日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

2007年全国大会in阿蘇⑬~雲仙観光編⑤~

2007年10月29日 | 五行歌な日々
地獄めぐりの出口のふもとの旅館(ホテル?)で、
お昼ごはんということだったが、
時間があるので、自由行動。

おみやげ物などを物色したり。

     ★

お手洗いに行って、手を洗っているときだった。

同じようにおトイレから出てきたあるご婦人に、
「昨日の結論は出ましたか?」と聞かれる。

「いいえ。時間切れで、宿題を出されて終わりました」
と、答える。

昨日の晩御飯というか、宴会の席で、
私は隣の人と口論をした。

これはいけないと思われたこのご婦人が、
やんわりと仲裁に入ろうとされたのだが、
私が断ったのだ。

「その宿題も今朝、早起きしてネットで調べて答えました。
……調べる過程で、
何か哲学的なものでも学べるのかと思ったのですが、
そうでもありませんでした」

ネットで簡単に調べたのも、よくなかったかもしれないが。

「要するに、
『そんなことも知らないで突っかかってくるなど、早いんだよ』
ということが言いたかったんだなってことがわかりました」

そうかもしれないと、思いつつも、
やっぱりあしらわれていたんだな、と、改めて。

「……知識も経験も上なんだから、そのように関わってきなさいって、
仰りたかったんじゃないかしら」

やんわりと、
口論した男性より年上であろう、
そのご婦人は私に忠告する。

「そうだと思います。でも」

おトイレのドアがいくつか開いて、
何人かの人が、手を洗いに来た。

沈下していたはずの火が、燻りだしているのを、
自分の中で感じ取っていた。

「生意気なことを言いますが、
その方のお話から、知識も経験も確かに感じ取れましたが、
知性は感じられませんでした。
私はそれでは、そのようには、関われません」

混雑してきたので、鏡を通して会釈して、
私はドアを開けて出て行った。

     ★

お昼の準備はまだできていなくて。

おみやげを見るのも飽きたのか、
樹実が座ってたので、その横へ行く。

彼女も昨日、見るともなく、逆隣で、
その口論を静観していた。

私は、お手洗いでのご婦人との会話を話した。

「そんな人いたの」

「いたよ。
『おふたりの言っていることは、根本的には同じなんじゃないですか?』って、
やんわりと仲裁に入ってくれたの。
でも、
『根本は同じかもしれませんが、微妙な差異があるのでしたら、
ぜひお聞きしたいです』
と言って、私が退けたの。
でもね、本当は、根本から違うと思ってた」

宴席の場がお開きとなった直後、
ぷんぷん怒っている私に、
「『思い』の部分で言い争ったって仕方ないじゃない」と、
樹にも意見されていたが。

確かに、水掛け論の部分はあったかもしれない。
が、考え方の住み分けを許さなかった、
支配的な否定を受ければ、戦闘体制に入るしかなく(私はね)。

私はただ、何故否定されているのか、
さっぱりわからず、
納得のいく話を引き出したかったのだ。

「結局、手を代え品を代え、
言われていたことは、

『俺はこれだけの知識と経験がある、君にはない。
だから同じ壇上じゃない。
なのでいくら言っても、君は所詮理解できない。
まず世界に行って、数ヶ月でも暮らして、
その上でその考え方であれば、向き合おう。
もう鬱陶しいから、つきまとうな』

ってことだと思う。要するにね。

だから、沢山の知識をお披露目され、
それについて、私は全然ピンッと来なくて、
自分の無知をさらしてしまった訳で、

……もちろん、自尊心は傷ついて、
自分を恥じてもくるんだけれど、
その傷の痛みよりもね、私は知りたかったのよ。

この人が、
その知識を知ることで、その経験をしたことで、
どんな風に考え方を発展させていったのか、
その展開ぶりを垣間見たかったの。

でも、博識ぶりや、特異な経験の羅列ばかりで、
わかりやすい説明がなかった。

……そんなにその博識にピンッと来ない奴には、話を聞く資格もないのかねぇ。
……ホントに、何を聞いても
『……で?ソレが何?』としか思えない話しかなかった」

最後の方は、相手基準で自分を見て、
卑下気味に話していて、実に自分が腹立たしかった。

「どうせ、何を噛み付いたって、
青二才の遠吠えとしか思われてなかったんだろうな」

自尊心を傷つけた後遺症だ。変な話の着地の仕方をする。

「でも、青二才だから相手にしないっていうのは、
『ちょっと待て』って感じやね。
青二才でも、青二才だからこそ、わかりやすく言ってくれなくちゃ」

樹が口を開いた。

「経験なんて、年齢の違いで量が違うのは当然のことで、
そんな量的なところを言われたら追いつけるわけがないのだから、
同じ壇上だなんて、先ず無理だし。

大切なのは、『深さ』なんじゃないの?

世界へ行って暮らしてみても、
その経験を深くもの思えなければ身にならないし、
日本にいて、なんでもない日常を暮らしていて、
もの深く思えるのなら、世界に通用するものを、
得ることだってできると思うけど」

100%言われたことを再現しているかは自信はないけど、
樹は限りなくこれに近いことを言った。

うんうん、と私はうなづく。

「あのね、変な言い方するけど、
相手の手中にハマって、
自分の無知を露呈させられた訳だけど、
私ね、あの人怖くなかったの。
怖くなかったから、
チンピラのように
最後までギャンギャン吠えたんよ」

思い出すだけでも、ぞっとする、その人の後に会った
あの人物。

「あの宴席のあと、場所移動して、
草壁先生らとラウンジでお茶したじゃない?
あの時の会話でね、
なんの成り行きか、先生、
私の歌について、一言言ったのよ。

覚えてるかどうかしらないけど。

それは、褒め言葉と受け取れば、受け取れるけど、
私にはそうは思えなかった。

……私だけが、そう思えなかったのかもしれない。

ニコニコしながら、とっても無邪気に言うのよね。
なんの他意もなく。鋭いところに釘を打ってくる。
だからこそ、凍りつく。

私は何も言えない。言い返せない。

私に出来ることは、その言葉の裏なんて考えず、
その言葉のまんまを素直に受け止めることしか出来ない。
受け止めることしか、かろうじて出来ないというか……。

逆上や反発するほうが私の中では『負け』になる。
反発するなら、血肉にしてからでないと、と思う。

そこには、知識のような、
誰から見てもわかるような答えなんてない。

答えがないから、自由に思えばいいのに、
『素直に言葉を受け止めるしかない』という、
たったひとつの気持ちしか浮かばない。

悔しければ、凍りつきながら受け入れるしか道がないの。

だから、先生は怖いよ。
怖いけど、『尊敬』も含んだ怖さなの。

あぁ……にこやかに会話しすぎたよなぁ。昨日は。
にこやかなほど、『グサっ』とやられるのにさ。

そんな先生の前での自分を基準にしたら、
宴席でのあの人は、根本のところで、
私は怖がっていなかったってことなんよ。
この差は何だと思う?」

自分の中で答えは見つけていたのに、
あえて質問形式で聞いた。

「……本物かどうかっていうところなんじゃないの?」と、
しばらく考えて、樹はドンピシャなところを言ってきた。

「そうなんよ。特にね、
『みずなし本舗』のあの本物の家の屋根を見たときに、
明確に思った。確信したんよ。
それまでは、ぼんやりと、漠然と思ってたのにさ」

樹はしばらく黙っていた。
そして、

「……尊敬される年長者になりたいものやね」と言ったので、
「そうやね」とうなづいた。

斜め前を見ると、
草壁先生が、うたた寝している。
描けるものなら、
鼻からちょうちんの落書きをしたくなるような。

そして、その眼中には、
昨日ギャンギャン吠え立てたあの男性もいる。

お昼ごはんの準備が出来た。

ぞろぞろと、お食事処へ一行は向かう。

草壁先生、その男性、私やら樹やら。

同じ空間にいて、
違うテーブルに席を取り。

それぞれに美味しく、ご飯を頂いていた。

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