眠れないアツイ夜

折に触れ、なかなか眠れていないことは、
前述してきた。

松山から宇和島へ向かう時、
田舎では、眠らなければならぬ、
そう思っていた。

　　　　　★

私が田舎に来ていない十数年の間に、
おばあちゃんの家には、
すごくボロいけれど、クーラーがついていた。

素晴らしい。
おばあちゃんが、こんな文明の利器を受け入れるとは。

そう思っていたら、父を中心に、
近所の人から譲り受けて、
取り付けたのだそうだ。
（おばあちゃんが暮らしているときは、全くつけていなかったらしい）

クーラーは、
今と違って、分厚いし、リモコンもない。
それでも私は感動して、
神棚のように、拍手（かしわで）を思わず打った。

あのクーラーのひんやりした冷気が、
きっと私を寝かしつけてくれる……。

しかし。

父といとこ①と私の三人で、
酒盛りをしていた時は、
お酒のせいなのかな？と思っていたが、
なんだか、クーラーをつけているのに、
ちっとも涼しく感じられない。

それどころか、母や、伯母に、
「外の風のほうが、涼しいよ。窓開けさいや」
と、言われてしまう。

そんな時でも、私は状況にポジティブ。

「まぁいいよ。クーラーという、
この家では信じられない文明の利器を見ただけでも。
ボロいんだから、もう壊れたのかもしれないけれど、
取り付けられていることに、意義があるよ」

と、言い聞かせ、
クーラーの風よりも涼しい、
外気や扇風機の風を、
「これがクーラーの風。これがクーラーの風」と、
思い込みながら、ほろ酔いで寝ることにした。

……がしかし、寝れるわけがない。
からだは正直に、汗ばむ。寝苦しい。

それは、横に寝ている父も母も同様だった。

地元の伯母といとこ①だけが、熟睡。

　　　　　★

翌日。
寝不足のままの、父母私大阪組。

さらに集まってきた、いとこやはとこやらと、
夜、わいわいとバーベキュー大会。

食べるだけ食べて、片付けるだけ片付けて、
残ったいとこ②に、

「このクーラー、つかないの……」とこの日は正直に嘆きをつぶやく。

「うそよ～、ばあちゃんが、ひやいひやい言うてたくらいなのに」
と、いとこ②が話す。

いとこ②は、
クーラーのつまみを見に行く。

「なんやぁ～、冷房で合わせてないやないの」と、
いとこ②は、あっけなく、つまみを調節した。

ほどなくして、懐かしのクーラーの冷気が肌に触れた。

原因は、
なんでも、つまみの上と下で「暖房」「冷房」が分かれてて、
「暖房」のメモリで、２８度となっていたらしい。

……どうりで、外の風のほうが、冷たいわけだ。

しかしまぁ、父がメモリを合わせてた訳だが、
誰一人、父のメモリの合わせ方を疑わなかったとは。

まぁいい。済んだ事をとやかく言っても仕方ない。

安眠を約束する涼やかな風は、家中に漂っていく。

とにかく今日は寝れるんだ！とにかく今日は寝れるんだ！！

　　　　　★

寝かけたところに、ムカデが出てきて、
大騒ぎをしたりしたが（こわかったです……）、
クーラーは涼しく、父母私大阪組は、
いよいよ、熟睡の状態を迎えた。

実際、熟睡していたと思う。数時間は。

夜中の３時頃だったか。
暑くなって、目が覚めた。

どう考えたって、クーラーの冷気が感じられない。

扇風機こそ回っているが、
生ぬるい風が旋回しているだけとしか思えない。

むぉんとした、湿気を帯びた空気が部屋中を支配していた。
眠れない。

父と母も頻繁に寝返りを打ち出した。

母が寝言のように「暑い……」とつぶやいた。
やっぱりそうだ、暑いよな。

熟睡出来ずに夢うつつ。
寝ているのか、目をつぶっているだけなのか、
そんな狭間を行ったり来たり……のうちに、
朝６時の目覚ましがなった。

布団すら暑くて、起き上がる。

　　　　　★

眠りがほしい父は、布団の中から、
「眠れんかった……」とつぶやく。
「暑かったね……」と続く母。

「クーラー途中で切れたよね。タイマーにでもしてたの？」
聞いてみると、
「そんな機能はついてない」と父。

何でクーラーが切れたんだぁぁぁぁと、
苦悩のような嘆きが漂う。

それを聞いていた、
すでに、朝ごはんの支度をしていた伯母が、
「あぁ、ごめん。ひやいのもからだに悪いかと思って、
途中で私がきったんよ」
と、言いにくそうに言った。

「なんでや。寒かったら、そこの戸を閉めて、
自分でクーラーを遮断したらええやないか」と、
父が非難がましく言う。

田舎と都会（と自分で言うのは恥ずかしい……）に住む者との、
まさに温度差を見る思い。

三泊四日、結局熟睡の夜はなかった……。