時代は猛烈なスピードで変化している。企業はその変化に遅れまいと、その変化するビジネス環境に順応し、あるいは変化の先取りをしようと必死に努力をしている。ただその変化の方向が正しいかどうかは予め分からないので、ビジネスの世界においては「変化する」とはすなわち「ビジネスリスクをとる」ことに他ならない。そういう変化を拒否すれば時代の変化から取り残され敗者となるので、rule of the gameとして受け入れざるを得ない。しかし、ビジネス世界のそういう不確実性と慌しさは著しく疲労感を募らせる。せめて個人の生活だけでもいわゆる「LOHAS」に回帰したいという気持ちは頷けるところである。
しかし、いくら「LOHAS」を生活信条にしようと、個人もまた方丈記にいう「行く川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず」という時々刻々と変化する人生の諸行無常を逃れることはできない。そうであるならば、変化を常態と捉えた上で「何が変わらざるものなのか」、あるいは「何を変えてはならないものなのか」をビジネスの世界でも、個人の生活においても明確にしておかないと、徒に変化に飲み込まれ、翻弄されることになってしまう。
かつてソニーという大組織において人事構造改革の責任者として組織改革の仕事をしたが、そのプロセスは、組織の何を変化させ、何を変化させるべきでないのかということを自問自答しつつ、試行錯誤の連続であった。この「変えるべきものと変えてはならないもの」という命題の軸が何なのか、その後も探し続けている。
最近友人からこの命題を真正面から論じた本を紹介された。西田徹氏著作の「時空を旅する遺伝子」(日経BP社)である。この極めて哲学的な難題を短文で紹介するのは不可能ではあるが、幸い西田氏は本の随所でまとめをされているので。それをそのまま引用させていただくと
1. DNAの読み取りは不変である。
DNAをアミノ酸の数珠つなぎであるたんぱく質へ読み取る暗号はほぼ全ての生物で共通であり、不変である。
2. 生命は肉体構造レベルでも不変と変革を併せ持つ
昆虫やキリンの首の構造を研究すると、生命はミクロの分子レベルだけでなく、マクロの肉体構造レベルでも不変と変革を併せ持っていることがわかった。
3. 不変と変革の関係は対立ではなくコインの裏表
「進化」という視点から見ると、不変と変革は対立するものではなく、不変が変化の一形態であると考えられる。実はその2つはコインの裏表のように、同一物の2側面と言えないかという仮説を考える事ができる。
約60兆の細胞からなる人間の生命レベルの議論は、実は会社という組織体を考える上で非常に示唆に富んでいる。人事に携わる人は「会社の組織は複雑で組織改革は容易ではない」という感をもつが、複雑な会社組織も60兆の細胞に比べれば著しく単純な組織というべきであろう。60兆の細胞が織り成す精緻な組織体である人間は、いわば大宇宙に浮かぶ小宇宙である。その人間がつくる組織も、人間の生命という小宇宙を形成している調和の仕組みの中に、その基本原理を求める事ができる気がしてならない。
時空を旅する思索をめぐらせて「変えるべきものと変えてはならないもの」という命題の解を見つけてみたいものである。