彫金の仕事にも幾つかあってそれなりに熟達するには時間がかかるもの。
彫り、打ち出し、象嵌、はぎ合わせ、煮込み色揚げ・・・
これまでにも象嵌と言うにはおこがましい作業はやってみたことがある。
しかし
本格的な象嵌というものには手が出なかった。
一番手に負えないのが、専用の工具作りだ。
象嵌には線象嵌、布目象嵌、切り嵌め象嵌、高肉象嵌、打ち込み象嵌などがある。
布目象嵌では切り鏨(タガネ)を使って1mmに10本の細かさで線を切る。
タテ、ヨコ、斜めと切り、そこへ金箔や銀箔を噛みこませる技法。
1mmに10本の溝を切る技術は非常に難しく熟練が要る。
鹿島一族によるものや肥後象嵌などはつとに有名である。
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線象嵌では、埋め込む銀線の幅よりも2割がた細い線を溝として掘る。
これに使うタガネは彫りタガネだ。
1mmの銀線を入れたければ0.8mmの溝を母体となる金属に掘らなければならない。
その厚さの刃を備えた切れ味鋭いタガネを作らねばならぬ。
今回は大先輩が残してくれた彫りタガネを借用している。
彫りタガネでキチンと掘った溝へ銀線を叩き込むのだ。
今回は兎に角、線象嵌を手始めにして、いずれは高肉象嵌まで進めたい。
が・・・
その線象嵌で悶えている。
トップ写真のような細い彫りタガネで溝を掘った。
さぁ~銀線を叩き込むぞ!と意気込むが。
端から銀線を叩いて溝に沈めていくのだけど・・・
真ん中辺りになると、さっき叩き込んだはずの銀線がぴ~んと跳ね上がって
外れてしまう。
彫りが浅くズサンなものだから銀線をホールドできないのだ。
もぉ~まさに作業する人間の性格が丸見えになってしまう恐ろしい領域なのだ。
集中力、集中力・・・そして根性、根性の世界。
つい一昨日もそんなゼイタクな無駄作業を3時間も費やして
埋め込めた銀線が二本だけ!
写真右側の溝は埋め込んだ銀線が弾けて飛んだ跡。
こんなことでモノになるんだろうか・・・暗澹たる気持ちで外へ出た。
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近くのビルで金工展が開催されているので顔を出す。
若手の著名作家の展覧会だ。
入り口表の暖簾が風に押し開かれた姿に風情がある。
中に入ってみると
ひょっとして魯山人造では?と思われる灯り台が静かに周りを照らしてた。
作品の写真は撮ることをはばかられたので
写真はありませんが
なかなかの手練による逸品とお見受け致しました。
作品を一通り拝見してから町へ向かえば
そこには師走の色とカタチが見渡せたものです。
Show Window越に鏡餅。
ああ、こうして今年も暮れて行くのか。
感傷が流れる一瞬です。
果たしてオイラの象嵌がモノになる日は来るのだろうか?
その日まで生きてるんだろうか?とね。
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