日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

着物は雨に濡れたのか?⑤

2009年03月01日 | 着物の日々
クリーニング屋さんとは思えない引き戸を、
ガラガラガラッと開けると誰もいない。

遠くからラジオが流れていた。

「すいませ~ん」と大きな声を上げると、
初老の男性が現れた。

丸顔のおじさん。アンパンマンを思わせる。

私は紙袋の中に入れていた
(はい。雨コートのために、溝の口で買った紙袋でございます)、
結城紬を取り出して、
黒いシミのところを指差した。

「これなんですけど……多分泥水がはねたんだと思うんだけど」

と、いうと、

「う~ん……、これはもしかしたら、油かもしれないねぇ」

と、答えられた。

油?

おじさんが、
「はてさて。どういう風に洗おうか?」と考えている間、
私は、「どこで油を?」と考えていた。

さすがに天から酸性雨は降ってきても、
油は降ってきてないだろう。

空は、私をおちょくってくるけれど、
ここまでの悪さはしない。

新大阪のお手洗いのところの泥水に、
油が混じっていた可能性も否定できないけれど、
滑りそうになったりした記憶がないので、
違う気もする。

と、すると、次に思い当たるのは、
ホテルから溝の口駅へ行く道。

舗装中だったのか、足場が悪かったのだ。

そのガタガタした道に、
ほんの少したまった雨水に、
油が浮いていたって、不思議でもなく。

新大阪のお手洗いから、舗装中の道路へ疑念がスルーするほど、
雨コートの努力が、水のあわわあわわ~。

袖ばかりでシミを確認していた自分が悲しい。

「まぁやっておきますわ。ここに名前と電話番号書いて」

どこかの新聞屋さんでもらったような、
メモ用紙に、名前と電話番号を書きながら、

「以前にもね、小紋の染み抜きをしてもらったんですよ。
……もう4年ぐらい前になるのかな」

というところから始まり、
明石の時のことを話すと、

「え!?明石からきてるんかいな!?」

と、驚かれたので、
今は東大阪から来ていると、笑って答えた。

おじさんは、
「東大阪にもお客さん、いますよ」と、
安堵と、何か親密さを持って答えてくれた。

その東大阪の人も私と同じく、
近くのフツーのクリーニング屋さんでは、
高額料金を取られるので、困っていたら、
口コミで、
この着物専門のクリーニング屋さんを知り、
以来、宅急便で着物をもらったり送ったりして、
やりとりしている、と答えてくれた。

「おかげで、この年でもなんとか、続けていられますねん。
前やったら、バイクで届けに行ってましたけどなぁ。
さすがに今はもう……。
世の中便利になって、ほんとありがたい。
遠距離のお客さんもいるから、ぼちぼちやっていけますねん」

あぁ、ぜひぜひ、長々と続けていて欲しい、と、
切実に願う。

「というても、うちのおかあちゃんが、宅急便に関しては、
全部手配してくれて、わしはちっともわかりまへんけどね」

そんなことを言ってたら、
「ただいまー」と奥さんが帰ってきた。
まるで吉本新喜劇のタイミングなので、私は内心笑った。

アンパンマンおじさんが、
着物の黒いシミを見せると、
「油っぽいねぇ」と奥さんも言う。

「まぁでも、着物を着なれた人の汚れやわ。しゃーないわ。それぐらいは」

と、言ったので、
自分ではまだまだ着慣れていないと思っている私としては、

「着慣れていない人の汚れって、どんなのなんですか?」

と、聞いてみたくなった。

「んー、ひどいのは、口からの吐いたのが、べーっとついてるのとか……」

……それは、洋服でもひどすぎる!

時々あるのだそうだ。

結婚式なんかに出席したお嬢さんが、
着物を着ているのに洋服感覚で振舞って、
気を使わなかったためについてしまった信じられない汚れだとかが。

そんな、レンタルの
汚れた晴れ着だとかも、送られてくるのだそうだ。

「自分の着物じゃないと思ったら、気楽なのかもしれないねぇ」

いろんな感情をろ過した上で、
奥さんは軽やかに答えた。

なんだか、やだねぇ……。

     ★

シミとついでに、
襟汚れもお願いした。

「それにしても、地味な着物着はるんやねぇ。
まぁ若さがあるから大丈夫か」

奥さん、褒められてるのか、なんなのか、わかりまへん(笑)

お代は、クリーニング後の請求だという。
油だったら、値上がるんだろうか。
そうだとしても、9000円はいくまい。

着物は宅急便で送ってもらうことにして、
振込用紙を同封しておくとのことだった。

「よろしくお願いします」と一礼して、
お店を後にする。

住所も教えてもらったし、
次回からは宅急便で着物を送るかもしれないけど、
忙しくなければ、
また電車賃使って、持ってくるのもいいかな、
なんて思った。

妙に味のあるご夫婦だったし、
小さなコミュニケーションをその都度積み重ねるのも
いいかとも思って。

でも、次回行くときは、
着物を着倒した結果、
長持ちさせるため、洗い張りをして欲しいとか、
そういう、モノを大切にした結果として、
伺いたいものです。

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2 コメント

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味のあるご夫婦 (しづく)
2009-03-31 08:23:50
いやはや、お疲れ様でしたー!

キモノのお手入れをどこでするのかは、悩みの種ですね。
わたしも先日、以前実家のあったところの悉皆屋さんへ思い切って頼んでみました。
ネットで値段を比べてそんなに高くも安くもないけど、安心かと思ったので。
やっぱり感じのいい家族経営のお店でした。

お金の問題だけじゃなく、キモノを愛するサポーターとしてずっとお付き合いしたいと同じように思いました。
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洗濯完了 (いなだっち)
2009-04-07 15:34:10
ほんとうに、そう思います。
間接的にではなく、
直接的に着物の洗濯をしてくださる人に、
お目にかかったうえで、
お預けしたいなぁと。

需要と供給の問題もあるので、
そういうお店がどんどん増えて欲しいとまでは、
言いませんが、維持してほしいです。

今朝、電話がありました。
着物の郵送のことでです。

「随分遅くなってごめんなさいね。
着物を入れる箱が足りなくって……」

すごい。箱に入れて送ってくれるのか!と、
思いました。
私はてっきり、多少紙を挟むことはあっても、
四角に折りたたんで、風呂敷に入れて、
テキトーな紙袋にでも入れて送って来るんだと
思ったもので(笑)

いろいろ気遣われるんだな、と思うと、
益々、次回は連絡をもらって、
自分で引き取りに行こうと思いました。
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