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一意専心の資格マニアの記録

いくつか資格を取得するうち、楽しさを覚えるようになりました。主にビジネス系です。

「暗雲が垂れ込める」と「暗雲が立ちこめる」。

2013-08-19 05:04:10 | 日本語・漢字

“サムスン帝国”凋落の予兆 稼ぎ頭のスマホ失速、韓国経済への影響懸念」(産経新聞・2013/8/16)という記事に、「暗雲が立ちこめ始めた」という表現がありました。気になったので、この表現について調べてみました。まず、当該部分(=冒頭部分)を引用します。

パナソニックやシャープなど日本の家電メーカーを蹴散らし、快進撃を続けてきた韓国サムスン電子に暗雲が立ちこめ始めた。今年4~6月連結業績は過去最高を更新したものの、市場予測を下回る結果に。深刻なのは営業利益の約3分2を稼ぎ出す携帯端末部門が前期比3・5%減と失速していることだ。 《リンク》

 

1 最初に、言葉の意味を確認します。

【あんうん(暗雲)】 …デジタル大辞泉
1 真っ黒な雲。今にも雨や雪が降りだしそうな気配のある暗い雲。「―が垂れ込める」
2 戦争などの危機が迫りくる気配。「国際情勢に―が漂う」
3 心を覆い閉ざしている苦しみや悩み。「―が一挙にはれる」

【あんうん(暗雲)】 …大辞林
1 日の光をさえぎっている黒い雲。 「 -が垂れこめる」
2 何か事件が起こりそうな,不穏な気配。 「両国の間に-がたちこめる」 「 -低迷」

【暗雲低迷】 … 新明解四字熟語辞典
悪い状態が長く続き、向上のきざしが見えてこない前途不安な状況のこと。また、暗い雲が低くたれこめて晴れそうにないさま。 「暗雲低迷の時期が続く」「経済は暗雲低迷している 」

【立ち込める】 …大辞林
煙・霧・霞(かすみ)などが辺り一面をおおう。 「春霞が-・める」 「もやが-・める」

【垂れ込める】 …デジタル大辞泉
1 雲などが低く垂れてあたりを覆う。「雨雲が―・める」

 

2 読売テレビアナウンサー・道浦俊彦氏のコラム

読売テレビの道浦俊彦氏が、この「暗雲が立ちこめる」について書かれたコラムがあります。読売テレビのサイトに掲載されていますので、参考にしてみたいと思います。その概略は次のとおりです。 《リンク》

★★★★★★★★コラムの概略の始まり★★★★★★★★
体操の内村航平選手のケガが疑われたシーンで、アナウンサーは「暗雲が立ち込めます」といったが、「暗雲が垂れ込めます」というべきだろう。しかし、「暗雲が立ちこめる」を認めている辞書もあるし、プロの作家も使用している。そこで、この件を会議の議題にし、各局の意見を聞いてみた。質問・回答は次のとおり。

質問:『「暗雲が垂れ込める」が本来の形だが、最近「暗雲が立ち込める」という言い方も耳に(目に)する。各社の対応は?』

回答:
(NHK)「暗雲」は「垂れ込める」のみ。 

(TBS)「暗雲」は、下からではなく上からなので、「垂れ込める」。 

(フジテレビ)「立ち込める」は×。 

(テレビ朝日)「立ち込める」は「霧」との混同か? 

(テレビ東京)弊社ではアナウンサー試験にも出題、アナウンス教本にも記してあるぐらい。「暗雲が立ち込める」は×。 

(ABC)OAではあまり使われていない。 

(MBS)「暗雲が立ち込める」は使ってしまっているかも・・・ 

(関西テレビ)「暗雲が垂れ込める」という言葉を知らないかも・・・。 

(テレビ大阪)「立ち込める」は×だが、原稿の書き手が間違うことも。アナウンサーやナレーター(読み手)がチェックしないといけない。 

(読売新聞=オブザーバー)実は『大辞林』では2番目の意味として、比ゆ的には「暗雲が立ち込める」を載せている。使われ方が変ってきているのが現状。
★★★★★★★★コラムの概略の終わり★★★★★★★★

 

3 私見
(1)「暗雲」の意味が「黒い雲」である場合、つまり、上記両辞書の1番目の意味である場合、「暗雲」と組み合わせて使うことができる動詞は、「垂れ込める」です。このことは、上記辞書の例文から直ちに判断できます。また、雲の動きを思い浮かべても同じ結論に至ります(道浦氏も、この「上から下」への雲の動きに触れています)。

(2)「暗雲」の意味が「戦争などの気配」である場合、つまり、上記両辞書の2番目の意味である場合、「暗雲」と組み合わせて使うことができる動詞としては、上記辞書に書かれている通り、「ただよう」、「立ちこめる」があります。
 
道浦氏は、「立ちこめる」ものとして「霧」を例に挙げ、その動きを「下から上へ」と表現しています。この場合の「暗雲」は、本物の雲ではなく「気配」なのですから、霧と同じく「立ちこめる」と組み合わせることができます。
 
また、「暗雲低迷」という言葉が、この2番目の意味の「暗雲」の例文として挙がっていることから、「垂れ込める」という「上から下」の動きのある動詞も、どうやら使えそうだと推測することができます。

(3)「暗雲」の意味が「苦しみ・悩み」である場合、つまり、デジタル大辞泉の3番目の意味である場合、「暗雲」と組み合わせて使うことのできる動詞としては、上記辞書に挙げられている「はれる」があります。「はれる」以外にも、霧について使用できるものは、ここでも使用できそうです。「はれる」は、霧について使われる動詞だからです。この場合の「暗雲」に、「垂れ込める」を組み合わせることができるかどうかは、はっきりわかりませんが、どうもそぐわないような気がします。※「そぐわない」=「似合わない」

(4)(1)〜(3)を見ると分かるように、「『暗雲』と組み合わせるべき動詞は『垂れ込める』か、あるいは『立ちこめる』か」、という問いに対する答えは、「暗雲」の意味によって異なることになります。

(5)産経新聞のサムスン電子関係の記事で使用された「暗雲」は、(2)の意味にとることができます。サムスンの業績悪化は、「戦争」や「事件」ほど物騒なものではありませんが、「暗雲低迷」の使用例として、「経済が暗雲低迷している」が上記辞書に挙げられていますので、一企業の経営状況を「暗雲」と表現することも十分可能と思います。結局、産経の記事の「暗雲が立ちこめる」という表現は、誤りではないと思います。また、「垂れ込める」も可能と考えます。

(6)内村航平選手について使用された「暗雲」についても、(5)と全く同じことがいえると思います。


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