2014年は消費税率を上げて、わが国が財政不安を乗り切っていけるかどうかを試す年になる。景気が腰折れせずに成長持続で行ければ、2015年10月の次の消費税の増税を受け入れることが容易になるだろう。
しかし、問題は「案ずるより産むが易し」だった場合の方だ。税収が増えれば、必ず財政赤字削減よりも、歳出拡大をしたくなる。口実をつけて財政拡張を推進する動きも高まるだろう。
一方、次の消費税は15%、20%といった議論も出てくるだろう。軽減税率が敷かれて、税率を上げやすくなることが怖い。消費税率の引き上げは、2014年に「前門の虎、後門の狼」と戦うことになる。虎は歳出拡大圧力、狼はさらなる増税の思惑だ。 《リンク》
(ダイヤモンドオンライン 「2014年以降、歳出拡大圧力と増税の思惑が? 消費税率引き上げに見る「前門の虎、後門の狼」――熊野英生・第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト 」2014/1/21)
「前門の虎、後門の狼」とは、「一つの災いを逃れても別の災いにあうたとえ」(デジタル大辞泉)です。つまり、「一つの災いを切り抜けたと思ったら、もう一つの災いが待ち受けていた」という状況です。しかし、上の文章では、「二つの(手ごわい)敵と(同時に)戦う状況」という意味で、誤って使われているようです。
そこで、この言葉には誤った使用例が多いのだろうかと思い、日本語コーパス「少納言」で「前門の虎」を検索してみました。すると、6件の使用例が見つかりました。それらを読んでみますと、どうも6件とも上の文章と同じような意味で、誤って使っているようです。各使用例は次のとおりです。
ジレンマとは進退がきわまる事。いたばさみ。窮地(に陥ること)をいいます。人間にはいろいろなジレンマがあります。前門の虎、後門の狼、進退これきわまったというように、その他たくさんあります。
(Yahoo!知恵袋 2005年)
農水省は、外で「福岡・佐賀県と長崎県」、内で「干拓と水産」という二重の「前門の虎、後門の狼」状態となってしまった。
(竹村 公太郎(著) 「日本文明の謎を解くー21世紀を考えるヒント」 清流出版 2003年)
一時期、この諫早干拓はややっこしい状況になった。事業を行う農水省は「前門の虎、後門の狼」状態であった。前進しようと思えば、福岡・佐賀両県のノリ業者が立ち塞がり、後退しようとすれば長崎県が一丸となって許さない。
(同上)
第一に紹介する以下のエピソードは、広島、長崎に原子爆弾が投下されたところへ、「前門の虎、後門の狼」さながら、昼夜兼行の列車輸送で(当時、シベリア鉄道は単線レールだったので、ベルリンに突入したソ連赤軍は、ウクライナまで取って返して、キエフ始発の貨車を極東の終着駅で全部焼き捨てるというピストン輸送をした)シベリアに集結されていたソ連極東軍の大兵力が、中国の東北地方(満州)と北朝鮮の国境を突破、南サハリンにまで侵入してきたとき、皇居の地下壕内で緊急招集された御前会議の模様である。
(大森 実(著) 「日本はなぜ戦争に二度負けたかー国民不在の政治」 中央公論新社 2001年)
武吉が後ろを振り返ると、味方の赤旗が巨大な炬火となって三人の背を押してくる。 「前門の虎、後門の狼ならぬ、前は逆巻く怒濤、後ろは生きとし生けるものを焼き尽くす劫火。
(芝 豪(著) 「太公望-殷王朝を倒した周の名軍師」 PHP研究所 2000年)
関東よりは内府、背後の奥州よりは伊達。前後に虎狼を控えた新任の地ゆえ、しっかりと固めてあらねば、万一のおり豊家の為めに働き難い。前門の虎も曲者、後門の狼も油断はならぬ。
(山岡 荘八(著) 「伊達政宗」 毎日新聞社 1997年)