日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

中秋の名月の翌日に。

2009年10月04日 | その他の日々
私は仕事で、夫は別の用事で、
それぞれ家を空けていた日曜日。

夫がいると、
たまらなく、家のことがしたくない。

彼が定年になったら、
家事はどうなってしまうんだろうと、
今から心配なくらいに。

この日も、
仕事から帰ると、
先に帰っていた夫がワンワンと、
「今日の晩御飯は何?
でもその前に、なんか食べさして!」
と、舌を出して、私を見た。

あぁ……、たまらなく、ヤダ。

つい、「外へ食べに行こう」と言ってしまう。

本当に、これじゃ、いけないんだけどなぁ~。

     ★

中秋の名月と、
人が名づけた日の翌日も、
月は神々しかった。

近所のうどん屋で食事をした帰り、
スーパーにも立ち寄って、
ビニール袋を2・3個腕にぶら下げながら、
帰路に着く。

夫は、今日あった出来事を話し、
私はそれにうなづいていた。

しばらくして、
マンションの入り口が見えてきた。
と、同時に、向こう側から人が歩いてくるのに気がついた。

ふと、違和感を持った。

その人が、自分ちのマンションの、
駐車場や、ごみ収集場のある、
出入り口から出てきたように思えたからだ。

同じマンションの人なんだろうか?
すれ違ったら、会釈をすべきなんだろうか?
そんな迷いが込みあがったが、
その人は、
マンションの正門(?)横にある、
ねこのひたいの2分の1程の、
小さな小さな公園のベンチに腰掛けた。

よくよく見ると、その人は男性で、
小さなコンビニのビニール袋を持っていて、
そこから食べ物を
ゴソガサと出そうとしているように見えた。

あれ?うちのマンションから出てきたように見えたけど、
見間違いか?
まさか、中秋の名月の翌日のプチお月見?
……と、また、無理すぎる辻褄あわせが、頭の中で展開する。

夫も、話をしながら、
目は前方に集中しているように思えた。

何故か、妙にひっかかる。その男。

そんな視線を感じたのか、
男は、私と夫に気がついた。

とたん、男は、
コンビニの袋から出していた食べ物を、
元の袋に戻し、立ち上がった。

そして、マンションの、
オートロックのある正門(?)付近へ
歩き出した。

そのタイミング、ゆっくり度を考えると、
まるで、私と夫が、
その正門へ行き、オートロックを開け、
中に入るときに、
不自然なく、一緒に入れるように、
見計らっているような感じに思えた。

私と夫が、公園沿いに左折し、
正門(?)付近にさしかかる。

夫は、今日の出来事の話を続けている。
私もそれを聞いている。

話し合うこともなく、ナチュラルに
私達は、自分ちのマンションの正門(?)をスルーした。

男は、
正門付近で、
何か落し物でも探すように、
下を向いたしぐさを保ったまま、
私らがスルーしたとたん、
公園に戻った。

気になったので、後ろを向いて、
男の姿を確認すると、
男はベンチに座り、
再びコンビニ袋から食べ物を出して、
何かを食べ始めていた。

     ★

私と夫が、
正門をスルーしたのは、
最初からの予定だった。

スーパーで、
「もしかしたら、お月見団子の余りが、
半額セールになっているかも」
と、期待した夫だったが、
和菓子系は売り場に全く残ってなかったので、
自分ちのマンション横のコンビニに、
最後の希望をたくし、
家に帰る道すがら、
その男のいた公園とは、
逆隣のその店に、
立ち寄ることになっていたからだ。

夫の食い気が、
その男をマンションに入れなかった。
……と、私には思えた。

正門をスルーし、
100m以上はあるであろう、
自分ちのマンション沿いを歩きながら、

「さっきの男の人、怪しかったよね」

と、夫の今日の出来事の話を、
少し遮るかたちで、夫に話しかけた。

「うん……」

そんなことを確認しあったからと言って、
俺らに何が出来る?
とでもいうようなそっけない返事。

夫は、私の男への興味を削ぐように、
「ほんでな……」と、
今日の出来事の続きを仕切りなおして、再び続け始めた。

会話とは実際、我が道を行くだけのもの。

夫はその話のオチに向かって、長々と話し、
私は、もはや、男が気になって、そのオチを笑ってあげられなかった。

コンビニにも、
お月見団子は残っていなかった。

考えてみればそうだ。

お月見当日ならともかく、
翌日にまで残るなんて。

ほとんどの場合、
当日に賞味期限が切れる計算で、
製造販売しているもんだろう。

でも、このオオボケがなければ、
もしかしたら、私と夫は、
マンションの正門(?)をくぐって、
オートロックの鍵を開け、
その男がすっと中に入っていくのを、
軽く会釈なんかして、
善良に見送ってしまったに違いない。

ものすごく黒い、違和感を抱えこまされて。

     ★

月曜日は一歩も外に出ず、
二日後になる、火曜日の夕方。

「いい加減、ポストぐらいは見に行こう」と、
仕事がないと、引きこもる自分の日々に、
針穴を開けるほどの用事を見つけて、
家のドアを押し開ける。

つっかけをひきづって、エントランス。
何気なく掲示板を流し読みして、
ポストへ……行きかけて、バック。

新しい張り紙があった。

『当マンションで、車上あらしがありました。
車の中には、くれぐれも貴重品を置かないように』

と、いう内容のことが、張り出されていた。

速攻で思い出す。あの夜の公園の男!
しかし、そう思うだけで、なんの証拠もなく。

マンションの管理会社の人は、もうすでに帰っていた。
目撃情報として、警察に言いに行くべきかも、迷い……。

帰ってきた夫に、話をして、
「あの怪しい男、怪しくない?」
と、聞けば、
「怪しかった、怪しかった」
と、うなづくものの、
「ちゃんと、どっかに言ったほうがいいのかな?」
と、具体的に相談すれば、
「さぁ……」とムニャムニャ。

明日からは仕事で、
管理会社の人がマンションにいる時間帯に、
私は家にいることができない。

結局、この情報は、何処にも提示できなかった。

マンションの住民さんの顔を、
私はマトモに知らない。

私は比較的早くこのマンションに転居をしたけど、
下の階に引っ越してきた人しか、
ご挨拶は受けていないし(まぁそんなもんだろうけど)、
右側の部屋はまだ空いている。

誰も彼も怪しく、誰も彼も住民さんのようにも思える。

せいぜいできるのは、
オートロック付近で怪しい行動をとる人を、
怪しいと思うだけだ。

単純に浮かれていた新居生活に、
ようやく、現代に生きる為に必要な
取れないシミが付いたんだと、
悲しくもたくましく、認識した出来事だった。

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