~浪江町立野地区の冬季代かきによるV溝乾田直播の事例~
浪江町立野地区は、福島県浜通り地方に位置し、冬は雪が殆ど降らず、3月からは春の陽気で暖かく、秋もゆっくり訪れ、稲作には作期幅が比較的長くとれる気象条件の地域です。
立野地区では、冬季代かきによるV溝乾田直播栽培を平成21年度から試作的に始め、成績が良好であったことから平成22年度はV溝播種機を導入し面積を拡大しました。
過去においても乾田直播栽培を試みましたが、出芽不良、鳥害、雑草防除の課題解決が残り、生育が不安定でした。
しかしここ2カ年冬季代かきによるV溝乾田直播栽培に取り組み始め、出芽がたいへん良く揃い、収量は安定して目標数量を確保し、鳥害はやや見られたものの生育には殆ど影響が無く、雑草の発生は問題無い程度に抑えることができました。
育苗をしない稲作は、今後主流になることが期待される技術です。当地域で取り組まれた事例を紹介しますので、近隣地域での新たな稲作の発想の転換に活用してもらえればと思います。
◆平成22年度 冬季代かきによるV溝乾田直播栽培の流れ

<写真1> 平成22年2月: 冬季代かき湛水の様子
冬季に均平になるように湛水代かきをします。当地区は冬に積雪が無いため作業はいつでもできます。冬水田んぼ、環境保全型農業にも役立っています。

<写真2> 平成22年4月上旬: 播種作業の様子
1日に 面積3.5ha~5haの播種作業ができます。作業は、トラクターの操作と、種籾と基肥肥料を詰め込むだけで、重いものを持つことはありません。

<写真3> 平成22年5月上旬: 出芽の様子
種籾はV溝の深度5cmの深い位置に播かれるため、芽が出るのを今か今かと待っていても中々出てきません。ところが出芽が始まりだすと一斉に揃って出てきます。地温が上がらず出芽が遅れることもありますが、待っていればいずれ芽がでてきます。慌てる必要はありません。
【ポイント】出芽には地温の他に土壌水分が重要なカギとなります。

<写真4> 平成22年6月上旬: 苗揃いの様子
露地での無加温育苗が終わりました。苗の揃いは順調でした。イネ3葉期以降になれば入水します。
【ポイント】イネがここまで生長するまでの除草対策が重要なカギとなります。

<写真5> 平成22年6月中旬: 分げつ期の様子
通常の移植栽培は畦間30cmですが、V溝乾直は畦間20cmと狭いため、分げつ期のイネの姿が少し違います。
【ポイント】生育ステージが移植栽培と違うため、雑草防除と肥培管理のコツを覚えることが肝心です。

<写真6> 平成22年7月中旬: 幼穂形成始期の様子
条播により、畦間20cm間隔、1m当たり約70~75粒、播種深度5cmで4月上旬に直播きで育ったイネの姿です。
【ポイント】この段階までの生育量が確保できれば収量が期待できます。

<写真7> 平成22年9月上旬: 登熟後期の様子
倒伏には強く、ほ場は固まっているため、刈り取り作業はいつでも入ることができます。本年度は「収量がいくらとれるのか」「品質はどうか」期待が高まりました。結果は目標を超えることができました。
◆今後に向けて
ほ場も様々な条件があり、除草剤のタイミング、肥培管理、播種量が違うと微妙に生育や品質に影響を及ぼすことがわかってきました。
当地域における作業体系の流れや生育ステージはほぼデータが整理されてきたので、今後は1つ1つの成功事例や失敗事例を参考に詳細な技術を整理しながら、将来には「育苗をしない稲作」として完成された技術に確立し、誰でも取り組める栽培方法にしていきたいと考えています。