちんと起きるべきだ。 そこに知性があるならば
(Yahoo!ブログ・2008年)
(7) 「ほう、宝蔵院一刀流の構えではないな。太捨流でもない。どうやらおぬしもこの二年かまけていたわけではないようだな」 総馬が左手の刀を頭上に横たえ、右手の太刀を下段へと移
(波濤剣・徳間書店・2003年)
(3)〜(7)のうち、(6)だけはブログですが、(6)以外は、出版社から発行されている書籍や雑誌です。これらの用例では、「かまけて」を、「〜を言い訳にして」((4)〜(6))、あるいは「怠けて」((3)と(7))という意味で使っているように思うのですが、いかがでしょうか。
★★★メモ(大辞林)★★★★★★★★★★★★
なおざり【等閑】 真剣でないこと。いいかげんにして,放っておくこと。また,そのさま。 「商売を-にする」
おざなり【御座形・御座成り】 その場逃れにいいかげんな言動をする・こと(さま)。 「 -な言い訳」 「 -な返事」 「 -を言う」
ふみこむ【踏(み)込む】一段と深く物事の核心にせまる。「一歩―・んで論じる」
「一つのことに心を取られて、他がおろそかになる。拘泥する。」広辞苑より
とありましたよ。
ですので、
「哲学にずっとかまけていると身にしみてわかるのですが、実は人生に起こることは何でも、ただの1回きりのことです。」の使い方は合っていると思いました。
「社会的成功を絶対視し、虚栄心にあふれ、世間体にかまけている親を、徹底的に滅ぼしたかった。自分を破滅させても、親の硬い価値観を崩したかった。(3ページ目)」
も使い方合ってると思いましたよ!
失礼しました。
お書きになっているとおりだと思います。ご指摘に感謝します。
本来はこの文章は、早めに書きなおしておくべきところでした。