海の物語・・ホームマリンアクアリュウム

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すばらしき和歌山の海エッセー 第七章みなべ町目津崎・小目津崎 ~淘汰という名の列車~

2016-10-22 06:58:35 | 死滅回遊魚採集

第七章 みなべ町目津崎・小目津崎周辺  ~淘汰と言う名の列車~

 

 

 

中学時代の私は勉強が嫌いで釣りやら採集やらで一日中遊びほうけていた。

通学学区は関東の湘南地区でも有名県立高校を虎視眈々とねらうエリートで固められていたので実に肩身の狭い思いをし、私は猛禽に狙われる小鳥のごとくいつもおびえて暮らしていた。

 

ある日私は夕餉の食卓を準備する母親から言われた。

 

夕餉の食事を用意する母親は要注意で、食事の用意をするという女性の日課は誰にとっても嫌なものらしい。ついつい機嫌が悪くなるというのは経験則で知っていた。

 

このときの愚痴ほど恐ろしいものはないのである。

 

「あんた、この前の学期末のテスト結果出てるやろ。学校の廊下に上位50番まで張り出してあるらしいやないの。当然入っていないやろ。もっとしっかり勉強せんと高校行かれへんよ!」

 

「当然入っていないやろ」というのは言い過ぎやろ。もっと息子を励ますような言い回しないんかい!50番以内やないと行かれへんのかい!世の中競争やなと思った。その時はうぶであったので、後々その競争の結果「淘汰される」というフレーズを覚え、自然淘汰 という言葉をこの母親のきつい1発で教えてもらったのである。

 

自然界の淘汰はおそらく人間よりも非情で厳しいものがあると感じる。私の勉強のできの悪さなど生命をかけるほどでないが弱肉強食の自然界では淘汰され弱いものは死に至る。

 

しかし強いものはその合間をかいくづって必死に生きようとする。私はそれを和歌山のみなべ町に生息するサンゴ類にまじかに見た。そのサンゴこそはエリート中のエリートで自然淘汰という競争の中で生きぬいた特殊工作部隊のサンゴであると思うのである。

 

みなべ町は白浜から約15~20km北側である。黒潮の影響を受けてはいるが串本 白浜ほどでない。黒潮で白浜の海水温は真冬でも17度ぐらいらしいが場合によっては15度ぐらいにはなるかもしれない。そうなるとサンゴ類には非常に厳しい環境になる。20度以下でちょうど冬眠状態になったサンゴでも13度ぐらいになるともう生きて行けず死に至る。みなべ町付近はサンゴの生育にとって非常に厳しいものがあるのだ。

それゆえ冬には13度以下になる中紀の湯浅、御坊あたりではハードコーラルは見られないのである、

 

 

地球温暖化で海水温の上昇と言う現象が今日見られるが白浜のハードコーラルの分布状況をみるとおそらくみなべ町あたりがサンゴ分布の北限ではないかと想像するのである。白浜はひょっとすると温泉の地熱の恩恵をサンゴは受けているかもしれない。でもさすがにみなべ周辺ではその恩恵を浴せないのではと憂える。その極限で健気に生きるサンゴには同じサンゴでも人一倍応援したい気持ちが出るのだ。

 

 

串本海中センターの報告によるとみなべ町も目津崎の沖合に若い群生がそだっているというレポートが見られた。目津崎の沖合はかなり深く、釣り人がアオリイカを求めて「カンス」と呼ばれる岩礁より沖の海中らしい。水深がありシュノーケリングでは正直厳しい。だが、サンゴの生育条件から考えると潮流が速く、日当たりの良い浅場を好むはずなのでカンス岩礁の手前や小目津崎にもきっとみられるはずだという信念を抱いた。

 

とりあえずバイクでエントリー場所を偵察しその後シュノーケリング器材をもって臨むことにした。

 

バイクで訪問した時はまだ5月であり海中を見ると温帯の海域の様子が色濃い感じであった。つまり海藻類が多く、貧栄養塩水ではあるものの御坊三尾海岸とあまり変わりがない。

しかし周りの景観が良く砂浜もあり小目津崎は手前に広大な公園があるのでファミリー向けとなっている点が大変好感を持てた。本当に美しい静かな海岸であった。

 

さて、その後は6月と7月に二回に分けて訪問し6月はカンス岩場の周辺で7月は小目津崎の周辺で調査した。6月のカンス岩場の手前は海底は砂利まじりの岩礁地帯である。しかしこの周辺はあまり人が来ないからかタイドプールも荒らされた雰囲気はなくヌメリトサカやハマサンゴ、健気に生きる日本ケヤリムシも見られた。

 

6月の曇りまじりの空であったが海中の中はすでに熱帯のにおいを発しており、岩壁にオオトゲトサカやサンゴイソギンチャクを従えて私を向かい入れてくれた。

その岩肌と海底には私の推測したとおりサンゴの若い芽が散見された。中にはそれなりに成長し円月島で見たような立派な個体も見つかりその生命の強さにただただ驚くばかりであった。

 

一方で7月の小目津崎の訪問ではサンゴの個体とそろそろ黒潮に流れてやってくる魚達のパレードが見られるはずだと推測したがちょっと時期が早かったかもしれなかった。しかしはじめて野生でニジハギの幼魚を見れたのでそれなりの成果はあったように思う。

 

みなべ町には淘汰と言う名の列車が黒潮によって運行される。

しかしその乗客のサンゴ達は条件にかみ合わずほとんど淘汰され死に絶えてゆく。

 

遠い南の国のサンゴの王国からの使者として海で自分たちの王国を築く健気な珊瑚達に何もできない我々であるが、人間が採取して自分のものにしようとせず、その儚い命をそっと見つめてやってほしいと私は切に願う。

 

そしてその王国完成の暁には地域の子供たちが英知を絞り彼らを大事に育て、他府県からの訪問者にも自慢できるような海に育ててくれたら申し分ないと大いなる期待を抱くのである。

 

(みなべ町の章 終)



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (アキオ)
2016-10-24 22:15:18
海はいいなあ。
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Unknown (よしひろ)
2016-10-25 06:07:48
アキオさん:

そうでしょ?
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